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EdTech

文章最終更新日:2023年08月14日

トレンド概要

EdTech=Education×Technology

勉強はかつての「机に向かって一斉に授業を受ける」スタイルから目まぐるしく進化している。

本トレンドでは、EdTechと呼ばれる最新のテクノロジーを活用した学習サービスの変化について見ていきたい。

EdTechは、STEM教育※1への対応やMOOC※2の登場により従来から熱が高まっていたが、コロナ禍での自宅学習の浸透をきっかけに需要が急増した。さらにChatGPTをはじめとする生成AIの登場により、大きな変化の途上にある。

本トレンドは、学習者データ分析やコンテンツを提供することで学習効果を高めるEdTechを対象とする。学習者には幼児から社会人までを含むが、特に市場規模が大きい基礎教育(”K12”ともよばれる大学入学前の学校教育)での利用にスポットを当てる。

※1:STEM…Science、Technology、Engineering、Mathematicsの頭文字。米国発祥の教育カリキュラム。日本ではプログラミングなど2020年から義務教育化。Artの頭文字を加えてSTEAM教育、Roboticsの頭文字を加えてSTREAM教育と呼ばれることも。

※2:MOOC…Massive Open Online Course。欧米の一流大学の講義が受けられる。課題・試験があり修了証がもらえるサービスも。ビルゲイツやGoogleなどの寄付によるサービス「Khan Academy」など。

生成AIの登場により、個別最適化した学習の進化が加速

EdTechの進化は、大きく三段階に分けられる。

第一の変化は、PCやタブレット、スマートフォンにより、「教室」という時間・場所の制約なく学習が可能となったことだ。PCやタブレット端末などを利用したオンライン学習サービスはICT教育と呼ばれ、EdTechの概念に含まれる。

第二の変化は、教育のマスカスタマイゼーションだ。テクノロジーの進化と学習者データの蓄積により、学習者の理解度に合わせた教育プログラムが提供可能となった。例えば過去の学習データに基づき、タイプ1の生徒にはカリキュラムAを、タイプ2の生徒にはカリキュラムBを提供する。この結果全ての生徒に対し、従来型の画一的なカリキュラムを上回る定着率の向上を図ることができる。

第三の変化は、ChatGPTをはじめとする生成AIの登場により、全ての生徒がAIによる個別の学習サポートを受けることが可能となったことである。

第二の変化と大きく異なるのは、生徒の知識・興味・理解度などに応じた個別最適の広がりだ。例えばKhan Academyの提供する「Khanmigo」では、「細胞についてなぜ学ぶ必要があるの?」という生徒の問いに対して、AIが「君は何に関心があるの?」と問いかけ、運動選手になりたいと言う生徒に対し「これは運動選手が身体の動く仕組みを細胞レベルで理解するのに役に立つ話だよ」と対話形式で学習意欲を促す。練習問題に取り組む生徒がどこでつまずいたか特定し、その場で解決に向けたヒントを提示することも可能だ 。

ただし、教育現場における生成AIの利用には著作権侵害のリスクや正確性、倫理に反する回答や利用の防止などの観点から課題も多い(後述、また生成AI自体についてはトレンド「テキスト生成AI」を参照)。

EdTechの進化の過程

出所:Uzabase作成

EdTechが解決する学習者の課題は多岐に及ぶ

EdTechは地域的、経済的な教育格差を解消する点で社会的な意義も大きい。

継続学習のサポートや学習者に合わせた個別指導、VRを用いた歴史社会見学など、学習者の課題に応じて提供するサービスも多岐に及ぶ。

テクノロジーによる課題ソリューション

出所:Uzabase作成

米国・インドではスタートアップ主導で市場が拡大

EdTechの主要市場は人口規模が大きい米国・インドであり、担い手となる企業もこれらの国に集中している。かつて主要市場の一つであった中国は、後述の学習塾規制により、2021年よりEdTech企業の事業が大幅に制限されている。

米国では、オバマ政権時に教育省のOET(Office of Educational Technology)が中心となり、AR/VR活用やICTインフラの整備を基としたNational Education Technology Planを全体指針として掲げた 。連邦政府全体でEdTechを推進した結果、VCによる資金調達を追い風に、テクノロジー関連企業が集積するシリコンバレーを中心にアダプティブラーニングやLMS(学習管理システム)のEdTechスタートアップが多数誕生した。

インドでは、小学校に入学する児童数が年間2,500万人超と日本の20倍以上にのぼる 。2020年に国家教育政策(NEP)が30年以上振りに改訂され、特に高等教育機関教育で生徒の選択の自由や入学・修了の柔軟性を拡充する方針が策定された 。コロナ禍後もオンライン教育を推進する方針が打ち出され、これらの政府方針や市場の大きさ、通信コストの低下がインドのEdTech企業にとって追い風となっている。スタートアップが市場をけん引する構造は米国と同様だ。ユニコーンとしてK12教育や試験準備のBYJU’Sがあるほか、2015年以降に設立されたスタートアップが大型の資金調達を行っている 。様々なサービスの登場に伴い競争も激化し、国内外の業界再編 も相次いでいる。

中国は学習塾の規制強化により、義務教育向け学習サービスの事業環境が大幅に悪化

2015年頃より中国EdTech企業向けのVC投資は増加し、2020年にはVCによるEdTech投資の6割以上が中国企業向けとなった 。ところが2021年にEdTechプレイヤーを含む学習塾向け規制が発表され、中国のEdTech企業の事業環境が大幅に悪化した。

同規制では、義務教育を対象に学習塾は非営利機関としての登記となり、上場も禁止された。学習塾の授業料に関しても、地方政府によりその地域の教員の平均的な報酬などの経費をもとに標準価格が設定され、各社は標準価格を大幅に上回る授業料を得ることができなくなった 。規制強化の背景には、教育費や児童の宿題などの負担が重いことが社会問題となっていたことがある。

同規制を受け、中国のEdTech企業は規制対象の学科事業を停止し、教師の大幅削減などの対応を迫られた。主要なEdTech企業である北京世纪好未来教育科技有限公司(TAL Education Group、好未来)は、2021年末より中国における義務教育向け事業を休止 し、2022年度の売上高は前年度から8割弱減少した 。

現時点で本規制が解消される道筋は立っておらず、各社が規制対象外のスポーツや芸術分野に事業をシフトする動きも見られている 。

マネタイズ

EdTech市場はコロナ禍後も拡大が続く見通し

米国調査機関のHolon IQは、2022年のEdTech市場規模(世界)を2,950億ドル、2025年に4,040億ドルと推定している(2022年1月時点) 。2025年予測においても教育市場全体の5%程度に過ぎず 、EdTech市場のさらなる拡大余地は大きいといえる。

コロナ禍での休校要請をきっかけに、自宅学習で使えるEdTechの需要は急増したが、今後のけん引役となるのは最新のテクノロジーだ。従来教師が対応できなかったようなきめ細やかな学習サポートが可能となり、生徒の学習体験が向上する。それが成績や学習意欲の改善につながり、家庭や学校などの教育現場での導入が一層進むと考えられる。

EdTechの世界市場規模推移

出所:Holon IQよりUzabase作成

注:市場規模予想は2021年2月時点のもの


データ蓄積が進む基礎教育分野は、特に最新のEdTechが浸透しやすいと考えられる

教育は幼児から社会人まで消費者の年齢層は広く、内容も義務教育における科目学習から芸術などの教養、仕事で求められるスキル、資格、語学など多岐に渡る。

EdTechは、学習者データの大小がサービスの品質を左右する。

教育のマス市場である基礎教育分野では小中学校と高校生の全てが対象となるため、ニッチ分野と比べ学習者データの蓄積が容易である。さらに関心領域や理解度は一人ひとり異なり、多様性が高い。このため、各学習者に最適な学習支援を提供するEdTechが特に強みを発揮しやすいといえる。

ステージ別教育コンテンツマップ

出所:Uzabase作成

注:米国の義務教育期間は州によって異なり、高校まで含まれるケースや飛び級の制度も存在する。

少子化が進む日本においても、価格面のメリット訴求により市場は拡大可能

日本では、今後少子化によりターゲットとなる学習者は減少が見込まれる。一方、家計における高品質の教育に対するニーズは高く、それが近年顕著になっている。

家計調査から支出弾力性(収入が1%増えたときに支出が何%変化するかを示す数値)をみると、塾・予備校費は家計の支出項目で最も支出弾力性が高く、過去10年間概ね上昇傾向にある。これは所得を一定とすると、価格低下により需要が喚起されることを意味する。つまり、EdTechの価格メリットが既存教育サービスと比べ高まれば、少子化の状況下においても需要はさらに拡大するという仮説が成り立つ。

支出弾力性(項目別)

出所:総務省「家計調査(2022年、二人以上の世帯)」を基にUzabase作成

補修学習(塾・予備校費)の支出弾力性の推移

出所:総務省「家計調査」(二人以上の世帯)を基にUzabase作成

時間・空間の制約が外れ、規模拡大を追いやすい構造

EdTech企業は、従来型の学習塾などと同様に、学習サービスの対価としての授業料が主な収益源となる。

一方、決まった時間に教室や教師を確保する必要がある従来型の学習塾などと異なり、より多くの学習者に時間・空間の制約なくサービスを提供できるところにEdTechの特徴がある。

不特定多数の学習者にアクセスできることから、有料の学習コースに加えて無料の学習コンテンツを提供し、広告収入を得るEdTech企業もある。

コスト面では、EdTechでは教室教育の制約が外れるため、学習者が増えるにつれて人件費や施設費といった固定費の比重は低下しやすい。

一方、EdTechはサービス認知度の向上や学校への導入のためのマーケティング費が主要なコストとして挙げられる。そのほかスマホアプリ内課金のApple・Alphabetなどプラットフォームへの支払い費用やなど、学習者の増加に比例して発生する変動費は従来型の学習塾などに比べEdTechの方が大きい。

EdTechと教室教育のコスト比較

出所:Uzabase作成

未来

生成AIを活用したサービス開発がEdTech事業者の競争力を左右する可能性

EdTech企業による生成AIの活用シーンは、主に学習支援とコンテンツに分類される。

学習支援領域において、インド最大のEdTech企業であるBYJU’Sは、2023年6月に生成AIを活用した複数のサービスを発表した。AIアシスタントの「TeacherGPT」は、例えばクリケット好きの生徒に対してはクリケットのアナロジーを使ったアドバイスを提示するなど、個別最適化された学習支援を行う。「Badri」は、生徒それぞれの学習の定着度を計測し、学習につまずき始める時期を予測した上で、必要なタイミングで生徒一人ひとりの知識習得に必要な学習方法を提示する。同社によると、上記サービスは同社が蓄積する何十億ものデータをもとに開発されており、87%の正確性を有する 。

コンテンツ領域においては、スマホ上の多言語学習プラットフォームを提供するDuolingoが、2023年3月に外国語会話のロールプレイサービスを開始した。学習者はカフェ・空港などのシーン別に、同社キャラクターと外国語会話を練習することが可能だ 。

世界トップクラスの大学や企業と提携したオンライン講義を展開するCourseraは、生成AIの活用方法などについて数多くのプログラムを提供するほか、プログラムのリコメンデーションにもChatGPTを活用している 。

EdTech企業の生成AI活用事例

出所:Uzabase作成

生成AIに関する各国ルールの進展をふまえた開発が必須

生成AIは、著作権侵害・個人情報流出などのリスク、生徒が回答を鵜呑みにしてしまうなどの懸念が指摘されており、教育現場での適切な活用に向けたガイドラインづくりが進んでいる。

文部科学省は、2023年7月に「初等中等教育段階における生成 AI の利用に関する暫定的なガイドライン」を発表した。同ガイドラインでは、様々なリスクの一方で⽣成AIの仕組みの理解や、使いこなす力を育てていく姿勢が重要として、現時点では活用場面を検証しつつ、限定的な利用から始めることが適切との考え方を示している 。

本ガイドラインは教育現場での利用を対象としているが、自宅学習においても本方針から逸脱しないサービス提供が求められる。各国で生成AIのルール作りが進展する中で、EdTech事業者は保護者や教師が安心して生徒に利用させることができるような機能の開発が必須となる。

初等中等教育における生成AI活用の暫定的なガイドライン (抜粋・要約)

出所:文部科学省「初等中等教育段階における生成 AI の利用に関する暫定的なガイドライン」をもとにUzabase作成

青山 武史

青山 武史

グロービス経営大学院大学でMBAを取得し、キャリアを一貫してクリエイティブ、テクノロジー、ビジネスを高度に融合させた新規事業開発やイノベーションの創出を主導して来た。スタートアップ(最高事業責任者)や事業会社(マーケティング最高責任者)等でマーケティングからサービス開発までの新規事業開発の経験を積み、多くの事業で収益規模を拡大し、大手企業とのアライアンスに携わった。現在はYKK APにて新規事業開発部担当部長として、再生エネルギー事業の推進と新規領域の探索を担当。Point0を通して大手企業と共創活動を推進。渋谷未来デザインとSWiTCHとのカーボンニュートラルプロジェクト「CNUD」に参画。個人としても大手エネルギー企業のヘルスケ領域の新規事業開発支援コンサルティング実績多数。

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