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低軌道衛星

文章最終更新日:2023年11月16日

トレンド概要

低軌道衛星でリモートセンシングや衛星通信の可能性が拡大

本稿では低軌道を運行する人工衛星を扱う。

宇宙空間の中にも様々なレベルがあるが、人工衛星の軌道は主に高度350㎞程度から36,000㎞程度とされる。特に、人工衛星軌道の中でも低軌道(LEO)と呼ばれる領域は静止軌道(GEO、36,000㎞)の1/10以下の距離である。

衛星軌道の位置

出所:Uzabase作成

低軌道衛星は静止軌道などに比べて地表までの距離が近いため、地表の観測(リモートセンシング/リモセン)や衛星通信に適している。リモートセンシングとはセンサを用いて遠隔で対象物を観測する手法で、人工衛星の場合、各種権利保有者との交渉を経ずに一括、定期的なデータ取得が可能である。また衛星通信では、地上インフラに左右されずに、海上なども含む地球全域を対象として他の軌道よりも高速な通信を実現できる。

また、静止軌道などに比べて打上げにおける費用や課題が大きく減少する。低軌道衛星は通信用のアンテナ、日陰時に利用するバッテリー、太陽光パネル、センサなど各パーツを小型化でき、静止軌道/中軌道衛星よりも製造コストが低いメリットがある。

低軌道人工衛星によるリモートセンシング

出所:Uzabase作成

複数の衛星を一体的に運用するコンステレーションが形成、衛星のライフサイクルやデブリの課題も

一方で、衛星1基あたりの地表カバー範囲が狭いなどの理由から、多数の人工衛星を配置する必要がある。例えば0.3m以上の高解像度で1日1回以上観測する場合、100基以上の衛星を運用することになる。リモセンや衛星通信のサービス提供者は、コンステレーションと呼ばれる複数の衛星群の形成と一体的な運用を進めている。数百基の衛星から成るものは、メガコンステレーションとも呼ばれ、特にStarlinkなどの衛星通信サービスが多い。

また低軌道は大気抵抗が大きいため、高度・姿勢維持のための燃料を多く使用することから、寿命は概ね5年程度とされる。寿命の短さは短期的な投資コストだけでなく、スペースデブリ(宇宙ごみ)となって長期的な運営リスクを上昇させる恐れがある。

民間低コストロケット、低コストの超小型衛星の登場で商用利用が現実化

従来の宇宙産業はOld Spaceとも呼ばれ、政府や通信・放送事業者を主な需要先とする限られた産業となっていた。高度な技術を持つが単価が高く、開発期間が長いなど重厚長大産業の特徴を持ち、プレイヤーは航空防衛企業とほぼ同一だった。

2000年以降ロケットや人工衛星の分野に新規参入する企業が相次いでおり、New Spaceとも呼ばれる。2010年以降になるとSpaceX(USA)がロケットの打上げに成功した。加えて、大学での研究に利用されていた50kg以下の超小型衛星の開発が進んだ。最大のボトルネックであった衛星本体の製造とロケット打上げのコストが下がったことで、低軌道衛星を一般産業で活用する可能性が急速に高まり、データ解析など関連サービスにも波及している。

なお2010年代はまだ商用利用は少なかったが、NASAの商業補給サービス(CRS :Commercial Resupply Services)や商業乗員輸送開発(Commercial Crew Development)プログラムにより、SpaceXなどがNASAの貨物/乗員の輸送に採用されたり資金提供を受けたりした。ロケット開発には特に費用がかかるため、こうした支援もNew Spaceの発展に寄与したといえる。

低軌道衛星を取り巻く環境の変化

出所:Uzabase作成

Old Space/ New Spaceの宇宙産業の事業モデル

出所:Uzabase作成

衛星の製造費用、打ち上げ費用が大幅に低下

従来の人工衛星は、大型のものが多く、衛星制作、打上げにそれぞれ100億円単位と高額の費用を要した。2016~2018年に打上げられた気象衛星ひまわり8・9号は、高性能ではあるが合計で500億円以上の初期投資が発生している。

しかし、衛星製造、打上げを低コストで提供する企業が参入したことで近年状況は大きく変わりつつある。製造コスト自体では、ひまわりなどの大型衛星が数百億円かかるのに対し、小型衛星は十~数十億円、CubeSatと呼ばれる最も小さいものでは数百万円でも開発可能とされる。稼働年数を考慮した年間換算でも、従来50億円程度の費用が必要だったが、小型衛星では1基あたりの費用が1/10以下となる。

低軌道では複数衛星を配置する必要があるものの、衛星数が増えれば地上設備などの運用固定費部分が希薄化できることもあり、大きくコストが下がると考えられる。

また1kgあたりの打上げコストをみると、2000年まで1万ドル前後で推移してきたのに対し、2010年のSpaceXによる再利用型ロケットのFalconの登場で大きく低下した。2023年11月時点でSpaceXはライドシェアによる50kgの衛星打上げ費用を28万ドルと発表している。

衛星のサイズとコスト

出所:九州大学超小型衛星試験センター 趙孟佑「超小型衛星の現状と将来」に基づき作成

ロケット打上げコストの推移

注:LEOまでの1kgあたり打ち上げコスト。重量はペイロードを示す。ULAについては筆者追記

出所:NASA発表資料

宇宙ビジネスへの新規参入により低軌道衛星の打上げが増加、近年はコンステレーション向けが多い

2000年以降、宇宙ビジネスに新規参入する企業の増加に伴い、低軌道衛星の打上げ数も増加している。2017年以降は、衛星コンステレーション(多数の衛星によるネットワークシステム)向けの衛星が増加、特に2020年からはSpaceXのStarlinkやOneWeb(GBR)、Swarm Technologies(USA、SpaceX傘下)のSpaceBEEなどが打上げ数を押し上げている。

2022年2月に始まったウクライナ危機では、ロシア軍の状況把握やウクライナの通信環境確保において、SAR(合成開口レーダー)衛星のCapella Space(USA)を始め民間衛星が撮影した衛星画像が提供されたほか、SpaceXのStarlinkが通信アンテナを提供したことで低軌道衛星の活用にも注目が集まった。

なお、同危機によって人工衛星の打上げも脱ロシア化が進んでおり、各社打上げ計画の見直しを行うほか、代替ロケットへの注目が高まっている。

軌道種別人工衛星打上げ数

出所:planet4589.orgに基づきUzabase作成

注:デブリや商用衛星以外も含む

人工衛星打上げには国の許可が必要、スぺースデブリ問題などで新たな規制の可能性も

低軌道衛星を打上げるには、原則として打上げを行う国や所属する国の政府による認可が必要となる。宇宙条約の規定により加盟国は宇宙での民間活動を許可、監督する責任を負っており、各国では宇宙活動について認可制度を設けている。特に打上げは米国企業のシェアが高く、米国で行われることが多い。米国では、衛星の数も含む打上げ計画や計画の修正を連邦通信委員会(FCC)に申請し許可を得る必要があり、頻繁な計画の修正は打上げ計画の遅れに繋がる。

またリモセン衛星については地表のデータを捕捉するため、テロなどへの利用防止として別途規制が設けられていることも多い。国内で操作・運用する衛星については、国外で打上げる場合も対象となる。なお2018年には、米国のSwarm Technologiesが、一度申請が拒否されたにも関わらずインドのロケットで人工衛星を無許可で打上げたとして、連邦通信委員会(FCC)より90万ドルの罰金を科された。

さらに近年は安全保障上の問題やスペースデブリ問題などが顕在化している。米国では、運用が終了した衛星を25年以内に大気圏へ突入させるよう求めていたが、2024年より5年以内に大気圏突入を義務付けるとした。物理的・電波的障害がないよう規制する宇宙交通管理(STM:Space Traffic Management)や、衛星破壊実験などのリスク・軍備競争防止の観点から「責任ある行動規範」などの議論が進んでいる。天文学に対する衛星の「光害」についてサンバイザーなどによる明るさの低減を求められる可能性もある。

主要国の法制度

出所:各種資料に基づきUzabase作成

商用打ち上げを奨励する動きも

一方で、民間による参入を前提として規制を整備したり、既存規制を緩和したりすることで、宇宙ビジネスの発展を促す動きもある。

例えば英国が2018年に制定したSpace Industry Actでは、衛星打上げなどのライセンスについて柔軟な運用が可能で、宇宙ビジネス企業を誘致しやすくなっている。元々打ち上げに関する規制がなかったニュージーランドは、Rocket Labの発射場設立に伴いThe Outer Space Actを制定、国際条約と商用打上げによる経済機会とのバランスをとっている。

また米国では連邦航空局(FAA)が商用ロケットに関する規制を整理・統一化するなど、民間事業者の負荷を下げた。中国では2014年に人工衛星などへの民間参入を促進する方針を打ち出し、支援を強化してきた。日本の宇宙活動法や衛星リモセン法も、企業の責任や各種基準を明確化することで参入を促す目的もある。

マネタイズ

一般産業への利用拡大には活用の多様化が必要

リモセンや衛星通信のサービスは民間利用が開始されたとはいえ、高額のコストを負担できる需要先は限定的である。現時点では政府や通信・放送など公共・インフラ分野が市場の約6割を占める。

2022年時点における衛星関連産業は、主に受信機器などの地上設備、衛星放送を中心とする消費者向け衛星サービス、政府予算などの非衛星産業構成されている。一般企業による商用利用やリモートセンシングは全体の1割未満に過ぎず、企業利用の拡大と活用方法の多様化が必要となっている。

世界の衛星関連市場(2022)

出所:Bryce Space and Technology 「2022 Global Space Economy at a Glance」に基づきUzabase作成

衛星画像はドローン写真と同一価格帯

衛星サービスはその初期投資の高さから利用価格が高額だったことも、各種サービスへの導入が進まなかった一因と考えられる。しかし衛星画像データについては近年徐々に価格が低下しており、アーカイブ画像であれば数百ドルからと、空航写真やドローン写真と同一価格帯となっている。ドローンの方が至近距離で動画撮影なども可能だが、衛星画像は広範囲、時系列データも取得できるなど、用途によっては優位になる可能性がある。

画像データの価格

出所:Apollo Mappingサイトなどに基づきUzabase作成

未来

小型衛星の周辺分野を中心に新規参入が多数

SpaceXを始めNewSpaceといわれる新興宇宙企業群は、既存企業に大きな影響を与えている。特にロケット開発や衛星製造分野は注目度も高い。ULA(USA)はSpaceXの攻勢を受け、低コストロケットVulcanを開発している。その他運用分野では、Amazon.comの地上局サービスAWS Ground Stationや衛星データ解析サービスのOrbital Insightなどがある。

前述の通りウクライナ危機をきっかけに欧米では脱ロシアが重要事項となっており、人工衛星のロケット製造および打上げにおいても、ロシアに依存しない体制構築に向けて市場が活性化する可能性がある。

なお近年注目を集める分野としては、小型衛星のうち、電波の反射を利用するため天候や時間帯に関わらず観測が可能なSAR(合成開口レーダー)衛星が挙げられる。

人工衛星バリューチェーン

出所:Uzabase作成

ロケット以外の衛星の周辺領域にも多様な領域に参入余地

宇宙分野は現時点での収益化の見通しは不透明な部分も多く、ロケットのように多額の開発費をかけて参入することはリスクが高いものの、人工衛星がインフラとして機能するようになれば、優位な位置を占めることができる。

またロケット以外の衛星の周辺分野では、衛星関連産業が抱える様々な課題に対して新たなサービスを提供する企業も登場している。衛星データの処理・解析サービスや、地上局のレンタルサービス、民間ロケット発射場などが代表例である。既存設備の転用やシェアリングサービス化する例もみられており、比較的参入障壁が低いと考えられる。加えて、近年では宇宙環境問題が大きくなっていることから、アストロスケールのようなスペースデブリ除去サービスを行うスタートアップもみられる。

低軌道衛星の注目領域

出所:Uzabase作成

新規サービス例

出所:Uzabase作成

日本や中国でも新規参入企業が存在

NewSpace分野は米国企業が先導しているが、中国や日本でも参入企業が増加している。SpaceTech Analyticsによると、2021年における中国での宇宙関連企業への投資額は米国に次ぐ2位であり、企業数も536と米英カナダに次ぐ4位となっている。また、中国企業は実績も増えており、2019年以降ロケットメーカーのiSpace(星際栄耀)やGalactic Energyが民間打上げに成功、Galaxyspace(銀河航天)は5G衛星を打上げた。なお、Galaxyspaceには中国政府も資金提供 を行っている。日本では超小型衛星メーカーのアクセルスペース、小型SAR衛星のSynspectiveのほか、インターステラテクノロジズが超低コストロケットで高度100㎞到達に成功した。大手ではキヤノン電子などが宇宙事業の展開を始めており、同社を始めとした合弁会社スペースワンでは日本初の民間ロケット発射場の計画を進めている。また衛星関連ではないが月面探査を目指すispaceなどもある。

メガコンステレーションによるサービスが実行段階に

宇宙領域の中でも、数百基もの多数の衛星から成るメガコンステレーションの動きが活発化している。

Planet Labsは既にリモートセンシング用のコンステレーションシステムを構築、顧客に販売している。Googleの人工衛星事業(Terra Bella)を始めとした買収と自社製超小型衛星の打上げにより、現在運用する人工衛星は200基以上となっている。

その他計画されているものは通信用途が多い。Iridiumなど従来の通信コンステレーション(第1世代)が数十基といった水準であるのに対し、近年進められているインターネット用衛星コンステレーション(第2世代)は圧倒的な規模を持つ。SpaceXは既に約4,000基以上を打上げ、Amazon.comのKuiperも2023年10月にに打上げが開始された。一度経営破綻したOneWebも、2023年9月にEutelsat Communications(FRA)の傘下に入り、衛星数を増やしている。

通信コンステレーションへの注目度は高く、イーロン・マスク氏によるとStarlinkの受信端末は2022年9月時点で100万台に達した。ただし、Starlinkの全投資額は200~300億ドルといわれ、人工衛星の寿命を5年とすると300万人以上のユーザー数を要する。なおSpaceXは政府機関向けにセキュリティ(暗号化)を高めた衛星ネットワークStarshield を公表している。日本企業では、KDDIがStarlinkと業務提携を行い、通信サービスの提供を始めている。

主なメガコンステレーションの計画概要

出所:Uzabase作成

一次産業では既に活用事例が多数、さらなる拡大には二次、三次産業への提案が必要

低軌道衛星によるリモートセンシング事業が市場化するには、これまで需要先としては非常に小さかった、公共・通信・放送以外の一般産業での利用が拡大することが必須となる。

農林水産、鉱業などの第一次産業分野では既に複数の活用事例がみられている。エネルギー関連では、原油貯蔵量の把握、農業では生育状況をモニタリング、保険業界では災害の被災状況を一括把握する手法などが挙げられる。Orbital Insightは、世界の原油タンクの影をAIで解析し貯蔵量を推計したり、衛星画像にスマートフォンやカーナビのデータを組み合わせて小売状況などを分析したりするサービスを提供している。

ただし、現時点では二次・三次産業での利用は限定的であり、今後データ精度の向上や価格低下、様々なデータを組み合わせた活用方法の提案などが必要となる。

リモートセンシング活用の例

出所:Uzabase作成

青山 武史

青山 武史

グロービス経営大学院大学でMBAを取得し、キャリアを一貫してクリエイティブ、テクノロジー、ビジネスを高度に融合させた新規事業開発やイノベーションの創出を主導して来た。スタートアップ(最高事業責任者)や事業会社(マーケティング最高責任者)等でマーケティングからサービス開発までの新規事業開発の経験を積み、多くの事業で収益規模を拡大し、大手企業とのアライアンスに携わった。現在はYKK APにて新規事業開発部担当部長として、再生エネルギー事業の推進と新規領域の探索を担当。Point0を通して大手企業と共創活動を推進。渋谷未来デザインとSWiTCHとのカーボンニュートラルプロジェクト「CNUD」に参画。個人としても大手エネルギー企業のヘルスケ領域の新規事業開発支援コンサルティング実績多数。

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