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建設テック

文章最終更新日:2023年10月27日

トレンド概要

テクノロジーによる生産性向上の機運が高まり、多面的に変化する建設業界

建設業界では、先端技術やソフトウェアなどを活用した「建設テック」(Con-Tech: Construction Technology)による生産性や安全性の向上、コスト削減等を図る動きが進んでいる。

Technology)による生産性や安全性の向上、コスト削減等を図る動きが進んでいる。

建設市場が活発な米国では、2010年頃から多くのスタートアップ企業が設立されて売上が大きく伸び、日本や中国でも建設テックの開発・導入事例が増えている。建設業界は、一品受注・現地生産が基本となるため、多様な技能者や材料・資材を要し、労働集約的な業界である。このため、世界的な人手不足の解消と生産性向上に向けて、様々なテクノロジーを活用した建設テックの注目度は高い。

本トレンドでは、建設分野でのデジタルテクノロジーの活用先と、それがもたらす変化を見ていく。

主な建設テックの分類と実現するテクノロジー

出所:Uzabase作成

人手不足の解消と労働生産性の改善にはテクノロジー活用が必要不可欠

建設業の課題の1つは、世界的な人手不足である。建設業は、発注者の要望に応じて現地の異なる地形条件下で異なるモノを作る、一品受注生産・屋外現地生産が基本となるため、多様な技能者や材料・資材を要し、労働集約的な業界である。特に日本では、バブル以降の1990年代後半から就業者数が減少し、その後下げ止まっていたが、労働力調査(2022年)によると55歳以上が約36%と高齢化が進行しており今後10年で多数の離職者が出ると予想される。一方、中国では2000年代後半から建設市場が急激に成長したが、農村部からの出稼ぎ労働者が建設業に従事し、深刻な人手不足に陥ることなく持続的に成長してきたが、2010年代半ばから減少傾向となっている。

建設業の生産性が相対的に低いことも大きな課題だ。国によって差はあるが、建設業の労働生産性は共通して製造業に大きく水をあけられている。上記のような一品受注生産・屋外現地生産という特性から、製造業が進めてきた少品種大量生産・屋内工場生産向けの方式をそのまま取り入れることが困難なことも背景にあるだろう。

このように人手不足と生産性向上は建設業界における喫緊の課題であり、これらの課題解決のためのテクノロジー活用が建設テック盛り上がりの背景にある。

日米中の建設就業者数の推移

出所:総務省「労働力調査」、「U.S. BUREAU OF LABOR STATISTICS」、「National Bureau of Statistics of China」を基にUzabase作成

注:中国は都市部の建設就業者数

日米中における建設業および製造業の労働生産性

出所:国際連合「National Accounts – Analysis of Main Aggregates」、総務省「労働力調査」、「U.S. BUREAU OF LABOR STATISTICS」、「National Bureau of Statistics of China」を基にUzabase作成

注:中国は都市部の製造業就業者数、建設就業者数を基に算出

あらゆる建設プロセスでテクノロジーの導入が進む、「誰でも使える」ことも重要

建設プロセスは調査・測量、設計、施工、維持管理に大きく分けられ、様々な専門領域を有する関係者が関与する。建設の各工程におけるデジタル化は、後述のように3D CADによるシミュレーションなどもあり新しい話ではないが、2000年代後半からは特に、情報通信技術の発達、ドローン・センサー・撮影等の技術向上、自動化技術の発展、AIなどによるデータ解析の深化、これらの技術利用のコスト低下や使いやすさの向上が進んだ。

建設テックのうち代表的なものとしては、土地や建設現場で活躍する測量用ドローン、設計・施工で用いられるVR/MR/AR(xR)、ICT(情報通信技術)を活用した建設機械(建機)、施工や維持・管理の最適化に用いられるAI技術などがある。さらに、各種データやサービスを一括管理する観点などから、近年は建設業の業務に特化し、主に図面・文書のペーパーレス化やマッチングサービスを提供する「建設SaaS(Software as a Service)」も広がっている。2020年のJLL(Jones Lang LaSalle、USA)の報告書によると、コロナ禍により、SaaS型などオンラインで協働が可能になるツール、スキャン技術、従業員の安全のためのウェアラブル、さらに次に述べるBIMの分野でニーズが高まったとされる(xRについてはトレンド「VR/MR/AR」を参照)。

ただし、建設業界はゼネコンから下請けまで広がる多層構造であり、また工務店なども含む。人材面でも、建設業就業者では55歳以上の構成比が全産業を上回っている。高度なテクノロジーだけでなく、デジタル技術に不慣れな人も含め現場で誰でも実際に使えるという観点も、さらに広がっていくためには重要となる。

建設プロセスの各段階とテクノロジー活用領域

出所:Uzabase作成

3次元モデルに時間・コスト情報を付加したBIMがフロントローディングを後押し

建物のライフサイクル全体を通じて活躍する技術として、重要性が増している技術がBIM/CIM(Building / Construction Information Modeling)である。なお、日本国内では建築分野でのBIMと土木分野でのCIMを区別して呼ぶが、国際的には建築・土木分野問わずBIMと呼ぶのが一般的のため、以後はBIMと呼ぶ。

建設業界では、3D CADで3次元モデルを作成し、CGでシミュレーションを行う手法が主流だった。BIMでは、これに時間軸を加えて施工進捗による構造物の変化を反映可能となったことで施工順序の検討や、仮設物、建機の干渉チェックが可能となった(4D BIM)。さらにコスト情報が加わりリアルタイムなコスト管理も可能となっている(5D BIM)。今後は点検や修繕の履歴などの維持管理情報を加えることも考えられている。

このように、BIMによりデジタル空間上で施工順序の確認や進捗管理、完成物の事前確認が可能となったことで、設計の初期段階に負荷をかけて検討を前倒しで行い、施工時や施工後に不具合対応で大きな手戻りが発生するといった問題を回避しやすくなった(フロントローディング)。また、多層構造になっている建設業において、情報の共有や活用がより容易となり、平準化され、業務効率改善や品質向上にもつながっている。

今後は、他の技術との併用・統合が期待される。例えば、3次元レーザースキャナーを用いると高精度な3次元モデルを容易に作成できるため、ドローンも組み合わせたレーザー測量の普及とともに、BIMもさらに普及していくだろう。その他にも、パラメトリックデザイン(3Dモデリング手法の一種)、環境シミュレーション、3Dプリンタ(トレンド「3Dプリンタ」参照)などのツールとの組み合わせも考えられる。

建設プロジェクトの流れとBIMの活用

出所:国土交通省「BIM/CIM活用ガイドライン共通編」を基にUzabase作成

各国で政府が中心となってBIM活用を推進、一部では義務化が進む

米国では、2003年に連邦政府一般調達局がBIMに関する計画をまとめ、2007年に公共・民間プロジェクトの双方におけるBIM利用に関する基準が初めて全国的に策定された。The American Institute of Architectsの会員建設事務所に対する調査(有効回答約900件)によると、有償プロジェクトにおけるBIMの利用率は2006年から2019年にかけて、従業員50人以上の企業では43%から100%へ、10人未満の企業でも7%から37%へと上昇した。

英国では、2016年4月以降の政府事業においてBIMの利用が義務付けられている。

日本でも、2023年4月以降入札契約手続きを開始する公共工事より、小規模なものや災害復旧工事を除き土木工事全てで原則適用となった。2022年度の国土交通省のアンケートによると、回答企業696社のうち48.4%がBIMを導入している。

各国でのBIMの活用状況

出所:Uzabase作成

ドローンによって実現する高精度3次元測量は法整備も進む

ドローンのビジネスへの活用は加速度的に広がっており、建設テックでも代表格とされている。

調査・測量時の現地測量や施工時の進捗管理、維持管理時の点検・補修作業でドローン活用による3次元測量が進んでいる(インフラ点検時のドローン活用はトレンド「インフラ老朽化」を参照)。

写真測量では、計測対象を様々な位置・角度から撮影して大量の画像を準備し、写真同士の対応関係をソフトウェアで解析することによって計測対象物の3次元モデル(3次元点群データを加工)を作成する。この3次元データを用いることによって、BIMで使用する地形3Dモデルの生成、施工土量算出の自動化や施工前後の比較検査などを容易に行うことが可能となる。近年は、近赤外レーザーやグリーンレーザーを用いるなど測量の高度化が進んでいる。

ドローンによる測量技術

出所:Uzabase作成

マネタイズ

米中の建設市場規模は増加傾向、日本は維持修繕工事の増加が見込まれている

米国の建設市場はリーマンショック前後で急激に落ち込んだものの、2011年以降増加に転じ成長を続けているのに加え、2021年にはインフラ投資法案が可決し、5年間で5,500億ドルが新規投資される見込みである。また、中国は2000年代後半から建設市場が現在の米国と同様のペースで成長を続けており、既に米国を抜いて世界最大の市場になっている。新型コロナウイルスの感染拡大によって両国とも成長が鈍化したものの、2021年には回復を見せており、まだ成長が続くと考えられている。

日本も東日本大震災後に建設需要が伸び、その後、東京2020オリンピック競技大会も経て拡大した。2021年は減少となったものの、今後はインフラ老朽化に伴い維持修繕工事の増加が見込まれている(詳細はトレンド「インフラ老朽化」参照)。

日米中における建設業の市場規模推移

出所:国際連合「National Accounts – Analysis of Main Aggregates」を基にUzabase作成

注:市場規模は付加価値額を採用

BIM導入はコストよりもリターンが大きいとされる

建設を行う現場の環境は多種多様であり、設計段階で地盤の状況や支障物、施工時の仮設物や重機の干渉などを完全に把握することは難しい。そのため、実施設計や施工中に現場の状況に合わせて設計を変更し、工事を進めることが多い。

Autodesk(USA)によると、BIM導入の効果は、特に部材間の干渉などによるやり直しや工期の長期化の削減が大きなメリットの一つとして報告されている。マクレミー(MacLeamy)曲線に基づけば、建設プロセスにおける変更コストは遅くなるほど上昇していく。このため、従来、実施設計や施工段階で発生していた課題を、BIMにより企画・基本設計の段階で解決をすることができれば、課題解決に伴う変更コストの抑制ができる。

ただし、データの蓄積・連携、質の向上による受注機会増加、あるいは人材の育成・確保によるBIM活用率の最大化のように、成果が表れるまでに時間がかかり見えにくい点もあるため、リターンの正確な測定は難しい。実際には、2016年時点でMcKinsey&CompanyがBIMを導入した事業者の75%がプラスのROI(投資利益率)を報告している。また、2022年の国土交通省アンケートによると、BIM導入企業は回答時点で3Dでの可視化によるコミュニケーション改善や設計図書間での整合性を肯定的に評価している割合が高かった。

BIM導入によるROIイメージ

出所:国土技術政策総合研究所(NILIM)、Autodesk、Construction Executive資料などを基にUzabase作成

プラットフォームによるエコシステム形成で広がるビジネスチャンス

建設業界でもプラットフォームが重用され始めている。代表的なのはOracle(USA)が提供する建設プロジェクトの管理プラットフォームAconexである(2018年買収)。このプラットフォームではプロジェクトオーナーや建設会社、下請けやサプライヤーを含む関係者全てを繋ぎ、プロジェクトの企画や管理、決済などを一括管理できる。

日本では、建機メーカーのコマツ(小松製作所)とNTTドコモが中心となって設立した合弁事業会社EARTHBRAINが、2018年から建設業界向けIoTオープンプラットフォームLANDLOGのサービスを開始した。このプラットフォームでは建設プロセスにおける機械や材料などのあらゆるデータが一元化され、ユーザー企業等と共有される。APIが公開されているため誰でもアプリケーション開発に参加でき、建設会社や保険会社、商社、IoT関連デバイスメーカー、アプリケーション開発業者などがパートナーとして参加している。今後も様々な企業が協調・競争することによる新たなビジネス創出が期待されている。

また、MCデータプラスは業界最大の建設テッククラウドサービスを展開し、労務・安全衛生に関する管理書類の作成・提出、人事情報の入力・管理・分析、作業間連絡などを提供している。

建設向けオープンプラットフォームによるエコシステムの例

出所:Uzabase作成

未来

スタートアップ企業が建設業界へもたらす新たな技術/サービスの波

米国では、2000年前後に建設業界向けにITサービスを提供する企業は既に存在し、2010年頃から多くの建設テック系スタートアップ企業が設立された。大手が、高収益の老舗ベンチャー企業を買収する例も見られる。産業機械オークション大手Ritchie Bros(CAN)による建機・重機マーケットプレイスのIronPlanet(USA)の買収や、世界的CADメーカーAutodeskによるPlanGrid(USA)というWeb上での図面管理を手掛ける企業の買収は典型的なケースだろう。

なお、McKinsey & Companyの「From start-up to scale-up: Accelerating growth in construction technology(2023)」によると、2020-22年の期間に建設テック関係に500億ドルが投資されたと推定され、内M&Aが5割弱を占めている。

日本では、大手ゼネコンなどの建設関係企業がスタートアップ企業と手を組む動きが加速しており、直接投資する企業もあれば、清水建設のようにVCを通じた投資を行う企業もある。マンションの修繕工事を手掛けるカシワバラ・コーポレーションは建設系ITスタートアップ企業に総額で50億円規模の投資を行うプロジェクト「JAPAN CON-TECH FUND」を立ち上げている。鹿島建設は、2020年に工事を終えたビル建設プロセスの全てのフェーズでBIMを活用し、デジタルツイン化(トレンド「デジタルツイン」参照)を実現した。日建設計(設計)と熊谷組・住友林業JV(施工)は、東京五輪の仮設施設「選手村ビレッジプラザ」においてBIMを活用し、約4万本の木材の産地・樹種・使用箇所などの情報が紐付けられた3次元モデルを作り、意匠・構造・調達・加工・施工などの各分野で活用した。

建設テック系の技術・ITサービスの例

出所:Uzabase作成

建設系主要企業と技術・ITサービスを提供する企業

出所:Uzabase作成

ロボットやICTを通じた遠隔操作〜全自動化の未来、Caterpillarとコマツが牽引

建機の自動運転やロボットによる作業の自動化も人手不足対策として期待されている。将来的に建設現場の全自動化を目指す企業もある一方で、自動の部分と手動の部分を分け、遠隔操作による無人化を目指す企業もある。

ブルドーザーなどの建機では、一般的には汎用の車体に周辺物検知のためのセンサーやスキャナー、車体の姿勢・位置情報を取得するためのIMU(慣性計測装置)とGNSS(全地球衛星測位システム、GPSなど)、状態データ送受信のための通信機(衛星、携帯)、車体制御のためのPCを設置することで自動化、データ収集を行っている。さらに、超信頼性・低遅延の特徴を持つ5G通信により遠隔操作も導入しやすくなるだろう(5Gについてはトレンド「5Gにおける新規ビジネス」を参照)。

Caterpillar(USA)は画像認識技術やAIの活用を進め、ブルドーザー、ショベル、ホイールローダの遠隔操作が可能な製品も展開している。コマツは、2015年に建設現場向けICTソリューション「Smart Construction」の提供を開始、2020年から既存の建機にICT機能を後付けするキットを販売した。

日本ではCaterpillarと大成建設、コマツと鹿島建設のように、建機メーカーと大手ゼネコンが協調して無人建機の共同開発を進める動きがある。さらに、コマツはNTTドコモやNVIDIA(USA)との協業、自動運転ベンチャーのZMPに対する出資など、建機の自動化・無人化に積極的である。2023年3月にはEARTHBRAINと共同開発した5G回線による建機遠隔操作システムの提供を開始した。

また、建ロボテックなどのスタートアップ企業を含め、現場の撮影や鉄筋の結束、重量鉄筋の移動や組立、溶接といった単純作業や苦渋作業を代替する自動ロボットの開発も積極的に進められている。2021年には、鹿島建設、竹中工務店、清水建設などゼネコン16社が施工ロボットやIoTアプリ等の開発と利用推進を図る「建設RXコンソーシアム」を設立した。

建機2強であるキャタピラーとコマツの比較

出所:Uzabase作成

注:世界における売上高(建機製造)の順位は2021年時点

青山 武史

青山 武史

グロービス経営大学院大学でMBAを取得し、キャリアを一貫してクリエイティブ、テクノロジー、ビジネスを高度に融合させた新規事業開発やイノベーションの創出を主導して来た。スタートアップ(最高事業責任者)や事業会社(マーケティング最高責任者)等でマーケティングからサービス開発までの新規事業開発の経験を積み、多くの事業で収益規模を拡大し、大手企業とのアライアンスに携わった。現在はYKK APにて新規事業開発部担当部長として、再生エネルギー事業の推進と新規領域の探索を担当。Point0を通して大手企業と共創活動を推進。渋谷未来デザインとSWiTCHとのカーボンニュートラルプロジェクト「CNUD」に参画。個人としても大手エネルギー企業のヘルスケ領域の新規事業開発支援コンサルティング実績多数。

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