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食品ロス管理

文章最終更新日:2023年10月23日

トレンド概要

食品ロス問題にテクノロジーで挑む

食品はいまや廃棄物問題の温床と化している。国際連合世界食糧計画によると、世界全体では食料生産量の約3分の1(13億トン相当)が食べられずに廃棄されている。この廃棄量は約20億人分の食料に相当し、栄養不足人口の倍以上をカバーする計算になる。また、食品の廃棄は気候変動にも影響を与えている。シンクタンクのCapgemini Research Institute(CRI)によれば、2022年、食品ロスは世界の温室効果ガス(GHG)排出量の約8%を占めている。

用語の定義として、農林水産省や消費者庁などの資料を参照し、本レポートでは、「食品のライフサイクルにおいて本来食べられる食品が廃棄されること」を総称して「食品ロス」と定義・使用することとする。なお、FAOは、食品の生産・供給システムやその運用体制の不具合によって発生する廃棄を「Food Loss」、まだ食べられる食品であるにもかかわらず消費者自らの意思あるいは保存方法を誤るなどして発生する廃棄を「Food Waste」と分けており、かつ食品廃棄物を「Food Loss and Waste」と総称していることから、英語でリサーチする際には注意されたい。

FAOが定義するFood Wasteは、食品の腐敗や商品の破損、不正確な需要予測、期限表示についての認識不足といった要因により、小売や消費段階で発生する。また、Food Lossは、既存の技術では廃棄量を抑えることが難しかったり、道路インフラの脆弱さから流通が遅れたりすることで、市場に出る前の段階で発生する。こうした食品のムダを減らす解決策として、テクノロジーを活用した食品ロス管理が注目されている。世界では食品ロスが増え続け、米国では過去50年間で食料廃棄量が3倍に増加していることなどを踏まえると、テクノロジーを応用したソリューションの導入が急務となっている。

フードサプライチェーンで生じる食品ロスの課題・要因・テクノロジーによる解決策

出所:ReFED、欧州議会調査局(EPRS)、地球規模の大気研究のための排出量データベース(EDGAR)、Food Planet Prizeを基にUzabase作成

注1:米国の食品廃棄量シェアは出所で四捨五入しているため合計は100%にならない

注2:本レポートでは太字で示したテクノロジー分野について取り上げる

注3:SPEEDA関連トレンド – スマート農業、垂直農法、スマートパッケージング、食品保存技術

注4:各データは、米国が2023年時点、EUが2022年時点、GHG排出量シェアは2021年時点のもの(入手可能な最新データ)

食品ロス管理には、廃棄物をリサイクルするリアクティブな手法と、ロスの発生を防ぐプロアクティブな手法があり、本レポートでは後者に焦点を当てる。

食品ロス管理におけるプロアクティブな手法は、サプライチェーン上での食品ロスの発生防止を支援するソリューションと、余った食品を再分配するプラットフォームを通じて実践される。なお、以下では前者を「食品ロス防止ソリューション」、後者を「余剰食品再分配プラットフォーム」、総称して「食品ロス管理ソリューション」と表記する。食品ロス防止ソリューションには、リアルタイムでの食品の追跡・監視、食品在庫の追跡・最適化、需要の予測に用いられるハードウェアとソフトウェア製品が含まれる。一方、余剰食品再分配プラットフォームとは、売れ残った食品を割引価格で取引する買い手と売り手をつないだり、フードバンクや生活困窮者に寄付したりすることで、余った食品を捨てない選択肢を提供するものである。

経済的利益やサステナビリティに取り組む必要性から需要が高まっている

食品ロスは、企業の財務を圧迫し、環境にも有害な影響を及ぼす。そのため、食品事業者は、廃棄による収益機会損失を減らし、食品ロスに関わるコストを削減することで得られる経済的利益を追求するため、食品ロス管理ソリューションへの投資を強化している。ある世界的な調査では、企業は食品ロスの削減に1.2ドル(1ポンド)投資するごとに9ドル(7ポンド)を節約できることが示された。食品ロスの管理に取り組むことで、増え続ける世界人口を養う上で必要な水や土地などの資源を保全することにもつながる。

食品ロス管理ソリューションへの需要を押し上げるもう一つの要因として、食品業界各社はサステナビリティ目標(GHG削減や持続可能な食料生産)を掲げて取り組むだけではなく、その取り組みを外部にわかりやすく発信することを求められていることが挙げられる。これにより、企業イメージが向上し、ひいては顧客や投資家を惹きつけ、事業を維持・成長させる推進力となる。

食品ロス管理の需要促進要因

出所:Capgemini Research Institute調査レポート『Reflect. Rethink. Reconsider. Why food waste is everybody’s problem』(2022年)を基にUzabase作成

社会や環境課題に対する認知向上が購買に影響、ムダな食料消費を抑える傾向に

食品ロス問題は世界的に注目されている。あらゆる年齢層がさまざまな理由からこの問題に関心を寄せているが、一般に年齢が高い人ほど取り組みに積極的な傾向がある。コロナ禍を経て食費が高騰し、持続可能性への認識も高まっていることもあり、食品ロスに対する消費者の意識はますます向上している。

CRI が2022年に消費者1万人を対象に実施した世界的調査では、回答者の約72%が食品ロスについてより意識するようになったと答えており、コロナ禍前の33%に比べ大きく増加した。また、回答者の56%が食費を節約する必要があると認識している。2023年も食品価格は上昇を続けており、消費者は食費を管理せざるをえなくなっている。また、調査回答者の50%以上が、気候変動や世界的な飢餓といった持続可能性の課題を懸念事項として挙げている。

食品ロスは不平等な食料分配が原因のひとつであることから、消費者の感情を突き動かす問題でもある。世界の全人口を養うのに十分な量の食料が生産されているにもかかわらず、人口の約10%がいまだ食料不足に苦しみ、その一方で食料はなおも大量に廃棄され続けている。さらに、食べずに捨てることに罪悪感を持つ消費者も増えてきており、消費者の約60%が食品ロスに懸念を抱いている。消費者は食品スーパーに対してより厳しい基準を求めており、CRIの調査回答者の61%が、食品ロス削減のためにさらなる措置を講じることができると考えている。

規制により食品ロスが抑えられ、特別な奨励策により再分配が促進される

食品ロス管理ソリューションに対する需要は、規制や奨励策の導入に後押しされている。その代表例には、食品廃棄物処理や炭素税に関する指令、ならびに国連の持続可能な開発目標(SDGs)12.3がある。また、既存の規制が主に食品ロスの発生を防ぐことを目的としているのに対し、税制上の優遇措置では余剰食品の再分配活動を奨励することに重点を置いている。地域別にみると、食品ロスが多い欧米市場では厳しい規制を実施し、奨励策の数も多い。

食品業界に関連する規制・奨励策例

出所:Forbes、Business Insider、CNBC、Imaging & Machine Visions Europe、Wasteness.comを基にUzabase作成

食品ロス管理にテクノロジーの応用が進む

食品業界ではこれまでもさまざまなテクノロジーを活用してきたが、プロアクティブに食品ロスを管理する目的でテクノロジーを応用するようになったのは最近のことである。

近年では、AIや機械学習を利用した食品ロスの追跡ソリューション、食品センサ、カメラ、ブロックチェーンといったテクノロジーが本トレンドを大きく前進させている。これらを応用して開発されたソリューションは、オペレーションを最適化し、食品をリアルタイムで追跡し、顧客との信頼関係、トレーサビリティ、透明性を構築でき、ひいては食品ロスの防止ならびに削減に貢献する。

食品ロス管理にテクノロジーを活用する利点

出所:Forbesおよび各種プレスリリースを基にUzabase作成

マネタイズ

食品ロス管理の普及により、食品ロス管理ソリューションも発展

本トレンドで扱うソリューションの普及を後押しするのは食品ロス管理市場の成長である。Grand View Researchによると、食品ロス管理市場は2022年に約700億ドル規模となり、2022-30年にかけて年平均成長率(CAGR)約5%で成長すると予測されている。人口増加を背景とした食品業界の拡大によりロスが増え、その管理や削減に関する規制や措置が厳格化すると考えられる。

2022年時点では、北米が売上高ベースで約33%のシェアをもつ最大の食品ロス管理市場となっている。米国は1人あたりの食料消費量が世界最大であることが要因と考えらえれる。

食品ロス防止ソリューションは企業のコスト削減に有用

以下に示すフレームワークは、レストラン、ファストフードチェーン、スーパーや食料品店、カフェ、その他生鮮食品を販売する食品事業者など川下事業者に有用である。導入前のシナリオは、調理、廃棄、および環境支出を含む食品ロスに関わるコストを理解するのに役立つ。導入後のシナリオでは、食品ロス防止ソリューションの利用でいかにコスト削減につながるかを評価できる。

食品ロスが多い企業ほど支払うコストも多い。たとえば、後述するファストフード店の場合、廃棄食品の調理や廃棄処理にかかるコストならびに炭素税を事業費として支払っている。ソリューションを活用することで、こうしたコスト負担をなくし、経済的な利益に転換することが期待される。このファストフード店でWinnow(GBR)のソリューションを導入した場合、1年間で廃棄される食数を最大50%削減し(A)、1食あたりの平均調理コストを20%削減(C)でき、最終的には導入前に比べて58%のコスト削減を達成する(L)。

食品ロス防止ソリューションの有用性を評価するフレームワーク

出所:Obesity Action Coalition、SavingFood、Winnowの資料を基にUzabase作成

注:食品業界の業種によって主な仮定条件が異なる

余剰食品再分配プラットフォームは売れ残りを経済的利益に変える

食材の使い残りや食品の売れ残りは、企業努力で完全にゼロにできるものではない。そのため、余った食品を割引価格で売ることができる再分配プラットフォームが重要な役割を担う。

以下のフレームワークは、川下の事業者にとって、余った食品を捨てるのではなく、プラットフォームを通じて再販することでどのように利幅を拡大できるかを説明するのに有用と考えられる。シナリオでは、カジュアルレストランが再分配ソリューションを導入した場合、月あたり営業利益率が約23%上昇する(V)などの経済的利益をもたらすことを示している。

余剰食品再分配プラットフォームの有用性を評価するフレームワーク

出所:LovvettのFood Business Insights Calculatorを基にUzabase作成

注:食品業界の業種によって主な仮定条件が異なる

未来

けん引役はソリューションの開発に特化したスタートアップと既存の食品事業者

本トレンドは、食品ロス防止ソリューションに特化したスタートアップが主導している。これら企業はフードサプライチェーンのさまざまな段階をターゲットとしており、たとえばWinnowとLeanpath(USA)は業務用厨房、Afresh(USA)とRelex(FIN)は食品スーパーと食料品店向けのソリューション開発に焦点を当てている。ユーザー企業は余った食品の再分配よりもできるだけロスを抑える取り組みを重視する傾向があるため、需要の大きさを反映して、食品ロス防止ソリューション事業者のほうが余剰食品再分配プラットフォームよりも事業基盤が安定している場合が多い。また、再分配プラットフォーム事業者は、複数のエンドユーザーカテゴリーに同一のソリューションを提供しており、たとえばKarmalicious(SWE)は、レストラン、カフェ、食料品店の余剰食品の再分配を支援している。

スタートアップのほか、食品業界の既存企業も自社の技術ノウハウを活かして食品ロス管理分野に参画している。たとえば、Walmartは、生鮮在庫の活用を最適化するために「Eden」システムを開発した。同じく米国のMeijerは、余った食品をフードバンクや困っている人々に寄付するための再分配プラットフォーム「Simply Give」を立ち上げた。また、企業向けのソリューションを家庭でもそのまま応用することはコストなどの面から難しいため、Kitche(GBR)やOlio(GBR)などの企業はフリーミアムモデルで家庭向けのソリューションを扱う。

食品ロス管理ソリューション市場の構造・事業者

出所:Uzabase作成

注:上図緑色の破線で囲った企業は、「スーパー/食料品店」と「レストラン/ホテル/業務用厨房/消費財企業」の両方のカテゴリーにソリューションを提供している

既存食品大手とスタートアップの提携も活発化

食品業界の既存事業者は食品ロス管理ソリューションを開発するスタートアップと提携し、技術を取り込むことで、廃棄量、コスト、CO2排出量を削減する取り組みを推進している。

Accor(FRA)は2015年にWinnowと提携し、2020年までに食品ロスを約3割削減する目標を掲げた。Winnowは、食品廃棄量を半減させることで、調理担当者がより収益性高く環境に配慮した方法で厨房管理を行うことを支援するAIツールを開発している。たとえば、Winnowの技術を導入したドバイのHiltonホテルは、2020年に食品廃棄量を7割削減し、コストを約6万5,000ドル節約することができた。AccorはWinnowとの提携後、12週間で食品廃棄量を約54%削減し、年間で88万ドルのコスト削減と、725トンCO2換算の排出量削減に成功した。この成果を受けて、アジア太平洋地域9か国に所在する40か所のホテルでもWinnowのソリューションを導入した。

また、多国籍小売事業者のSPAR(NLD)は2022年9月にWhyWasteが開発した日付チェックアプリを導入した。このアプリは販売期限が迫った商品を識別・追跡し、これにより商品をムダにせず、確実に販売するための適切な措置をとることができる。WhyWasteのツールを導入した後、同社の店舗では食品ロスを最大4割削減した。

食品ロス防止ソリューションは食品以外にも需要を見出す

食品ロス防止ソリューションはレストランなどの食品業界が主なターゲットであるが、食品ロスは、テック企業、病院、大学、カジノ、クルーズ船など、食品以外の業界でも発生している。このため、さまざまな業界でソリューションの導入が広がっている。

たとえば、病院に食事サービスを提供するMorrison Healthcareは2020年9月、米国内の病院の厨房における食品ロスを追跡するソフトウェア「Waste Not 2.0」を発表した。2023年時点で、370の病院がこのソフトウェア・プラットフォームに登録している。このプラットフォームを利用している病院Ohio Healthに報告によると、導入時の2021年6月から2022年12月までの期間に食品廃棄量を27%削減したという。

こうしたソリューションの活用によって食品ロスはかなり減らすことができるものの、ロスを完全に抑制できるわけではなく、また導入できるかどうかは企業の予算にも左右される。

青山 武史

青山 武史

グロービス経営大学院大学でMBAを取得し、キャリアを一貫してクリエイティブ、テクノロジー、ビジネスを高度に融合させた新規事業開発やイノベーションの創出を主導して来た。スタートアップ(最高事業責任者)や事業会社(マーケティング最高責任者)等でマーケティングからサービス開発までの新規事業開発の経験を積み、多くの事業で収益規模を拡大し、大手企業とのアライアンスに携わった。現在はYKK APにて新規事業開発部担当部長として、再生エネルギー事業の推進と新規領域の探索を担当。Point0を通して大手企業と共創活動を推進。渋谷未来デザインとSWiTCHとのカーボンニュートラルプロジェクト「CNUD」に参画。個人としても大手エネルギー企業のヘルスケ領域の新規事業開発支援コンサルティング実績多数。

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