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無人店舗

文章最終更新日:2023年12月05日

トレンド概要

小売店舗業務は多岐にわたり、特にレジ周りの自動化・省人化が進む

近年の小売業態では、デジタル技術の進展や人手不足の影響を受け、店舗運営に必要な業務の自動化・省人化が進んでいる。コロナ禍で購買のEC化が進んだとはいえ、依然日米では8割以上の購買が実店舗で行われており、実店舗のニーズは高い。

小売店舗の業態は、スーパーから百貨店まで多岐に渡る。どの業態でも、顧客が商品を選び購買に至る流れのなかで、陳列やレジ、発注などの店舗業務は共通して発生する。しかし、どの業務に重点が置かれているかは、業態によって異なる。例えば、スーパーやコンビニは品出しやレジの重要度が相対的に高く、百貨店やアパレルでは接客業務の重要度が高い。

本レポートでは、品出し、レジ、接客などの「店舗運営要素の無人化」を行った店舗を無人店舗とする。特に、実店舗での実験・実用化が進むレジ業務を中心に見ていく。

店舗業務と各種業態における重要度

出所:Uzabase作成

※医薬品販売を除く

小売店舗の効率化は、レジ周りの機械化・データ化で進んできた

小売業界ではこれまでも機械化・データ化によって、レジ業務が進化してきた歴史がある。

19世紀末にはレジスターが導入された。取引記録と鍵付のドロワー(現金を収納する引き出し)により、店員の一部作業が機械化されたほか、現金不正も減少した。1960年代には汎用型のクレジットカードが普及したことで、顧客の購買機会が増加した。

1970年代にはバーコードが規格化され、POS(Point Of Sales:販売時点情報管理)が普及した。店舗ではリアルタイムの販売動向データで発注や在庫管理の効率化が進んだ。その後もPOSは進化し、メンバーカードと紐づけたID-POSでは、顧客に割引などのサービスを提供する一方で、店舗ではより精緻なデータを取れるようになった。

1990年代にはセルフレジが登場した。スーパーマーケット年次統計調査(2023)によると国内スーパーマーケットのセルフレジ全体の設置率は31.1%となっており、規模が大きい企業や地方圏での設置率が高い傾向にある。さらに、店員がバーコードスキャンを行い、顧客が清算を行うセルフ清算レジでは、設置率が78.2%と普及が進んでいる。また、2023年には顧客がスマホ等でバーコードをスキャンする、セルフバーコードスキャンの導入率が初めて1割を超えた。

小売業界の機械化・データ化の経緯と効用

出所:Uzabase作成

小売業での人手不足と賃金上昇の問題が無人化を後押し

マクロ的に、小売業は多くの雇用を抱えている。近年は雇用全体の成長に比べて小売業の伸びは鈍く、業態によっては縮小もみられるが、米国では約1,500万人以上が小売業に従事し、農業部門を除いた雇用の約10%を占める。コロナ禍の影響で一時は大幅に減少したが、足元は回復に転じ、従来の水準に回復している。また、インフレの進行も加わったことで、Bureau of Labor Statisticsによると、近年の小売業の平均賃金は時給20ドルを超える水準まで上昇している。

日本では、少子高齢化による構造的な人手不足となっており、米国とは事情が異なるものの、効率化への需要は同様に高い。また、最低賃金も年々上昇しており2023年度の改訂で全国平均が時給1,004円となった。

米国の小売雇用者数の推移

出所:Bureau of Labor Statistics

注:2023年9,10月は推定値

日本の小売雇用人員の過不足感(D.I)の推移

出所:日銀短観

注:D.I.は、数値がマイナスであるほど雇用マインドがタイトであることを示す

認識技術が全ての無人化でのキー技術

人間は五感によりヒトやモノを認識して、適切な判断・行動により業務を執行する。一方、機械の場合は、画像データから具体的なヒトやモノを認識したり、バーコードやRFID(Radio Frequency Identification)など機械が認識しやすい規格を用いたりする必要がある。それにより、機械は、品物に対する物理的な業務や、決済や発注・在庫管理などの情報に関わる業務を、データとして処理することができる。

このように、いずれの店舗要素を無人化するにしても、適切にヒトやモノを機械が認識できるかが全ての根幹となる。近年のAIによる画像認識技術の進化がこれを可能にしたからこそ、無人店舗の実現につながっている。

なお、下図の調理ロボットについては、飲食店では一部実装段階である。詳細は「レストラン自動化」をご覧いただきたい。

様々な店舗要素における自動化の試みと技術要素

出所:Uzabase作成

注:調理ロボットは飲食店で一部実装段階。詳細は「レストラン自動化」を参照

マネタイズ

無人レジは、コンビニサイズ店舗でコストを50万円/月以下にできるかが目安

小売は業態によって、店舗の面積や品数、働いている人数や業務などが異なる。そこで日販50万円、面積200平米の一般的なコンビニ店舗を例とし、レジ無人化の経済合理性を試算すると、損益分岐点の目安は50万円/月程度となる。計算方法は、以下の通りである。

TKCグループによると、日本のコンビニの人件費比率は11%程度である。前述の例による月商を元にすると月165万円、1人あたりの人件費は、時給1,000円とすると24時間30日勤務で72万円となるため、月商は人件費2.3人/月相当となる。また、人件費が発生しないオーナー、および家族の業務も考慮し、実質的な人員は3人相当と考えた。そして、業務時間のうち25%がレジ業務とすると、月間54万円相当の人件費がかかっている計算になる。

つまり、無人化のメリットが出るコスト水準は50万円/月程度となり、ハード・ソフト合わせたシステム費用がこれを下回れば、レジ無人化を進める経済的メリットが出てくると言える。

なお、Amazon Goも150~200平米ほどと同様の面積だ(最近登場したグロサリー業態は除く)。人件費が高い先進国であれば、日本以外であっても目指すコスト水準の目安として使えるだろう。

コンビニのレジ関連業務にかかるコスト推定

出所:TKCグループ情報を基にUzabase作成

コストが50万円/月を下回ってくる可能性は高い

カメラやセンサーを認識に活用した店舗の事例を見ると、コストは前述の目安である50万円/月を下回る可能性はありそうだ。その計算方法は以下の通りだ。

大まかにコストは、カメラなどのハードコストとシステム構築費用に分けられる。償却期間を5年とすると、店舗あたりの総コストが3,000万円(年間600万円)となれば50万円/月となる。

ハードコストについて、コンビニサイズの店舗であれば、500個のカメラで認識が一定できると推測される。ハードコストを1台あたり1万円と仮定すると、残るシステム構築費用は店舗あたり2,500万円まで用いることができる。セブン-イレブンの日本での店舗数は約2万1,000店、ファミリーマートは約1万6,000店、ローソンは約1万5,000店となっており、いずれのチェーンにおいても5年間で3,000~5,000億円といったシステム投資金額となる。しかし、すでにいくつかの実証試験や導入事例があることから、ソフトウェアを中心としたシステム投資金額はここまではかからないだろう。

よって、店舗あたりの総コストが3,000万円(年間600万円)以下となり、コストが50万円/月を下回れる可能性はある。実際に、TTGは、日商15~50万円、60~100平米の小売店をターゲットとしたシステムを、月間50万円からのサブスクリプション代で展開している。

店舗におけるカメラ活用の具体事例と、コスト計算の仮定

出所:各種報道からUzabase作成

また、カメラ式以外に、RFIDを用いることも考えられる。RFIDの場合、実現化にはコスト面が課題となる。

2017年、大日本印刷は10円台のタグの単価を2020年までに5円以下、2025年には1円にすることを目指すと発表した。凸版印刷は2019年10月以降、4円(1億枚ロット)からという低価格化を実現した。また、東レも、1枚2円以下で生産できる技術を開発してICタグ事業に参入することを視野に入れている。ただし、2022年の経済産業省の資料によると、国内の電子タグの単価は2017年から2021年にかけて10円程度と横ばいで推移していることから、低価格化はあまり進んでないと考えられる。

今後、タグの単価が2円となった場合、上記のコンビニでの個別商品の平均単価を200円とすると、月間の販売点数は7万5千点となる。2円/タグだと、月間のタグのコストは15万円となる。

コンビニより単価が高いアパレルでは、すでに導入が始まっている。たとえば、ユニクロでは2019年半ば頃までに全店でRFID化を完了させた。また、タグには様々な情報を入れることができるため、レジだけでなく工場から店頭までの在庫一元管理でも活用されている。RFID方式のシステムは、カメラ方式に比べると複雑ではないと考えられ、現実的なレベルが近づきつつあるが、コンビニへの導入には商品へタグを貼るコストをだれが負担するかの整理が課題となる。

無人化で顧客の購買体験が向上するかがポイント

店舗の無人化について、上述したような店舗運営のコスト削減だけでなく、レジ待ち時間の削減など顧客の購買体験も向上させるような設計を行えるかが肝要だ。

例えば「Amazon Go」では、棚から商品を選び退店するだけで購入できる。そのため、レジ業務の削減という店舗側のメリットに加えて、レジ待ち時間がなくなるという顧客の購買体験の向上もサポートしている。さらに、JR東日本の高輪ゲートウェイ駅やファミリーマートで導入事例のある無人店舗「TOUCH TO GO」(以下、TTG)は、買った商品だけでなく、棚の前で立ち止まったか、どの商品を棚に戻したかなどの行動も追っており、買わなかった理由を分析して、よりよい品揃えの仮説を立てようとしている。同社は、2021年に購買行動データを活用したマーケティングサービスの創出のため、貨幣処理機メーカーのグローリーと提携した。購買体験が向上し、より多くの購買につながれば、店舗・面積あたり売上高が増える。無人化のために投資コストはかかるが、投資コストをより多くの売上で「薄める」ことが、無人化を進める中での王道だ。

レジ待ち時間の短縮とデータ活用により購買体験が向上すると、店舗・面積あたり売上高増加に繋がる。

従来店舗と無人店舗における顧客体験の違い

出所:Uzabase作成

未来

無人店舗の普及促進には、小売チェーンのみならず関連業界全体での対応が必要

店舗運営の無人化は、業務標準化や人員配置の最適化などとあわせて進める必要がある。そのため、データを集めやすく資本力もある大手小売チェーンや、無人を前提としてゼロから設計できるスタートアップなどから始まっている。

Amazon.comは、2018年からAmazon Goの実店舗を2023年11月調査時点で、米国で23店舗(Starbucks Pickup 2店舗含む)を出店している。また、2021年にはAmazon Goより店舗面積が数倍大きく、初のフルサイズの食料品店となる「Amazon Fresh」をワシントンに出店した。ただし、2023年の報道によると、Amazon GoやAmazon Freshの一部店舗を閉鎖、新規出店を一時停止すると発表している。

無人化において重要な認識技術についても、さらなる高度化・精度向上が進めば、顧客の店舗での購買行動などがより精緻にデータ化されていく。それが顧客にとって不自然・不快ではない形式で行われているか、アプリとの融合などで顧客がメリットを感じられる形態で提供できるかなども、普及期では重要となるだろう。

変化を促進するには、小売チェーンだけでなく、バリューチェーン全体での対応も必要となる。たとえば、機械を提供する企業では、認識・センシングの精度向上やコストダウンが求められる。また、決済手段もスマホ決済を中心に大きく変化している。今後は、決済関連企業が持っているデータと小売店が持っているデータをどこまで融合するかといった点も、個人情報の取り扱いを含め議論が進んでいくだろう。

加えて、決済以外の部分を無人化・機械化していくとすれば、箱や外装をロボットが認識しやすくつかみやすい形に規格化することも必要になってくるだろう。また、その規格に対応した棚で物流や店舗が設計されれば、納品・棚出しなどの自動化もしやすくなる。

無人化に取り組んでいる代表的企業や関連業界

出所:Uzabase作成

レジ無人化はシステムを外部提供、スタートカートの普及も進む

レジ周りの無人化については、実店舗への導入やシステムの外部提供が始まりつつある。

Amazonは、2020年にAmazon Goのシステムを「Just Walk Out」として外販を開始した。2021年にはSainsburyがロンドンの店舗で初導入、その後も空港やアリーナ、スタジアムの売店などにも導入されている。また、ニューヨークの2店舗のStarbucksでも導入されるなど、システムの外部提供が広がっている。

日本では、TTGがJR東日本の高輪ゲートウェイ駅に導入したことに始まり、2020年にはファミリーマートと業務提携し、実用化導入を進めている。TTGの主力商品であるTTG-SENSEは、対応店舗面積~100平米と一般的なコンビ二より小さく、エキナカやオフィスビル内の施設内小型店舗サイズに対応している。2023年11月には、無人決済システムの導入数が100か所となった(TTG-SENSEの他に、より小型店舗のTTG-SENSE MICRO、セルフオーダー決済端末TTG-MONSTERも含む)。

現状では小売店舗数に比べて導入割合はごく一部とみられるものの、人手不足の状況も背景に導入が広がる可能性も見えてきている。

また、完全無人店舗だけでなく、部分的にレジ機能を無人化する方法も増えている。代表的なものの一つとして、決済機能を有したスマートカートが挙げられる。スマートカートは、顧客がカートに商品を入れるだけでカートのカメラと重量センサーが商品を読み取るもの、顧客がカートに入れる際にスキャンするものなどがある。また、レジゴーのように決済機能は有しておらず、スマホ等でカートに商品を入れる際にスキャンするセルフレジとスマートカートを組み合わせたものもある。レジゴーでは、スマートカートの利用によって、顧客単価が15%上昇したというデータもある。

スマートカートは完全無人店舗と比べて導入コストが低いことが多く、今後さらに普及していく可能性が考えられる。

中国では高額な設備投資・物流網の不足・顧客離れで無人店舗が縮小

中国では、2015年にBingo Boxが事業を開始し、一時は数百店舗の運営を行うほど拡大していた。Sixth Toneによると、2017年末時点で無人型販売の分野に138社が参入し、約6億ドルの資金調達を行っていた 。その後、画像認識レベルの低さや盗難率の高さ、コスト削減効果のあいまいさなどの課題も顕在化し、一時期に比べ注目度・成長性は著しく低下した。

Beijing Mengxiangfeng Chain Businessが運営する無人スマートコンビニ「便利蜂」は、報道によると2017年の創業後に約3,000店舗を出店したが、2022年4月以降に700店舗規模を閉店したとされている。同社は、ビジネス街やオフィスビル内など集客力の高いエリアを中心に出店し、自社での生鮮食品生産や各店舗から近隣への配送などサプライチェーンの短縮化や回転率上昇を図っていた。しかし、狭い店舗では商品の品揃えが限られ、物流網の不足から商品補充や管理が課題となり、購買体験が低下して顧客離れが起きたことに加え、多額の設備投資が必要であったことが要因で厳しい状況となっている。

一方、新型コロナウイルス感染症拡大を受け、人との接触がない無人店舗に再度注目する動きもある。大手物流企業SF Expressが設立した無人小売ビジネス「豊e足食」は、オフィスビルなどでの無人商品棚と自動販売機の設置から事業を始め、ゼロコロナ政策の追い風も受けて2022年にユニコーン企業となった。SF Expressの既存の物流網を活かした配送員による商品補充が行えること、QRコードやAIカメラの顔認証で決済を行うためPOSデータを取得可能といった強みを活かしている。

前述の通り、店舗の無人化は運営コスト削減を目的とするのではなく、顧客の購買体験も向上させるような設計を行うとともに、効率的な物流網構築といった小売店における基本のオペレーション構築も重要となるだろう。

ショールーミングやECとの融合促進を図る店舗作りも一つの形

店舗自体や店舗内の要素を無人化するのではなく、店舗を従来とは異なる形で活用しようとする動きもある。

2021年には大丸松坂屋百貨店がショールーミングスペース「明日見世(asumise)」を、2022年4月には高島屋がショールーミングストア「Meetz STORE」を公開した。セレクトされたブランドの商品が店舗に並び、購入はQRコード先の専用ECサイトから行う形としており、それによって店舗の在庫スペースを減らし、展示面積を広くできる。また、在庫についても、ECや複数店舗分を倉庫に集約することができるため、管理がしやすく、回転率も上げられる。さらに、顧客にとっては、店舗から自宅まで持ち帰る手間が省ける。

Alibaba傘下の食品スーパーのHema(盒馬鮮生)は、店舗を購買の場だけでなく、ECからの注文を受けてピッキング・配送を行う場として、一種EC倉庫と融合したような業態を展開している。ゼロコロナ政策により生鮮ECの需要が増加した影響などを受け、2022年には黒字転換している。

店舗とECの融合が進むと、顧客がどのチャネルで購買してもデータを集めることができるようになる。

ショールーミングやECと融合した店舗のイメージ

online shopping in modern shopping mall with mobile phone
青山 武史

青山 武史

グロービス経営大学院大学でMBAを取得し、キャリアを一貫してクリエイティブ、テクノロジー、ビジネスを高度に融合させた新規事業開発やイノベーションの創出を主導して来た。スタートアップ(最高事業責任者)や事業会社(マーケティング最高責任者)等でマーケティングからサービス開発までの新規事業開発の経験を積み、多くの事業で収益規模を拡大し、大手企業とのアライアンスに携わった。現在はYKK APにて新規事業開発部担当部長として、再生エネルギー事業の推進と新規領域の探索を担当。Point0を通して大手企業と共創活動を推進。渋谷未来デザインとSWiTCHとのカーボンニュートラルプロジェクト「CNUD」に参画。個人としても大手エネルギー企業のヘルスケ領域の新規事業開発支援コンサルティング実績多数。

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