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ノーコード開発

文章最終更新日:2023年09月11日

トレンド概要

「ノーコード開発プラットフォーム」はプログラミングスキルがなくてもアプリやサイトを作成できる

ノーコード開発プラットフォーム(NCDP)とは、プログラミング知識やスキルがなくても、業務支援アプリやモバイルアプリ、ウェブサイトを簡単に作れるバーチャルな開発環境である。様々なテンプレートやフィルター、データクエリ、ウィジェットを備え、コードを書かなくてもドラッグドロップ操作でプログラムを構築できる。

「ローコード開発プラットフォーム」もこれと同様に、プログラム開発の期間短縮・効率性アップを実現するもので、NCDPと同義で扱われることが多い。ただ、NCDPは事業部門の現場担当者(非エンジニア)を主なユーザーとしているのに対し、ローコード開発プラットフォームはコーディング知識を持つエンジニアを主なユーザーとしている点で異なる。

NCDPが登場する以前は、専門エンジニアがプログラムのコーディング・バグ修正・変更を行い、システム更新を一手に担ってきた。このため、コード言語を用いた従来のソフト開発手法には、多大な労力と相当の時間を要し、必然的に多額の費用がかかっていた。こうした要因から、非エンジニアでもプログラム開発ができるNCDPへのニーズが拡大している。

NCDPはウェブ開発からワークフローの自動化、データサイエンスまで、多様な用途に対応している。主なユーザーは1)起業家・スタートアップ、2)SME、3)大手企業、4)公的機関である。起業家・スタートアップは市場投入までの時間短縮、SMEは限られた自社リソースの有効活用を目的にNCDPを活用する。一方、大手企業では予算内での業務運営、社員のエンパワーメントやIT部門社員の負担軽減、公共機関では、コスト削減とサービスの質の向上を視野に同技術を利用することが多い。

NCDPの活用事例

出所:Openasapp、VentureBeat、Klaviyo、Forbes、Amazonの資料を基にUzabase作成

低コスト・開発期間の短縮によりエンジニア不足解消の一手として期待される

近年、多くの国でエンジニア不足が大きな課題となっている。Manpower Groupの調査によると、2022年時点で、米国、日本、中国ではエンジニアが「人材不足を抱える職種」の上位5位に入っている。

米国労働統計局のデータによると、ソフト開発業界の求人数は2021-31年にかけて約25%で増加する見通しであり、人材不足は今後ますます深刻化するとみられる。これと同様に、日本でもエンジニアの需給ギャップが拡大している。The Japan Newsによると、日本のIT人材は2018-30年にかけて約10%増加すると予想されているが、それでも79万人の人手不足になるとみられる。

また、このような世界的なIT人材不足に伴い、クラウドコンピューティング、データサイエンス、AIなどの分野において企業間の競争が激化しているため、同職種の基本年収は年々上昇している。ただし、このようにIT分野の年収が上昇しているにもかかわらず人材の不足が続いているのは、同分野が常に進化し、新しいプログラミング言語、ツール、プラットフォームを導入していることも要因とみられる。目まぐるしい進化は、エンジニアが必須スキルを習得できるペースを超えており、結果として人材の需給ギャップが続いてしまう。加えて、Harvard Business Reviewが2021年に実施した調査では、エンジニアの83%近くがバーンアウト(燃え尽き症候群)に陥っていることが明らかとなった。こうした要因もまた、市場での人材不足に拍車をかける可能性がある。

そのため、米国や日本の企業はこれまで、発展途上国の企業に低コストで開発を委託する「オフショア開発」に取り組んできた。企業は既存エンジニアの業務効率向上か、非エンジニアのエンパワーメントのいずれかにより問題解決を迫られるが、NCDPの活用はこのどちらをも可能にする。NCDPは、従来の開発手法よりも費用対効果や効率性に優れたソリューションを提供する。Quandary Consultingの調査によると、NCDPを利用する企業は、アプリケーションの市場投入までの期間を平均5~9割短縮することに成功し、競争優位性を高めている。

主要国における人材不足状況(2022年)

出所:Manpower Group Survey 2022

注:IT、貿易、工学技術、物流、会計・財務、建設、医療、製造部門の全職種を調査対象とする

技術的進歩とエンドツーエンドサービスの登場が成長を下支え

NCDPの成長を下支えしているのは、プログラミング言語の進化、クラウドの発展、ならびにエンドツーエンドサービスの登場である。

①プログラミング言語の進化

プログラミング言語は、近年ではビジュアルプログラミングを使ってコードが簡略化され、人間の言葉に似てきており大きく進化している。なかでも、最新の第4・5世代の言語は人の話し言葉に近いコマンドを使ってプログラミングする仕組みであり、ユーザーのすそ野を広げている。第5世代の言語は、コンピューターに何を実行すべきか指示する命令型アプローチではなく、人の思考法に近い言語を使ってプログラミングする宣言型アプローチをとる。NCDPは旧世代のプログラミング言語から着想を得ており、基本的要素は似ているといえる。たとえば、NCDPで一般的に使用されるドラッグドロップ機能は、Visual Basicなど、第3世代のプログラミング言語で開発されたビジュアルプログラミングで初めて導入され、新世代の言語に移行していく中で、可能性が広がっている。

プログラミング言語の進化

出所:Timetoast

②クラウドの発展

開発プラットフォームやユーザーアプリをホスティングする「クラウド」は、NCDPの普及に重要な役割を担う。データ保存・処理をはじめとして、ネットワーク構築やデータベース作成、アプリ展開・運用、開発者ツールなど、NCDPの運用に欠かせない機能をネット経由で提供するため、Unqork(USA)、Wix(ISR)、Mmonday.com(ISR)などのNCDP事業者が従量課金制のサービスを活用することで、コスト効率と拡張性の向上に努めている。これにより、手軽にプラットフォームを更新したり、世界中からテンプレートやモジュールのライブラリにアクセスしたりすることもできる。クラウド事業者は最新のハードウェアを揃え、インフラ周りの管理も行うため、間接費を抑えられる点でNCDPスタートアップにもメリットが大きい。

③エンドツーエンドサービスの登場

NCDPで充実した機能を備えるウェブサイトやアプリを構築するには、ホスティングやオンライン決済機能などの複雑なプロセスをシンプルにする「エンドツーエンドサービス」の利用が必須である。NCDP事業者は、エンドツーエンドサービスを利用することで、自社が強みとする技術分野の開発に注力することができる。既に、Amazon Web Services(AWS、USA)、Google Cloud(USA)、Microsoft Azure(USA)などの巨大テック企業がエンドツーエンドのクラウドサービス提供に乗り出しており、StripeやAdyenなど、オンライン決済機能の提供に特化する企業もある。

オンライン決済サービスのStripeは、簡単にEC向けアプリを実装できるAPIを開発した。同APIを利用することで、取引口座の開設に必要なプロセスや銀行・クレジットカード会社との煩わしい手続きを省くことができるほか、規制に関わる手数料やコンプライアンス要件に対応し、決済の安全性を守ることができる。

マネタイズ

世界のNCDP市場は着実に成長、北米が主要市場

市場調査会社のEmergen Researchによると、世界のNCDP市場は2020年に約120億ドル規模となり、2020-28年にかけて年平均成長率(CAGR)24%で成長すると予測される。この成長の背景には、IT人材の不足が続いていること、プロセス自動化のニーズが高まっていること、デジタル化の継続的な需要などがある。

さらに、NCDPを活用することで、ウェブサイト・ソフトウェア開発業者は、従来のソフトウェア開発の手間を省き、事業成長にフォーカスすることができる。たとえば、従来の開発プロセスでは、自社のコードのデバッグや定期メンテナンスに時間がかかり、追加コストが発生する。ところが、NCDPはこのような作業を自動化できるため、より重要な作業に注力できるようになる。こうしたメリットは、NCDP市場のさらなる成長につながるとみられる。

地域別では、2020年において北米がリードした。同地域では技術の導入が速いことと、IT人材の不足が拡大していることから、今後も優位は続くとみられる。

NCDPの活用により生産性が向上し、非エンジニアとエンジニア双方がコスト削減のメリットを享受できる

NCDPはプログラミングスキルがいらないため、企業は比較的低コストで独自のソフトウェアを構築することができる。コスト削減の効果は、フルタイム開発者の高額な人件費に付随する経費を削減することや、より迅速な開発とフィードバックの実装による時間の節約、プロジェクト全体のコスト低減などによって得られる。

451 Research(テクノロジー調査プラットフォーム)によると、NCDPを利用することで開発時間を5~9割まで削減できる余地がある。ある企業が新しいアプリを開発した場合、開発に費やす時間は、エンジニアが年間平均約193時間(総勤務時間の9%)であったのに対し、Salesforceの「Lightning」 NCDPを利用する非エンジニアでは年間平均約7時間(同0.3%)で済むという結果も出ている。

上記のデータをベースにすると、従業員のうち300人を非エンジニア、50人をエンジニアとすれば、NCDPを活用することでフルタイムのエンジニアを1.87人雇用したのと同じ生産性を実現することができる。これは、NCDPの利用に10万5,000ドルのコスト(社員350人が年間300ドルのサブスクリプション料金を支払う前提)がかかるものの、全体としては22万6,300ドルのコスト削減(エンジニアの一般的な年収に基づく)につながり、年間216%のリターンが期待できることを示している。

この216%というリターンは、新たな業務アプリ開発のみを対象としているため、NCDPを使用した更新・機能の追加や、アプリのトラブルシューティングに対する迅速なソリューションの提供によってさらに上昇が見込めるほか、ダウンタイムも減らすことができると考えられる。

NCDPを活用したアプリ開発に期待されるROI

出所:IDCのホワイトペーパー『Business Value of Building Apps on the Salesforce Lightning Platform, 2018』および米国労働統計局を基にUzabase作成

注1:表内の(E)と(J)はInternational Data Corporationの報告に基づく

前提条件:アプリ開発に費やす時間は、NCDPを使用する非エンジニアが年間平均約7時間(計300人)、NCDPを使用しないエンジニア(計50人)が年間平均約193時間

未来

NCDPは多業種かつあらゆる規模の組織を対象とする

NCDPは、業務支援アプリやウェブサイトを開発する企業や、アイディアの具体化を目指す起業家をはじめとして、下表のとおり多種多様な業界のユーザーを対象としている。

多種多様な業界におけるNCDPの具体的な活用例

出所:各社ウェブサイトやプレスリリースを基にUzabase作成

巨大テック企業がポートフォリオにNCDP製品を追加、企業間の垂直・水平統合が加速している

Alphabet(USA)、Microsoft(USA)、Alibaba(阿里巴巴、CHN)、Amazon(USA)などのビッグテック企業は、NCDPをポートフォリオの1つとして展開を始めている。Microsoftは「PowerApp」、Alibabaは「Yida」を自社開発している。

NCDPの自社開発以外にも、垂直統合/水平統合は、NCDP市場への参入を目指すテック大手の一般的な戦略となっている。一例として、Astreya(USA)は2021年にYolk AI(CAN)を買収し、NCDP市場への参入を加速させた。なお、Qlik(USA)やNintex(USA)をはじめとするNCDP専門企業は、既存の製品とユーザー基盤を拡大するために水平統合も展開している。

青山 武史

青山 武史

グロービス経営大学院大学でMBAを取得し、キャリアを一貫してクリエイティブ、テクノロジー、ビジネスを高度に融合させた新規事業開発やイノベーションの創出を主導して来た。スタートアップ(最高事業責任者)や事業会社(マーケティング最高責任者)等でマーケティングからサービス開発までの新規事業開発の経験を積み、多くの事業で収益規模を拡大し、大手企業とのアライアンスに携わった。現在はYKK APにて新規事業開発部担当部長として、再生エネルギー事業の推進と新規領域の探索を担当。Point0を通して大手企業と共創活動を推進。渋谷未来デザインとSWiTCHとのカーボンニュートラルプロジェクト「CNUD」に参画。個人としても大手エネルギー企業のヘルスケ領域の新規事業開発支援コンサルティング実績多数。

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