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インバウンド(日本)

文章最終更新日:2023年08月31日

トレンド概要

急回復が進むインバウンド、2023年7月で訪日外客数は8割まで回復

本トレンドでは、訪日外国人の流入状況及び消費の動向を分析する。

日本政府観光局(JNTO)によると、訪日外国人の数は、2010年代に年間1,000万人を突破して2019年に過去最高である約3,200万人に到達し、インバウンドは活況を迎えた。しかし、2020年以降はコロナ禍を受けて日本を含む各国が入国制限措置を発動した。結果として、訪日外客数は2020年に前年比約87%減、2021年に同約94%減)と大幅に減り、インバウンド消費は打撃を受けた。2022年は、6月に一部の国のツアー客に限定して外国人観光客の受け入れを約2年ぶりに再開し、10月には個人旅行も解禁され水際措置も緩和されたため、インバウンド消費は急速に回復に向かっている。2023年7月時点の訪日外客数は、コロナ禍前の2019年7月と比較すると8割程度にまで回復している。インバウンド消費は、短期的には客数増による回復に注目が集まるが、長期では単価向上施策や受入体制の拡充などが重要になるだろう。

訪日外客数の推移

出所:JNTO「訪日外客統計」

注:2023年6-7月は推計値

2010年代、政府による観光振興策と中国人渡航者数の増加によりインバウンドは急成長

日本におけるインバウンドは政府が2010年までに訪日外国人を年間1,000万人にすると2003年に掲げ、ビジット・ジャパン・キャンペーンの開始、観光立国推進基本法の施行、観光庁の設置を進めたことで本格化した。2011年の東日本大震災によるマイナス影響も一時的にあったが、2013年には年間1,000万人を突破し、2019年に過去最高である約3,200万人に達した。当初、2020年までに2,000万人、2030年までに3,000万人として掲げていた目標を、それぞれ4,000万人(インバウンド消費額8兆円)と6,000万人(同15兆円)へ2016年に上方修正した。

2010年代のインバウンド急成長の背景には、主に政府による観光振興策と中国の動向があり、2015年頃の円安も追い風となった。

政府は2013年以降、東南アジアや中国からの渡航者に対して、ビザ要件を相次いで緩和した。その後、地方空港への国際線の新規就航促進に向けた商談実施や経費支援、各国のテレビ番組への露出やSNS経由の発信強化、多言語対応を実施。さらに、2017年に成立した4か年の観光立国推進基本計画では、観光地域の形成、人材育成、国際観光の振興、利便性向上などに向けた環境整備を主要施策とした。例として、各地域で多様な関係者を繋いで観光振興を先導する専門組織として観光地域づくり法人(DMO: Destination Management Organization)の形成、シェアリング関連のサービスの活用促進、宿泊施設やインフラ整備への支援、外国人の患者やムスリムを受け入れる体制整備(トレンド「医療ツーリズム」「ハラール産業」も参照)、情報発信が挙げられる。

また、2010年代は中国人による国外渡航数が大幅に成長した時期であった。国外渡航のための中国人の出国数は、2010-19年で約2.7倍に増えた。これは中国における1人あたりGDPの成長や日本-中国間を含む国際便の増加が背景と考えられる。その中でも、渡航先として中国人は日本を選好する傾向が高かった。

2023年3月に閣議決定された新しい観光立国推進基本計画では、2025年までに旅行者数をコロナ禍前の人数に戻すとともに、1人あたりの消費単価をあげることにより、早期に旅行消費額を5兆円まで引き上げることを目標としている。

観光立国推進基本計画(2023年3月閣議決定)

出所:国土交通省観光庁

訪日客はアジア圏が中心であり、2019年の主要国を中心に客数は順調に回復

コロナ禍前の2019年時点では中国・韓国・台湾・香港の4カ国・地域からの流入が訪日外客数の7割を占めていた。2023年7月時点においても、引き続きこれらの4地域がインバウンドを支えている。中国を除く主要国でコロナ禍前の水準を回復しており、韓国・米国などでは円安効果もあり2019年の値を超過している。

なお、中国については2020年1月以降コロナ禍への対応として、団体旅行や航空券やホテルとのセット販売が規制されており、その影響で回復が鈍い状況にあった。ただし2023年8月10日に規制解除が発表されたため、今後の回復が期待されている。

コロナ禍前の訪日外国人数と客単価:国別(2019年)

出所:JNTO「訪日外客統計」、観光庁「訪日外国人消費動向調査」を基にUzabase作成

 国別の訪日外客数の回復状況(2023年7月)

出所:JNTO「訪日外客統計」

注:構成比で2%を超える国を抽出して掲載

マネタイズ

インバウンド消費の急成長は訪日客の急増に支えられており、今後は中国からの客数回復に期待

2019年までのインバウンド消費を訪日外国人の客数と消費単価で見ると、2012年から2019年の7年間で消費単価は約1.4倍と緩やかに増加しているが、客数は約3.8倍と大きく増加している。このことから、客数の増加がインバウンド消費額全体を押し上げていたことが分かる。

2023年の状況でも、回復の牽引役は客数増である。前述の通り、客数の回復の鈍い中国では規制緩和により団体旅行客の回復が見込まれている。2019年当時は中国旅行客の3割が団体旅行であり、今後の回復が期待される。なお規制緩和による影響や、2023年現在の中国の出国状況についてはSPEEDA Insightレポート「文化観光部、日本や韓国を含む78カ国への出境団体旅行の再開を発表」で詳細に分析しているので併せてご覧いただければ幸いだ。

インバウンド要因分析

出所:JNTO「訪日外客統計」、観光庁「訪日外国人消費動向調査」を基にUzabase作成

注:2021年の単価は非公開のため非表示

円安効果を受け、2023年の消費単価は宿泊費や飲食代を中心に上昇

2023年4-6月の消費単価は、2019年同期比で1.3倍程度に上昇している。中国については前述のように規制がある中で日本に来ている層が中心であり、比較的富裕層が多いなどの母集団の違いがあるためにデータの見方に注意を要するが、他の主要国についても概ね消費単価は上昇している。

主要国において単価上昇の要因を探ると、円安効果は大きいだろう。2019比で2-3割程度円安が進んでおり、中国に関しては2014-15年の爆買いの時よりも円安に振れている。また米国に関しては、日本よりもCP Iが大きく上昇していることも指摘できる。

消費の内訳としては買物代、宿泊費、飲食費で8割超を占める構図は変わっていないが、宿泊費や飲食費が2019年比で1.5-1.6倍に増えている中で、買い物代は0.9倍とやや減少している。内訳を見ると、中国人旅行客を中心に化粧品、香水、医薬品などのインバウンドのお土産の代表例であった品目の消費が落ちていることが背景にある。前述の通り母集団の違いによる影響とも捉えられるが、今後団体旅行客が回復する中で、買い物動向については注視する必要がある。

国別の消費単価

出所:観光庁「訪日外国人消費動向調査」を基にUzabase作成

消費単価上昇と関連要因

出所:各種統計よりUzabase作成

注1:CPI上昇差は日本と各国の差を比較

注2:CPIは2019年4-6月から2022年10-12月(台湾のみ2019年6月と2022年12月)を参照

未来

インバウンドの影響範囲は広く、旅行前から帰国後までサービス業全体に広がる

訪日客の時間軸でバリューチェーンを見ると影響範囲が広い。計画・予約など旅行前からインバウンドはスタートしており、滞在中は国内を移動しながら買い物や食事、娯楽を楽しむ。帰国後のお土産やSNS投稿、口コミは他の旅行者の訪日旅行の計画へとつながっている。

インバウンドのバリューチェーン

出所:Uzabase作成

インバウンド消費はモノ消費からサービス消費へ、コト消費は多様化

インバウンド消費のトレンドは家電などの耐久財からスタートし、衣類(ブランド品)・宝飾を経て直近までは食品やパーソナルケア(化粧品)が人気だった。いずれも高品質や安全性・正規品といったニーズが強く、消費サイクルの長いものから短いものへと変遷している。現在は越境ECの環境が整ったこともあり、モノ消費の割合は緩やかに減少することが見込まれる。現地でしか消費のできない外食やレジャーなどのサービス消費へのシフトが進むだろう。

コト消費を見ると従来の王道パターン一辺倒から多様化している。「ゴールデンルート」や都市部に限定したパッケージングツアーは、増加傾向にある。ニーズ別団体旅行や個人旅行では都市部だけでなく地方にも訪日客は足を延ばしている。さらに、密を避けた体験型のニーズが高まると予想されており、各地方自治体では着物、刀剣、伝統工芸、そば打ちなど地域の観光・体験スポットで誘客を図る。

JNTOの2022年度の主な取り組み、政府による「インバウンドの本格的な回復に向けた政策パッケージ」(2022年10月)では、高付加価値旅行者を主要ターゲットにすることが明記されている。双方において、食や歴史を活かした独自性の高い体験、アウトドア体験を含むアドベンチャーツーリズム(アドベンチャートラベル)が挙げられている。サービス消費への移行やコト消費の多様化に合わせた取り組みと言える。

日本旅行パターンは多様化

出所:Uzabase作成

今後はリピーターへの訴求もより重要に

日本に既に1回以上来たことのあるリピーターが増加しており、2023年4-6月で7割程度と過半を占める。

2019年のインバウンド最盛期にも指摘されていたことだが、リピーターはアジア圏を中心に消費単価が高い傾向にある。この傾向は2023年4-6月期のデータを見ても同様である。今後リピーターが増える中で、前回きた時とは違う体験の提供や、リピーターに焦点を当てた商品開発やツアーの企画などが求められるだろう。なお、2019年当時の動向については、国土交通省観光庁「訪日外国人旅行者(観光・レジャー目的)の訪日回数と消費動向の関係について」が詳細でわかりやすく、2023年の現場に通じる部分もある。

国・地域別のリピーター率

出所:観光庁「訪日外国人消費動向調査」を基にUzabase作成

消費単価(2023年4-6月)

出所:観光庁「訪日外国人消費動向調査」を基にUzabase作成

宿泊業を中心にコロナ禍で投資が絞られており、受入キャパシティの懸念も。単価向上施策も重要

宿泊業はコロナ禍による苦境で大きく投資を絞ってきた経緯があり、急速にインバウンド需要が回復する中でキャパシティ不足を懸念する報道がある。宿泊業は従業員など人員手当も重要な業界であり、雇用人員判断D.I.などによれば宿泊業の人手不足感は強い。国土交通省観光庁「宿泊旅行統計調査」によれば2023年6月時点のホテルの稼働率はビジネスホテルで69%とまだ余裕がある状況ではあるが、ホテルの新設には設備投資や人材教育など一定リードタイムを必要とすることから、今後は客数だけではなく、単価向上施策も重要となる。

既に一部企業では単価向上の取り組みが見られる。例えば西武グループは2023年7月の「ホテル・レジャー事業の戦略について」の中で、「宿泊部門は、清掃費やアメニティなどの変動費がかかる部門であるため、稼働ではなく単価でRevPARを上げて、それによって利益を出す、というのがGOPを出す効果的な戦略である。あえて稼働を犠牲にしても、単価でRevPARを上げる。」と述べており、2023年5月には2018年対比で客室稼働率が1割減となる中で、客室平均単価を3割近く引き上げている。

急激に客数が回復する中で、キャパシティの課題や観光公害に注目が集まりつつあり、今後は宿泊業にとどまらず単価上昇による持続可能な観光の観点も重要となろう。

宿泊業の設備投資(当期末新設固定資産合計)

出所:財務総合政策研究所「法人企業統計調査」

青山 武史

青山 武史

グロービス経営大学院大学でMBAを取得し、キャリアを一貫してクリエイティブ、テクノロジー、ビジネスを高度に融合させた新規事業開発やイノベーションの創出を主導して来た。スタートアップ(最高事業責任者)や事業会社(マーケティング最高責任者)等でマーケティングからサービス開発までの新規事業開発の経験を積み、多くの事業で収益規模を拡大し、大手企業とのアライアンスに携わった。現在はYKK APにて新規事業開発部担当部長として、再生エネルギー事業の推進と新規領域の探索を担当。Point0を通して大手企業と共創活動を推進。渋谷未来デザインとSWiTCHとのカーボンニュートラルプロジェクト「CNUD」に参画。個人としても大手エネルギー企業のヘルスケ領域の新規事業開発支援コンサルティング実績多数。

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