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再生医療

文章最終更新日:2023年08月23日

トレンド概要

再生医療は、対症療法ではなく疾患の根本的治療を目的とする

再生医療とは、先天的要因または後天的な怪我、疾病、加齢により損傷した臓器を治療する目的で培養・加工された組織、細胞、遺伝子などを用いる治療であり、症状の改善を目的とするのではなく、病気の根本原因を治癒・解決することを目的としている。

1970年代から研究されている再生医療では、骨髄など患者本人から組織や細胞を採取することが特徴である。分離・培養・分化を経た幹細胞は人工の足場材料の上に置かれ、直ちに患者に移植、または増殖させた後で患者に移植される。

再生医療:細胞治療と組織工学の流れ

出所:Uzabase作成

本レポートでは、主な再生療法のうち商業化が実現した細胞治療、組織工学、遺伝子治療に焦点を当てる。2021年の再生医療分野における資金調達額をみると、がん免疫細胞療法を含む細胞治療が約53%を占め、これに遺伝子治療が約46%、組織工学が約1%で続いた。開発企業の数は、2022年時点で細胞治療を手掛ける企業が全体の約40%を占めた。

主な再生治療の比較

出所:各種資料を基にUzabase作成

注:各国・地域の規制当局により承認された治療法の総数は、遺伝子治療は2022年12月時点、組織工学は2020年12月時点のもの

現在、再生医療は主に腫瘍、整形外科、皮膚科の分野において、骨の損傷、火傷、皮膚の損傷などの治療に用いられている。今後規制当局による治療法の承認件数が増加すれば、心血管疾患や神経関連疾患の治療への使用が増えると考えられる。現在、世界各地で多くの臨床試験が行われている。

再生医療アライアンス(Alliance for Regenerative Medicine、略称ARM)によると、2022年時点で、細胞治療、遺伝子治療、組織工学に関連する分野で約2,200件を超える臨床試験が進行中であり、うち約9%が臨床試験の最終段階にあたるフェーズIIIに入っている。ARMの2022年の報告書によると、臨床試験の対象となる疾患の内訳では、腫瘍に関するものが約60%と最も多い。

慢性疾患、遺伝性疾患、高齢人口の増加により再生医療の需要が拡大

再生医療は、慢性疾患の有病率が上昇するなか重要性が増している。心血管疾患、がん、慢性呼吸器疾患、糖尿病などの慢性疾患は、生活習慣の変化や不健康な食習慣と関連するといわれている。WHOによると、2019年、世界の全死者数のうち約74%が慢性疾患により亡くなった(入手可能な最新データ)。根本的な治療法を提供しうる再生医療は、こうした慢性疾患の罹患者数の増加による経済的・社会的負担を低減する。また、ハンチントン病など、治療法が確立されていない遺伝性疾患に対する治療法としても期待されている。

65歳以上の世界人口は2010年の約5.33億人から2022年には約7.80億人へと大幅に増加した。その結果、加齢に伴う機能障害に関連する治療への需要が高まっており、政府は医療費削減を迫られている。再生医療は、1回の手術または投薬で治療が済む可能性があり、長期的に大幅なコスト削減につながると考えられる。

自己幹細胞とiPS細胞の開発に加え、バイオプリンティングなどの技術革新が再生医療をけん引

幹細胞とは、様々な細胞に分化する能力を持つ特殊な細胞である。この幹細胞を患者本人から取り出し分化させた後に患者の体内に戻すことで自己細胞を増殖させる。2012年、iPS幹細胞の研究において、倫理的課題に抵触することなく、成人の細胞を胚性幹細胞のように機能するよう再プログラムすることに成功し、幹細胞研究・治療の可能性を大きく広げた。

また、3Dプリンティングやナノテクノロジーを生物医学分野で応用するための技術開発も再生医療の発展に寄与している。3Dバイオプリンティングとは、臓器や血管など様々な組織を模倣したパーツを作成できる技術である。患者の臓器を複製し、損傷した臓器と置き換えることができる。2019年には韓国の研究者が人工角膜の作成に使用し成功、この実験は世界でも成功を収めた。また世界の様々な研究チームも、骨、軟骨、心臓弁、皮膚の作成に関する実験で成果を上げている。

ナノテクノロジーは、組織の特徴をナノスケールで再現するのに役立つ。ナノ材料は、サイズや機能など独自の物理的・化学的・磁気的特性から、組織工学や幹細胞治療、患者の体内での細胞トラッキングで用いられる足場材料の作成に応用できる。

生体材料(バイオマテリアル)は、組織工学に不可欠である。移植された細胞の足場材料として、細胞を立体的に配置し増殖と最終的な組織再生を促進する。近年では、生体適合性を持つセラミック、ガラス、金属、ポリマー、複合材料の開発など目覚ましい進歩がみられる。

積極的な規制緩和が再生医療市場の成長を加速

再生医療分野の成長には、承認プロセスの短縮化が重要である。主に整形外科、皮膚科、血液関連のがんに関する再生医療が市場に投入されている。

再生医療に関する近年の規制状況

出所:米国食品医薬品局(FDA)、Alvere、The American Journal of Managed Care、NS Healthcare.com、Rocket Pharma、Cgtlive.com、ARM、Bluebirdbio、欧州医薬品庁(EMA)、The Medicine Maker、Bioworld、Pharmaceutical Technology News、日本首相官邸ホームページ、医薬品医療機器総合機構、Mesoblastを基にUzabase作成

注:承認された治療法・治療薬は一部を例示

マネタイズ

世界の再生医療市場売上高は2020年時点で推定20億ドル、遺伝子治療が最大シェアとなる見込み

EvaluatePharmaのデータによると、細胞治療、遺伝子治療、遺伝子組換え細胞治療を含む世界の再生医療市場の売上高は2020年に約20億ドルと推定され(入手可能な最新データ)、その後年平均成長率(CAGR)約62%で増加し2026年に約430億ドルに達すると見込まれる。このCAGR二桁成長の背景には、高齢人口の増加と政府の優遇政策、遺伝性および慢性疾患の増加といった要因が挙げられる。

2020年の売上高では遺伝子組換え細胞療法が50%近くで最大シェアを占め、これに遺伝子治療(33%)が続いた。2020-26年にかけては細胞療法がCAGR73%で最も急速に成長すると予測されるが、2026年には遺伝子療法が46%と最大シェアとなり、これに細胞療法(29%)、遺伝子組換え細胞療法(26%)が続くと見込まれている。

ARMによると、北米は2022年に世界の再生医療臨床試験数(新たな再生医療法開発の進捗を示す指標)の41%と最大割合を占め、これにアジア太平洋(36%)が続いた。ただ、フェーズI臨床試験段階にある再生医療法の数をみると、アジア太平洋は全体の40%を占め、北米(同)35%)のシェアを上回っており、同地域には初期開発段階の新規治療法が多数存在していることが窺える。

再生医療市場売上高の成長予測

出所:EvaluatePharma(2021年7月)データを基にUzabase作成

注:データは外部のデータ抽出ツールによる推定値

自家細胞懸濁液の作製キットにより、火傷治療にかかる入院費と期間を大幅に圧縮

火傷は、重大な怪我や医療費負担につながる。WHOによると、世界では年間約18万人が火傷により死亡している。また、米国では毎年約45万人が火傷のため治療を受けており、約3,400人が死亡している。顔、手、足、局部の火傷は、機能障害や皮膚に傷が残りやすく、他の部位の火傷より深刻である。膝、肩、股関節など主要な関節にわたる火傷や非常に深い火傷は、血液循環や呼吸を損なう可能性もある。

現在主流となっている火傷の治療法は、患者本人の体の別部位から組織を採取する自家中間層皮膚移植である。移植は大きな痛みを伴うと同時に、治癒には長時間を要し、完治後も傷あとが残る。体の75%以上を覆う火傷と定義される広範囲熱傷の患者は、通常1年以上にわたり熱傷治療センターでの専門的な治療が必要となる。American Burn Associationによると、合併症を伴わない広範囲熱傷の治療にかかる平均医療費は約80~160万ドルにのぼる。

再生医療は、損傷した皮膚や組織の再生を促進することで、自家移植に代わる治療法となりうるだけでなく、火傷患者の転帰を大幅に改善し、コストを削減できる可能性もある。

FDAは2018年に、AVITA Medical(USA)が開発した全く新しい熱傷治療機器「RECELLシステム」を承認した。臨床研究企業のIQVIAは、AVITA MedicalおよびBiomedical Advanced Research and Development Authority(BARDA)の支援を受け、「熱傷医療ケア経済モデル(Burn Care Pathway Health Economic Model)」を作成した。同モデルは熱傷治療センター向けに開発されたもので、一般的な治療法ではなくRECELLシステムを用いて、さまざまな大きさの2度・3度の熱傷を治療した場合のコスト削減効果をみることができる。それによると、RECELLを用いて治療することにより、外傷の有無にかかわらず、広範囲の火傷を負った患者の入院にかかる費用と期間を44%以上圧縮することができる。また、同モデルでは、200床の熱傷治療センターでRECELLを使用した場合、年間の総治療費を1,300万ドル削減できるとしている。

RECELLなど再生医療を使用した場合の医療費削減シナリオ

出所:Avita Medical

注1:入院期間および手術回数のデータは2019年時点のもの

注2:コスト削減のデータは2013年、2019年、2020年の情報の比較によるもの

脊髄性筋萎縮症向けのゾルゲンスマなど、1回限りの遺伝子治療により治療費を半減できる可能性も

脊髄性筋萎縮症(SMA)は、筋萎縮や進行性の筋力低下を引き起こす神経系の遺伝性疾患である。世界の新生児約6,000~1万人に1人の発症率であり、患者は立位保持、歩行、頭の動きの制御が困難であり、重症の場合は呼吸や嚥下にも支障をきたす。

現在主流となっている治療法は、Biogen(USA)のSpinraza(スピンラザ)注射による投薬である。Spinrazaは、子どもと大人のSMA患者両方に使用可能な最初の治療薬として2016年にFDAの承認を受けた。SMAは希少疾患ながら発生率が高い。このため、Novartis(CHE)傘下のAveXisが開発した治療薬Zolgensma(ゾルゲンスマ)は、2歳未満の小児患者を対象とした初の遺伝子治療薬として2019年にFDAにより承認され、SMA治療における再生医療の応用において大きな一歩となった。

Spinrazaは繰り返しの投薬が必要で、10年間の総治療費は約400万ドルを超える。一方、Zolgensmaの治療費は210万ドルの1回のみであり、治療費を5割ほど削減できると考えられる。EvaluatePharmaによると、現在Spinrazaの維持療法を受けている患者の約25%がZolgensmaによる治療に切り替える可能性がある。その場合、Zolgensmaの売上高は2020-26年にかけてCAGR約12%で成長すると見込まれる。

FDA承認済のSMA治療薬

出所:Uzabase作成

 

 

未来

製薬企業とバイオテクノロジー企業の戦略的提携が増加、再生医療企業はコスト削減とともに生産規模の拡大を図るべくCDMOと提携

再生医療業界のバリューチェーンでは、提携が重要な役割を果たす。川上では、再生医療治療法の開発を目的とした医薬品開発製造受託機関(CDMO)との提携が実施されている。これにより、再生医療開発企業は製品開発と製造を迅速に進め、治療薬をより早く市場に送り出すことができる。CDMOとの提携により、小規模企業は製品の開発・製造・販売に伴う多額の資本コストや労働力の課題を回避できる可能性がある。また大企業にとっても、生産規模を拡大しながら製造コストを削減できる可能性がある。たとえば、2023年3月、バイオテクノロジー企業のRemedium Bio(USA)は、変形性関節症治療用の遺伝子治療薬候補の生産能力拡大を目的にCDMOのExothera(BEL)と提携した。この提携は遺伝子治療の製造コスト削減も目的としている。

川下では、主に研究提携と企業提携が行われている。研究提携は、研究、非臨床試験(前臨床試験)、および臨床試験を実施する大学などの学術機関との提携が中心である。企業提携は通常、研究・開発のいずれか、または両方の要素を含み、企業が新しい治療法を開発する際の知識やリソースの蓄積を可能にする。特に大手製薬会社とバイオテクノロジー企業との企業提携は、買収や戦略的提携という形で近年増加傾向にある。たとえば、武田薬品工業は2022年、免疫療法におけるガンマ・デルタT細胞のユニークな特性の探索に特化したバイオテクノロジー企業GammaDelta Therapeutics(GBR)を買収する計画を発表した。

戦略的提携では、2022年6月には、臨床段階にある遺伝子編集療法を研究するPrecision Biosciences(USA)が、鎌状赤血球貧血やβサラセミアなどの疾患に対する生体内遺伝子編集療法の開発を目的に、製薬会社Novartis(CHE)と提携した。2022年7月には、バイオテクノロジー企業Mogrify(GBR)が、感音性難聴に対する生体内再生医療アプローチの研究を目的に製薬企業のアステラス製薬と提携した。ARMの2022年年次報告書によると、提携やライセンス契約などの企業提携は、2022年の再生医療への世界投資総額の約14%を占めている。

再生医療に関する提携

出所:Uzabase作成

慎重な取り扱いを要する再生医療製品、輸送にはより高度なサプライチェーンが必要

再生医療製品は、錠剤や丸薬に比べて壊れやすく高価で替えが効かないものが多い。そのため、製品の安全性や有効性を損なわないために、温度制御された物流網を含むサプライチェーンが必要となる。万が一輸送中に破損しても、臭いや色に変化がないため検出が困難である。再生医療製品を確実に輸送するには、データ連携による常時監視が欠かせない。

再生医療プログラムに関わる物流の例

出所:Cryoport.comを基にUzabase作成

バイオ医薬品とは異なり、再生医療では生きた細胞を用いる。そのため、細胞の増殖収率の常時監視と、純度や生存率など細胞の品質パラメーターの維持が重要となる。細胞輸送の一例として、CryoPortの物流サービスでは、リアルタイムでの監視と品質保証を強化した低温物流を提供しており、NovartisのCAR-T細胞療法で活用されている。 

再生医療法は高額であるため医療保険適用が普及の鍵

診療報酬とは、医療機関が民間保険会社、政府機関、または患者自身から医療の対価として受け取る報酬を指す。診療報酬の支払方法は、地域によって大きく異なる。民間/公的保険契約の中には、医療の一部として再生医療をカバーするものもある。たとえば米国では、UnitedHealthcare、Aetna、Elevance Health、およびCignaが脊髄性筋萎縮症(脊髄細胞が変性する遺伝性疾患)の遺伝子治療をカバーしている。なお、脊髄性筋萎縮症の遺伝子治療には200万ドル超の費用がかかる。遺伝子治療をカバーしている保険会社もあるが、細胞治療(幹細胞治療は5,000ドルから5万ドル程度)の多くは実験的治療であるという理由で医療保険の適用外となっている。そのため、保険適用されず患者が治療費を賄えないケースも多く、再生医療法の普及に関わる課題となっている。

初期再生療法に対する米国保険会社の保険適用方針

出所:ARM Reimbursement Roadmap(2019年)

注1:調査対象は米国の保険会社44社

注2:2019年が入手可能な最新データ

青山 武史

青山 武史

グロービス経営大学院大学でMBAを取得し、キャリアを一貫してクリエイティブ、テクノロジー、ビジネスを高度に融合させた新規事業開発やイノベーションの創出を主導して来た。スタートアップ(最高事業責任者)や事業会社(マーケティング最高責任者)等でマーケティングからサービス開発までの新規事業開発の経験を積み、多くの事業で収益規模を拡大し、大手企業とのアライアンスに携わった。現在はYKK APにて新規事業開発部担当部長として、再生エネルギー事業の推進と新規領域の探索を担当。Point0を通して大手企業と共創活動を推進。渋谷未来デザインとSWiTCHとのカーボンニュートラルプロジェクト「CNUD」に参画。個人としても大手エネルギー企業のヘルスケ領域の新規事業開発支援コンサルティング実績多数。

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