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MeatTech

文章最終更新日:2024年01月22日

トレンド概要

植物肉から培養肉へ

従来の代替肉はヴィーガンやベジタリアン向けの大豆肉などが中心であった。その後、Beyond Meat(USA)やImpossible Foods(USA)のように、味、食感、見た目の点で肉に近い製品が登場し、一般の消費者にも利用が広がった(植物肉2.0)。さらなる発展形として、動物細胞を培養して全く同じたんぱく質を再現する培養肉も開発が進められている。本レポートでは、植物肉2.0(以下、植物肉)と培養肉に焦点をあてる。その他の植物性たんぱく質の代替品についてはトレンド「代替たんぱく質」を参照。

人工肉の種類

出所:Uzabase作成

人工肉需要の背景には健康・環境・動物福祉に関わる課題がある

人工肉が注目される背景には、健康・環境・動物福祉をめぐる消費者の懸念がある。

動物性たんぱく質の過剰摂取はさまざまな疾患の原因となる。たとえば赤身肉の多食は、がん、糖尿病、循環器疾患の発症率を高めることが複数の研究で指摘されている。Boston Consulting Group(BCG)が約3,700人を対象に実施したグローバル調査(2022年)では、回答者の75%が、より健康的な食生活を送ることを最大の目的として、植物性、発酵、または動物細胞ベースの代替たんぱく質(肉・卵・乳製品を含む)を消費していることがわかった。

植物肉の需要要因としては、健康面のほか、家畜の飼育により引き起こされる環境問題も懸念されている。前述のBCGの調査では、回答者の31%が植物肉消費の動機として気候変動を挙げている。2021年の調査によると、世界の食料生産におけるGHG排出量の約57%が動物性食品の生産によるものであった(植物性食品の生産は29%)。国連食糧農業機関(FAO)によると、2020年時点で陸地全体の38%が農業に利用され、その3分の2が家畜の放牧地となっている。一方、Good Food Institute(GFI)の調査では、植物性牛肉は通常の牛肉と比較して、水と土地の使用量を約99%、GHG排出量を90%削減できることが明らかとなった。

また、環境への影響と動物福祉の観点から、培養肉が注目されている。GFIが米国で実施した調査(2022年)では、培養肉を試す理由として、消費者は環境への配慮と動物福祉を2・3番目に挙げている。GFIの別の調査によると、培養肉は通常の牛肉よりも約66%少ない水で、より持続的に生産される。さらに、家畜の屠殺を必要としない培養肉はよりエシカルな代替品といえる。

各種課題への対応

出所:Uzabase作成

分子レベルの食品分析やバイオテクノロジーの発展が寄与

人工肉の新たなトレンドの背景には、肉に近い食品を作るための分析・生成技術の発展がある。従来の植物肉は主に見た目を肉に近づけることに重点が置かれていた。近年の技術開発では、たんぱく質の構造を分子レベルで解析することで、味や食感を再現することを目指している。

植物肉開発の重点分野

出所:各種報道資料を基にUzabase作成

培養肉の開発を後押ししてきたのが、再生医療で培われた組織工学技術である。たとえば、人工的に細胞の増殖を促す足場材料や細胞培養培地などの開発手法が応用されている。ただし医療分野のバイオテクノロジーと異なり、培養肉は大量培養技術がキーとなる。

人工肉の製造方法

出所:Uzabase作成

培養肉は厳しい規制対象に

人工肉に関わる規制は変わり続けている。植物肉については特に規制がないものの、成分や表示についてはより広範な食品規制に従う必要がある。成分に関して、米国食品医薬品局(FDA)は2019年、Impossible Foodsのバーガーパテに植物性の着色料を使用することを承認した。表示に関して、日本では明確な規制はないが、消費者の誤解を招かないよう植物肉表示に関するガイドラインを公表している。一方、「肉々しい(meaty)」「ベジタリアンミンチ(vegetarian mince meat)」など、通常の肉を連想させるような用語を植物肉に用いることを禁止する規制も多い。

対照的に、培養肉は通常の食肉と全く異なる製法であることから、厳しい規制の対象となる。一部の国ではすでに培養肉の製造・販売に関する法律が整備されており、培養肉の安全性に対する社会的認知・関心が高まっている。シンガポールでは、食品庁(SFA)が2020年に世界に先駆けて培養肉の販売を承認した。米国では、FDAおよび農務省の食品安全検査局(USDA-FSIS)が2023年にGOOD Meat(USA)とUPSIDE Foods(USA)の培養肉の販売を国内で初めて承認した。

培養肉に対する規制

出所:各種報道資料を基にUzabase作成

一方、日本では2022年に厚生労働省が専門家による研究班を設置、規制の枠組みについて検討している。中国では、農業農村部の「農業5カ年計画(2021-25年)」に基づき、食糧安全保障と持続可能な農業の確保を念頭に、培養肉や植物肉などの開発を推し進めている。

マネタイズ

いち早く登場した植物肉が人工肉市場をリード、培養肉は商業化に課題も成長見通し

市場調査会社Grand View Research(GVR)によると、世界の植物肉市場は2022年に44億ドル規模となった(同年の食肉・鶏肉・魚介類市場の1%未満)。2022-30年にかけては年平均成長率(CAGR)25%で成長すると予測されている。健康志向の高まりとともに、環境・倫理的な観点から食肉消費について考える消費者が増えている。メーカーによる味の改良も成長を下支えすると考えられる。

培養肉市場は2022年に2億ドル規模となり、同期間にCAGR50%で拡大する見通しである(GVR)。成長の背景には、消費者の受け入れが進んでいることや、食糧安全保障を見据えて政府が積極的に研究開発資金を援助していることがある。植物肉と同様、味と食感を改良するための継続的な技術開発が、さらに普及を後押しする。 しかし、生産規模の拡大と生産コストの削減が依然として課題であり、市場全体では比較的小規模にとどまるとみられる。

地域別では、2022年時点で北米が市場シェア約35%を占め、植物肉と培養肉の両市場をリードしている。北米の優位性は、研究開発や製造の基盤が強固であることに加え、食肉消費をめぐる問題について消費者の意識が高いことに支えられている。GFIの2022年の調査では、新しい商品への好奇心を1番の理由として、5割近くの消費者が培養肉を試したいと回答している。

植物肉事業を黒字化するには、生産規模の拡大と販管費の削減が不可欠

植物肉は豆類を主原料とすることが多く、食肉製品よりも低コストであるはずだが、現時点では製造手法や規模の問題などによって通常の食肉製品よりも割高となっているのが実態である。たとえば、Beyond Meatのバーガーパテの価格は、通常のバーガーパテの2倍となっている。

下表をみると、原価率ではBeyond Meatが食肉企業よりも6ポイントほど低い傾向にあるが、販管費がかさんでいる。原理的にいえば、これらのコストは規模の拡大に伴い、相対的に引き下げることができる。しかしそのためにはまず売上を大きく伸ばさなければならず、その需要を喚起するための販管費には今後も継続的かつ大きな投資が必要となると考えられる。

現状、販管費が高すぎるためすべてを価格に転嫁するのは現実的でない。価格が高いゆえに売上が伸びない可能性もある。全米協同組合銀行CoBankによると、2023年の米国における植物肉の売上高は、価格の上昇もあって前年比約15%減少した。したがって、植物肉メーカーが黒字を達成するためには、生産規模の拡大と販管費の削減が不可欠である。

植物肉・通常の食肉メーカーの主要財務指標比較

出所:各社公表資料を基にUzabase作成

注1:通常の食肉メーカーの数値はJBSとTysonの5年間(2018-22年度)の平均値

注2:Tysonは9月期決算

培養肉では培養液のコスト低下に目途がつき大規模化による固定費圧縮を目指す

培養肉は現在試作段階であり、日本での製造コストは100gあたり約4万4,000円ともいわれる(300ドル、日本の培養肉メーカーインテグリカルチャーに基づく)。 しかし、今後技術開発を進めることで5年程度を目途に実用化、通常の肉と同等のレベルを目指している。インテグリカルチャーでは、生産規模拡大と技術開発により、2028年までに製造コストを約150円(1ドル)まで引き下げることを目標としている。

培養肉のコストを下げる要素としては、培養液の低コスト化と大規模化・自動化が挙げられる。現在培養液は牛胎児血清(FBS)など動物由来成分を使用しており、そのコストが生産費用を押し上げているが、動物由来成分を使用しない培養液によって変動費の大幅なコスト低下が可能となった。今後は大規模生産設備で生産効率を引き上げて固定費を圧縮し、さらなる低コスト化を見込む。

培養肉の製造工程

出所:Uzabase作成

未来

協業を通じてコスト効率と技術力強化を追求

植物肉分野では、バリューチェーンの川上(製造)および川下(流通)事業者とメーカーの協業がみられる。Beyond Meatは、自社で原材料を繊維に加工し、それを共同メーカーに出荷・商品への加工を委託する一方、一部の商品についてはすべての工程を内製している。Impossible Foods(USA)は食品加工会社OSI Group(USA)と共同で植物肉パテ「Impossible Burger」を製造している。共同製造により生産規模の不足を補い、コスト削減と生産効率の向上が可能となる。

川下工程では、卸売業者、小売業者、外食事業者などと連携し、商品を広く流通させることで、消費者の認知・受容性の向上に努めている。Beyond Meatは、McDonalds(USA)やKFC(USA)といったファストフードチェーンと提携し、ハンバーガー、サブマリンサンドイッチ、フライドチキンなどのメニューに植物肉製品を取り入れている。日本では、代替肉スタートアップのネクストミーツ開発の焼肉商品が国内の大手外食チェーンで採用されている。

培養肉については Steakholder Foods(ISR)のように食肉企業に対して技術を提供するプレイヤーもみられる。細胞培養は設備投資にコストがかさむほか、特許によるライセンス供与が可能であることから、今後こうした事例は増加すると考えられる。なお、Steakholder Foodsは2023年に食肉メーカー向けに培養肉専用3Dプリンタの提供を開始した。

食肉関連のバリューチェーン

出所:Uzabase作成

植物肉はアーリーアダプター段階で停滞

植物肉製品の取り扱いが増えている一方で、消費者への浸透度は今一歩である。Beyond Meatの売上高成長率をみると、2019年までは順調に成長していたが、2021年以降は横ばいから微減傾向である。これは、植物肉の価格と味に対する消費者心理が影響していると考えられる。2023年に英国で実施された調査では、消費者が植物肉の消費を控えたり止めたりする理由として、味の悪さと価格の高さが上位2要因として挙げられた。また、高価格につながる主要原料の不作、健康上のメリットが明確でないこと、製品の種類の少なさによって消費者への受け入れが進んでいないとみられる。

市場から撤退するプレイヤーも出ている。植物肉のバーガーパテを開発するThe Very Good Food Company(CAN)は2023年2月、継続的な損失計上を理由に事業を停止した。同年8月には、植物由来のチキンナゲットを製造するNowadays(USA)も流通規模拡大の難しさを理由に事業を閉鎖した。

普及フェーズでいえば、アーリーアダプターからアーリーマジョリティーへの移行に苦戦している状況がうかがえる。直近、物価高騰の影響もある中で、消費者の食習慣として根付くにはさらなる製品改良や地道なニーズの掘り起こしが必要と考えられる。

Beyond Meatの売上高増加率(前年同期比)

出所:公表資料

培養肉では課題はあるものの実現目前の段階に

培養肉が通常の肉と同じように使われるには、価格低下、培養速度、臭いなどの味・風味、培養の難しい塊肉など形状・食感といった課題を解決する必要がある。最大のポイントである価格低下については、成長因子を始めとした培養液の低価格化と大規模化が主な論点となっている。また、形状・食感も重要な要素であり、現時点では効率性が高いとされる液体中での培養では肉の食感を出せないため、植物肉や足場材料を使用するもの、3Dプリンタを用いるものなどさまざまな手法が開発されている。

こうした技術的課題は残りつつも、複数の企業がパイロットプラントの建設を行っている。また、2020年にはEat Just(USA)がシンガポールで、2023年にはEat JustやUPSIDE Foodsが米国で、一部の飲食店向けに培養鶏肉の販売を開始した。

ただし、培養肉企業New Age Eats(USA)のように、2021年にはパイロットプラントの建設計画を発表していたが、投資を呼び込めず閉鎖する企業も出てきている。

培養肉の成形技術

出所:Uzabase作成

各国・地域の規制にも影響される可能性がある。EUの新規食品規制はコストと時間のかかる承認プロセスを要することから、2024年1月現在、EUでは承認された例はない。これに対し、米国では2社が承認されている。また、自国の食文化を守るために規制を設ける国もある。イタリア政府は2023年11月、同国の伝統的食品産業を保護するため、培養肉の生産・販売を禁止する法案を可決した。同年12月にはフランスでも、加工食品としての懸念から培養肉を禁止する法案が提出されている。

青山 武史

青山 武史

グロービス経営大学院大学でMBAを取得し、キャリアを一貫してクリエイティブ、テクノロジー、ビジネスを高度に融合させた新規事業開発やイノベーションの創出を主導して来た。スタートアップ(最高事業責任者)や事業会社(マーケティング最高責任者)等でマーケティングからサービス開発までの新規事業開発の経験を積み、多くの事業で収益規模を拡大し、大手企業とのアライアンスに携わった。現在はYKK APにて新規事業開発部担当部長として、再生エネルギー事業の推進と新規領域の探索を担当。Point0を通して大手企業と共創活動を推進。渋谷未来デザインとSWiTCHとのカーボンニュートラルプロジェクト「CNUD」に参画。個人としても大手エネルギー企業のヘルスケ領域の新規事業開発支援コンサルティング実績多数。

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