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5Gにおける電子部品・素材

文章最終更新日:2023年09月25日

トレンド概要

通信インフラ/デバイスの基幹となる電子部品・素材は、5G実現の重要な要素

次世代の移動体通信規格である「5G」(第5世代移動通信システム)は、今後の生活やビジネスを大きく変化させるものとして注目を集め、世界各国で商用化が始まっている。

移動体通信は、携帯電話などの進化や利用されるデータ通信量の増加とともに10年ごとに世代交代が行われてきた。1980年代にアナログ無線通信技術で1Gが始まり、1990年代になると2Gでメールを中心とした「データ通信」が広く普及した。2000年代の3Gではデータ通信が急激に高速化し、また通信規格が世界標準として統一された。2015年前後からはLTE(Long Term Evolution)方式も含めた4Gでスマートフォンが広く普及した。

5Gの特徴は「超高速・大容量」、「超高信頼性・低遅延」、「多数同時接続」の3点で、特に「超高速」について最大通信速度は従来の4Gの10倍以上となる見込みだ。ただし、規格自体が新しくなることに伴い新たな技術要件も多い。特に、減衰が大きい高周波の電波を利用するため、大きな伝送損失が課題で、その対応が必要な部品・素材には大きな需要が見込まれる。

本トレンドでは、5Gの3つの特徴実現につながる技術と共に、高周波対応に伴う基地局、スマートフォンの電子部品・素材への影響に注目する。

モバイル通信の進化

出所:総務省「第5世代移動通信システム(5G)の今と将来展望」などを基にUzabase作成

高速・大容量通信を可能とするMassive MIMOやビームフォーミングが技術のキー

5Gは、下記の3つの大きな特徴を持つ。

・超高速・大容量(eMBB:enhanced Mobile Broadband)

・超高信頼性・低遅延(URLLC:Ultra-Reliable and Low Latency Communications)

・多数同時接続(mMTC:massive Machine Type Communication)

これらの特徴を実現する技術としては、高速・大容量で信頼性に優れた通信を可能とするMassive MIMOやビームフォーミング、ネットワークスライシング、MECなどがキーとなる技術として注目度が高い。特に、Massive MIMOは、従来数本であるアンテナを百数本のアンテナに増やし、利用者それぞれに専用の電波を割り当てる技術で、既に商用化されている。ビームフォーミングは利用者がいる特定の方向に電力や位相をずらして電波を集中的に送る技術で、Massive MIMOと組み合わせての利用が期待されている。

5Gの3つの特徴実現のキーとなる技術

出所:Uzabase作成

減衰が大きいミリ波への対応が基地局、スマートフォン両方で必要

「超高速・大容量」の実現には、ミリ波などの高周波の活用が必要である。ミリ波は、従来の移動体通信よりも高い周波帯を持つ電波を指す。人工衛星やレーダー装置にしか使用されていないため、電波が混雑せず、電波の直進性が高いために一度に送ることができるデータ量が多いというメリットを持つ。ただし、建物などの障害物に弱いため損失が大きく、届く距離が短いというデメリットもある。これに対し、基地局と受信端末(スマートフォン)双方で対応が必要となる。

基地局では、従来は1つの基地局が広い範囲を受け持つマクロセルを用いていた、しかし、ミリ波を用いる5G環境では1つのカバー範囲は狭いが低電力で小型なスモールセルを多数設置して損失を低減し、安定した通信環境を構築する必要がある。また、基地局用部品では5Gの伝送性能や低遅延実現のため、アンテナでは、高周波に対応した小型化や、Massive MIMOに対応できる多数のアンテナ素子を集積したアレイアンテナの高機能化が求められている。

スモールセルを活用した5Gエリア整備イメージ

出所:Uzabase作成

5G導入で影響を受ける主な基地局関連部品

出所:Uzabase作成

スマートフォンでは、4Gで使用されていた既存部品の中には5Gでも流用できるものもあるが、周波数や規格が異なることから多くの部品で技術や材料などの面で新規開発が必要になる。主には高周波対応のための低損失化や超高速・大容量通信実現のためプロセッサの応答性向上などが求められる。また、配線ロスの低減や省スペースの観点から各部品を一体化するモジュール化の動きもある。

5G導入で影響を受ける主なスマートフォン部品

出所:Uzabase作成

仕様策定は6Gへの橋渡し段階に入り、ミリ波に続きテラヘルツ波対応の研究も活発化

5Gの標準仕様の策定は、3GPP(3rd Generation Partnership Project:移動通信システムの標準化作業を行うプロジェクト)という標準化団体によってリリース15~17の、3フェーズに分けて進められた。「リリース17」は、2022年6月に完了した。これらのリリースの中で、ミリ波の周波数の特定や、課題に対する要件定義なども行われた。

直近は、6Gの標準化の橋渡しと位置付けられる5G-Advancedについて、「リリース18」が進行しており、2024年頃の完了に向けワークショップが2021年から開催されている。6Gに向けては、サブテラヘルツ波やテラヘルツ波と呼ばれる5Gよりさらに高周波数帯の利用への期待が高まっており、すでに6Gにも対応できる部品開発を計画する企業も見受けられる。

3GPPによる5G標準化の策定動向

出所:総務省 情報通信審議会資料8-1「技術検討作業班における検討状況」(2018年3月6日)、3GPPサイトなどを基にUzabase作成

注1:スケジュールは各リリース作業完了までを記載

注2:青色は現在作業中の内容

マネタイズ

2030年にはグローバルで54%が5G接続へ

GSMAの「The Mobile Economy 2023」によると、世界全体では2030年の5G普及率は17%(2022年時点)から54%へ増加し、接続数では53億に相当する規模となると見られている。普及率では、GCC諸国、アジア太平洋先進国(中国除く、韓国、日本など)、北米が90%を超えており、規模(接続数)では中国が他国を引き離している。

一方、設備投資規模では、携帯電話事業者は、2023年から2030年にかけて全世界で1.5兆ドル以上の投資が必要とされており、内92%が5Gネットワーク展開向けとなる見込みである。

2030年における5Gの普及率/ネットワーク接続数の予測

出所:GSMA「The Mobile Economy 2023」の資料を基にUzabase作成

注:アジア太平洋先進国は韓国、日本、シンガポール、オーストラリア

5Gスマートフォンの出荷台数は2027年までに11億台を超える

IDCによると世界のスマートフォンの2023年の出荷台数は11.9億台と見込まれ、そのうち62%を5Gスマートフォンが占める。直近の出荷台数自体は減少傾向にあり、予測では2024年以降は回復に転じるとされているが、増加幅は小さい。ただし5Gスマートフォンのシェアは全体のスマートフォン台数に対し、拡大する見込みで2027年には5Gシェアが83%まで増加し、11億台を超える見込みとなっている。

世界のスマートフォンの出荷台数の予測

出所:IDCの公表値を基にUzabaseにて算出

注:2022年の台数内訳は2021-22年の成長率の値を用いて逆算

5G無線ネットワーク市場は2023-30年にCAGR18.4%で成長見込み

アンテナや無線基地局などの5G無線ネットワークの市場規模はGrand View Researchによると2023年で約204億ドル、2030年には665億ドルとなりCAGR約18.4%で成長すると予想している。スモールセルとマイクロセル基地局の展開が成長を後押しするとしている。

世界の5Gネットワーク市場規模

出所:Grand View Research公表の数値を基にUzabase作成

注:数値表記がない年はデータ非公表

日本の5Gの人口カバー率は95%以上、通信事業者による基地局整備への投資を実施

日本では通信事業者ごとに基地局を含む5G関連通信設備の整備計画が進められており、5G特定基地局の開設計画や設備投資額が明らかになっている。総合通信基盤局によると通信事業者4社の設備投資額は、2025年3月までの累積で151億ドル(約1兆6,600億円)の規模になる。

日本の5G人口カバー率(全国を約500m四方のメッシュに区切り、メッシュの過半をカバーした際に、当該メッシュの人口を全人口で除したもの)は、2023年3月末に96.6%で、すべての都道府県で80%を超えている。2027年度末までに世帯カバー率99.9%を目指すとしており、未設備地域には導入のための補助金などの施策が行われ、さらに導入が進む。

また、基地局整備の進め方については、携帯各社で鉄塔や基地局装置、一部回線などを共用するインフラシェアリングも注目されている。(インフラシェアリングについてはトレンド「5Gにおける新規ビジネス」参照)

日本の主要通信事業者の2025年3月までの5G関連設備投資予定額

出所:総合通信基盤局 「第5世代移動通信システム導入のための特定基地局の開設計画の認定に係る審査結果」(平成31年4月)を基にUzabase作成

注:「3.7GHz帯/4.5GHz帯」と「28GHz帯」の設備で共用できるものがあり、その費用の720億円が重複

未来

基地局市場は世界的大手ベンダーでほぼ寡占状態、O-RANの普及に向けた動きも

世界のベンダーを見ると、Huawei(CHN)、Ericsson(SWE)、Nokia(FIN)で全体の8割のシェアを占めているといわれており、寡占状態と言える。これら大手基地局ベンダーは、既に5G対応の基地局整備を進めており、新たなプレイヤーの参入障壁はかなり大きいと言える。

また、近年は無線アクセスネットワークの仕様をオープンにするO-RAN(Open Radio Access Network)の動きも近年は活発化している。現状の基地局装置は子局と親局の仕様が標準化されておらず、同じベンダーの機器同士しか接続ができないため、子局と親局のメーカー統一が必要である。そのため、サプライチェーンリスクや機器価格の高止まりなどの課題があるとされている。これに対し、O-RANでは無線基地局の仕様を標準化し、複数のベンダーで相互接続が可能になる。2018年にはAT&T(USA)、Deutsche Telekom(DEU)、ドコモなどが「O-RAN ALLIANCE」を設立した。ただし、すでに多くの携帯会社に採用されているEricssonなどの大手通信機器ベンダーとの連携が不可欠と見られるため、普及はこれらの大手会社の動向に左右される可能性も高い。

なお、米国がトランプ前政権時代からHuawei製品排除に動いている。2021年6月にはバイデン政権下でHuaweiとZTEほか中国5社の通信機器の認証を禁じる方針を発表した。2023年6月にはEUの行政機関の欧州委員会も5G通信網の整備に対し、他の事業者よりもリスクが高いとHuawei製品を排除する方針を示している。

(5G基地局の動向については「通信機器(基地局)」参照。各企業の具体的な取り組みは「取り組み事例」を参照)

基地局用電子部品・装置の主要参入メーカー

出所:Uzabase作成

スマートフォンの高周波対応電子部品は日本企業が競争力を維持、中国企業も台頭

5G対応電子部品では米国や日本の企業が強みを発揮しているが、近年は米中貿易摩擦の影響もあり、中国ではスマートフォンメーカーが国産部品に切り替える動きを見せている。

5G対応電子部品で最も注目されるのはモデムチップ(ベースバンドプロセッサ)だが、この領域では長い間iPhoneシリーズなどに採用されているQualcomm(USA)が高いシェアを持っている。さらに、ローエンド中心にスマートフォン向けが直近好調なMediaTek(TWN)もシェアを伸ばしている。その他にもSamsung Electronicsと、Huawei傘下で同社向けに製品を提供しているHiSilicon(CHN)も参入している。ただし、Huaweiは米中貿易摩擦の関係で生産委託しているファンドリーのTSMC(TWN)にも圧力がかかる等中国企業へのIT制裁への影響を受けている。Appleが2019年にIntelモデムチップ事業を買収し、内製化の計画を発表するなど川下のプレイヤーの参入も見られる領域である。ただし、Appleは内製化が遅れており、Qualcommとの契約を2026年まで延長している。

モデムチップ以外にもスマートフォンには多くの電子部品が搭載されているが、この領域では村田製作所、TDK、太陽誘電やソニーなど、日本国内のメーカーが強さを発揮している。特に村田製作所はSAWデバイスなどでトップシェアを持っており、また5G向けに開発したLCP(Liquid Crystal Polymer:液晶ポリマー)を用いた樹脂多層基板「メトロサーク」が売上に大きく貢献している。中国でもMaxscend Microelectronics(江苏卓胜微电子股份、CHN)やVanchip(唯捷创芯(天津)电子技术股份、CHN)などの企業が5G向けRFモジュールの提供を行っており、今後はこれらの中国企業の台頭にも注目が集まっている。

なお、電子部品を含む米中競争に伴う経済安全保障に係る課題については、「経済安保とESG、共通点と企業の対策を探る」を参照いただきたい。

スマートフォン用電子部品の主要参入メーカー

出所:Uzabase作成

素材では日本企業が先端をいくが、中国企業にも注目が集まる

5Gでは素材レベルでの高周波対応が通信品質や部材の耐久性向上などに直結することもあり、各社が高周波対応の素材に注力している。特に、5G以前から樹脂の開発などに強みを持っていた日本メーカーがこの領域でも競争力を発揮しており、5Gで求められる高周波の伝送損失低減のための回路基板用材料で多くの開発が行われている。

既に開発が完了・販売フェーズのものも出てきている。直近はカネカの5Gミリ波対応のポリイミドフィルム「ピクシオ(TM) IB」は2020年に開発完了し、現在は同社のテクノロジー部門の主要製品の1つとされている。また、2023年8月には東レがミリ波吸収の軽量薄膜吸収フィルムを従来の1/10の重量で開発したと発表している。

また、近年は高周波基板やスマートフォン向けの樹脂や高性能繊維などの領域で開発能

力のある中国企業も出てきている。液晶ポリマーではShenzhen Wote Advanced Materials(深圳市沃特新材料股份、CHN)、パラ系アラミド繊維ではTayho Advanced Materials(泰和新材集团股份、CHN)、窒化ガリウムではSuzhou Nanowin Science and Technology(苏州纳维科技、CHN)などの企業が研究開発を進めている。

また、電波を通しにくいという弱点から、スマートフォン本体の素材も金属からプラスチックやガラスに移行する動きが出てきている。これらの新素材を手掛ける企業にとっては追い風になるが、従来の金属製本体を加工する工作機械を収めていたメーカーなどには逆風となり得る。

さらに、今後はサブテラヘルツ帯も検討されており、その対応にむけた研究も進んでいる(詳細はFLASH Opinion「Q. 6G時代の回路基板材料に求められる品質は?」参照)

5G向けの素材開発に注力する日本メーカー

出所:各社HPを基にUzabase作成

青山 武史

青山 武史

グロービス経営大学院大学でMBAを取得し、キャリアを一貫してクリエイティブ、テクノロジー、ビジネスを高度に融合させた新規事業開発やイノベーションの創出を主導して来た。スタートアップ(最高事業責任者)や事業会社(マーケティング最高責任者)等でマーケティングからサービス開発までの新規事業開発の経験を積み、多くの事業で収益規模を拡大し、大手企業とのアライアンスに携わった。現在はYKK APにて新規事業開発部担当部長として、再生エネルギー事業の推進と新規領域の探索を担当。Point0を通して大手企業と共創活動を推進。渋谷未来デザインとSWiTCHとのカーボンニュートラルプロジェクト「CNUD」に参画。個人としても大手エネルギー企業のヘルスケ領域の新規事業開発支援コンサルティング実績多数。

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