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医療ロボット

文章最終更新日:2024年01月30日

トレンド概要

診断や手術の自動化により医師を支援する医療ロボット

医療ロボットは、医師や看護師の日常業務や精密作業を自動化する。具体的な用途としては、診断、遠隔手術、外科訓練、遠隔診療、リハビリテーション、障がい者支援、検査業務の自動化、薬局業務の自動化、義肢などの補綴(てつ)などがある。本レポートでは、診断・手術用の医療ロボットに焦点を当てる。

通常、医師は手作業で患者の診断や手術を行うため、医師や手術チームのスキルに依存し医療には相当な時間と費用を要する。これに対し、医療ロボットは人の介在を減らし、医療費の削減、手術室の合理化、手術時間や患者の回復にかかる期間の短縮、さらに医療従事者がより本質的な業務に集中できるといったメリットがある。

医療を変革する医療ロボットの事例 

出所:Uzabase作成

医療従事者不足を背景に需要が拡大

世界各国では今後、医療従事者不足が懸念されている。WHOによると、2030年までに世界の医療現場で約1,000万人もの人手不足が生じると予測されている。こうした現状から、医療ロボットによる医師の代替、または支援が期待されている。

学術医療団体である米国医科大学協会(AAMC)によると、米国では2034年までにプライマリケア医(患者が日常的に抱える様々な健康上の問題にいつでも幅広く対処できる能力を身につけている専門医)が1万7,800~4万8,000人、プライマリケア医以外の専門医が2万1,000~7万7,100人程度不足すると推定されている。

中国では、こうした医療従事者の不足に加え、農村部の医療施設の不足から都市部の病院の混雑も生じており、政府は医師の負担を軽減するため医療ロボットへの投資を急いでいる。

精度の高さ、データドリブンな意思決定、動作の柔軟性が診断・手術時の医師をサポート

クリアな視野の確保や繊細な動きを支援する医療ロボットを導入することで、手術医はより精度の高い施術を行うことが可能となる。こうした小回りの利く小型ロボットの実現には、柔らかい超弾性素材や3Dプリンタによる軟質プラスチックの開発が一役買っており、治療部位に隣接する組織を誤って傷つけないよう工夫されている。

また、ロボットはデータや施術手順を保存して呼び出すことができ、それらを分析して機械学習に使用するため、データを基にした最適な診断と手術を導き出す。医療ロボットとデータを組み合わせることで、手術医による正確な意思決定を支援でき、安全性や手順の精度が向上する。

最終的には、これまで人間の医師では難しかった高度な手術も医療ロボットの支援によって可能になることが望まれる。医療ロボットの繊細かつ柔軟な動作により、複雑な体内構造や手の届きにくい部位に対して正確な治療を行うことができる。たとえば、米国の市場調査会社Ipsosによると、ロボットは骨盤へのアクセスを容易にするため、手術時の皮膚切開範囲が小さく済み、その分回復も早めることが期待される。

規制当局の承認も進む

2000年には、Intuitive Surgical(USA)の手術支援ロボットda Vinci Surgical Systemが一般的な腹腔鏡手術用の医療機器としてFDAに承認され、医療ロボットの発展を大きく前進させた。

医療ロボットの導入増加の背景には、こうした規制当局による承認が進んでいることが挙げられる。米国、日本、中国をはじめ各国の規制当局は、医療ロボットの定義を満たすすべての機器について病院での使用を承認するにあたり、製品の安全性、臨床上の安全性、品質要件の遵守の3つの技術的要件を評価する。

米国・中国・日本における医療ロボットの規制・承認制度

出所:Uzabase作成

センサ、カメラ、ロボット技術の高度化が医療ロボットの普及を促進

センサとカメラは、医療ロボットの進化に必要不可欠であり、世界の医療システムに変革をもたらしている。医療ロボットが状況に対応し作業を行うためには多数のセンサが必要となる。ロボットの関節には位置センサやトルクセンサ、位置の決定や動作にはジャイロスコープや加速度計、反応の感知には圧力センサや画像センサが必要となる。現在の医療ロボットが搭載するスマートセンサは、アルゴリズムにより診断や手術時に医師を支援する。機械学習を積むことで医療従事者の作業負荷を低減し、ひいては1人の医師が対応できる患者数が増える。

たとえば、「触覚センシング」と呼ばれるセンサ技術により、医師は遠隔で患者の組織に触れることができ、医療ロボットを手や眼の代わりとして使うことができる。触覚センサの価格は313~812ドルと、仕様によって幅がある。また、高解像度のCCDやCMOSを使用したカメラにより、より細かい手術を行えるようになる。

さらに、ロボット技術の高度化も医療業界でのロボット普及をけん引する。ロボットアームは、小型で360度回転するため、人間の手よりも効率的に手術を行うことができる。施術による人体への負荷を最小限に抑えることで、傷跡の残りにくさや入院・回復期間の短縮、術後の経過の点でもメリットがある。

マネタイズ

世界の医療ロボット市場は今後10年で大きく飛躍する見通し

医療ロボット市場は依然として黎明期にあり、メーカーやサプライヤーには大きな未開拓市場が広がっている。市場調査会社のGrand View Research によると、2022年は約210億ドル規模となり、2022-30年にかけては年平均成長率(CAGR)約17%で成長すると予測されている。医療ロボットはまた、年間のメンテナンス料や特定施術に関わるサービス料金など、メーカーにとって継続的な収入源となりうる。

医療ロボットメーカーは高い売上高成長率を享受

下図に示すように、医療ロボットメーカーであるIntuitive Surgicalの10年間のCAGRは、一般的な医療機器メーカーに比べて高い。2000年のda VinciのFDA承認以来、2023年6月時点で8,285台超の手術用ロボットを納入、2022年だけで200万件近い手術の支援を行っている。

医療機器メーカー売上高の10年間のCAGR

出所:各社公表資料

注1:Medtronicは 4月期決算、Siemens Healthineersは9月期決算

注2:Siemens Healthineersについては2014-22年度、その他の企業については2012-22年度のCAGRを示す

医療ロボットはステークホルダーに売上増加やコスト削減の機会をもたらす

医療サービス事業者は、医療ロボットを活用することで、従来よりも多くの患者に対して診断や手術を行うことができるようになり、大きな収益機会につながる。いくつかの研究では、術後の経過が良く回復が早いことを理由に、患者は手術用ロボットを備えた病院を選好する傾向があることが分かっている。回復にかかる期間をみると、通常の腹腔鏡手術では約6日であるのに対し、医療ロボットを活用すると5日程度へ短縮される。また、医療ロボットの遠隔治療オプションにより、病院は地域の壁を取り払い、より幅広い患者層の治療が可能となる。

医療ロボットシステムの導入には固定費と変動費がかかるが、長い目でみれば医療機関側へのメリットが大きい傾向がある。ニュージーランド・オークランド大学が2015年(入手可能な最新データ)に行った調査によると、地域のクリニックで医療ロボットを導入した結果、診察1件あたり約18%の時間短縮につながった。この効率化により、クリニックはロボットシステム費用の2倍の年間利益を得た。同調査では、医療ロボットは都市部以外の地域でも活用メリットがあることがわかった。

病院は、以前は多くの医師や看護師で対応していた一部の治療をロボットで代替することで、人員の削減によるコスト削減も実現できる。Accentureが2020年7月に公表した調査によると、米国の医療業界は、手術用ロボットを活用することで2026年までに年間400億ドルのコスト削減が実現できるとしている。

また保険会社は、医療ロボットによる治療を保障範囲に含むことでより高額な保険料の設定が可能となる。医療ロボット支援手術の手順は自動的に記録され、必要に応じて保険会社と共有でき、保険金請求の正確さを検証できる。たとえば米国の保険会社では、da Vinciを使用した手術は人体への負荷が少ない低侵襲手術とみなされるため保険が適用される。

医療ロボット導入によるステークホルダーへのメリット

出所:Uzabase作成

既存の医療ロボットは高コスト、費用対効果の高い製品開発が進む

さらなる実用化に向けてボトルネックとなっているのはコストである。シドニー大学の調査によると、ロボット支援手術(RAS)システムは2021年には手術費用の最大6割を占めたとみられる。2016年のイタリアの学術調査によると、損益分岐点に達するためには、医療ロボットを購入した病院において349件以上の手術を実施する必要がある(入手可能な最新データ)。また、2019年時点でロボット手術用の関連機器や付属品は非ロボット手術用のものと比べ866ドルほど高く、ロボット支援による手術の費用は一般的な腹腔鏡手術に比べ少なくとも約2,600ドル高いことも調査で明らかになっている(入手可能な最新データ)。

世界的によく知られたIntuitive Surgicalの医療ロボットシステムでもかなり高額である。da Vinci Surgical Systemの価格は、2022年の当社試算で1システムあたり200万ドルを超える。システム本体のほか、導入後は年間合計60万ドル強の費用が継続的にかかってくる。このシステムを手術案件ごともしくはリースで購入した場合でも、医療機関は年間22万ドル以上を負担することとなる。

上記のコスト懸念の結果として、低コストのロボット開発が始まっている。たとえばCambridge Medical Robotics(CMR)は、da Vinci Surgical Systemのように人間の腕を模したVersiusを開発した。アームは腹腔鏡手術を行うためのもので、ヘルニアの修復、大腸手術、前立腺、耳、鼻、喉の手術などに用いられる。同製品は汎用性が高く、あらゆる手術に利用でき、手術室間の移動も可能となっており、2019年後半に商用化された。

以下の分析では、Versiusはda Vinciに比べ約7倍費用対効果が高く、また年間コスト負担もda Vinciの9分の1程度に抑えられる。したがって医療機関にとっては、機能面で大きな違いがないこと考えると、Versiusシステムの方が費用対効果の面で導入しやすいと考えられる。

da VinciとVersiusのコスト比較

単位:ドル

出所:Uzabase作成

注1:平均システム費用は、製品・サービスの販売額合計とシステム販売台数の合計に基づき算出

注2:年間運用費用(リース費用除く)は、「導入後システムあたりの平均年間使い捨て器具・付属品」と「導入後システムあたりの平均年間サービス・トレーニング費用の合算値

未来

部品の多くをサプライヤーから調達し、ソフトウェアを付加し販売

医療ロボットは、ロボット工学とAIを活用して診断と手術を行う。それぞれの医療ロボットは、提供される治療方法と種類によって異なる。したがって医療ロボットメーカーは、さまざまな外部サプライヤーから部品を調達している。たとえばロボットメーカーのElekta(SWE)は、450社以上のサプライヤーから製造プロセスで使用する部品の8割を調達している。

Intuitive Surgical、Elekta、Neocis(USA)などのロボットメーカーは、サードパーティ製の部品から製品を組み立て、ソフトウェア機能を付加し販売している。医療ロボットが最も影響を与える業界はヘルスケア業界である。保険会社などの他のステークホルダーも、医療ロボットによる手術をカバーする保険商品を提供する必要がある。

医療ロボットに関連するバリューチェーン

出所:Uzabase作成

M&Aや提携によりテクノロジーを獲得

医療サービス事業者にはロボットを開発する技術的知見がなく、テクノロジー企業には必要とされる医学的知見が不足しているため、プレイヤー間の提携によりシナジーを実現するのが一般的である。提携により、医療サービス事業者は市場性が見込まれるロボット工学分野にアクセスでき、テクノロジー企業は医療サービス事業者がもつ医療のノウハウと患者のデータにアクセスできる。

たとえば、川崎重工業とシスメックスは2013年に合弁会社メディカロイドを神戸に設立し、一般的な医療機器メーカー向けの医療ロボットを開発、製造、販売する。同様に、Google(USA)は2015年に安全で費用対効果が高く、よりスマートな手術用ロボットを開発するためEthicon(USA)と合弁会社Verb Surgical(USA)を設立した。手術用ロボットメーカーのQuantum Surgical(FRA)は2020年6月、低侵襲がん治療ロボットの強化に取り組むために、産業用自動化ソリューションの世界的提供企業であるStäubli Roboticsと提携した。

整形外科医療機器メーカーのCurexo(KOR)は、同社の医療ロボットにMicrosoftのAIツールを搭載する目的で2023年3月にMicrosoftと提携した。現在、同医療ロボットによる外科手術への関与は限られているが、この提携を通じて得た技術により、外科医に対し手術前提案を提供することを目指している。

医療機器メーカーのAlphatec(USA)は2023年4月、Fusion Robotics(USA)のロボット対応低侵襲(REMI)システムを買収した。REMIの統合により、手術の予測性の向上、放射線被曝の低減、術中精度の改善が期待される。

米国、日本、中国を中心に世界の国々が医療ロボットを開発

世界初のロボット支援手術システムの一つであるda Vinci Surgical Systemは、低侵襲手術の手法で複雑な手術を支援する。同システムは一般に前立腺切除術に使用され、心臓弁の修復や婦人科手術への使用も増えている。Intuitive Surgicalは医療ロボット開発のパイオニアとして、2023年6月時点で8,285台以上のda Vinciシステムを世界で導入し、幅広い特許ポートフォリオを有している。

また、医療ロボット市場には、既存の医療機器メーカーも参入している。Medtronic(IRL)のロボット支援手術システムHugoは、2021年6月にチリで初の臨床手術を行い、同年10月に欧州でCE認証を取得した。2022年2月には欧州で1件目の手術を完了した。日本やカナダなどの主要国でも承認されている(2022年10月時点)。2022年12月、同社は米国で最初の臨床試験患者を登録したと発表した。

他方で、技術が次々とアップデートされ業界大手の持つ特許が期限を迎えるほか、大きな市場性が見込めることなどから、多くの中国企業が医療ロボット開発に参入している。一例として、北京のTinavi Medical Technologies(北京天智航医療科技、CHN)が開発したTinaviロボットは、2023年第1四半期時点で中国国内の病院に170台以上設置され、これまで4万件超の手術に用いられている。

日本ではオリンパス、リバーフィールド、川崎重工業、メディカロイドなどが手術支援ロボットの開発を行っている。メディカロイドは、2020年に国内の医療機関向けに国産初の手術用ロボットhinotoriを発表した。その後2022年9月時点で、28の医療施設にhinotoriが導入されており、同ロボットが2030年までに約1,000億円(約7.13億ドル)の収益を上げると同社はみている。2023年9月にはシンガポールの規制当局から承認を取得。

血管内手術、整形外科、腹腔鏡手術用ロボットの実用化も近い

米国の前臨床医療機器メーカーであるMicrobot Medical(USA)は現在、管腔内視鏡手術用のロボット支援システムを開発中である。また同社によると、世界初の血管内手術用体外排出ロボットを開発したとしている。同社が想定しているロボットシステムは、血管内治療に使用できる数少ないロボットになるという。2023年12月、同社はGLP(優良試験所基準)適合性調査を完了。さらに、FDAへのIDE(治験用機器免除)申請に向け米国の臨床インフラを拡張した。

また、整形外科医療機器メーカーのTHINK Surgical(USA)は、Curexoの新しいロボットシステムCUVIS-Jointを2022年8月に米国で開発・販売開始することを目指しCurexoと提携を結んだ。このシステムは、すでにインドと韓国では順調に販売を開始しているが、米国内ではまだ承認されていない。Moon Surgical(FRA)は、ロボット手術システム「Maestro System」を通じて腹腔鏡手術のソリューションを提供するMedTechスタートアップである。2022年12月に初のFDA承認を取得した。その後まもなく、ベルギーの公立大学病院であるCHU Saint-Pierre病院で、初の人体内腹腔鏡手術を完了したと発表している。

医療用ロボットメーカーのNoah Medicalの「Galaxy System」は、2023年3月にFDA承認を取得した。同ロボットシステムは、気管支を介した検査・治療を可能とし医療従事者を支援する。承認を受け、間もなく商業段階に入る見込みである。

Johnson & Johnson MedTech(USA)は2023年11月、ロボット手術システム「OTTAVA」について2024年下半期にFDAへIDE申請を行い、臨床試験を開始する意向を表明した。

青山 武史

青山 武史

グロービス経営大学院大学でMBAを取得し、キャリアを一貫してクリエイティブ、テクノロジー、ビジネスを高度に融合させた新規事業開発やイノベーションの創出を主導して来た。スタートアップ(最高事業責任者)や事業会社(マーケティング最高責任者)等でマーケティングからサービス開発までの新規事業開発の経験を積み、多くの事業で収益規模を拡大し、大手企業とのアライアンスに携わった。現在はYKK APにて新規事業開発部担当部長として、再生エネルギー事業の推進と新規領域の探索を担当。Point0を通して大手企業と共創活動を推進。渋谷未来デザインとSWiTCHとのカーボンニュートラルプロジェクト「CNUD」に参画。個人としても大手エネルギー企業のヘルスケ領域の新規事業開発支援コンサルティング実績多数。

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