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水素エネルギー

文章最終更新日:2023年11月16日

トレンド概要

水素エネルギーを利用するメリットは資源としての多様性と優れた環境性

水素エネルギーは、長年次世代エネルギーの1つとして取り上げられてきたが、近年再び注目を集めている(「国際エネルギー動向、激動を経て未来を見通す(2022年12月)」も参照)。水素エネルギーが注目される理由は、様々な原料から作ることができ、様々な用途で利用できる資源としての多様性と、利用時にCO2(二酸化炭素)を排出しない優れた環境性の2つだ。

水素は従来から、石油精製における脱硫の材料やロケット燃料などで利用されてきた。直近は、FCV(燃料電池自動車)や定置型電源用途(詳細はトレンド「燃料電池」を参照)で実用化が進むほか、今後は水素燃焼による熱利用や発電といったエネルギー用途そのものでの利用拡大が期待されている。

近年は、世界的に進む脱炭素化の流れも水素導入の後押しとなっている。製鉄など特に脱炭素対策が喫緊に迫る産業において、CO2排出量を削減するために水素エネルギーを導入する事例もみられる。今後は利用時のみでなく水素製造段階のCO2排出もゼロとする「グリーン水素」の量産利用も目標とされている。

本トレンドでは、エネルギーとしての水素に注目し、その特徴や普及状況、エネルギーとしての可能性や今後の取り組みについて紹介する。

主な水素の用途

出所:環境省HPなどを基にUzabase作成

関連トレンド:燃料電池

製法は化石燃料由来から、CO2回収貯留や再エネを用いたものにシフト

水素の主な製造方法は、化石燃料改質であるが、化石燃料由来の水素は「グレー水素」と呼ばれ、製造時にCO2を排出することから環境性に対しての課題が大きい。そのため、近年は排出されたCO2を回収して地中に埋めるCCS(CO2回収貯留)技術などを活用し、実質的なCO2排出をゼロにした水素は「ブルー水素」へのシフトの上、将来的には再生可能エネルギー(再エネ)由来の電力による水の電気分解を使用してCO2を発生させない「グリーン水素」の普及が期待されている。また、手段としては水電解、バイオマスのガス化、熱分解などが研究~実証段階とされている。

水素の製造方法とその特徴

出所:JOGMEC資料などを基にUzabase作成

最大の課題は再エネ自体も含めたコストダウン

水素エネルギー普及にあたっての最大の課題はコストだ。特に調達・供給、発電コストや水電解の効率がポイントとなる。

水素燃料の調達・供給コストは、従来燃料に比べて非常に高い。グリーン水素の製造の場合、資源メジャーのBHP(AUS)によると、2021年報道時点でのコストは2.5~8ドル/kgであり、貯蔵・輸送コストは別途2~5ドル/kgかかる。ガソリンなどの化石燃料から水素エネルギーへの燃料転換を促進するには、トータルコストが1~1.5ドル/kgである必要がある。グリーン水素の製造に要する再エネ自体のコストダウンも含め、さらなる発電コストの低減が不可欠である。    

なお、日本では化石燃料から水素エネルギーへの転換は途上でまだ高コストである。

世界の電源別発電コスト(平均)の比較

出所:LAZARD「LEVELIZED COST OF ENERGY ANALYSIS – VERSION 15.0」を基にUzabase作成

注:2022年は非公開

また、水電解による水素製造コストも課題となっている。水電解の効率を高めることは、コスト高の主要因である電力消費を抑えることにつながるため、製造コストが低減される。現在、主に利用されているのは「アルカリ水電解」であり、大規模プラントなどで多くの実績がある。より電解効率の高い「PEM(固体高分子形水電解)」は、電解効率が高いが、触媒電極に高価な白金材料を使用する点が課題である。研究開発段階の「SOEC(固体酸化物形電解セルを用いる高温水蒸気電解)」は、貴金属を使用しないため製造コストを抑えることができるほか、電解効率もPEMより高くなると報告されている。

再生エネルギーの余剰分の貯蔵手段としても開発が進む

再生可能エネルギーの普及にむけて、再生エネルギーの余剰電力を水素に変換して貯蔵する技術も開発が進んでいる。

化石燃料に頼らず、再生可能エネルギーを効率良く利用することが求められる一方で、太陽光や風力などの再エネ発電は、季節や天候に左右されるため、需給のバランスを保つためには余剰電力の貯蔵が必要である。季節に左右されにくい手段として蓄電池もあるものの大容量化するには多くの蓄電池が必要となり、コストが増大する。また、自然放電により時間経過とともに蓄電量が減少する問題もある(詳細はトレンド「大規模電力貯蔵」参照)。

そこで、余剰電力を貯蔵・活用する手段として余剰電力を水素に変換するPower to Gas(P2G) の注目度が高まっている。水素は気体燃料のメタンに変換して利用するほか、液化水素やアンモニアに変換すれば長期保存が可能となる(アンモニアについてはトレンド「アンモニア」参照)。

量産規模拡大などを経て設備投資や、電気代などの運用コストの低減が製造と同様に貯蔵手段も今後の普及のカギと言える。

世界各国で水素エネルギーの普及が推進され、国際連携も活発化

世界では2015年のパリ協定を契機に脱炭素の流れが加速し、これが近年の水素エネルギーの普及を後押ししている。

日本は、2018年以降で5回実施された「水素閣僚会議」の議長国を務めており、ロードマップの策定や規制、国際規格の標準化などグローバルでの連携を主導している。2023年には6年ぶりに「水素ロードマップ」を改訂し、下表のように目標を定めた。

欧州では、グリーン水素の早期普及が推進されている。 2020年に、欧州委員会は政策文書「A Hydrogen Strategy for a climate-neutral Europe」を発表し、エネルギー政策において水素を重視することを明確化した。ドイツ・フランスなども国レベルで国家水素戦略を策定している。

中国でも、2022年3月に国家発展改革委員会により発表された「水素エネルギー産業発展中長期計画」において、水素が2060年のカーボンニュートラル実現に向けた重要なエネルギーとして位置付けられている。

民間レベルの国際協調の動きも活発化している。 2017年には、Air Liquide(FRA)とトヨタ自動車が共同議長となり、水素を活用した新エネルギー体制の構築を目指す水素協議会(Hydrogen Council)が設立された。世界の主要な自動車メーカーやエネルギー企業が続々と加盟し、2023年現在で150近くの企業で構成されている。

世界における水素エネルギー関連動向

出所:各国政府発表資料、JETRO資料などを基にUzabase作成

 

 

マネタイズ

2030年時点でも水素エネルギーは概ね化石燃料より割高

水素エネルギーと従来エネルギーの損益分岐点試算によるコスト差を見てみる。なお、エネルギー利用では電力が注目される傾向にあるが、世界の電力化率(最終エネルギー消費量全体に占める電力消費量の比率)は20.5%(2020年時点)に留まる。その他の多くは燃料燃焼によって得た熱を直接利用しているため、熱利用におけるコスト評価での化石燃料代替における水素エネルギーの経済性を評価した。

水素コストは2030年時点で30円/Nm3と仮定し、化石燃料との価格差をグラフに示した。比較対象とする化石燃料はボイラー燃料や工場熱源、空調・冷暖房用燃料などに使用される都市ガス、LPガス(液化石油ガス)、灯油、重油、石炭とした。熱量あたりの価格を比較すると、2030年時点でも水素は、LPガスを除き、化石燃料より割高である。

そのため、次の段落から述べるCO2排出に対する価値も加味した上で価格競争力を押し上げることが有効と言える。

化石燃料代替(熱利用)における水素の経済性

出所:日本LPガス協会資料、経済産業省「石油製品価格調査」、東京ガス資料などを基に Uzabase算出

注1:水素価格は日本の「水素・燃料電池戦略ロードマップ」の目標値を採用

注2:LPガス、灯油、重油A、石炭は2023年9月時点の卸売価格を採用

注3:価格算出の過程で単位換算を行っている

2030年時点でも水素発電は火力発電に対して割高だが、CO2排出削減量では優位

次に、将来的に導入が見込まれる水素発電と火力発電の経済性の比較を行った。化石燃料代替と同様に、2030年時点では石炭火力発電、LNG火力発電よりも水素発電は割高である。ただし、100万kW級で稼働率70%の火力発電を想定したとき、CO2排出量は石炭火力と比べ年間でおよそ510万t、LNG火力と比べ年間でおよそ210万t削減することが可能となる(ライフサイクルCO2排出量を石炭火力が0.864kg-CO2/kWh、LNG火力が0.376kg-CO2/kWhで算出)。なお、石油火力発電は規模、稼働率などの面から割高であり、2030年時点で水素発電がコスト優位になっている。

水素発電の経済性

出所: Uzabase作成

注1:水素発電コストは日本の「水素・燃料電池戦略ロードマップ」の目標値を採用

注2:火力発電コストは経済産業省資源エネルギー庁の2014年時点のモデルプラントにおける試算結果を採用

CO2排出によるコストも考慮すると、水素の価格競争力は化石燃料や火力発電に並び得る

前述の通り、水素エネルギーの価格は、従来エネルギーに比べて当面割高だが、CO2排出量を大幅に削減することができる。水素の利用促進のためには、この環境価値を評価することにより水素の価格競争力を押し上げることが有効と言える。

今回は炭素税や排出量取引(トレンド「排出量取引」を参照)などの手段でCO2排出量に応じたコストが付加されると仮定する。その上で、水素より価格の低い化石燃料に対して、CO2排出量あたりにいくらの炭素価格を設定すれば、水素と経済合理性が釣り合うかを示すコストを「環境コスト」を定義した。このコストは、燃料価格やCO2排出量を基に、各燃料・発電方法が水素と等価になるための1トンあたりの炭素価格を試算した値である。

Carbon Pricing Leadership Coalition(CPLC)「High-Level Commission on Carbon Prices」では、2030年時点での炭素価格の推奨値として50~100ドル/t-CO2が示された。これは下表に示す環境コストとほぼ同等の水準である。したがって、環境に対する価値を考慮した場合には、2030年時点で化石燃料による燃料利用・発電方法を水素に切り替える経済合理性はある程度示された。

個別で見ると、特に灯油や重油は環境コストが低く、経済合理性が成立する可能性が高い。一方、石炭などは、燃料コストが安くかつCO2の排出量が多いため環境コストも比較的高い。そのため、厳しく見れば、置き換えにあたっての課題となり得るとも言えるだろう。    

なお、水素の環境価値を考慮する方法としては、グリーン電力証書の適用 や、太陽光発電普及に重要な役割を果たした固定価格買取制度(FIT)を水素に適用する方法などもある。これらの選択肢の中で、社会的に受容できる制度設計を行うことが重要と言える。

各燃料・発電方法の環境コスト

出所:経済産業省資源エネルギー庁、日本エネルギー経済研究所、財務省、東京ガスなどの資料を基にUzabase作成

注1:化石燃料代替の項目は前述の「化石燃料代替(熱利用)における水素の経済性」で使用した数値で算出

注2:発電の項目は前述の「水素発電の経済性」で使用した数値で算出

未来

他分野の実績を水素事業に応用し、サプライチェーン全体で多くの企業が参入

水素エネルギー事業には、燃料卸売や産業ガス、総合化学、プラント建設といった業界から多くの企業が参入している。

水素エネルギーは経済性が課題であり、事業あたりの投資規模も大きくなりやすいことから、複数の企業が提携・協力して事業を推進している。日本では、2018年に各カウンターパートの連携による水素ステーションの普及推進を目的として、日本水素ステーションネットワーク合同会社(JHyM)が設立された。水素ステーションの整備・運営を担うインフラ事業者が、政府補助金やJHyMからの業務委託費を活用することにより費用を軽減できる仕組みであり、自動車・エネルギー会社や金融機関が参画している。

また、他分野で培われたガスの製造、圧縮、充填、冷却・熱交換といった装置・機器の製造技術を水素事業に適用し、先行者利益を狙う企業も多い。

水素のバリューチェーン

出所:Uzabase作成

各国間でサプライチェーンの構築を目指した実証実験や協業も本格化

各国でサプライチェーン構築に向けた実証実験や協業も本格化している。

オーストラリアは日本向けの輸出を見据えたブルー・グリーン水素の開発が目立つ。2018-21年にかけて、世界の未利用エネルギー由来の水素を液化して大量輸送し、日本で利用するというサプライチェーン構築の実証事業が進められた。また、サウジアラビアと日本間においても、同様の動きがある。2021年にENEOSとSaudi Aramcoが水素・アンモニアのサプライチェーン構築に向けた協業検討に関する覚書を締結した。

欧州は水素輸入に向けて近隣諸国である中東やアフリカへのプロジェクトへの投資・連携が目立つ。例えばエネルギー大手のUniper(DEU)は再エネ企業のMasdar(UAE)と、グリーン水素プラントを共同建設し欧州輸出を視野にいれている。なお、ドイツは南アフリカ、チリ、カタール等とエネルギーパートナーシップを構築している。

米国では、パイプラインや貯蔵設備・需要家連携などを支援する「インフラ投資法」が2022年に採択された。特にメキシコ湾岸付近は、海外輸出に有力な水素ハブ候補が多く、JERA(Uniper、ConocoPhillipsと合同)などの日本企業も参画している。メキシコ湾岸付近のプロジェクトについては水素の他に水素キャリアであるアンモニアを中心としたプロジェクトも多い。

日本国内では輸送手段について様々な検討がされている。千代田化工建設は専用設備が不要なメチルシクロヘキサンとして水素を貯蔵・輸送する技術の商用化を目指している(同技術は触媒技術がキーとなっている)。三菱商事ら4社も、ブルネイでメチルシクロヘキサンを合成して日本に輸送し、水素を取り出す実証実験を行った。川崎重工は2030年頃に液体水素での輸送の実現を目指している。

中国では異業種企業が協力して世界最大規模の水素ステーションを整備

中国上海では2019年、世界最大規模の水素供給能力を有する驛藍金山化工区水素ステーションが建設され、運営を開始した。ステーションの建設・運営は、上海舜士能源科技やLindeなどの出資によって設立された上海驿蓝能源科技が担い、水素貯蔵やコンプレッサーなどの設備は上海舜士能源科技やLindeが提供する。このステーションでは、乗用車以外の車種も含めたほぼ全てのFCVに対応しているだけでなく、ほかの小規模ステーションにも水素供給が可能な点が特徴だ。

驛藍金山化工区水素ステーションの概要と関連企業

出所:新エネルギー・産業技術総合開発機構「中国における水素・燃料電池産業の研究開発プロジェクト・地方政府・企業の動向」などを基にUzabase作成

青山 武史

青山 武史

グロービス経営大学院大学でMBAを取得し、キャリアを一貫してクリエイティブ、テクノロジー、ビジネスを高度に融合させた新規事業開発やイノベーションの創出を主導して来た。スタートアップ(最高事業責任者)や事業会社(マーケティング最高責任者)等でマーケティングからサービス開発までの新規事業開発の経験を積み、多くの事業で収益規模を拡大し、大手企業とのアライアンスに携わった。現在はYKK APにて新規事業開発部担当部長として、再生エネルギー事業の推進と新規領域の探索を担当。Point0を通して大手企業と共創活動を推進。渋谷未来デザインとSWiTCHとのカーボンニュートラルプロジェクト「CNUD」に参画。個人としても大手エネルギー企業のヘルスケ領域の新規事業開発支援コンサルティング実績多数。

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