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充電インフラ

文章最終更新日:2023年09月12日

トレンド概要

BEV普及のためには、公共の場での急速充電インフラ整備が急務

2015年のパリ協定以降、世界各国でカーボンニュートラルを実現するための取り組みが加速している。IEA(国際エネルギー機関)によると、近年の産業別の二酸化炭素(CO2)排出量では運輸部門が恒常的に20%以上を占め、2022年には8Gtとなっている(CO2を中心とする温室効果ガス排出の全体像は、オリジナル特集レポート「カ―ボンニュートラルの現実性・経済性」を参照)。また、多くの国・地域において、運輸部門のCO2排出量の大半が自動車由来となっている。自動車の脱炭素対策を進める手段として、電気自動車(以下、BEV)の普及が期待される。

BEVの走行にはバッテリーの充電が必要である。また、BEVの普及には充電インフラの普及によるBEVユーザーの利便性改善も必要だ。充電の形態には、ユーザーの自宅やオフィスなどBEVの保管場所での「基礎充電」、移動中に継ぎ足す「経路充電」、商業施設や宿泊施設など目的地での滞在時間を利用する「目的地充電」の大きく3つがある。基礎充電向けの充電器はある程度普及が進んできたが、経路充電向けと目的地充電向けのものはまだ不足している。また、経路充電と目的地充電では短時間でより多く充電できる「急速充電器」を用いることも重要となる。

本トレンドでは、充電ステーション、充電スポット、充電ポイントなど、公共の場に設置された誰でも利用可能な充電器や充電場所を総称して「充電インフラ」とする。その上で、急速充電や充電インフラの状況を解説し、経済性の検証や、新規参入も含めた普及動向などを概観する。

なお、EVシフトのなかでの充電インフラの重要性はエキスパートからも指摘されており、オリジナル特集レポート「【自動車】インフレ下での収益性や、EVシフトの注目企業は?(2023年1月)」もあわせてご参照いただきたい。

主要な充電インフラの種類

出所:Uzabase作成

注:青色が本トレンドの焦点

航続距離が短いBEVゆえに、充電インフラの拡充がBEVの利便性や所有意向を左右

BEVの販売台数は、近年急速に増加傾向にある。しかし、自動車全体に占める比率はまだ小さい。IEA「Global EV Outlook 2023」によると、世界のBEVの走行台数は2022年時点で約2,600万台超(PHEV含む)であり、全世界の自動車保有台数の約2%にとどまる(詳細はトレンド「電気自動車」を参照)。

BEVの普及を妨げる主な要因として、BEV自体の航続距離の短さと、充電インフラの不足があげられる。BEVの航続距離は内燃機関車(ICV)に比べて短い。BEVの性能は改善してきており、たとえば日産リーフの航続距離は、2010年代初期のモデルでは200km程度(JC08モード)だったが、2010年代後半に発売された後継モデルでは約2倍となった。それでもICVの2分の1程度にとどまる。また、航続距離の長い車種はより多くのバッテリー容量を必要とするため、価格を抑えた普及モデルではまだ少ない。

そのため、BEVで長距離移動する際には、給油以上の頻度での充電を伴う。しかし、Consumer Reports(USA)が2022年に米国内の消費者に実施した調査によると、調査対象の過半数が充電場所の少なさやフル充電時の航続距離への不安などからBEV所有をためらうと回答している。今後のBEV普及には、充電インフラの拡充が求められる。

ICVとBEVの航続距離比較

出所:Uzabase作成

注:ICVは国土交通省公表のガソリンとディーゼルの普通/小型自動車(WLTCモード)に掲載のある全車種の平均値、およびタンク容量50Lで算出

注:BEVはTesla Model 3 Standard Range Plusの数値を掲載

急速充電技術の発達で充電時間が大幅に短縮され、充電インフラ普及の追い風に

充電インフラの課題には、数だけでなく充電時間の長さもあるが、近年は急速充電技術が発達してきており、充電インフラ普及の追い風となっている。

これまで基礎充電用に普及してきた充電器では、「普通充電器」と呼ばれる出力10kW未満の交流(AC)充電器が中心である。出力の小ささから充電時間が長くなり、標準的なBEVをフル充電するのに10時間前後を要することもあった。

一方、近年増えている「急速充電器」では、普通充電器より高い出力によって、充電時間が大幅に短縮されている。たとえば、出力120kWの急速充電器であれば、バッテリー容量60kWhのBEVを30分でフル充電可能である。なお、急速充電器に明確な定義はないが、主に直流(DC)充電器で、30分以内の充電時間を想定したものが急速充電器と呼ばれる。

急速充電器を用いたとしても、ガソリンスタンドでの平均的な給油時間である3~4分程度と比較すると、充電時間はまだ長い。そのため、近年は様々な企業が高出力モデルの開発に取り組んでいる。たとえば、Tesla(USA)の「V3 Super Charger」は最大出力250kW、Xpeng(CHN)が2022年に発表したモデルは最大出力480kWとなっている。また、充電によるユーザーの待ち時間を減らすために、NIO(CHN)が展開するバッテリー交換ステーションのような方法も試されている。このほか、ケーブルなどを必要としない非接触型充電の開発も行われており、更に高速道路や交差点などの道路下に機器を埋め込み、走行・停車する車両に充電するワイヤレス式給電についても実証実験が行われている。ただし、急速充電器については、出力が大きくなるほど安全対策の重要度も増すことにも留意が必要である

充電器出力別の充電時間イメージ

出所:Uzabase作成

注:実際の充電時には10~20%程度の損失が発生するため、計算通りにならないことがある

各国政府が充電インフラ普及を加速させる方針を掲げる

各国政府は2020年代中に充電インフラを拡大することを目標に掲げている。また、経路充電や目的地充電の普及、急速充電器の設置に重きが置かれており、補助金制度の要件にそれらを明確に含めている国もある。

2030年までの明確な数値目標としては、欧州が特に高い。また、米国では、充電インフラが車両のブランドを問わず動作することを担保することや、ユーザーを囲い込むための会員制を禁止することなども義務付ける方針であり、公共性が強調されている。

充電インフラに関する主要国の政策動向

出所:日本貿易振興機構(JETRO)、欧州自動車工業会(ACEA)「European EV Charging Infrastructure Masterplan (March 2022)」、欧州委員会欧州代替燃料観測所(EAFO)、各種報道を基にUzabase作成

注1:charging points、charging spotsなどの表記を「か所」、units、chargersなどの表記を「基」、日本の目標値は公表のあった「口」として記載

注2:EUはACEAの提案試算値、中国は充電インフラの目標数に明確な数値の公表なし

マネタイズ

世界の充電インフラ数はすでに270万か所程度、2030年までに約5倍に増加見込み

IEA「Global EV Outlook 2022」によると、世界の充電インフラは2022年時点で約270万か所であり、2022年のみで約90万か所が新設された。今後2030年までに約1,300万か所以上に増加すると予測(STEPSシナリオ)されている。また、基数ベースでは2022年時点で全体の約3分の1が急速充電器である。今後はBEVが普及し、充電ビジネスの稼働率向上による経済性の改善なども伴って、将来的な市場規模では急速充電器が普通充電器を上回るとされている。

特に欧州では、現時点の設置数である57万か所以上に対して、2030年時点の目標(ACEA試算値)が680万か所と、10倍以上の水準に増やすことが計画されている。National Oil Industry Associations(NOIAs)によると、欧州におけるガソリンスタンド数は2022年時点で約14万か所であり、充電インフラの目標数はこれを大きく上回る。これは、ガソリンスタンドでは地下タンクも必要なのに対して、充電器では不要なため、分散的に小規模ステーションを配置できることも背景にあろう。分散的な配置では、商圏を小さくしてより多くの場所に設置できるので、ユーザーの利便性向上にもつながる。

また、中国ではすでに約210万基の充電器が公共インフラとして運用されているが、今後もさらなる増加を計画している。中国全土での目標数は明示されていないものの、中国国家発展改革委員会は新エネルギー車(NEV)2,000万台以上の充電需要を満たす水準を目指すとしている。

急速充電器の購入・設置費用は高いため、稼働率を上げて回収することが重要

急速充電器の台あたりコストは普通充電器より高く、出力の大きいものほどコストも高くなる。 たとえば、欧州自動車工業会(ACEA)によると、急速充電器のなかでも出力の小さいDC25kWの場合でも、充電器の購入・設置などにかかる費用は、普通充電器として普及しているAC11kWの10倍以上となっている。また、この調査には急速充電器を扱うための受変電設備の増強などにかかるコストが含まれていないため、稼働開始にあたってはさらに費用がふくらむ。

一方で、急速充電器は単位時間あたりの充電量も多い。そのため、住宅などに設置する基礎充電では台あたりコストの高さから見合わないが、経路充電や目的地充電では稼働率を上げることで回収しやすくなる。

充電器出力別の購入・設置時にかかるコスト

出所:欧州自動車工業会(ACEA)「European EV Charging Infrastructure Masterplan (March 2022)」を基にUzabase作成

注:1ユーロ1.2ドルの換算値を表示

充電インフラの経済性成立は見込め、整備を加速して普及率や競争力を優先するかが論点

充電インフラの設置後は、実際の利用を通じて充電器の購入・設置時にかかった費用を回収する。現状、充電器の耐用年数は設置から6~8年程度とされることが多く、充電器の交換時期までに費用回収と収益化のめどが立たなければ、充電インフラとしての経済性が成立しない。

以下は、出力150kWの充電器1基を従量課金制で運用した場合の収支イメージである。電力調達と保守・メンテナンス費用の2項目を運用開始後の主な費用とし、充電台数ごとに収入との差を収支として算出した。なお、以下には受変電設備への投資や保守・メンテナンスにかかる人件費などは含めておらず、実際の費用はこれより大きくなる。

中程度の稼働率(1日あたり17台)を1基あたりで実現できれば、前述の算出に含めなかった費用を考慮しても、十分回収可能といえるだろう。また、その実現可能性も高いと考える。

概要でも触れたように、BEVの航続距離の短さや普通充電にかかる時間から、長距離移動のための継ぎ足し充電や短時間での充電といったニーズは一定あろう。また、ニーズの近しいガソリンスタンドの収益状況と比較しても、充電インフラの年間1基あたり収入15万ドル、1日400ドルという水準は、複数基を設置した場合でも達成可能と考えられる。充電器の複数基設置は、ユーザーの待ち時間減少と稼働率上昇、店舗運営や保守などにかかる人件費の効率化、無人化などにもつながる。

ただし、現時点でのBEV普及率は急成長しつつも2%程度にとどまるため、短期的な経済性を実現する前提で充電インフラを設置しようとすると、充電インフラの整備先は限られる。赤字であっても先行的に充電インフラを整備し、利便性を上げられるかが、BEV自体の普及スピードに影響を与える。また、企業も充電インフラ事業を行う際に、短期の経済性と、先行的な投資による長期の競争優位性のバランスの検討が重要になるだろう。

充電器1基による収支イメージ(出力150kW、従量課金制)

出所:Electrify America(USA)、欧州自動車工業会(ACEA)、米国エネルギー情報管理局(EIA)、次世代自動車振興センターなどを基にUzabase作成

未来

充電インフラ設置の相対的な容易さから、目的地の商業施設などに新規参入の余地

充電インフラは、BEVの普及への期待や補助金などの政府支援も背景に、成長を継続するだろう。

米国では充電インフラの専業事業者が普及の主体となっている。Electrify America(USA)はすでに800か所以上のインフラを運営しているほか、2026年までに米国とカナダで1,800か所以上のインフラを新設する計画としている。欧州ではShell(GBR)やTotalEnergies(FRA)などのエネルギー関連企業がけん引役となっている。

今後の成長余地として特徴的な点は、設置場所の提供者の参入である。これまではガソリンスタンドや一部の商業施設の一角にある程度だった。しかし、前述の通り、充電インフラは小規模での設置もしやすく、目的地や経路地となる駐車場、宿泊施設なども徐々に参入している。目的地充電は「目的のついでに充電する」、「充電のついでに何かする」という形態であるため、後述するように現在展開している事業との相乗効果も期待されるだろう。

設置主体が増加するなかでは、それを支援するサービスにも機会が生まれる。Phoenix Contact(DEU)やDriivz(ISR)などが提供する充電インフラ管理のソフトウェアでは、設置主体が展開するすべての充電インフラをネットワーク化して管理し、過剰な電力消費の抑制や充電順序の最適化などを実現している。また、Terra Motorsやユビ電は、集合住宅や商業施設向けに導入・運用支援を行っている。

自動車メーカーによる充電インフラ整備・一般開放が進む、急速充電規格への対応が必要

自動車メーカーも、BEV製造に加えて充電インフラを事業機会として参入・拡大する動きがみられる。Tesla(USA)は、もともと自社車両専用の充電スタンドを展開していたが、2024年末をめどに自社充電スタンドの7,500基を他社車両でも利用できるようにすることを予定している。欧州・中国の大手メーカーも一般開放やインフラ網へ加盟する方針を示している。また、自動車メーカーを中心に急速充電規格のシェア競争が進んでおり、地域毎の主流規格に応じた対応が必要になる。北米では従来規格のCCS 1.0に加えて、Teslaが2022年に自社の急速充電規格をNACS(北米充電標準規格)として公開し、北米市場で充電インフラ事業者や他の自動車メーカーの採用が続いている。欧州では欧州自動車メーカーが推進してきたCCS 2.0のシェアが高くなっている。

バリューチェーン

出所:Uzabase作成

蓄電池システムを組み合わせて電力関連費用を低減、再エネの導入も実証実験が進行

充電インフラの運用コストにおいては電力関連の費用が大きく、その低減は設置主体の負担軽減につながる。

近年は蓄電池システムと組み合わせた急速充電器が有望視されている。パワーエックスなど蓄電池メーカーが提供する急速充電器では、事前に低出力で蓄電池に電力を貯め、急速充電時に必要な出力を蓄電池から確保する方式とすることで、既存の電力設備の大幅な拡張を不要としている。また、事前の蓄電に安い夜間電力料金を活用すれば、電気料金を抑えることもできる。米国でも2022年、Revterra(USA)が急速充電インフラ向けの蓄電池開発に向けて600万ドルの資金調達を行った。

再生可能エネルギーを組み合わせる動きもある。ENEOSホールディングスは、2022年6月から太陽光発電と蓄電池による高出力充電インフラの実証実験を開始した。太陽光発電で約20kWの出力を確保し、容量62kWhの蓄電池と系統電力からの給電で、充電器の出力を90kW程度としている。上記のパワーエックスなども、再生可能エネルギーで発電した電力を蓄電し、急速充電に用いる充電インフラを展開している。再生可能エネルギーを利用することは、発電によるCO2排出を避けることにもつながる。そのほか、風力発電や水素燃料電池を活用する実証実験も行われている。

ガソリンスタンドはサービス拠点への転換で既存施設の有効活用が可能

ガソリンスタンドを運営する事業者は、長期的な石油燃料の需要減少を見込み、充電インフラへの進出に取り組んでいる。BP(GBR)は、Volkswagen(DEU)と業務提携し、自社ガソリンスタンドにVolkswagen製の充電器を設置する計画を進めている。2024年までに欧州内で急速充電インフラを8,000か所に導入予定だ。また、ENEOSホールディングスも、全国のガソリンスタンドを活用し、2030年までに数千~1万基の急速充電器の設置を計画している。

ガソリンスタンドは、長期的に自動車のインフラとして機能してきたため、すでに自動車の経路や交通量などに対応した配置がなされている。サービス拠点としての立地では、これから新規で展開する充電インフラに比べ優位な側面もある。また、特にフルサービスのガソリンスタンドにはスタッフが配置されており、店舗によっては車両整備やカフェ運営などの派生サービスを提供するための設備も有しているため、充電器以外への追加投資を抑えられる。

充電インフラによる集客効果や滞在時間の延長が、収益向上につながる事例もある

商業施設や宿泊施設などにおける目的地充電の場合は、ユーザーが充電の待ち時間を負担に感じる度合いが弱まる。参入の際は、経路充電に比べて出力の小さい充電器を導入し、費用回収におけるリスクを抑えることも可能となる。長距離走行後の目的地で、滞在時間が比較的長い施設などの高い稼働率が見込める施設への設置が重要となる。

また、充電インフラによる集客効果で既存事業の収益向上につながる事例もある。

ChargePoint(USA)の調査では、充電インフラを設置している小売店舗では、ユーザーの平均滞在時間が50分伸びた。店舗滞在時間が長くなれば、買い物やサービス利用などの機会も増える可能性がある。また、Hilton(USA)を始めとする大手ホテルでは、顧客の滞在時間が伸びたことで、レストランなどの施設利用などから来る間接的な収益が増えたという事例もある。

そのほか、充電インフラがまだ十分であるとはいえない今、充電インフラを提供することで、BEVユーザーからのブランド選好が見込める。

青山 武史

青山 武史

グロービス経営大学院大学でMBAを取得し、キャリアを一貫してクリエイティブ、テクノロジー、ビジネスを高度に融合させた新規事業開発やイノベーションの創出を主導して来た。スタートアップ(最高事業責任者)や事業会社(マーケティング最高責任者)等でマーケティングからサービス開発までの新規事業開発の経験を積み、多くの事業で収益規模を拡大し、大手企業とのアライアンスに携わった。現在はYKK APにて新規事業開発部担当部長として、再生エネルギー事業の推進と新規領域の探索を担当。Point0を通して大手企業と共創活動を推進。渋谷未来デザインとSWiTCHとのカーボンニュートラルプロジェクト「CNUD」に参画。個人としても大手エネルギー企業のヘルスケ領域の新規事業開発支援コンサルティング実績多数。

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