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バッテリーリサイクル

文章最終更新日:2024年02月02日

トレンド概要

環境負荷や資源不足から、電池のリサイクルの必要性が高まる

電気自動車(EV)の大幅な成長は、リチウムイオン電池需要の急増にもつながっている。一方で、廃棄の過程での環境負荷や、材料の安定調達の難しさが問題視されている。

現状、ほとんどのリチウムイオン電池は埋立て処分をされている。米国化学会の一部門であるCASによると、世界におけるリチウムイオン電池のリサイクル率は2022年時点で5%と低い。一方で、2020年末にはEUがサーキュラーエコノミー計画の一貫として電池のリサイクル規制案を発表し、重要性が増している。

また、電池の正極材にはレアメタルが使われているが、生産地は一部の地域に偏っており安定調達が難しい。特にコバルトは生産の6~7割をコンゴ民主共和国に依存している(サプライチェーンリスクについては、「経済安保とESG、共通点と企業の対策を探る」も参照)。

そこで、環境負荷の低減、自国内での材料調達のための有力な手段としてバッテリーリサイクルが期待を集めている。しかし、需要が増加しているEV電池は比較的新しい製品であり、リサイクル法が未だ確立していない。さらに、小型電池などで用いられてきた従来法でも環境負荷や効率の悪さなどの技術的問題が多い。結果として、産業スケールでの商業化は途上で、リユースとの組み合わせが現実的となっている。大型電池のリユースの場合は、モビリティ動力源以外にも大型蓄電設備やバックアップなど別の用途も期待される。

本トレンドではリチウムイオン電池を中心に電池のリサイクル・リユースを扱う。特に大型電池の正極材材料を中心に取り上げ、技術課題やコスト問題、サプライチェーンの変化について解説する。

なお、電気自動車と電池の需要や提携などについては「【注目テーマ:電気自動車・電池】トップダウンとボトムアップで、現在と未来の構造を見る(2022年2月)」も参照いただきたい。

電池のバリューチェーンと課題

出所:Uzabase作成

大型の廃棄電池のリサイクルは途上、使用期間15年までは7割リユース

電池が廃棄された場合、埋め立て以外の選択肢はリサイクルとリユースである。現状は、後述する技術・コスト的課題から、すぐにリサイクルをされるケースは少ない。Element Energyによると、EUにおけるEV電池の場合、使用期間15年までであれば7割以上はリサイクルではなくリユースでの検討が想定されている。

EV電池向けをはじめ、大型で性能が高い電池は、一定期間利用すると劣化はするものの電池として引き続き利用できる。そのため、EV電池として役目を終えた後も、残量に応じてEVの交換用電池やフォークリフトなどのモビリティ動力源、または定置型電池としてリユースが可能である。定置型の用途は、工場・大型蓄電設備、データセンター向け、店舗など商業施設向けといったように幅広い。また、定置型には家庭用も存在し、家庭用もリユース先の候補となり得る。

リサイクルはリユースされた後に検討されることが多く、目安として使用期間が21年以上のものは原則リユースできずリサイクルの必要性が出てくる。

EV用電池:使用期間に応じた回収後の用途

出所:Element Energy “Battery on wheels: the role of battery electric cars in the EU power system and beyond”

 

 

リサイクルの課題は効率の悪さやリチウム回収の難しさ

電池のリサイクルは、リユースと比較して技術的課題が多い。電池材料のうち、リサイクル需要が特に高い材料は、正極材に含まれるコバルト、ニッケル、リチウムなどのレアメタルである。電池からレアメタルをリサイクルする際は、回収、分解・前処理、金属抽出の3つのプロセスを辿るが、どのプロセスにおいても手法の複雑さと効率の悪さが課題である。

現在商用化されているリチウムイオン電池のリサイクル手法は、ほとんど家電用の小型電池が対象で大型電池のリサイクル技術は発展途上である。車載用としての寿命は10年程度と言われており、現状リサイクル対象が少なく、ノウハウが不足していることが理由の1つである。

回収においては、リユースすべきか、リサイクルすべきかを判定する残寿命の評価に数時間を要することや、大型電池の輸送コストなど、コスト・効率性ともに課題がある。分解においても、リチウムイオン電池の構造が各社で異なるために手間がかかる。最後の金属抽出は特に複雑で高コストな処理が必要となる。現在は、乾式精錬が中心だが、この方法の場合は有害ガスの排出や、純度・回収率の低さのほか、副産物中にリチウムが残り、回収せずにスラグ(精錬廃棄物)とされるなどの欠点がある。

これらの課題を受け、高速評価技術の開発や、分解工程の自動化の研究、湿式精錬や新たなリサイクル手法の開発が行われている。リサイクル手法では、Li-Cycle(CAN)は、湿式製錬後にさらに精製工程を組み合わせた「スポーク&ハブ」という独自プロセスでリチウム、コバルト、ニッケルなどを95%以上回収可能とした。Redwood Materials(USA)が、電池の残留エネルギーを活用した上で乾式製錬と湿式製錬で、電池中の主要金属を平均95%回収可能にするなど、技術進展が進む。

また、EUは、後述のバッテリー規制案の一部として、全ライフサイクルにおける重要なデータを集約した「電池パスポート」の導入を提案し、2022年に政治合意に達した(2024年から順次各義務を適用予定)。電池パスポートの中には使用材料、解体方法などリサイクルに向けた情報が含まれ、評価・分解の工数削減に資すると注目されている。

電池のリサイクルのプロセスと課題

出所:Uzabase作成

乾式・湿式精錬のメリット・デメリット

出所:XiaohongZhengら『A Mini-Review on Metal Recycling from Spent Lithium Ion Batteries』などを参考にUzabase作成

欧州バッテリー規制の施行によりリサイクルの重要度が高まる

以前から指摘されていた環境負荷や資源不足に加え、2020年にEUがバッテリー規制案を発表したことで、バッテリーリサイクルの必要性がさらに高まった。2023年8月にはバッテリー規制が施行され、電池製品のライフサイクル全体(原材料調達、設計・生産プロセス、再利用、リサイクル)について規定がされた。規制では、産業用・EV用などの内部容量が2kWhを超える大型電池についても、金属の材料回収率の規定、リサイクル材の使用比率に下限が段階的に課せられる。規制はEU加盟国を対象としたものだが、EU外の製造業者についてもEUで販売する際はリサイクルや安全性の条件を満たすことを保証する義務を課される。

米国でもワシントン州やカリフォルニア州、コロラド州などでは、EV電池を埋め立て処理することを禁ずる規制の策定が進む。なお、2022年には米国でインフレ抑制法が成立しており、その中には米国でリサイクルされた電池材料を使用した場合、メーカーはEV生産補助金を受け取れるという条項が含まれている。背景には電池関連の中国依存の脱却があると言われている。

日本は2021年に電池サプライチェーン協議会(BASC)が発足、経産省からニッケル・コバルト95%以上、リチウムは70%以上を回収できる技術開発を行う方針が発表された。  

EUバッテリー規制案の概要

リチウムイオン電池のリサイクル効率=電池のリサイクル可能な回収部分の質量/リサイクルされる全ての電池質量

出所:Council of the European Union, Proposal for a Regulation of the European Parliament and of the Council

concerning batteries and waste batteries, repealing Directive 2006/66/EC and amending Regulation (EU) No 2019/1020 (2020/0353 (COD)) を基にUzabase作成

注1:製造業者がリサイクルも合わせて手掛ける事例もある

注2:その他、小型電池の回収率等の規定もあり、上表は網羅的なものではない

コバルトは金属価値が高く回収しやすいが、リチウムは金属価値に対し回収コストが課題

正極材に主に使われるレアメタルであるコバルト、ニッケル、リチウム、マンガンのほか、レアメタルではない銅もEUバッテリー規制案の対象となっている。このうち、特にコバルトは原材料価格が高く、埋蔵量が少なく生産地が偏っていて、価値が高い。乾式精錬でも回収でき、湿式精錬ではさらに高い回収率を実現できるため、コストの側面でもリサイクル価値は比較的高いと言えるだろう。

リチウムは、乾式精錬では回収できないほか、湿式精錬でも回収率は比較的低くリサイクルの難易度が高い。さらに、EVの普及に対して供給が追い付かない状態が続き、2021年後半頃から価格が高騰し、リサイクルの需要は高まった。2023年1月にはIEAが、2022年のリチウム価格が2019年の約4倍に高まったと報じた(ニッケル・コバルトも同2倍となった)。

2023年の春頃から価格はやや下落したものの、引き続き調達リスクが示唆されている。

これを受け、リチウムと他の金属を効率的に同時回収できる手法の開発を各社が模索しており、リサイクルコストに見合う効率が特に課題となっている。

リチウムイオン電池正極材料の金属価値や現状リサイクル技術での回収率

出所:資源エネルギー庁(調達リスク)、Roland Berger資料、Duesenfeld資料、

Li-Feng Zhouら『The Current Process for the Recycling of Spent Lithium Ion Batteries』を基にUzabase作成

注:回収率は上記出所の目安、スケールや手順・手法によって大きく異なる

マネタイズ

2025年まではリサイクル市場の多くはコバルトとニッケルによるもの

市場調査会社Yole Développementによると、寿命末期のリチウムイオン電池は、世界で2025年までに年間約70万トン、2040年までに900万トンに達する。そのうち、リサイクルされる質量は2025年までに約46万トン、2019-25年の年平均成長率(CAGR)は約30%と推定されている。また、リサイクルされた原材料の価値は2025年に最大11億3,700万ドル、2040年までに238億1,200万ドルに達すると推定している。地域別では、特に中国を中心とするアジアが市場拡大すると考えられる。

金属別では、リチウム、ニッケル、マンガン、コバルトのうち、2025年時点ではコバルトとニッケルが金額ベースで9割を占めるとしている。これはコバルトの金属価格の高さや、乾式精錬でリチウムとマンガンが回収できないことが影響していると考えられる。また、BCC Researchによるとリユースとリサイクルを合わせた市場規模は2026年までに84億ドルに達するとしている。

なお、Element Energyの試算によると、2025年にリユース向けとなる電池の量は、2020年の約9倍近くにまで増加する見通しである。

リユースに関わる電池の量の推移

出所:Element Energy “Batteries on wheels: the role of battery electric cars in the EU power system and beyond”

注:推定のうちのEV普及促進シナリオを表示

リユースでは安価に使用済電池は入手できるが、コスト削減までは現状難しい

リユース電池の価格は 米国メディアCleanTechnicaの試算によると、リユース電池の価格は 40~160ドル/kWhの範囲と試算されている。

運用時の年間コストについては、(新規またはリユース品の購入価格-購入した電池をリサイクル・リユースに出す際の売却価格)÷使用可能年数で簡易的に見積る。

売却による収入は考慮せず、既に6~20年ほど使われたバッテリーを利用した際の使用可能年数を5~8年として試算すると、リユース品が新品の半分程度のコストかつ半分程度の期間運用できた場合でコストは同等になると考えられる。

下表はシミュレーションの例であり、各種報道や発表機関によって新品・リユース品比較の見解は分かれている。なお、2023年6月のBloombergNEFの報道によると、EV電池のリユース品価格は新品の半分程度とされており、ケース②に近づいていると見られる(ただし、同記事で使用年数についての言及はない)。さらに、CleanTechnicaの試算では、リユース費用の8割程度は性能テストと組み立て費用となっており、テストの効率化で今後さらにコスト圧縮ができる可能性がある。

一方で、今後新品の電池価格は低下傾向、リユース対象となる電池の数は増加傾向になることに留意する必要がある。なお、BloombergNEFによると毎年前年比マイナスで低下傾向にあったリチウムイオン電池価格は、2022年に2010年以降初めて上昇し151USD/kWhとなった。しかし、今後は再び下落する見通しで、2025年には113 USD /kWh、2030年には80 USD /kWhになると予想されている。

新品とリユース品の簡易コスト試算例

出所:新品電池価格は、BloombergNEF’による2022年の値、リユース価格はCleanTechnicaを参考にUzabase作成

注:表には使用後にリユース・リサイクルに出す際の売却価格は含まれておらず、新品は売却コストを考慮するとより年間コストは下がる

注:使用可能年数はその用途でのみの年数を指す。リユース品についてはリユース前の年数は含まない

リサイクルは規模拡大による大幅なコストダウンが必要

リサイクルについては、先述したリサイクルコストの高さや、大型電池向けの事業がまだスケール化されていないことが課題となっている。そのため、現状はリサイクルされた材料で電池を作るよりも、採掘された原料で電池を作った方が安く、利益を生み出すのは難しいと言える。実際に、大手リチウムイオン電池リサイクルスタートアップのLi-cycleも2023年度第3四半期まで営業赤字となっている。

FLASH Opinionの専門家の見解においても、現状リサイクルコストは採掘された原料で作る際の3~6倍程度との回答があった(詳細は「専門家の見解」参照)。

iScienceに掲載されたL. Lander(インペリアル・カレッジ・ロンドン)らの試算によると、利益を出すためには、乾式製錬で年間17,000トン、湿式製錬で年間7,000トンの処理ができる規模が必要とされる。同文献では240Wh/kgのバッテリーについて、乾式精錬で年間処理能力5,000トンの場合のコストは約25ドル/kWhだが、15,000トンまで拡大すると約15ドル/kWh程度まで削減できると試算している。

未来

リサイクル技術を持った新興企業と自動車メーカーを中心に各社が協業

EVメーカーはリサイクル技術を持った新興企業と協業を進めている。ただし、リサイクル企業で産業スケール(年間1000トン以上)の処理能力を持つ企業はRedwood Materials、Umicore(BEL)、Li-Cycleなどまだ限られている。

リサイクル技術を持つ企業と提携しながら、EVメーカー自体がグループ内に処理施設を持つ動きも活発化している。Tesla(USA)は2020年に自社のリサイクル技術で廃電池の素材を92%回収することが可能になったと発表した。なお、本トレンドの主要プレイヤーのRedwood MaterialsはTeslaの共同創設者が立ち上げており、Amazon(USA)をはじめとする多くの企業から出資を受けている。

また、Volkswagen(DEU)は2021年3月に原材料回収率を現状の60%から95%に増やす研究を行っていることを発表、他メーカーに先立って回収率目標を掲げたほか、2022年には複数回の電池リサイクル手法の開発にも取り組み始めた。

電池材料とリサイクル企業の提携もあり、2022年にパナソニック エナジーはRedwood Materialsとリサイクルした材料を用いた正極材と銅箔の製造・供給の契約を締結した。リサイクル正極材は、2025年から米国カンザス州の工場で、リサイクル銅箔は、2024年から米国ネバダ州のPanasonic Energy of North Americaの工場で、リチウムイオン電池製造に使用される計画である。

参考として、EV電池以外では、小型電池についてもリサイクル目標を設定する企業が増えており、2023年にはAppleが自社製品の電池について、2025年からリサイクルによるコバルトを100%使用すると発表した。また、Redwood Materialsは2023年にハワイ州の定置型蓄電変電所の廃止措置とリサイクル支援を発表するなど、定置型電池にも範囲を拡大している。

電池リサイクルのEV関連企業の主な提携関係

出所:Uzabase作成

注:提携はリサイクル関係のみに絞って主なものを表示

リユースは定置用蓄電システム向けが主、日産などが先行

電池のリユースは定置用の蓄電システムへの利用が多く、グローバルでは電力会社がEVメーカーの使用済EV電池を活用して提携することが多い。また、日本では商社とEVメーカーの提携も多い。

日産自動車と住友商事はグローバルでも先行しており、2010年に合弁会社のフォーアールエナジーを立ち上げ、4R(Refabricate:再製品化  Resell:再販売  Recycle:リサイクル Reuse:再利用)を一貫して扱う。鹿児島・大阪で大型蓄電システムのエネルギーマネジメント事業を行うほか、セブンイレブンの店舗運営用電力や、JR東日本の踏切バックアップ電源などにも使用済電池を提供している。特にJR東日本の従来の踏切バックアップ電源は鉛畜電池を使っており、耐用期間3~7年、充電時間は70時間であったが、リユースされたリチウムイオン電池の場合は耐用期間10年、充電時間は24時間、価格も新品から5~7割押さえられ、長寿命かつ効率的に利用できることが期待されている。フォーアールエナジーは営業赤字が続いていたが年々赤字幅は縮小し、2022年度は営業黒字に転じた。

電池リユースの主要プレイヤー

出所:Uzabase作成

リユース・リサイクル前の電池評価技術の短縮化が進む

リユース・リサイクルのどちらでも使用後の電池の残容量や状態を評価する過程が必要になるが、この過程の自動化・短縮が進んでいる。

日本総合研究所によるとEV電池の残存価値評価は、従来技術では1回につき数時間かかるとされている。これに対し、高級車メーカーのAudi(DEU)は親会社のVolkswagenと電池パックの中のモジュール単位で容量や電圧などの状態を数分で測定できる電池解析ソフトを開発した。2023年には電池リサイクルを行うBlue Whale Materials(USA)が電池試験・評価を行うEclipse Energyを買収するなど、リサイクル企業がリサイクル前の評価までを一貫して手掛けるビジネスモデルの確立を狙うケースも見え始めている。

日本では東洋システムがリチウムイオン電池の劣化を30秒程で精密診断できるシステムを開発した。診断は2021年報道時点で1回3,000~5,000円、評価装置は20~30万円程度とされている。2022年には日立ハイテクがEV電池の遠隔劣化診断サービスを開始した。2023年に入ると関西電力と東芝エネルギーシステムズが共同でEV電池の劣化診断の実証を開始すると発表、2024年度に残容量や安全性、寿命の予測などのサービス提供を目指す。

青山 武史

青山 武史

グロービス経営大学院大学でMBAを取得し、キャリアを一貫してクリエイティブ、テクノロジー、ビジネスを高度に融合させた新規事業開発やイノベーションの創出を主導して来た。スタートアップ(最高事業責任者)や事業会社(マーケティング最高責任者)等でマーケティングからサービス開発までの新規事業開発の経験を積み、多くの事業で収益規模を拡大し、大手企業とのアライアンスに携わった。現在はYKK APにて新規事業開発部担当部長として、再生エネルギー事業の推進と新規領域の探索を担当。Point0を通して大手企業と共創活動を推進。渋谷未来デザインとSWiTCHとのカーボンニュートラルプロジェクト「CNUD」に参画。個人としても大手エネルギー企業のヘルスケ領域の新規事業開発支援コンサルティング実績多数。

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