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非通貨型ブロックチェーン

文章最終更新日:2023年08月30日

トレンド概要

ブロックチェーンは、複数のコンピュータで整合したデータの共有を容易にする

ブロックチェーンは、下図のようにブロックに複数のデータを入れ、そのブロックに、前のブロックのデータから計算されるハッシュ値も入れ、それらをつなげたデータの集合である。

キーとなるのはハッシュ値だ。ハッシュ値は少しでもデータが変われば値が完全に変わる。つまり何らかのデータ改ざんがあればハッシュ値も変わり、その前後のブロックに格納されているハッシュ値との不整合が生じる。

この性質を利用して、複数のコンピュータで共有されているデータが整合した同一のものであるかを容易に検証できる。そして、同一性が担保されたデータを共有することで、様々なプロセスが効率化される可能性を秘めている。

本レポートではこのような特徴を活用して、記録・共有をする仕組み(台帳)としてのブロックチェーンの技術とその活用先について言及する。記録自体に価値を持たせて流通させる暗号資産(仮想通貨)やトークンなど通貨型の取り組みは扱わない。なお、ブロックチェーン技術を基盤としたWeb3については、レポート「Web3、浮上した課題と今後」を参照。

ブロックチェーンの構造と、ハッシュ値の特性

出所:Uzabase作成

一定の信頼前提を置き、記録の共有手段として使えば、制約条件が少なくなる

ブロックチェーンの歴史は、2008年にサトシ・ナカモトが「Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System」という論文を発表したことから始まる。論文では、既存の送金方法とは異なり、銀行などの信頼できる第三者機関を通さないでも個人間で電子送金を行うための手段としてビットコイン、技術的な手法としてブロックチェーンを提案した。

信頼できる第三者機関を通さないで送金を行うために、誰が見てもデータが正しいことを検証できるようにする必要がある(コンセンサスアルゴリズム)。Bitcoinの場合、「Proof of Work(PoW)」が採用されており、特定条件に合致するハッシュ値を見つけられたときに報酬をもらい(マイニングと呼ばれている)、記録・検証が行われている。ただし、PoWでは多大な電力が消費されるなどの課題が挙げられている。

しかし、ブロックチェーンが「信頼できる関係者の間での正しい記録およびその共有の手段」とすれば、上記の課題は必ずしもあるわけではない。参加者が関係者同士であれば、その時点で身元が分かり、一定の信頼を前提にできる。また閲覧範囲の制限や記録・検証のインセンティブも不要となるため、処理速度も上がる。

整合した記録の電子化・共有化は、効率化につながる

経済活動がグローバル化し、一層多くの企業・主体が関わって経済・社会が成立している。しかし、多くの記録は電子化されていなかったり、分散していたり、ときに重複して存在する。

電子化されていない状態では、記録の確認を物理的に行うため時間もかかり、ミスも発生する。また、記録の保存にもコストがかかる。記録が電子化されることで、機械が自動的に確認をしたり、人間が確認をするのであっても記録を探しやすくなったり、時間短縮が期待される。もちろん、電子化に伴い保存コストも大きく減少する。

また、整合した一つの記録ではなく、分散・重複していると、お互いの記録が整合したものなのかの確認に時間がかかり、全体像も見えにくい。しかし、整合した一つの記録であることが保証されていれば、整合確認がいらない。そして、それぞれが自分に関係する記録を一部分ずつ持つのではなく、一つの整合した記録を見ることができれば、全体像が把握しやすい。

このように、現在電子化されておらず、かつバラバラに分散した記録が、整合した一つの記録として共有されることで、大きな効率化が期待される。

ブロックチェーンは万能ではなく、頻繁に変更されるデータなどには向かない

ブロックチェーンの特徴は、改ざんが実質的に困難という点である。そのため、上記のように整合した記録を共有できるというメリットがある一方、例えば変更が多い記録には適していない。

ブロックチェーンは単位時間当たりに記録できるデータの容量には上限があり、大量のデータ保存には向いていない。一般的に、取引データから生成したハッシュ値だけを記録してブロックチェーンに格納し、画像や文章などのデータはブロックチェーン上には格納せずに別の場所に保存されている。

上述の「信頼できる関係者の間での正しい記録およびその共有の手段」として、プライベート型やコンソーシアム型でマイニングを外して記録・検証を素早くしたとしても、ミリ秒単位未満のリアルタイム性が求められる用途には向いていない。なお、全世界の取引履歴が公開され誰でも見ることができるものをパブリック型というのに対して、見ることが限られているものはプライベート型やコンソーシアム型と呼ばれる。プライベート型は特定の一つの組織が管理するタイプに対し、コンソーシアム型の管理主体は複数ある。

パブリック型、プライベート型、コンソーシアム型の特徴

出所:Uzabase作成

様々な分野でブロックチェーンの応用が期待されるが、法的整備が必要

インターネットが生活により浸透していく中で、各国で公的記録のオンライン化も進められている。例えば、仮想通貨の台頭を背景に決済システムの効率化や競争の促進などで、各国の中央銀行はブロックチェーンを活用した中央銀行デジタル通貨(以下、CBDC:Central Bank Digital Currency)に取り組んでいる。ただし、本レポートでは非通貨型を対象としているため、詳細は省く。CBDCの研究開発では主要国の中で特に中国が進んでおり、デジタル人民元を既存の紙幣や硬貨と同様の現金通貨と位置づけている。2022年12月末時点での流通額は136億1,000万元(約2,600億円)であった。なお、日本では、日本銀行が2021年から実証実験を行っているが、2023年4月時点ではCBDCの導入は決定していない。

CBDC以外でも、例えば米国では食品や医薬品について製造から流通まで記録を残す規制が、段階的に強化されている。このような主体が複数関わる一元記録の共有・管理の規制が強まることは、ブロックチェーンの後押し要因となろう。その他にも、貿易金融、証券取引、選挙、物流、著作権管理、不動産取引の履歴管理、美術品取引など様々な分野での活用が期待されている。

一方で、新しい技術であり、従来からある法律・規制が、このような技術を前提としていない場合も多い。例えば日本では、経済産業省が2016年にまとめた『ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査』において、法的証拠能力の明確化などが実用化に向けて整備が必要と記載されている。また、中央集権的に個人情報を収集・利用する事業を想定したEU 一般データ保護規則(GDPR)において、管理者不在で取引記録が共有、公開されるパブリック型ブロックチェーンへ個人情報を格納した際の第三者提供時の問題が議論されている。

マネタイズ

ブロックチェーンスタートアップへの投資額は2021年に大きく増加したが、2022年では縮小

CB Insightsによると、2018-20年では、世界のブロックチェーンスタートアップへの投資額は毎四半期10億ドル前後で推移していた。2021年に入り大きく増加し、2022年第1四半期では約100億ドルとピークに達した。しかし、2022年半ば以降は、Meta、Amazonなど大手テック系企業が相次いで大規模解雇を行うなど、テック業界全体が低迷した。ブロックチェーンの新興企業への投資額も減少し、2022年第4四半期では前年同期比64%減の32億ドルであった。

ブロックチェーンスタートアップへの投資額および件数

出所:CB Insights

現状、記録に関わるプロセスに、多大なコスト・時間がかかっている

生活や商取引の様々なシーンで、記録やその記録への参照・チェックが行われている。特に、権利移転が複数者間で行われたり、また正しい公的データが求められる場合には、記録を作成したり確認するプロセスが膨大となる。

例えば、

金融機関の間の国際送金を手掛けるSWIFTは毎日4,480万通のメッセージを11,000社以上の金融機関に送信している。SWIFT INSTITUTE「THE IMPACT AND POTENTIAL OF BLOCKCHAIN ON THE SECURITIES TRANSACTION LIFECYCLE」によると、世界中の証券市場における清算・決済業務において、データの照合と自動化されていないマニュアル業務 から多く発生しており、そのコストは 年間 400 億ドル以上に及んでいる。

また、人口約130万人のエストニアでは、政府が管理する各種データについてX-Roadという共通データ基盤を導入した。X-Roadの導入によって年間1,407年間分の作業時間が削減された。

このように記録に関わるプロセスに多くの時間・コストがかかっているのが現状であり、またそれはプロセスの改善余地も示唆している。

ブロックチェーンの採用に伴うプロセス改善そのものがコスト削減につながる

ブロックチェーンが注目される中で、様々な実証実験が進められている。それらから窺えることは、ブロックチェーンの採用そのものがコストを下げるのではなく、ブロックチェーンの採用に伴う業務フロー・ビジネスプロセスの改善が、コストを削減するという点である。

具体的には日本取引所グループの「JPXワーキング・ペーパー:金融市場インフラに対する分散型台帳技術の適用可能性について」(2016年8月)では『DLT の採用によるコストへの主要なインパクトは、ビジネスプロセスの改善によるオペレーションコストの削減によりもたらされるものと考えられる』という言及がある(DLTとは分散型台帳技術のこと)。

また、様々なプロジェクトを手掛けているNTTデータも、ITメディアの「ブロックチェーンでコスト削減、必要なのは「業務をシンプルにすること」」(2017年9月)という取材記事において『コスト削減は、ブロックチェーンそのものの本質的な価値ではない。確かにコスト削減の可能性もあるものの、「ブロックチェーンに合わせて業務を簡素化することで、非常に大きなコストダウンができる――というのが正確な表現」』と述べている。

手段の一つであるなかで、他技術との比較が肝要

ブロックチェーン自体ではなく、業務フロー・ビジネスプロセスの改善がコスト削減に一番大きく寄与すると考えられるため、既存の他技術との比較が重要だ。しかし、現在は必ずしもその比較が十分に行われていない現状もあるようだ。

全銀協の「ブロックチェーン技術の活用可能性と課題に関する検討会(第1回)議事要旨」では『単純にブロックチェーン側のコストを測ったとしても、それに相対する実際に既存技術を使った場合のコストがどれくらいなのかについても算定しないと、本当に下がるのかどうかはわからない。既存技術に関しても、何と比較するかによってコストは大きく変わるため、見定める必要がある。実はコストについては、世界で色々と出ているブロックチェーンに関する報告書を見ても、ほとんど議論されていない。』という記述がある。

日本取引所グループも「JPXワーキング・ペーパー:金融市場における分散型台帳技術の活用に係る検討の動向」(2017年9月)では、金融規制変化時のワークフロー見直しに、DLTを適用することによる標準化の検討がなされているが、金融業界におけるワークフローの一部が SaaS で提供されて関係する金融機関の間で普及すれば、クラウド環境上で仕様の共通化やシームレスなデータ連携等が実現し、DLT と同様の効果が期待できる。この場合は、SaaS として提供されたほうが業界全体のコストは低廉になりうると言及されている。

あくまでも一手段というなかで、どのような技術及びプロセスがよいのかの検討が、事業化や手法の採用の意思決定では求められる。

未来

ゼロからの開発ではなく、インフラを活用する場合が多い

非通貨型のブロックチェーンを記録手段として採用する場合には、自社で全部を開発するのではなく、パブリック型では仮想通貨のEthereum、プライベート型やコンソーシアム型ではLinux Foundationが提供するHyperledger Fabricや、R3のCordaといったインフラを活用して提供しているものが多い。

例えば損害保険分野では、自動車保険会社State Farm(USA)と金融サービス会社USAA(USA)の両社が、自動車保険の代位求償の精算にEthereumのブロックチェーンシステムを活用している。手作業での清算する代わりに、ブロックチェーンの台帳が請求を集計し、一定期間後一括で清算する。Allianz(GER)は、23カ国を対象にした国際自動車保険の請求を、Hyperledger  Fabricのブロックチェーン上で運用している。保険加入者が別の国で事故に遭難した場合でも、その国にある子会社が迅速に保険金請求の処理が可能となる。

また、システムプロジェクトのようにインテグレータを活用する場合も少なくなく、例えばGoldman SachsはDigital Assetが開発したスマートコントラクト言語DAMLを活用し、プライベートおよびパブリックブロックチェーン上で様々な資産のトークン化に取り組んでいる。

ブロックチェーンに関するバリューチェーン

出所:Uzabase作成

情報共有の一手段であり、参加者をどれだけ巻き込めるかがキー

ブロックチェーンによって情報を共有、改ざんしにくくすることでメリットが出ると期待される領域は下表のように整理できる。情報共有の主導権を握る必要性は事業上考えなくてはいけないだろうが、それにこだわることで情報共有が進まなければ、価値が出にくい。それゆえ、どれだけプロセス上で関連する主体が多く参加できるように巻き込めるかがキーとなるだろう。

また、前述のようにブロックチェーン自体の採用より、それに伴うプロセス変化で価値の大部分が創出されると考えられている。

ブロックチェーン導入が期待される情報の種類・領域と関連業界

出所:Uzabase作成

プラットフォーマーがいる場合は進めやすいが、競争が情報集約のボトルネックにもなる

金融や行政、輸送などの領域で、既に記録共有手段としてブロックチェーンの実証試験や実用が行われている。ここではいくつか代表的な事例を紹介する。

金融では、JPX(日本取引所グループ)の証券取引・決済の実装実験がレポートも詳しい。証券取引所など、民間企業であっても規制含めてプラットフォーマーとしての位置づけが明確である場合には、既に情報が集まっていることも含めて導入・移行にあたって関係者間の情報権利をめぐる調整は相対的に行いやすいだろう。

行政ではエストニアの取り組みが知られる。これは、ブロックチェーンに情報自体を格納するものではない。各省庁に存在するデータのハッシュを記録することでデータの真正性を担保する仕組みを採用している。その他、中国では2023年1月に「北京市リストチェーン2.0」がリリースされ、ブロックチェーンインフラ上でリアルタイム管理リスト情報は50数万件、情報システムは約2700など、延べ数百億件のデータ共有をサポートする。また同年7月に、上海市もブロックチェーンデジタル基盤システムの建設計画を発表した。

一方で、上手く行っていない事例もある。物流の事例では、Maersk及びIBMは2018年頃から、国際海上輸送のプロセスでの各種記録をブロックチェーンに記録するTradeLensというサービスを提供していた。TradeLensは、分散している紙ベースの書類の処理時間を短縮することや、整合しているデータを通じて必要な関係主体が見れるようにすることで、輸送の遅れなどに応じた調整もしやすくなることを目的にしていた。グループ外の参加者ではPacific International Lines、日本郵船・商船三井・川崎汽船のコンテナ事業を統合したOcean Network Express(ONE)、Hapag-Lloyd(GER)なども参画した。しかし、グローバルな業界コラボレーションの必要性が見いだせず、2023年度の第1四半期にてサービスを終了させる。

日本証券取引所の証券取引・決済の実装実験

出所:各種資料を基にUzabase作成

エストニアの行政関連情報のデジタル化

出所:各種資料を基にUzabase作成

青山 武史

青山 武史

グロービス経営大学院大学でMBAを取得し、キャリアを一貫してクリエイティブ、テクノロジー、ビジネスを高度に融合させた新規事業開発やイノベーションの創出を主導して来た。スタートアップ(最高事業責任者)や事業会社(マーケティング最高責任者)等でマーケティングからサービス開発までの新規事業開発の経験を積み、多くの事業で収益規模を拡大し、大手企業とのアライアンスに携わった。現在はYKK APにて新規事業開発部担当部長として、再生エネルギー事業の推進と新規領域の探索を担当。Point0を通して大手企業と共創活動を推進。渋谷未来デザインとSWiTCHとのカーボンニュートラルプロジェクト「CNUD」に参画。個人としても大手エネルギー企業のヘルスケ領域の新規事業開発支援コンサルティング実績多数。

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