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アパレルパーソナライズ

文章最終更新日:2023年08月14日

トレンド概要

受注生産型からコーディネイトまで多様なアパレルテクノロジーが登場

アパレル業界は、製造工程では労働集約的、販売工程では感覚的かつ俗人的な領域が多く、特に個人の体型や嗜好に合わせた製品は人の手によるオーダーメイドとするほかなかった。

しかし、近年はマスカスタマイズと呼ばれるオンライン経由での受注生産型製品や、AIを活用し個人の嗜好に合わせた商品提案サービス(スタイルコーディネイト)などが登場している。製造工程での自動化が進み、パターン(型紙、見本)が異なるものでも、効率的な生産が可能となりつつある。そのため、個別のニーズを適える動きにつながっているようだ。

本トレンドでは、アパレル分野において、生産・流通・販売の効率化と個人の体型・嗜好にフィットした商品の提供(パーソナライズ)を両立するテクノロジーやサービスを扱う。

主要なアパレルテクノロジー

出所:Uzabase作成

注:ささげとは、撮影・採寸・原稿作成を表す造語で、ECサイト運営における業務の一種

自動化技術の向上によりオーダーメイド品の製造が容易に

自分に合った服を着たいという需要に対して、かつては伝統的なオーダーメイドで対応するしかなかった。しかし、近年では、様々な自動化技術の進化によって、選択肢が増加している。マスカスタマイズにより、パーソナライズと量産化の両立が可能となったためである。

たとえば、採寸は3Dスキャナーのほか、スマートフォンで撮影した画像から自動計測が可能になった。また、型紙作成の際は、採寸データそのものの使用だけでなく、動きやすさや見栄えなどから各種調整が必要とされるが、そうした調整を含む製図の自動化技術も進化している。裁断や縫製工程でも、レーザーカッターや自動編み機、縫製ロボットなどの開発が進んでいる。

また、近年はEC化に伴う納期短縮ニーズや、中国や東南アジアなど主要なアパレル生産地における人件費上昇などの課題も生じているが、自動化が進めば消費地への生産回帰(Reshoring)などで解消できる側面もある。実際に、ファーストリテイリングやTSIホールディングスなどの国内大手メーカーは、国内生産を強化させている。

オーダー服製造工程の自動化

出所:Uzabase作成

データ解析技術の導入で小売部分での提案精度が高まる

各種データ解析により、生産工程だけでなく小売部分の個人最適化も進んでいる。

たとえば、体型や骨格、肌色などからスタイルがよく見える服や、過去の購買情報からユーザーの嗜好に合わせた服を提案するサービスなどが挙げられる。

データ解析による提案精度を高めるには、多くのユーザーデータの収集と、アパレルメーカーの知見やコーディネイターのセンスなどのアルゴリズム化が求められる。ただ、服の流行は変化があるため、サイズやコーディネイトについてのアルゴリズムやデータは常に最新化が必要となる。一方でアパレル産業は中小規模のプレイヤーが多いため、アルゴリズム化に必要なデータ量の確保に向けて、データの統合なども重要な課題である。

 データ解析によるサービス例

出所:Uzabase作成

最適化の対象ではサイズフィットが特に重要

服飾分野は体型や嗜好の個人差が大きく、本来的に自身に最適化した商品に対するニーズは強い。最適化の対象は様々だが、最も重要なものの1つがサイズフィットである。同じ身長でも胴回りなどは人によって異なるため、S、M、Lといった大まかな分類方法だけではぴったりのサイズにならない。

特に欧米では体型にばらつきが大きく、標準規格だけではすべての消費者のニーズに応えることが難しい。また、BMI(体重と身長から算出する指数)の分布は従来に比べ広がっている。BMC Public Healthによると、中国は米国よりBMIのばらつきが少ないとされていたが、1991年と2011年の比較ではばらつきの拡大がみられた。

なお、直近ではコロナ禍の影響で体型が変化した消費者も多いと考えられる。米国では2021年7月時点で35%にウエストサイズの変化があったと指摘されている。また、WHO(世界保健機関)「WHO European Regional Obesity Report」では、欧州の小児、および青少年の過体重・肥満が増加したようだ。

BMI分布(米国、日本)

出所:National Academy of Sciences、厚生労働省「国民健康・栄養調査」

注1:NHANES…National Health and Nutrition Examination Survey(米国の全国健康栄養調査)

注2:日本は2019年11月時点の数値

マネタイズ

パーソナライズにより返品率が低下すれば、コスト圧縮につながる

アパレル製品では一定の返品が発生する。また、近年普及しているECは店舗に比べて返品率が高く、米国・英国では過半数を超えるという調査もある。これは、Amazon.com(USA)やASOS(GBR)などアパレル商品を扱う世界的なECサイトが、返品無料を掲げて販売促進に努めてきたことなどが背景にある。

PowerReviewsの調査(2021年)によると、ネットショッピング(全カテゴリ)における返品理由は、「商品がフィットしなかった」が最も高い。また、返品を前提に複数商品を注文して一部だけを購入する消費者が同調査では1割程度みられたが、アパレルでは特に多いとの指摘もある。

返品サービスは消費者にとっては利用しやすい反面、高い返品率は物流コストの上昇や在庫管理の複雑性を招く。パーソナライズにより返品率を低下させることができれば、これらのコスト圧縮につながると考えられる。

ASOSを例にとると、物流コストが売上の約13%と高く、この増減が利益に大きく影響する。返品率が半減すれば、利益率が約5ポイント上昇※する可能性がある。

※返品率は2018年の56%、発送と返品受領のコストが同等の場合

アパレルの小売・ECにおける返品率は高い

出所:Appriss「Consumer Returns in the Retail Industry」、globalwebindex資料

ASOSの営業費用内訳では物流が大きい

出所:ASOS発表資料(2022年8月期)

注:その他営業費用には人件費が含まれる

プロパー消化率の改善、在庫の削減につながる可能性も

パーソナライズは、アパレル業界の売れ残りや値下げの常態化の解決策となる可能性もある。

日本を例にとると、アパレルのプロパー消化率(定価で販売した商品の割合)は3~4割程度といわれている。値下げや売れ残りは、企業の収益性を左右するほか、消費者が値引きに慣れてしまい改善がより難しくなることの遠因にもなる。

それに対して、パーソナライズによる受注生産型の場合、想定外の値引き不要、在庫管理の効率化というメリットがある。

プロパー消化率が80%まで改善すれば、営業利益率が10数ポイント改善することも考えられる。

プロパー消化率の変化による影響イメージ

出所:Uzabase作成

注:P率はプロパー消化率

未来

小売事業者とメーカーの連携が進み、アパレル業界全体のバリューチェーンが変化

パーソナライズの導入により、アパレル業界のバリューチェーンは、メーカーが企画し商社を経由して小売店で販売する従来の流れから、オーダーを受注する小売事業者を起点とした商品の企画・生産へと変化する。

企画では、流行の創出を前提とした半年以上前の設計・発注ではなく、消費者が自らデザインを設計する。生産工程では、1つ1つ異なる製品を作ることに加え、長期の生産計画ではなく日々変化する受注量に対応する。中間流通においては、小売事業者と工場の直接取引増加により、商社の役割が低下する。

このような変化を通じて、アパレルメーカーや小売事業者の過剰在庫リスク、値引きを前提とした値付けなどもなくなる。また、小売事業者の役割として、EC化のさらなる進行に伴い、店舗では採寸や提案中心となるなどの変化が生じると考えられる。

いずれにしても小売チャネルにおける受注が全ての起点となるため、採寸からパターン製作、生産、それらのデータの蓄積・解析などで小売事業者とアパレルメーカー、OEMメーカーなどの連携がさらに進むと考えられる。また、生産工程においては、採寸技術や自動型紙生成、自動縫製機などの各種生産工程の自動化に加え、データ収集・解析サービスなども拡大する可能性がある。

バリューチェーン

出所:Uzabase作成

関連技術および設備・システム

出所:Uzabase作成

小売店を起点とする製造工程が徐々に普及、製造から小売への進出も可能に

パーソナライズの手法の1つとして、受注専門の小売店を起点とする形態が高価格帯を中心に普及しつつある。

従来のアパレル産業とは逆で、小売店が設計・規格化を行う。オーダーメイド専門店InStitchu(AUS)などが知られ、日本でもFABRIC TOKYOやオンワードを始め、主要各社が取り組んでいる。

ユーザーがWebサイト内の選択肢からデザイン・生地などを選択する形式だが、選択肢が幅広く実質的にフルオーダーメイドに近い。また、採寸データの登録なども全てプラットフォーム上で完結し、オーダーメイド服のシステム化が実現されている。さらに、受注と型紙の設計まで担い、生産部分は中国の工場など外部に委託される。

InStitchuの作業工程

出所:InStitchu発表資料

工工場のシステム化で小ロット生産を実現、縫製完全自動化は消費地生産にもつながる

パーソナライズへの対応には、生産リードタイムの短縮や小ロット化など、生産工程の変革も必要である。

最大のアパレル生産拠点である中国では、工場においてオーダーごとに異なるサイズや生地に対応できるよう様々なシステムの導入が進んでいる。たとえば、ICタグを用いた「ハンガーシステム」では、1着ごとに仕様を表示できるほか、各オーダーがどの工程にあるかがリアルタイムで把握できる。カジュアルボトムスを生産する山東拉峰服装は、ハンガーシステム、採寸データからパターンへの自動変換システムなどを導入している。また、報喜鳥集団でも、グループ内工場で同様のハンガーシステムを導入している。

また、さらなる生産効率の改善手法として、島精機製作所のホールガーメントや縫製ロボットSewbotによる完全自動化が挙げられる。これらはアパレル生産において最も工数のかかる縫製部分を省力化・自動化し、これまで人の手に頼るほかなかったカスタマイズ製品の大量生産を可能とする。

ホールガーメントは、島精機製作所の完全無縫製型コンピューター横編機によるもので、デザインプログラムを設定すると全自動でニット製品が完成する。所要時間はセーター1着あたり30分程度とされる。スタートアップのSoftWear Automation(USA)が開発するSewbotは、難しいとされる裁断・パーツ合わせ・縫製までを全自動で行う。

自動縫製機はまだ開発途上であり、対応できる製品は限られるが、今後開発が進めば消費地生産の実現などアパレル業界に大きな変革をもたらす可能性がある。ファーストリテイリングは2021年から、島精機製作所のホールガーメントを使ったイノベーションファクトリーを都内で運営している。

アパレル製造工程の完全自動化

出所:Uzabase作成

採寸関連の計測技術の開発・導入が進む

パーソナライズに不可欠な要素である採寸についても様々な技術が開発されている 。H&M (NLD)では2020年に3Dスキャンによるカスタムジーンズを販売した。これは3DスキャナーとUNSPUN(USA)の開発した型紙生成ソフトによるもので、ストックホルムの店舗で実施している。

さらに効率的・統一的な基準による採寸のため、スマートフォンで撮影するだけで自動計測できるアプリなどの開発も進む。これにより店舗での採寸の手間や、消費者が採寸した場合のばらつきの問題を解消できる。

Bit Bodyの展開するMtailor(USA)では、スマートフォンを床に立てかけアプリで全身360°の映像を撮影すると、画像処理により自動的に採寸データが計測される。BodygramやPresizeなども同様のサービスで、ユニクロのECサイトなど大手でも導入が進んでいる。

なお、採寸技術はカスタマイズ製品以外に、正しい商品サイズの選定にも役立つ。足の3D計測を行うZOZOMATでは、靴の返品率が3割以上低下したとされる。

データの蓄積・分析によりコーディネイト提案などの関連サービスも発展

計測データが蓄積すれば、より高精度な最適化・補正、関連サービスへの応用などが可能となる。すでにデータ分析を通じた商品やスタイリングなどの提案サービスが生まれている。

True Fit(USA)は、ユーザーのサイズや好みに応じた商品提案を行うサービスを展開しており、Macy’s(USA)やASICSなど大手小売事業者やメーカーのECサイトに採用されている。同社は商品や消費者の購買情報についての膨大なデータを蓄積、分析することでレコメンドを最適化している。

また、Stitch Fix(USA)はサイズや好みに合わせてスタイリングし商品を発送、消費者は気に入ったもののみ購入するプラットフォームサービスを提供する(スタイリング料20ドル )。その際、スタイリストはAIによる分析(顧客の体型、好み、予算、過去のスタイリングに対するフィードバックなどからクラスタリング)を参考としている。サイズや好みなどが蓄積されることで、効率的かつ最適な提案が可能となるほか、フィードバックにより提案が改善されていくためユーザーの定着率も高いとされる。

そのほか、月額定額制のファッションレンタルサービスでもスタイリストによるセレクトサービスを行っているものがある(トレンド「サブスクリプション」レポートを参照)。

技術開発だけではなく、各分野のノウハウの融合も必要

近年は様々な企業がアパレルにおけるパーソナライズと量産・効率性の両立を目指している。2019年には日本のアパレル大手ワールドが、計測技術を持つOriginal Stitchを子会社化するなど、大手企業も関連技術の獲得を進めている。

しかし、現時点ではまだ発展途上のサービスが多い。

簡易な採寸方法では精度が十分でないことが多く、体型データから着心地や見栄えを最適化した型紙に起こすにも一定のノウハウが必要である。ZOZOは、スマートフォンとドット柄ボディスーツで体型を測定するオーダースーツブランドを展開したが、採寸精度、型紙に起こすノウハウ、品質管理など各所に課題を抱え、パーソナライズの難しさを示唆する事例となった。

パーソナライズを業界全体に浸透させるには、先端技術の開発だけではなく、各分野に蓄積されたノウハウも融合していくことが重要である。

青山 武史

青山 武史

グロービス経営大学院大学でMBAを取得し、キャリアを一貫してクリエイティブ、テクノロジー、ビジネスを高度に融合させた新規事業開発やイノベーションの創出を主導して来た。スタートアップ(最高事業責任者)や事業会社(マーケティング最高責任者)等でマーケティングからサービス開発までの新規事業開発の経験を積み、多くの事業で収益規模を拡大し、大手企業とのアライアンスに携わった。現在はYKK APにて新規事業開発部担当部長として、再生エネルギー事業の推進と新規領域の探索を担当。Point0を通して大手企業と共創活動を推進。渋谷未来デザインとSWiTCHとのカーボンニュートラルプロジェクト「CNUD」に参画。個人としても大手エネルギー企業のヘルスケ領域の新規事業開発支援コンサルティング実績多数。

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