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マイクロモビリティ

文章最終更新日:2024年01月23日

トレンド概要

マイクロモビリティで都市交通課題を解決

マイクロモビリティ(超小型モビリティ)とは、自動車よりコンパクトで小回りが利き、環境性能に優れ、地域の手軽な移動の足となる1~2人乗り程度の車両を指す。電動キックボード、自転車、電動自転車、コンパクトな三輪車や四輪車などがこれに該当する。

マイクロモビリティのコンセプトは、都市の交通渋滞や大気汚染の緩和、移動時間の短縮を主な目的として提唱された。本レポートでは、マイクロモビリティ車両を製造する企業や車両の販売・シェアサービスを手がける企業に焦点をあてる。

マイクロモビリティと一般的な交通手段の比較

出所:Uzabase作成

都市の交通渋滞は大気汚染とアイドリング増加の原因

経済活動の中心である都市部には、企業のオフィスが多く所在し、人の流れが集中する。公共交通網が十分に整備されていない場所では、自家用車に頼らざるを得なくなり、交通渋滞が発生しやすくなる。McKinsey Handbook(2021年版)によると、米国都市部の渋滞は2010-20年にかけて20~35%増加した。また、Bloomberg(INRIXの調査に基づく)によれば、多くの都市の交通量がコロナ前と同水準かそれ以上となっており、EUでは42%、米国では39%の都市部でコロナ前より渋滞が増えている。

自動車による渋滞は、窒素酸化物や温室効果ガス(GHG)などの汚染物質を含む排気ガスを増幅させる。Fleet NewsとBBCによれば、特に従来型の燃料車は都市環境で短距離走行する際、より多くの炭素を排出する。

車種別の排出量比較

出所:国際交通フォーラム(ITF)2020資料

注1:都市交通車両のライフサイクル全体を考慮した1kmあたりのGHG排出量をITFが推計

注2:ICE(内燃機関)、BEV(バッテリー式電気自動車)、HEV(ハイブリッド自動車)

また、渋滞によって、自動車のアイドリング時間が長くなる。PwC が2022年に実施したスマートシティに関する調査によると、調査対象都市の住民のアイドリング時間は年間平均111時間に及ぶことが明らかとなった。これは、住民の総労働時間の5%に相当し、アイドリングは経済活動にも影響を及ぼしていることがわかる。

安全規則・炭素排出規制がマイクロモビリティ導入の追い風に

近年、持続可能なモビリティ社会の実現に向けた各国政府の取り組みが活発化しており、マイクロモビリティの普及を後押ししている。車両による炭素排出を抑制しながら、マイクロモビリティの安全性を確保するためのルール作りが国や地域レベルで進められている。

ほとんどの国がマイクロモビリティに有利な施策を打ち出しているが、導入に慎重な立場を示す国もある。オランダでは、安全上の懸念と都市部のインフラ不足を理由に、公共の場所や公道・歩道での電動キックボードの使用を制限する立場をいまだ崩していない。

主要国におけるマイクロモビリティに関わる規則

出所:Uzabase作成

主要国における地域レベルの排出規制

出所:Uzabase作成

注:国レベルの規制・政策についてはトレンド「電気自動車」を参照

政府主導でインフラ整備と促進策を実施

各国政府は、マイクロモビリティの普及を促進するため、ルール作り以外にもさまざまな取り組みを打ち出している。この一例として、マイクロモビリティ専用レーン、充電ステーション、専用駐車スペースなどのインフラ整備が挙げられる。マイクロモビリティ専用のインフラを整備することは、車両の安全性を確保し、利用者が安全走行を具体的に認識する上で重要となる(TIERの2022年調査)。

また、個人と企業の双方に補助金や税制優遇措置を提供するなど、マイクロモビリティ促進策も導入し始めている。

主要国におけるマイクロモビリティ普及に向けた取り組み例

出所:Uzabase作成

電池の低価格化とシェアモビリティアプリの開発により、費用対効果と利便性が向上

マイクロモビリティの価格は電池の価格に大きく左右される。とりわけ重要性が高いリチウムイオン電池の価格は、過去10年間で一貫して大きく下がっている。Bloombergによると、リチウムイオン電池の平均価格は2013年の1キロワット時(kWh)あたり732ドルから2023年8月には98ドルへと年間18%で低下している。これにより、電動のマイクロモビリティ車両の低価格化も促進される。

また、電池技術の向上により、より軽量でエネルギー密度の高い電池の生産が可能となったことで、省エネを実現しながら走行距離を伸ばすことができるようになっている(Emerging Technology News)。

リチウムイオン電池の売買高加重平均価格の推移

出所:Bloomberg New Energy Finance(BNEF)

注:電池パックおよびセル価格を考慮

スマートフォンのアプリによってマイクロモビリティシェアの利便性も向上している。アプリからシェア用車両の位置を確認したり、ロックを解除したりする操作が行えるようになった。さらに、安全機能とパーソナライズ機能の強化も進む。たとえば、電動キックボードシェアリング大手LimeはAIを活用した「Lime Vision Platform」を発表。このプラットフォームは、最適なルートの提案やキックボードの歩道検知など、衝突や怪我、飲酒運転のリスクを低減する安全技術を提供する。

マネタイズ

マイクロモビリティの世界市場でアジア太平洋がトップを走る

MarketsandMarketsによると、世界のマイクロモビリティ市場は2022年に売上高ベースで34億ドル規模となった。2027年にかけては年平均成長率(CAGR)12.5%で成長し61億ドル規模に達すると見込まれている。

地域別では、Precedence Researchによると、アジア太平洋が2022年時点で46%と最大の売上高シェアをもつ。今後2023-32年にかけてもCAGR13.1%で最も大きく成長する見通しである。同地域の優位性は、急速な都市化、可処分所得の増加、アジア諸国政府の支援策などに支えられている(TechNavio)。

車両の稼働率がマイクロモビリティ企業の収益性維持のカギ

マイクロモビリティシェアサービスを提供する企業の収益性を改善・維持するには、車両の稼働率が重要となる。最適な稼働率(車両1台の1日あたりの乗車回数)を保つには、十分な車両台数を確保する必要がある。ただし、供給しすぎれば稼働率が低下してしまうため、最適な車両台数を見極める必要がある。

BBCでは2019年、大量のシェアサイクルが中国の都市中心部に放置される様子が報じられた。この背景として、Xiaoming Bikeやofoなど、中国にはドックレス型(乗り捨て)のシェアサイクル企業が40社以上も存在する。これらの企業は堅実な財務体質のもと設立されたが、市場の飽和状態により車両が増えすぎたうえ、企業の倒産も相次いだ結果、大量の自転車が通りや河川敷、サイクリングロードなどに乗り捨てられる事態となった。しかし反対に、車両台数を少なく配置すれば、利用者にとって最寄りの車両を見つけるのが難しくなる。したがって、供給の過不足は企業の売上高やコストにマイナス影響を及ぼす可能性がある。

以下のシナリオ分析では、利用者獲得のためのマーケティングにすでに多額の投資を行っている企業を想定している。マイクロモビリティシェアサービス企業は、固定費、事業規模に連動する固定費、変動費の主に3種類のコストを負担している。固定費にはソフトウェア開発費や管理部門の人件費などが含まれる。これらのコストは稼働率に関係なく発生し、売上高が低ければ売上高に占める割合が高くなる。事業規模に連動する固定費は2番目に大きなコストであり、減価償却費、メンテナンス費、保険料などが含まれる。これらのコストは供給する車両台数に比例して増加し、稼働率が低ければ売上高に占める割合が増加する。変動費には電気代などが含まれ、稼働率によって変動するが、売上高に占める割合は一定である。

下表のシナリオ1では、稼働率が比較的高く、黒字化できている。シナリオ2では、シナリオ1と同じ車両台数を保有しているが、稼働率が低いため売上高も低い。その結果、固定費と事業規模に連動する固定費の両方が売上高に占める割合として増加した。シナリオ3では車両台数を増やしたものの、稼働率がさらに低下し、事業規模に連動する固定費の割合が著しく高くなるため(売上高の96%近く)、赤字となっている。

マイクロモビリティシェアサービス企業の車両台数と稼働率に基づくシナリオ分析

出所:Uzabase算出

注:乗車料金4ドルはロック解除料金および1分あたりの乗車料金を含む。1分あたりの料金は都市によって異なる場合がある

未来

パートナーシップ戦略によりシェアを拡大

マイクロモビリティ企業は、事業規模と市場シェアを拡大するためにパートナーシップ戦略を採用している。垂直統合では、電池メーカー、キックボードメーカー、ナビゲーションシステムサプライヤーなど、バリューチェーンに携わる企業を買収する。水平統合では、既存のマイクロモビリティ企業や配車サービス企業を買収・提携する。

また、インターモーダル統合は、マイクロモビリティ企業が地域の行政機関や公共交通事業者と提携する戦略である。より持続可能で効率的な都市交通を構築するニーズの高まりから、近年インターモーダル統合が用いられるケースが増えている。

Rideaikeによると、電動キックボードがシェアサービスに用いられる場合、車両の寿命は9~18か月程度と比較的短い。古くなった車両や電池のリサイクルで、Redwood Materialsのような廃棄物管理・リサイクル事業者との提携機会が生まれる。

マイクロモビリティのバリューチェーン

出所:Uzabase作成

関連業界:自動二輪車、自転車、配車サービス

マイクロモビリティ企業のパートナーシップ戦略

出所:ニュース記事および各社ウェブサイトを基にUzabase作成

自動二輪車・自動車メーカーもマイクロモビリティに参入

利便性が高く環境に配慮した移動手段を求める需要の高まりを背景に、自動二輪車、自転車、自動車メーカーも電動マイクロモビリティ製品を展開し始めている。また、既存のマイクロモビリティ企業に出資する形で市場に参入するメーカーもある。

既存のモビリティ企業による参入事例

出所:ニュース記事および各社ウェブサイトを基にUzabase作成

青山 武史

青山 武史

グロービス経営大学院大学でMBAを取得し、キャリアを一貫してクリエイティブ、テクノロジー、ビジネスを高度に融合させた新規事業開発やイノベーションの創出を主導して来た。スタートアップ(最高事業責任者)や事業会社(マーケティング最高責任者)等でマーケティングからサービス開発までの新規事業開発の経験を積み、多くの事業で収益規模を拡大し、大手企業とのアライアンスに携わった。現在はYKK APにて新規事業開発部担当部長として、再生エネルギー事業の推進と新規領域の探索を担当。Point0を通して大手企業と共創活動を推進。渋谷未来デザインとSWiTCHとのカーボンニュートラルプロジェクト「CNUD」に参画。個人としても大手エネルギー企業のヘルスケ領域の新規事業開発支援コンサルティング実績多数。

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