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アンモニア

文章最終更新日:2023年12月18日

トレンド概要

炭素を含まず、水素キャリアだけでなくエネルギー自体としても注目されるアンモニア

アンモニアは、NH3という化学式で表される。アンモニアは、水素(H)を含むが水素自体よりも輸送・貯蔵が容易なため、脱炭素に資するエネルギーとして期待される「水素のキャリア」として期待されている。また、炭素(C)を含まないためアンモニア自体も脱炭素に資する「次世代エネルギー(燃料)」として発電や船舶燃料などで注目される。本トレンドでは、既存用途の肥料などを除いた、これら2つの用途を中心に脱炭素に資するアンモニアを扱う。なお、キャリアとは、水素をアンモニアなどの別の物質に変換し、使用する際に水素を取り出して利用する「エネルギーキャリア」を指す。

表は脱炭素で期待されるエネルギーおよび化石燃料と、特徴を比較したものだ。アンモニアは、使用時のCO2排出はしないが、製造時にCO2を多く排出する。しかし、再生可能エネルギー(以下、再エネ)を利用してCO2を排出せずに作られたグリーンアンモニア、また従来法で製造をしてもその際に排出されたCO2をCCUSで封じ込めたブルーアンモニアによって、脱炭素に資する期待がある。ただし新製法では高コストになること、CO2は排出しないが有害なNOxを排出すること、需要に対し供給が足りなくなる懸念などから課題も多く、黎明期と言える。これらの技術的課題や、水素との比較、コスト課題や普及領域について言及していく。

関連する領域として「水素エネルギー」、「クリーン燃料」、「気候テック:CCUS」があり、また燃料電池用途については「燃料電池」で今後扱っていく。

脱炭素燃料と従来の化石燃料の比較

出所:資源エネルギー庁資料、各種報道などを参考にUzabase作成

※1:NOxは排出する

※2:価格は水素・アンモニアはグリーン水素、グリーンアンモニアの場合で比較

輸送・貯蔵のしやすさやから、エネルギーキャリアとして注目される

アンモニアのメリットは①輸送・貯蔵のしやすさ、②水素に戻さなくても燃料として直接利用(燃焼)が可能なことである。特に、①輸送・貯蔵のしやすさが、水素のエネルギーキャリアとして注目される理由だ。

水素を液化するには常圧では-253℃という極低温まで冷却する必要があり、膨大なエネルギーを使い、コストもかさむ。一方、アンモニアは-33℃と制御しやすい温度で輸送・貯蔵できる。肥料などの既存用途で輸送・貯蔵法が確立しており、生産量の約1割が海上輸送にて取引されている。貯蔵タンクのコストも、国際エネルギー機関(IEA: International Energy Agency)よると、2030年には同等の量の液体水素貯蔵の1/4~1/5程度になるとされている。

ほかにも水素キャリアの方法の他の手段として、液体水素やメチルシクロヘキサン等のキャリアも検討されている。しかし、体積密度的に輸送可能な量が多い点、極低温が不要でエネルギーコストが抑えられる点がアンモニアのメリットだ。さらにメチルシクロヘキサンは燃料として直接利用できないのに対して、アンモニアは直接利用を発電燃料や船舶燃料などで期待され、用途の幅も優れている。

水素キャリアの比較

出所:資源エネルギー庁資料『水素・アンモニアを取り巻く現状と今後の検討の方向性』などを参考にUzabase作成

石炭の混焼発電や大型・長距離の船舶燃料として、水素に対して優位

アンモニアの燃料としてのメリットは①使用時にCO2を出さない点、②既存設備を利用可能な点である。①は水素も同様だが、火力発電の石炭代替や、船舶燃料としては水素より優れているとの見方もあり、黎明期だが実用に向けて開発・実証が進む。

日本や新興国などの石炭火力発電への依存度が高い国では、石炭とアンモニアの混焼によるCO2削減が期待されている。アンモニアは、石炭との混焼ができ、既存の火力設備も利用できるため、CO2排出量も設備費用も抑えることができる。なお、水素は非常に燃えやすく、ガスとの混焼に向くが、石炭との混焼には不向きで、アンモニアと差別化されている。日本の大手電力会社の全石炭火力発電で アンモニアの20%混焼を実施した場合、日本の電力部門の排出量の約1割にあたる、約 4,000 万トン(100万トン/基)のCO2 排出を抑制できるとされている。

また、船舶では、特に大型船での長距離輸送でアンモニアが燃料代替として期待される。同じく脱炭素燃料であるバイオディーゼルの方が燃焼性は優れるが、原料は植物や廃油などが中心で、原料調達リスクやそれに伴うコスト増が見込まれる。アンモニアは難燃性ではあるが、後述のブルー・グリーンアンモニアで大規模製造が可能になれば一定の供給が見込める。

水素と比較すると混焼が可能な以外にも、液体燃料として貯蔵可能で、熱量あたりの体積が小さくタンクの容量も抑えられることから、長距離で有望視されている。一方で、エネルギーの大量貯蔵が不要な短距離輸送の小型の沿岸・内航船では、水素FC船やバッテリー船が現実的との見方もある。また、アンモニアは腐食性があり、タンクほか材料の最適化などは課題となる。

船舶燃料の比較

出所:三菱重工技報などを基にUzabase作成

課題である製造時のCO2はCCUSと再エネ、使用時のNOx排出は触媒で対応

アンモニアは水素と窒素を原料に、これらを反応させて製造される。「グレーアンモニア」と呼ばれる従来製法では、

①           炭素(C)を含む化石燃料や天然ガス由来の水素を用いており、製造(合成)過程でCO2を排出する

②           使用時にNOx(光化学スモッグや酸性雨の原因になるほか、肺などの呼吸器に悪影響を与え、一部はCO2以上の温室効果も持つ)を排出する

という課題を持つ。

①の製造時のCO2排出については、CCUSの発展、再エネの活用でCO2を排出しない方法が開発されている。1つ目は「ブルーアンモニア」と呼ばれる、排出されたCO2を集め、地中などに貯留・圧入するCCUSを組み合わせた製法である。2つ目は「グリーンアンモニア」と呼ばれる化石燃料由来でなく、再エネを用いて水を電解して得た水素を原料とする製法である。キャリアとしては、そもそものCO2を排出しないグリーンアンモニアが注力されている。ただし、水素製造時のCCUSや再エネ活用により製造コストが高くなる懸念もある。普及には製造規模拡大やそれによるコストダウン、政策支援が必要不可欠になる。②の使用時に排出するNOxは、触媒技術が以前から開発されており、化学反応でアンモニアなどに変える技術が有効とされている。

なお、グレー、ブルー、グリーンのいずれでも、アンモニアの合成プロセスは、鉄主体の触媒を用いて高温高圧で反応させるハーバー・ボッシュ法が基本であるが、同法はエネルギー消費が課題となる。この点についても、研究段階であるが別の触媒を用いた常温常圧での低コストの反応も検討されている。

(アンモニア製造技術については、特許「アンモニア製造」、混焼技術については「水素燃焼・水素混焼技術・アンモニア混焼(ブラウン・グリーン・ブルー)」も参照。)

アンモニア製造時の課題と解決法

出所:Uzabase作成

注:各ブロックはリンクせず、ブルー・グリーンアンモニアも現状はハーバー・ボッシュ法が基本である

石炭火力の廃止や船舶での削減目標がアンモニア普及を後押し、現状はアジア中心

各国政府の石炭火力を廃止や、国際海事機関の削減目標など、従来の化石燃料を抑制する動きが、アンモニアの普及を後押しする。さらに世界各国で、電力や鉄鋼などCO2排出が多い産業から排出量取引が導入され始めており、アンモニアをはじめとする脱炭素燃料の利用を推奨する動きが加速している(トレンド「排出量取引」参照)。

各国の石炭火力規制と船舶業界の方針

出所:資源エネルギー庁「今後の火力政策について」などを基にUzabase作成

ただし、上記の規制に対して、アンモニアは一つの選択肢にすぎない。下表のようにアンモニアの普及促進の動きもあるが、特に発電はアジアなどの一部地域に限られている。これは火力発電の比率や、水素の輸送方法の違いに由来するものと考えられる。日本は火力発電の割合が7割以上とG7の中で最も高く、中国、インド、その他アジア新興国も石炭火力への依存度が高く、電力需要自体の増加が見込まれるため、アンモニアが有力視されている。

一方で、欧米では再エネが促進され石炭火力発電の割合は低い。米国の脱炭素対策はガス火力での水素混焼が中心で、石炭火力の場合は莫大な投資が必要な炭素回収装置が必要なため、実質上の廃止を狙う動きに近い。また、キャリア用途でも欧州は陸続きで国同士でつながる天然ガスのパイプラインが既にある。この一部を水素パイプラインに転用する方針も打ち出されており、アンモニアに変換せずに輸送する取り組みも目立つ。

各国でのアンモニア普及促進の動き

出所:資源エネルギー庁「燃料アンモニア導入・拡大に向けた 直近の政府の取組について」、JETRO資料などを基にUzabase作成

マネタイズ

2050年の需要量は船舶燃料・発電用途が加わると2020年の2倍以上

IEAによると、肥料や工業用などの既存用途に船舶・発電用途を加えたアンモニアの需要量は、SDSシナリオ(温暖化を1.65℃ に抑える確率を50%とし、2070年までのネットゼロ)、およびNZEシナリオ(温暖化を1.5℃に抑え、2050年までのネットゼロ実現)で推定した際、2050年に400~550メガトン程度とされている。どちらのシナリオでも、2050年に2020年(既存用途のみ)の2倍以上になる。

ただし、発電用途はどちらのシナリオでも2050年の世界の発電量の1%以下の規模であり、他の発電手段と比較すると極めて小さい。

船舶については、船舶燃料のうち2050年SDSシナリオで2050年の国内外の海運における最終消費量の約4分の1、NZEシナリオで約45%をアンモニアが占め、長距離の外航船では主力の1つになることが見込まれている。American Bureau of Shipping (ABS:米国海事船級協会)によると、2050年の消費量はバイオ燃料の4~5倍程度である。

アンモニアの需要予測

出所:IEA『Ammonia Technology Roadmap』

輸送・保管コストは、直接利用では水素の半分以下に抑えられる

IEAの2030年のグリーンアンモニアとグリーン水素の製造コストと輸送・保管時のコスト比較を見る。製造時はアンモニアのコストが水素の2倍以上と高いが、輸送・保管コストは水素ガスに戻すまでのコストを含めてアンモニアの方が安くなる。なお、輸送・保管コストには、水素をアンモニアに変換し、再び水素に戻すために必要なエネルギーコストが含まれており、この割合が大きいとされている。そのため、水素ガスに戻さない場合は水素の半分以下にまで抑えられ、発電などの燃料としての直接利用の場合はこのメリットが効きやすい。

なお、製造コストも、ハーバー・ボッシュ法でなく、常温常圧の反応を用いた場合は、従来の半分程度までコストダウンできるとされており、水素との差が縮まる可能性も高い。さらに、グリーンアンモニアは再エネコストが低い地域で製造すれば価格を抑えることができるため、米国などでの製造でさらにコストダウンができる可能性もある。次の段落で詳細を述べる。

2030年におけるグリーンアンモニア・グリーン水素のコスト予測

出所:IEA『Energy Technology Perspectives 2023』を基にUzabase算出

グリーンアンモニアがコスト競争力を得るための再エネ価格ラインは20~30ドル/MWh

アンモニアの製造コストは、グレー・ブルーアンモニアは天然ガスコスト(ブルーアンモニアはさらにCCUS分のコストが追加される)、グリーンアンモニアは再エネの電力コストといった原料コストが最大の変数だ。なお、IEAによると、グリーンアンモニアは、製造コストの半分以上が太陽光発電や風力発電によるエネルギーコストである。

グリーンアンモニアの製造コストを見ると、2021年段階ではグリーンアンモニアは従来製法のグレーアンモニアのコストを上回るが、2030年は地域によってほぼ同等の価格になるとされている。陸上・洋上風力ともに今後10年近くでコストは半減するとも言われており、一方でグレーアンモニアは直近ウクライナ情勢を受けて天然ガスが値上がりしていることから、価格差がさらに縮まる可能性もある。再エネの価格帯で見ると、電力価格が20~30ドル/MWhになると、グレーアンモニアのコストにグリーンアンモニアが追い付くとされている。

したがって、グリーンアンモニアは再エネを安く生産できるか、製造地域が重要になってくる。再エネの普及が遅れ、土地も十分でない日本は、2030年でもグレーアンモニアの価格までのコストダウンは難しい。一方で、風力発電が世界1位の中国や2位の米国は太陽光発電も他国より価格が安く、比較的安く製造できる可能性がある。

ブルーアンモニアについても、CCUSのコストは1トンにつき80ドル程度と試算されているが、同様に貯留適地に近く、輸送コストが少ない地域が向いている。

国別のアンモニアの製造コスト比較

出所:IEA『Energy Technology Perspectives 2023』、『The Future of Hydrogen』を基にUzabase算出

注1:2030年はAPSシナリオ、2021・2030年ともに再エネを用いた場合

注2:ブルーアンモニアのCCUSコストはアンモニア1トンにつき、80ドルと仮定

未来

規模ではブルーアンモニアが先行、本格製造は2020年代後半以降になることが見込まれる

カーボンフリーのアンモニア製造は、規模ではブルーアンモニアが先行しており、特に、CCUSが進む米国と石油資源が豊富な中東系が中心で、CCUS適地で規模を利かせてコスト課題の克服を狙う。グリーンアンモニアは、製造法を含めて研究段階の企業も多く、オーストラリアやチリなど再エネ適地での製造が中心で、大規模系は風力・太陽光のハイブリット活用が多い。ブルー・グリーンアンモニアともに工場の稼働開始は2020年代後半が多く、大規模系は2030年頃に集中していることから、規模が効くまでには十年単位での時間がかかる可能性が高い。

プレイヤーで見ると、ブルーアンモニアは石油メジャー、グリーンはエネルギー関連企業が目立つほか、Yara(NOR)や、CF Industries(USA)などグレーアンモニアの製造大手が、CCUS事業者や再エネ業者と共同でブルー・グリーンの双方の製造を計画するなど、製法シフトの流れが伺える。また、小規模ではすでに先行企業が実績を出しており、2020年にはSaudi AramcoがSABICと協力し、発電向けのブルーアンモニア40トンを世界で初めて日本に出荷した。

研究・開発段階では、高効率・低コストの製造方法開発が進んでいる。出光興産は、ハーバー・ボッシュの高温高圧化ではなく、常温常圧とモリブテン触媒で製造し、コストを半減させる製法を開発している。伊藤忠商事とレゾナック・ホールディングスは廃衣料を用いたアンモニア生産を計画しており、資源・再エネの双方が厳しい状況の日本での有力な製造方法を模索している。

主なブルーアンモニアの製造プラント計画

出所:各種報道、プレスリリースを基にUzabase作成

主なグリーンアンモニアの製造プラント計画

出所:各種報道、プレスリリース、Nicholas Salmonら『Green ammonia as a spatial energy vector: a review』を基にUzabase作成

注:AREHは900万トンのアンモニアまたは、または160万トン分の水素で計画中

発電や鉄鋼用途は日本が先行するが、普及地域は非OECD諸国などに限られる見込み

発電用途では日本企業が先行している。JERAとIHIは2021年から碧南火力発電所において、アンモニアの石炭混焼を行う実証実験を開始、2025年3月までの約4年間で2割のアンモニア混焼を目指す。ただし、前述のとおりアンモニア発電の普及地域は、石炭火力への依存度が高く今後もエネルギー需要の増加が見込まれる中国やインド、東南アジア諸国などの非OECD諸国中心になる可能性が高い。実際に現状の先行企業は日本企業と中国の国家能源集団などに絞られており、IHIもインドの火力発電所でのアンモニア混焼の燃焼試験を行っている。日本国内は政府計画で2020年代後半に20%混焼商業化、30年後半に50%商業化、50年に専焼を目指している。水素を用いた発電の商業化は2030年代半ばとされており、従来設備で混焼ができる分、計画は僅かにアンモニアが先行している。

将来的には専焼を目指して、専焼タービンの開発も行われている。IHIや三重重工で開発が行われている。ただし、三重重工は水素専焼タービンも開発しており、水素・アンモニアに同時並行で対応し、選択肢の1つとしている企業も多い。

発電以外の使用先は広く、船舶はグローバルで需要の多い分野だ。ほかには鉄鋼では日鉄テクノロジーが2023年度にアンモニア発電設備向けの試験装置を稼働する計画を立てている。また、三井化学はナフサ分解炉のエネルギー源をグリーンアンモニアに切り替える実証実験を、丸善石油、東洋エンジニアリング、双日マシナリーと共に2030年度までの10年間を想定し行っている。

アンモニア関連企業

出所:Uzabase作成

アンモニア船の普及を期待し、港湾含めた供給網整備に向けた調査も開始

船舶分野では、遠距離用途の大型船を中心に先行企業の動きが見られる。MAN Energy Solutions(DEU)は、Eltronic FuelTechらと協力して2024年までに世界初のアンモニア燃料エンジンを投入することを目標とし、大型コンテナ船用の2ストロークアンモニアエンジンを開発している。Wärtsiläも同様に2025 年までに 4 ストロークの試作機、2 ストロークの試作を目指している。

アンモニアの船舶燃料での成長を見込み、港湾など含めたサプライチェーン構築の動きも活発化している。例えば、米国海運局、海運大手のA.P. Møller – Mærsk(DNK)、住友商事らが、米国のサバンナ港でアンモニア燃料補給を可能にする包括的なサプライチェーン確立を目指すべく、燃料補給の実現可能性の調査を開始している。

青山 武史

青山 武史

グロービス経営大学院大学でMBAを取得し、キャリアを一貫してクリエイティブ、テクノロジー、ビジネスを高度に融合させた新規事業開発やイノベーションの創出を主導して来た。スタートアップ(最高事業責任者)や事業会社(マーケティング最高責任者)等でマーケティングからサービス開発までの新規事業開発の経験を積み、多くの事業で収益規模を拡大し、大手企業とのアライアンスに携わった。現在はYKK APにて新規事業開発部担当部長として、再生エネルギー事業の推進と新規領域の探索を担当。Point0を通して大手企業と共創活動を推進。渋谷未来デザインとSWiTCHとのカーボンニュートラルプロジェクト「CNUD」に参画。個人としても大手エネルギー企業のヘルスケ領域の新規事業開発支援コンサルティング実績多数。

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