最新の記事はこちらから

顔認識

文章最終更新日:2024年01月02日

トレンド概要

顔認識技術は生体的特徴を使った認証や識別に使う

顔認識は、生体的特徴(バイオメトリクス)を使って顔の特徴を抽出し、認識を行う手法である。技術的には鼻と口、あご、眼の距離など顔の特徴を解析するソフトウェアを利用する。情報はデジタル化されデータベースに収められる。

顔認識は通常、検出、抽出、照合の3段階の手順を経て行われ、認証または識別に利用される。顔認証は、顔の画像に基づいて本人確認を行い、承認もしくは却下するものである(1対1照合)。一方、顔識別は、データベースに登録されているすべての人物と比較して、人物を特定することが狙いである(1対多照合)。

本レポートは、セキュリティ監視以外の分野で活用される顔認識技術に焦点をあてる。

顔認識の手順

出所:Eastern Peak(2023年)を基にUzabase作成

顔認識技術は認証と識別に使用

出所:ASKCI

 

 

エラー率の大幅な低下により本格的普及へ

顔認識技術の初期の研究は1960年代に始まり、電磁パルスを使って顔の特徴を手作業で計測した。技術は進化を続け、1993年に米国国防高等研究計画局(DARPA)が初めて基本的な顔画像データベースを作成した。2003年には24ビットの顔画像データベースにアップグレードされたが、当時の技術の精度はあまりに低かった。

顔認識アルゴリズムのエラー率は2010年時点で5%程度だった。その後、様々な技術が開発され、精度も向上してきている。米国国立標準技術研究所(NIST)が2020年に米国で行った調査によると、顔認識ソフトウェアのエラー率(一定回数のうち顔認識検索に失敗する割合)は2014-18年の間に4.0%から0.2%へ低下したことから認証精度の向上がみられた。2023年時点で、最適アルゴリズムによるエラー率は0.1%を大幅に下回っており、高い精度が維持されていることがわかる(同調査からの入手可能な最新データ)。

顔認識技術のエラー率推移(2010-23年)

出所:米国国立標準技術研究所(NIST)

注:*2023年5月下旬時点

気づかれずに本人確認ができる顔認識は主要な生体認証のひとつ

顔認識は、生理学または解剖学を使って個人を測定することで識別する手段で、生体認証技術の上位4種のうちの一つであるとされている。

他の生体認証方法と比べ顔認識の主な利点は、対象者に気づかれずに情報を収集して追跡できることである。したがって整合性のある追跡と識別という点では、他の技術に比べ顔認識がはるかに使いやすい。

顔識別は生体認証技術の上位4種のひとつ

出所:Semantic Scholar(2013年、入手可能な最新データ)

顧客体験向上のため商業分野での導入が進む

セキュリティや監視目的の他に、顔認識技術は商業分野でも利用が拡大している。身分証明書やパスポートの確認などの手作業による認証に比べ、本人確認が短時間で済むことから、銀行や小売店、航空会社、飲食店などで顧客の利便性向上を目的に使われている(「未来」の項目に詳述)。

顔認識技術を活用する主な業界

出所:CB Insights(2019年、入手可能な最新データ)の資料を基にUzabase作成

中国政府は徐々に規制を導入、欧米は保守的な姿勢を維持

2015年以降、中国は顔認識技術の開発を促進する優遇策と規制を相次いで導入し、監視および商業分野でこの新技術を広範に導入している。

中国の顔認識関連の優遇策は主に金融業界が対象

出所:AMiner、ロイター通信、Biometric Update

中国では、顔認識に対する政府の姿勢は非常に前向きであり、技術発展を支援・奨励してきたが、ここ数年で新たな基準や規制が制定されている。

中国における基準/規制

出所:各種資料を基にUzabase作成

日本も顔認識技術の導入に前向きである。2021年7~8月開催の東京オリンピック・パラリンピックに備えて、成田・羽田両空港の国際線で顔認識技術を用いた搭乗手続きの本格運用を同年7月に開始した。日本には、顔認識の利用を禁止する法律はないが、個人情報保護法(APPI)が改正され、顔認識技術を用いて得られた生体認証データは個人情報に含まれることとなった。

米国では、顔認識技術の精度、顔認識による人種的偏見のある取り締まり、個人のプライバシー懸念などの主張をめぐって論争が起きている。この論争は、2020年12月、顔認識を使用したことで有色人種の第三者が誤って逮捕されたという事件によって激化した。そのため、米国における顔認識技術の広範な採用には歯止めがかかり始めており、Amazon(USA)、Facebook(USA)、Microsoft(USA)、IBM(IBM)などのテック大手も規制を考慮して顔認識市場から一歩引いた立場をとっている。

特にAmazonは、2020年6月に法執行機関へのサービス提供を1年間停止し、2021年5月に停止を無期限延長すると発表した。その後、企業のみならず連邦政府機関による顔認識技術の使用を制限・禁止することを目的とした法案が提出されている。米国では、2020年に約18都市が警察活動における顔認識技術の使用を禁止した。2021年にはさらに5つの自治体がこれに続いた。しかし、2022年と2023年には使用禁止を定めた都市・自治体はなく、逆に禁止が解除された自治体もあると報じられている。

米国における顔認識技術の商業目的での利用を規制する連邦法規

出所:各種資料を基にUzabase作成

欧州では、一般データ保護規則(GDPR)が定める個人情報の収集に関する条件(詳細はトレンドのデジタル個人情報を参照)は、個人の生体情報を収集する企業に適用される。2023年6月、欧州議会は規制をさらに厳格化し、公的機関・民間企業を問わず公共の場でのリアルタイム顔認識の使用を禁止した。

マネタイズ

顔認識市場の成長は監視用途に加え小売・金融での利用増加にけん引される見通し

調査会社Global News Wireによると、世界の顔認識市場は2022年に51億ドル規模となり、2023-32年にかけて年平均成長率(CAGR)14.6%で成長し、2032年には193億ドル規模に達すると予測されている。

地域別では、Global News Wireによると、2022年時点で北米が売上高シェアで38%を占め最大となっている。主にセキュリティ・監視システムの導入が進んでいることが背景にある(Grand View Research)。一方、アジア太平洋は急成長が見込まれている。監視目的に加え、小売や金融などの分野での利用増加も市場の成長を後押ししている。エンドユーザー別では小売・ECが世界シェアの約22%を占める(2022年)。

小売事業者は顧客体験の向上に顔認識技術を活用

小売業者にとって、価格や製品はブランド競争力の優位性を示すものではなくなっている。その代わり、いかに最高の顧客体験を提供し、顧客のロイヤルティを高めるかが差別化の鍵となっている。このため小売業者は顔認識技術を使い、特に価値の高い(高額商品の購入や大量購入、他者への紹介など利益貢献度が高い)顧客に最高のサービスを提供できるよう努めている。

顧客が入店した際に顔が認識され、会員データベースに照合される。アルゴリズムによって、顧客の健康状態や年齢、性別などのほか、過去の購入履歴による消費行動などを包括的に把握できることから、店員はこれらの情報に基づき適切な対応と推奨ができる。オンラインとオフラインのデータを統合することで、マーケティング広告や通知などについて、顧客をさらに深く分析できるようにもなる。

顧客情報ソフトウェアを提供するCustora(USA)によると、米国のある衣料品会社は、顔認識技術を使って顧客対応を最適化することで、顧客数を約20%伸ばしている。

ファッション小売業界における顔認識システム導入の年間費用分析

出所:Uzabase作成

注:カメラの耐用年数は5年、ファッション小売業者の月間売上高を2万4,977ドル、運営コストを不変として試算

ロンドンのバーHarrild & Sonsはサービス迅速化のために顔認識技術を利用

DataSparQが開発したシステムは、顧客が飲酒できる年齢に達しているかを瞬時に識別し、注文の列を短くするために過去の注文を記録することに利用されている。同社は年間に短縮できる顧客の待ち時間は1,600パイントの飲料販売分に相当すると説明している。システム費用は月199ポンドであり、年間投資額となる2,900ドル(1ポンド=1.21ドル、2023年第1四半期時点)は限界利益率(売上高-変動費)34%で回収できる(固定費は不変として試算)。

顔認識技術への投資と限界利益率の比較

出所:各種資料を基にUzabase作成

注:1パイント4.39ポンドのビール(2023年時点)だけをバーで販売したと仮定(入手可能な最新データ)

世界の主要空港が顔認証技術を導入し、効率化を実現

ドバイ国際空港をはじめとする多くの主要空港では、乗客の本人確認に顔認証技術を採用する実証実験が行われ、セキュリティを確保しつつ、搭乗プロセスの迅速化に役立つことが報告されている。2023年4月、成田空港では、効率性の向上、非接触に向けた取り組みの推進、プロセスの自動化、人件費の削減を目的とした顔認識プログラム「Face Express」を開始した。

未来 

米国のテック企業が川上市場で優位、中国では政府支援を受け小売・金融業界が導入拡大

顔認識産業のバリューチェーンは、ハードウェアメーカーと関連サービス提供業者(川上)、顔認識ソフトウェアの開発業者からなる技術階層(川中)、利用階層(川下)に大別できる。

2023年時点で、川上の半導体チップ製造市場では、Taiwan Semiconductor(台灣半導體、TWN)、Intel(USA)、Qualcomm(USA)、Broadcom(USA)、Micron(USA)の上位5社が優位を占めている。

川中での技術的ブレークスルーもわずかながらあるものの、中国の同産業界は川下における利用に集中している。国内市場が巨大であるため、顔認識の利用は特に、小売、金融業界で急速に拡大している。

Googleやパナソニック、Face++(CHN)といった企業は、バリューチェーン上の複数の分野にまたがって事業展開している。

顔認識産業のバリューチェーン

出所:各種資料を基にUzabase作成

しかし、中国と米国や日本など、国同士の相互依存は限定的である。米国は人権侵害の疑いや国家安全保障への潜在的脅威を理由に、中国企業に制裁や貿易制限を課している。このため、中国企業は、製品を販売する市場が制限されるおそれがある。日本も、中国が顔認識技術を利用して少数民族を統制しているとの懸念から、中国への顔認識装置やカメラの輸出を制限している。

顔認識技術は小売業に着実に浸透している

「スマートリテール」では、顔認識は重要な技術の一つである。金銭の動きと画像をデジタル化する機能により、小売業者に群衆行動解析や需要予測、カスタマイズ・マーケティング、買い物体験の向上、継続的で効果的な消費者エンゲージメントによる高度な顧客支援などをもたらす。

誤認識などの問題発生を受けて、小売店舗は最新かつ最適な顔認識技術を採用するようになった。これにより、店舗は盗難や万引きを防止し店内の安全性を高めることができる。さらに犯罪防止だけでなく、利用者の利便性を向上させることにも有用で、小売業界誌Retail Insiderによると、AIを活用した顔認識ツールを店舗に導入することで、顧客一人ひとりにパーソナライズされたサービスを提供できるようになり、販売活動の促進につながることが明らかとなった。従来の小売業者は、「FaceMe」などのソリューションを使えば、誰がいつ何を買っているのか、さらには買い物中の気分の変化など、顧客に関する情報をより包括的に把握することができる。これらのデータの活用はコスト削減や競争力向上に役立つ。また、優れたカスタマーサービスを提供し、買い物客を満足させ、エンゲージメントを高め、ロイヤリティを維持することができる。

買い物のあらゆる場面で導入される顔認識

出所:各種資料を基にUzabase作成

小売業における顔認識技術の活用事例

出所:各種資料を基にUzabase作成

顔認識技術はドラッグストアの薬の引渡プロセスを簡素化・迅速化しながら重複を避けることが可能

Simcare Jiangsu Pharmaceutical(先声再康江苏药业、CHN)は、顔認識技術を中国で最初に採用したドラッグストアチェーンのひとつである。同社は、Qingdao Romens Network Information(青岛雨诺网络信息、CHN)の顔認識ソリューションを使い、入店した顧客の顔を捉え、VIPを特定する。顔の識別により、顧客の健康状態と薬歴を容易かつ正確に把握し、安定した服薬指南ができるようになった。

製薬会社Vivera(USA)は2022年5月、顔認識と指紋認証で処方薬の不正流通を防止する薬物送達装置「Zicoh」の特許を取得した。

また、スタートアップStrong Room(AUS)はAIを組み込んだ顔認識技術を開発した。同技術を導入することで本人確認を迅速化し、管理業務よりも患者との対話を優先するなど、薬剤師の業務時間を最適化できるという。ある顧客は同技術を導入することで、投薬に関連するインシデントを最大8割軽減することができたとしている。

銀行は顔認識技術を利用してセキュリティを強化しつつユーザー体験の向上を図る

銀行は、現金引き出しや融資申請、料金の支払いなどの取引にかかる顧客の待ち時間を解消するため、本人確認の目的に顔認識技術を使っている。システムに登録された顧客はカードを持ち歩く必要がなく、カードの複製やハッキング被害に合うリスクを低減することができる。さらに、顔認証機能を備えたeKYC(電子本人確認)という仕組みも導入されている。eKYCとは、銀行の口座開設時などにおいて実施されるオンライン本人確認手続きの方法で、顧客の画像とデータベースを照合しより迅速に本人確認を行えるため、サービスの利便性向上につながる。

銀行における顔認識技術の活用事例

出所:各種資料を基にUzabase作成

外食業はメニュー推奨から従業員の評価までバリューチェーン全体で顔認識を利用

多くの外食業は、セルフサービスの注文カウンターで顔認識技術を試験し、顧客が過去に注文した料理を再度選べるようにしている。特に料理の組み合わせが多い飲食店で効果があるといえる。たとえばMalibu Poke(USA)では、顧客が自動注文カウンターに行くと顔がスキャンされ過去の詳細な注文歴から再注文することができる。顔認識ベースの決済を採用する飲食店も増えている。

外食業における顔認識技術の活用事例

出所:各種資料を基にUzabase作成

スポーツイベントで顔認証技術を活用、安全性を確保しながら観戦体験を向上

スポーツイベントでも安全性の確保と観戦体験の向上を目的に顔認識技術が活用され始めている。直近の例として、2022年FIFAワールドカップカタール大会では、顔認識技術を搭載した2万2,000台近いカメラが使用された。8万人の観客をモニタリングするとともに、AIを用いて群衆をコントロールし、温度変化を感知して空調を調整するなど、安全で快適な観戦体験を提供した。

また、カタール大会では、VISAの顔認証決済システムが導入され、観客や来場者にとってスムーズな決済が可能となった。

業績向上のために顔認識技術を活用している産業

出所:各種資料を基にUzabase作成

青山 武史

青山 武史

グロービス経営大学院大学でMBAを取得し、キャリアを一貫してクリエイティブ、テクノロジー、ビジネスを高度に融合させた新規事業開発やイノベーションの創出を主導して来た。スタートアップ(最高事業責任者)や事業会社(マーケティング最高責任者)等でマーケティングからサービス開発までの新規事業開発の経験を積み、多くの事業で収益規模を拡大し、大手企業とのアライアンスに携わった。現在はYKK APにて新規事業開発部担当部長として、再生エネルギー事業の推進と新規領域の探索を担当。Point0を通して大手企業と共創活動を推進。渋谷未来デザインとSWiTCHとのカーボンニュートラルプロジェクト「CNUD」に参画。個人としても大手エネルギー企業のヘルスケ領域の新規事業開発支援コンサルティング実績多数。

コメント

この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA


関連記事