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esports

文章最終更新日:2024年01月25日

トレンド概要

esportsは非ゲーム産業も巻き込み、一大ビジネス領域として世界的に定着

「esports」とは、PC、家庭用ゲーム機、スマートフォンなど電子機器を使用するゲームを用いて行う競技、また競技を行うことの総称である。

esportsは、すでに娯楽の域を超え、非ゲーム産業も巻き込みながら一大ビジネス領域として世界的に定着している。人気のゲームタイトルを使用したイベント開催、様々な業界からのスポンサー企業参入、各国政府の産業支援策などの活動が進展しており、今後のさらなる盛り上がりが期待されている。本トレンドでは、esportsの世界的な動向を概観するとともに、esportsのビジネス上の課題を見ていく。

イベント会場の風景

ゲームの対戦文化の醸成とネット配信の発達が現在のesports文化の基盤を醸成

ゲームでスコアを競う遊び方は、ゲーム黎明期から一部のコアゲーマーの間で存在した。1990年代初期にかけて、米国や欧州などでLANパーティ(オフライン会場にPCやゲーム機を持ち込み、LAN接続で遊ぶこと)が始まり、1人プレイだけではなく複数人でネットワーク対戦をする遊び方が普及していった。

対戦文化が盛り上がるなかで、高度なテクニックを持つプレイヤーのプロ化も進んだ。1997年には、米国で世界初のプロゲームリーグCyberathlete Professional League(CPL、2008年に活動を停止)が設立された。また、韓国では1998年に発売されたストラテジーゲーム「StarCraft」の大流行を背景に、ゲームのテレビ放送やプロゲーマーの養成などが活発化した。日本でも、2000年代半ば以降は「SIGUMA」氏や「ウメハラ」氏を始め、企業のスポンサー契約を受けて活動するプロゲーマーが出てきた。

さらにインターネットインフラの普及・高速化が進み、ネットワーク対戦の舞台はオンライン・全世界へと拡大した。また、ソーシャルメディアや「Discord」(Discord、USA)などのチャットツールも普及したことで、ゲームをしながらコミュニケーションをとることも一般的となった。2010年代初期には「YouTube」や「Twitch」(「Justin.tv」から派生、現在はAmazon.comが運営)など動画投稿・ライブ配信プラットフォームが多数誕生し、ゲーム対戦を「見る」楽しみが拡大したほか、チャット欄を通じてゲーム中のコミュニケーションに視聴者層も参加できるようになった。

このような変化が現在のesports文化の基盤となっている。

ゲーム市場の顧客に視聴者が加わり、収益機会の拡大が期待される

esportsがビジネスとして注目されている理由は、ゲームを直接プレイしない視聴者がゲームによる収益機会の拡大に寄与する可能性が増えたことである。

Webマーケティング上の利点として、esportsの活用はコンバージョン(購入・問い合わせなど目標として設定された行動)獲得効率と若年層へのリーチの2点が挙げられる。

esportsの視聴者層は特定のゲームタイトルやプレイヤーのファンである、もしくは一定以上の興味関心を持っていることが多い。そのため、企業はいずれかのゲームタイトルやプレイヤーのスポンサーとなることで、定期的に訪れる視聴者層に繰り返しアプローチしやすいと考えられる。

また、特にesportsのファン層には若年層が多いことでも知られる。Newzooによると、esportsの熱狂的なファン、および視聴習慣のある層の70%以上が10~35歳となっている。人々のネット上での行動が多様化するなかで、アプローチ対象に若年層が多いことは魅力的である。特に若年層向けの商品・サービスを展開する企業にとって重要であるほか、広くマーケティング戦略全体を考える上でも参考となる。

ゲーム企業にとっても利点がある。esportsの視聴をきっかけに自分でもプレイしてみたいという欲求が高まり、ゲームの購入に至ることがある。また、esportsを通してIP(知的財産)としての認知度が高まることで、グッズ販売やアニメ化などメディアミックスによる収益化がしやすくなったり、IP自体の人気が持続する期間が長くなったりといった効果も得られる。

世界のゲームタイトル別esports視聴時間 Top10(2023年)

出所: Esports Chartsを基にUzabase作成

各国の政府や教育機関が成長支援、IOCもesports大会主催を積極的に検討開始

各国で政府や教育機関などにより、esportsの成長を支援する動きが広がっている。

欧州では、ドイツが世界で初めて2020年からesportsのプレイヤーや関係者に対してesportsビザの発行を開始した。また、2022年には欧州議会での討論を経て、EU全体としてesportsを含むゲーム産業に対し資金援助や各種支援を行う方針が示された。EU域内でのesportsビザの創設も検討されている。

米国では、2010年代半ば頃から大学や専門学校でのプロゲーマー育成支援が行われている。esports専攻課程の創設や奨学金制度の導入を行う学校も増えており、奨学金は学校によって年間数百ドルから数千ドルが支給されている。

中国では、2019年にesportsのプレイヤーや運営者が職業として公認された。政府も高等教育の整備や企業への助成、競技会場の建設などesportsの推進に積極的である。また、2023年9月に杭州市で開催されたアジア競技大会では、esportsが初めて正式種目として実施された。

国際連携も活発化している。2019年にはシンガポールでesportsの国際団体Global Esports Federation(GEF)が設立された。同団体の基幹イベント「Global Esports Games(GEG)」には、Tencentを始め、世界で100以上の企業や団体が加盟している。また、2008年に韓国で創設されたInternational Esports Federation(IeFS)には、2021年に、PanAmerican Esports Confederation(PAMESCO)、European Esports Federation(EEF)、African Esports Association(AESA)の3つの連盟が新たに加盟した。同団体主催の「World Championship」には、100か国以上からの参加者が集っている。

国際オリンピック委員会(IOC)は2023年10月、第141回IOC総会において「Olympic Esports Games」の創設計画があることを発表した。従来は身体的なスポーツではないとしてesportsに否定的な姿勢を示していたが、各国での盛り上がりや2023年6月にシンガポールで開催された「Olympic Esports Week」での活況も受けて、方針を改めている。

WHOがゲーム障害を提唱、ゲーム大国の中国では若年層を対象とした規制が強化される

世界でesportsが盛り上がる一方で、長時間ゲームをプレイし続けることによって日常生活に支障をきたす「ゲーム依存症(ゲーム障害)」の問題が顕在化している。2019年にはWHO(世界保健機関)が「ゲーム障害」を国際疾病として認定した(2022年1月発効)。

日本では、厚生労働省や関連団体による議論が進められており、2020年にはゲーム関連4団体(CESA、JOGA、MCF、JeSU)からペアレンタルコントロールなどに関するガイドラインが公表された。

中国では特に規制が厳しく、2021年には若年層の依存症を軽減するため新たなルールが適用された。18歳未満の者は週に3時間(金曜日・土曜日・日曜日の午後8時から1日1時間)をゲームプレイの上限とすること、ゲーム企業はそれ以外の時間帯で18歳未満の者にゲームを提供しないことなどが定められた。iResearch「中国电竞行业研究报告」によると、中国のesportsユーザーに占める24歳以下の割合は、2021年の約60%から2023年には約45%と2022年に続いて減少した。若年層ユーザーの減少は、企業の開発方針にも影響を与える可能性がある。

なお、中国では2023年12月にさらなる厳格な規制案(ゲーム内課金の上限額設定、ログインボーナス等の廃止などを含む)が発表されていたが、Tencent(CHN)やNetEase(CHN)など主要ゲーム企業の株価が暴落するなどの市場混乱を招いた。2024年1月に入り、中国当局が共産党中央宣伝部出版局の馮士新局長を解任したことが報じられている。

マネタイズ

世界のesports市場規模は2025年には18億ドル超に達する見込み、視聴者数は5億人に迫る

Newzooによると、世界のesports市場規模は2021年時点で11億ドルを超え、2025年には18億ドル超に達する見込みである。また、同調査では広告収入(Twitch、YouTubeなど一般的な配信プラットフォーム上で発生するもの)をesports収入に含めていないため、広告収入を合わせた市場規模はこれより大きいと考えられる。

esportsの収入内訳では、スポンサー収入が過半を占め、放映権収入やパブリッシャーフィー、物販・チケット収入などがそれに続く。コロナ禍では一部のゲームタイトルで開発遅延や販売不振などの影響が出たものの、屋内での娯楽への需要からゲーム配信の視聴者数の増加につながるといったプラス要因も生じた。

esportsの市場規模は増加傾向

出所:Newzoo「Global Esports & Live Streaming Market Report 2022」を基にUzabase作成

注: Newzooによる推計値、2022年以降は予想値

注:esports収益の中に広告収入は含まない(2020年の調査から広告収入をesports収入から除外)

注:パブリッシャーフィーとは、イベント主催者から使用するゲームタイトルのパブリッシャー(IPホルダー)に支払われる手数料

また、世界のesports視聴者数は2021年時点で5億人に迫る規模に達しており、2025年には6億人を超えると予想されている。

esportsの視聴者数は増加傾向

出所: Newzoo「Global Esports & Live Streaming Market Report 2022」を基にUzabase作成

注: Newzooによる推計値、2022年以降は予想値

注:「esportsファン」はesportsの視聴が月1回以上、「ときどき見る視聴者」はesportsの視聴が月1回より少ない

esports大会スポンサーの利点はリアルスポーツと比較した際の広告コストの低さ

今esportsのスポンサーになる最大の利点は、視聴者1人あたりのリーチにかかる広告コストの低さだ。

各所の公表資料を基にesports、および主要なリアルスポーツのリーチ単価を試算した。現状、esportsのリーチ単価はリアルスポーツに比べ低水準である。

飲食・グッズ販売などリアル会場での消費活動や、テレビ放送によるマスへの訴求力などでは、依然としてリアルスポーツが勝る。一方、esportsは現状のリーチ単価の低さに加え、デジタルベースゆえの強みとしてソーシャルメディア連動による視聴者数の押し上げや瞬間的な拡散力などが期待できる。また、前述のように若年層にリーチしやすいことも利点である。

競技別の視聴者数・広告費・リーチ単価(日本の場合)

出所: Uzabase作成

注: esportsの年間視聴者数、年間広告費は、角川アスキー総合研究所『日本eスポーツ白書2023』プレスリリースの数値を掲載

注:日本プロ野球(NPB)、日本プロサッカー(Jリーグ)、日本プロバスケット(Bリーグ)の年間視聴者数は、三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング『【速報】 2023 年スポーツマーケティング基礎調査』のファン数の数値を掲載

注:日本プロ野球(NPB)の年間広告費は、各種報道を基に市場規模1,500億~2,000億円、スポンサー収入比率約30%と仮定して算出

注:日本プロサッカー(Jリーグ)の年間広告費は、公式のクラブ経営情報を基に2020-22年度の3か年平均を算出

注:日本プロバスケット(Bリーグ)の年間広告費は、公式のクラブ決算概要を基に2020-22年度の3か年平均を算出

esportsチームの運営コストはリアルスポーツに比べ低いが、投資の規模感には慎重な判断を要する

近年はNFL(米国プロアメフトリーグ)やNBA(北米プロバスケットボールリーグ)などスポーツチームのオーナーが、esportsチームへの投資を加速している。オーナーにとっては、esportsをきっかけとしたスポーツ観戦への視聴者流入が期待できるほか、リアルスポーツに比べたチームの立ち上げ・維持のコストの低さも魅力となっている。

チーム資産価値を比較すると、NBAフランチャイズが数十億ドルであるのに対して、esportsチームは500万~1,500万ドルと小さい。また、esportsのトップリーグにおける選手年俸はリアルスポーツに比べてまだ低水準である上、1チームの登録人数も少ない(最大登録数のNFLは45名、MLBは25名に対し、esportsトップリーグの登録選手人数は10名程度)。

ただし、どの程度の投資を行うかには慎重な判断を要する。市場全体は依然として成長が予測されているものの、2022年にはRiot Games(USA)が「League of Legends: Wild Rift」のアジア以外での運営規模を縮小させるなど、成長の勢いにはやや鈍化の兆しがみられる。

各スポーツのトップリーグ別平均年俸の比較

出所: Sportingintelligence「GLOBAL SPORTS SALARIES SURVEY 2019」を基にUzabase作成

注: 2019-2020シーズンの平均年俸

未来

世界各国でesportsへの参入が活発化、非ゲーム関連企業の参入事例も多数

近年は世界各国でesportsへの参入事例が増えてきている。ゲーム関連企業のみならず、周辺サービスを提供する企業の参入事例もある。音楽配信サービスを手がけるSpotify(SWE)は、2020年からRiot Gamesと提携し、「League of Legends」関連のポッドキャスト配信や専用プレイリスト提供などを開始、その後も提携イベントを増やしている。また、adidas(DEU)やLVMH(FRA)、Dolce & Gabbana(ITA)なども、有力なesportsプレイヤーやチームとのコラボグッズを発売している。トヨタ自動車は、2019年以降「FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ」に本格参入し、「TOYOTA GAZOO Racing GT Cup」も開催するなど、「e-Motorsports」を同社のモータースポーツ事業TOYOTA GAZOO Racingの活動の柱に据えている。

esportsへの参入や関連産業の拡大が進む

出所:Uzabase作成

注:出資の流れを示すものであり、各スポンサー企業が全てに出資しているわけではない

健全なesports文化の普及に向けて不正行為の防止も課題

esportsを含むゲームの実況・配信が浸透するなかで、不正行為(チート)も注目されるようになった。代表的な事例はサブアカウントや替え玉によりランキングやプレイヤー環境を荒らす行為である。ゲームでは、アカウントと実際のプレイヤーが同一人物であることを判別することが難しく、競技としての健全性を保つ上で課題となっている。

2021年、FPS「VALORANT」の公式Twitterより、一部のプロゲーマーがサブアカウントを利用してランクマッチに参加する不正行為があったとする声明文が発表された。このような行為は、本来のランク帯にそぐわない強さのプレイヤーが存在することで、ランクマッチの結果に支障をきたしたり、ほかのプレイヤーのモチベーションを著しく低下させたりする恐れがある。

バトルロイヤルFPSの「Apex Legends」では、2021年のアップデートでサブアカウント問題を含む不正行為を通報できる機能が追加された。また、一部の大会では、演出と本人確認を兼ねてビデオ通話を要求するといった対応をとることがある。

ゲーム、およびesportsはメタバースにおける重要なエンターテインメントとして注目される

近年は、メタバース開発企業とゲーム関連企業との連携が進んでいる。メタバース自体はまだ黎明期だが、ゲーム、およびesportsは、それ自体の娯楽性に加え、オンラインコミュニティの土壌が完成されており、メタバースへのユーザー流入やコミュニケーションを活性化させる手段として期待されている(メタバースについては「【注目テーマを読み解く:メタバース前編】メタバースの真価とは」、および「【注目テーマを読み解く:メタバース後編】メタバースの課題と今後を占う」を参照)。

メタバース開発企業のAtmos Labs(USA)は2022年6月、メタバース発のesportsを意図した「Atmos」の開発を加速するため、1,100万ドルの資金調達を行った。また、2022年7月には、Infinite Reality(USA)がesportsチーム運営大手のReKTGlobal(USA)を買収した。Infinite Realityは、メタバースとesportsの組み合わせで革新的なエンターテインメントを作り上げる意欲を示している。

一方、ゲームパブリッシャーのEpic Games(USA)も、メタバース開発に本格参入するため、2022年にソニーグループ、およびLEGOグループ(DNK)の投資会社KIRKBIから20億ドルの資金調達を行った。

メタバースがどの程度発展するかは現時点で未知数だが、次世代プラットフォームとしての規模を確立した際にはesportsが先行者利益を獲得できる可能性がある。

青山 武史

青山 武史

グロービス経営大学院大学でMBAを取得し、キャリアを一貫してクリエイティブ、テクノロジー、ビジネスを高度に融合させた新規事業開発やイノベーションの創出を主導して来た。スタートアップ(最高事業責任者)や事業会社(マーケティング最高責任者)等でマーケティングからサービス開発までの新規事業開発の経験を積み、多くの事業で収益規模を拡大し、大手企業とのアライアンスに携わった。現在はYKK APにて新規事業開発部担当部長として、再生エネルギー事業の推進と新規領域の探索を担当。Point0を通して大手企業と共創活動を推進。渋谷未来デザインとSWiTCHとのカーボンニュートラルプロジェクト「CNUD」に参画。個人としても大手エネルギー企業のヘルスケ領域の新規事業開発支援コンサルティング実績多数。

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