企業改革の掟

なぜ掟に従うのか

企業改革には明確な掟がある。それはこれまで先人が通った轍をしっかり踏むことだ。これは死の谷に転げ落ちないため道しるべとなる。これまで自分が関与してきた企業の改革を分析して、その共通パターンから掟とそこに立ちはだかる壁をまとめた。企業の改革がうまく進むときには、必ずこの掟に従っていて、改革がうまく進まないときには、必ず壁にぶち当たっている。この掟に従うことで、死の谷に転げ落ちることなく、改革を前進させてくことが可能だ。ステップは8つ分けることができる。
※死の谷とは・・・改革の途中段階にある大きな阻害要因。

企業革命はどのように進むのか

01.成り行きのシナリオを描く
02.切迫感を抱く
03.原因を分析する
04.シナリオを組み立てる
05.戦略の意思決定をする
06.現場へ落とし込む
07.改革を実行する
08.成果を認知する

企業革命の掟

・シナリオは実行者がつくれ
・コンセプトにこだわれ
・戦略的思考で分析せよ
・存在価値のない事業を捨てろ
・現場には丁寧に落としこめ
・どこに向かうか示せ
・時間軸をはっきり示せ
・人事は気骨の精神で挑め
・姿勢は変えるな
・ハンズオンで実行せよ
・経営リテラシーを高めよ

01.成り行きのシナリオを描く

まずは「このままいけば事業がどうなるか」の絵を正確に描くことに全力を挙げよう。組織の内外を歩き回り、出来る限り正確な情報を集め、ハンズオンで「問題のボトム」を確かめ、事態がどう推移するかを読もう。それによって得られる見通しを「成り行きのシナリオ」と呼ぶ。不振の事業組織では「問題のボトム」さえ十分に確かめられていない場合が多い。このときに戦略のボードメンバーを現場から選抜し、情報収集やワークショップに参加してもらう。凝縮された時間軸の中で戦略を立ち上げ、最大限に自分たちの能力を引き出す。そのためには、初期段階で自分たちのスピード感応性を変える必要がある。

現実直視不足の壁

問題のボトムが突き止められない場合は、現実が直視できていない。その原因は下記の事項が考えられる。これは前提となるリーダーの充分な能力と気概、それを支える組織が未熟な状況と言っていい。この壁を乗り越えるために掟を思い出してほしい。

  • リーダーの経営リテラシーがない
  • 表面的な情報しか出てこない
  • スピード感応性がない
  • 目標への執着心がない
  • あるべき姿がない
  • シナリオは実行者がつくれ

    この段階で現場で実行をする人それを牽引すいる人が巻き込めていない場合は戦略は失敗に終わる。「企画チームが計画を立てて、現場にやらせる」という形式になると、企画チームは主体性のない評論家として、偉そうに批判ばかりして手を動かさない。現場はそれが面白くなくて戦略どころか険悪な関係性ができあがる。戦略は人事を含めた各部署からの選抜メンバーが総合的な視点で、全面的な権限を与えられる。当然、権限には実行責任が伴うため、参加するメンバーのモチベーションが変わる。

    02.切迫感を抱く

    厳しい現実直視によって、「成り行きのシナリオ」を描き、もしそれが「あるべき姿」に似ていれば、改革は必要ない。プロセスはそこで止めて構わない。しかし、「成り行きのシナリオ」と「あるべき姿」にギャップがあれば、その深刻さに危機感を持つ。それが改革行動の出発点になる。

    危機感不足の壁

    不振企業では、危機感を感じることなくのうのうと働く人がたくさんいる。幹部や社員の認識が足りず、行動を起こそうとしないからスタートアップはここで停滞する。当然、事態は深刻化の一途を辿る。これを「危機感不足の壁」と呼ぶ。

    コンセプトにこだわれ

    リーダーがどれだけ危機感が足りないと叫ぼうとも社員の行動は変わらない。リーダーは社員とともに企業の痛みを個人レベルにまで分解したものをまとめて「強烈な反省論」を仕上げよう。社員ひとりひとりが自分の痛みとして危機感を抱き、自分のための解決をベく動き始めたなら、成功だ。
    「コンセプト」「ロジック」「ツール」がなければ、多くの社員の考え方をまとめることはできない。これらを明快に提示し、企業全体をまとめていく。これが経営論においてはコア・コンピタンスやケイパビリティと呼ばれている。「コンセプト」は企業の競争力の原始的な構図と言い変えられる。「理論」はそれを裏付ける論理構造。「ツール」はそれを実現するための要素。仮説検証の手法をうまく使うことで、効率的に企業のコアを見極め、戦略シナリオを描き、経営トップへの提案までつなげる。

    03.原因を分析する

    現状に危機感を抱いた人は「自分はどんな手を打てばいいのか」と自問するが、「なぜこんなことになったのか」という疑問が先だ。それまで「社内常識」で語られてきた問題の原因が、本当の原因とは限らない。表層的な原因ではなく、背後に隠れている本当の原因はどこにあるのか。

    分析力不足の壁

    原因がどこにあるのかは容易に見極められない。これを「分析力不足の壁」と呼ぶ。これを超えるためには経営リテラシーの中の分析力が必要だ。

    戦略的思考で分析せよ

    分析力は戦略的思考に支えられている。不振企業では、日頃から論理的に議論する気風が弱い。ロジカルシンキングを身に付けることが必須条件だ。そして、スタートアップでは、必要なデータが簡単に手に入るとは限らない。それでもあきらめずに現場に突っ込んでいき、問題のボトムに迫る気概を持とう。問題のボトムが見えてきたら「原因ロジック」として単純化する。このとき余計な要素はそぎ落とし、根本原因とその因果関係を描こう。シンプルにすることでスタートアップが前進する勢いを強める。まとめる際には先人が残したフレームワークは有効な手段となる。現状を3Cや4P等、あらゆるフレームに当てはめ、ぴたりとはまるものを探すことが手掛かりとなる。

    04.シナリオを組み立てる

    問題を引き起こしている「原因ロジック」が見えてきたら、それに基づいて「シナリオ」を組み立てる。ここでも極力シンプルであること。複雑なものは実行しても大した成果を得られない。なぜなら、社員の行動にインパクトを与えられないからだ。そこに立ちはだかるのが「説得力不足の壁」だ。

    説得力不足の壁

    この後の現場への落とし込みを想定するとここで「シナリオ」に隙をつくってはならない。「シナリオ」は鋭く心をえぐるほどの内容にする。また、鋭いシナリオであればあるほど、今度は単純化への抵抗がある。

    オープンに分かりやすく語れ

    社内プレゼンによって社員ひとりひとりに腹落ちするようオープンに分かりやすく語ろう。ここで全社員に企業の悪い状態を赤裸々に知らされる。それなくして「現実直視」や「強烈な反省論」に迫ることは不可能。初期段階でサーベイによって社員の本音を収集して開示したり、経営トップの承諾を得て経営面の悪い状況を開示したりすると効果的だ。重要なのは退かない姿勢を示すこと。シナリオが最後まで実施することを示すこと。

    05.戦略の意思決定をする

    シナリオづくりと同時に戦略の意思決定をしていこう。それによって戦略の切り口が明確になる。リスクの大きさや時間軸が決まり、全体のストーリーが固まっていく。しかし、ここに「決断力不足の壁」が隠れている。戦略シナリオは最終段階では取締役会に提出され、企業としての決断が下されるが、シナリオの成否を分ける決断は計画段階で下す必要がある。

    決断力不足の壁

    思い切ったシナリオを実現するつもりなら、リーダーはリスクの高い決断を重ねなければならない。しかし、リーダーが自分の能力に見合った飛躍の範囲でしか決断できない場合がある。その原因は自分の立場が危うくなることへの恐れだ。決して「まだ決めなくてもいいだろう」と先延ばししてはいけない。リーダーは、きれいに整理されたシナリオが上がってくる前の計画段階に参加し、意図的に意思決定を行っていこう。

    存在価値のない事業を捨てろ

    特に重要な決定が事業の選択と集中だ。当然のことながら対象から外れた事業は撤退を余儀なくされる。この決断できないリーダーが実に多い。これまで投下したコストや思い入れが冷静な判断を遮り、決断を先延ばしにする場合が多い。「もう一度よく調べてから決めよう」とリーダーが言ったらそのサインだと言っていい。スピード感応性を高く持ち、データに基づくロジックで集中すべき事業を見極めよう。

    06.現場へ落とし込む

    取締役会で実行が決議されたシナリオは各部署に落とし込む。ここでシナリオに基づくKPIと行動計画の説明が行われ、各部署の目標設定へとつなげる。抽象的でシンプルな戦略シナリオを具体的な行動まで細分化していく。ここに「具体化不足の壁」がある。これを未然に防ぐためには、早期に現場社員を巻き込んでいくことが重要だ。

    具体化不足の壁

    ここまで賛成だった社員が実行しない事態が起こることが多い。シナリオの隙をつく反対勢力を育ててしまうタイミングでもある。この原因もやはり変わることへの各社員の恐れからくる。リーダーは巻き込み能力が試される。

    現場には丁寧に落としこめ

    巻き込みでは現場責任者と連携し、具体的な行動計画を各メンバーに行き届かせる。「経営理念、ビジョンの共有」「正当な評価と報酬」「能力の把握と資源の提供」という3つの要素に十分な配慮した上で、各社員と1on1の場を設けて、丁寧に対話を重ねる。実行段階に入っても、社員に対する方針説明をたびたび行い、早期の成果をタイムリーに開示し、現場社員の士気を保つ工夫をしよう。

    07.改革を実行する

    準備が終わり、いよいよ改革の実行段階。ここでは最後まで実行する姿勢を崩さない。思わぬ障害があらわれて継続が危うくなる事態もよく起きる。成功されるためには対象を絞り込んでおく必要がある。長期に広範囲に緊張状態は保てない。短期に突出部分のみを一気に進める。いろいろ気になる部分は出てくるだろうが、対象外の部分は放っておく。とにかく意図的に対象に集中しよう。

    継続力不足の壁

    はじめはやる気だった社員も時間の経過とともに改革に対する意識が薄れる。現場責任者が巻き込めていないと事態は深刻化する。ネガティブな行動をする社員も一定割合であらわれる。玉は思わぬところから飛んでくる。ここに死の谷という最大の難関があると言っていい。実行段階で、問題が起きることは当然だ。早期の成功までは、社員全員で痛みを伴いながらも切り抜けよう。

    どこに向かうか示せ

    我々がどこに向かうのか、それが全社員の関心事だ。特に経営トップの認識と、それに基づく発言は全社員の継続的な行動を裏付ける。我々はどこに向かうのかを示し続けることが経営トップの重要な役割とも言える。この部分では経営トップにひと肌脱いでもらうことが重要だ。

    時間軸をはっきり示せ

    いつまでに何をやるのかという時間軸に柔軟性を持たせると現場社員は何を信じていいのか分からなくなる。それは不安や疲弊につながり、継続的な行動が弱まる。当初示された期日はどのような問題が起きようとも守ることが重要だ。

    人事は気骨の精神で挑め

    旧来の人事体系にこだわって改革を失敗に終わらせ、企業の悪い状態を深刻化させるか、新たな事業成長機会を生み出し、そのメリットを社員が受け取るサイクルに入っていくかの選択だ。

    姿勢は変えるな

    長期的な視点を持っていない現場社員はリーダーの姿勢を常に観察する。この改革にどのくらいの気概があるのかを判断するためだ。リーダーは一貫した発言と変わらぬ姿勢を示し続ける。例えばリーダーの不安な表情ひとつでも現場社員にとっては不安のもとになる。

    ハンズオンで実行せよ

    経営トップやリーダーが現場に目を配り、シナリオを阻害する要素を早め早めに排除して実現まで辿りつかせることも忘れてはならない。

    08.成果を認知する

    シナリオで設定した成功に辿りついたら、その努力は正当に認知されないければならない。たとえ失敗だったとしても、貴重な経験から学び、次に活かす。もう壁はないかと言えばそうではない。そこには「達成感不足の壁」がある。

    達成感不足の壁

    改革を実行して企業に成果をもたらした人材には、それに見合った報酬が与えられて当然だと考えるが、適正な成果の認知がどの程度であるべきかは、成果の大きさと企業文化によって異なる。たとえ報酬がなくとも関わった社員全員が達成感を味わいつくすことのできる仕組みが必要だ。それは次の戦略への挑戦へとかりたてるモチベーションとなり、企業へのエンゲージメントとなるだろう。

    経営リテラシーを高めよ

    こうのように改革はリーダーにとって修羅場体験となり、人材育成の礎となる。伸び悩んでいる社員をリーダーに抜擢することで大きな成長を遂げることも多い。そして彼らが企業の経営を支える幹部候補へと転化していくことも多い。たとえ報酬が相当なものでなくてもこの体験を振り返ることで経営リテラシーを高め、次なる改革の成功を約束することになる。

    まとめ

    経営改革が甘い認識を持つリーダーによる失敗を重ねている認識から、改めて「企業改革の掟」という形で実体験からの学びをまとめた。おそらく多くの経営理論書を読むことや経営コンサルティングを受けることに匹敵する内容。

    • このエントリーをはてなブックマークに追加

    青山 武史

    略歴

    1977年生まれ。観光業界にて大規模な事業推進を経験。2012年よりJBRマーケティング部門を統括。生活関連事業を中心に事業再生、戦略立案、M&A、ビジネスデューデリジェンス、新規事業開発、組織変革等の業務に従事。2018年よりエイチームにてPMとして新規事業の立ち上げに携わる。求人、不動産、観光、生活関連、物流業界でインターネットを軸にビジネス開発を行った経験をもとにITによる企業改革を推進する活動に邁進する。企業への戦略コンサルティング実績多数。

    コメント

    1. この記事へのコメントはありません。

    1. この記事へのトラックバックはありません。

    CAPTCHA


    最近の記事

    1. 提案を通すスキル
    2. プロ経営者とは
    3. シンプルな戦略
    4. 競争するのは最悪の戦略
    5. 戦略はゴールから考えろ
    6. 組織機能の鎖をつなげ
    7. 企業改革の掟

    人気記事

    1. 登録されている記事はございません。

    ランキング

    1. 登録されている記事はございません。
    1. 登録されている記事はございません。
    PAGE TOP