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セキュリティテック

文章最終更新日:2024年01月15日

トレンド概要

セキュリティテックはリアクティブ(反応)型から予測型へ移行

セキュリティテックは、侵入検知システム、金属探知機、公共の場での不審な行動を識別する映像監視システムなど幅広い。こうした技術は、リアクティブ(反応)型と予測型に大別できる。政府や企業ではこれまで、CCTVなどを活用したリアクティブ型のセキュリティシステムが多く用いられてきた。しかし、事件が発生した後の犯人追跡支援しか行えないことから、インテリジェント・システムを活用して事件が発生する前に潜在的な脅威を検出する予測型技術への需要が高まっている。予測型映像監視は、スマート分析を活用して脅威を検出し、不審なアクティビティが発生した時点で介入することで事件を未然に防ぐ。

監視システムは、従来型のソリューションから、AIを活用したスマート監視へと移行が進んでおり、リアルタイムで不審者の検出、追跡、警告を行う。こうした映像監視システムでカギとなるのは顔認識技術である(詳細についてはトレンド「顔認識 」を参照)。顔認識技術は、脅威に対する予防的対策として用いられる生体認証技術の一つである。生体認証技術は、顔、虹彩、指紋、声などの身体的特徴を使って個人の特定を行うため、偽造や複製がされにくく、詐欺やなりすましを防ぐことができる。

リアクティブ型と予測型のセキュリティ監視の比較

出所:Netwatchを基にUzabase作成

生体認証技術の種類と特徴

出所:MobiDev

小売犯罪とテロ攻撃の増加により、予測型セキュリティ監視技術の導入が促進される

犯罪やテロ攻撃の増加が監視技術の導入を後押ししている。特に、小売業は万引きや従業員による盗難に常に悩まされてきた。全米小売業協会(NRF)が2020年に実施した小売店に対する組織的犯罪調査(2020 Organized Retail Crime (ORC) Survey)によると、小売店をターゲットにした万引き・盗難などの組織的犯罪がもたらす経済的影響(売上高10億ドルあたりのコスト)は2015-20年にかけて約50万ドルから70万ドルへと増えている(入手可能な最新データ)。同出所が2023年に実施した小売セキュリティ調査(2023 Retail Security Survey)によると、米国における2016-22年の平均在庫収縮率は小売業者売上高の1.3~1.6%となっており、在庫収縮の65%近くは万引きや従業員による盗難が原因であるという。

従来のCCTVカメラは、盗難被害の減少に役立ってきたものの、それを監視する監視員について、画面を見始めてから22分経過すると集中力が低下し、95%もの見落としが発生する可能性を指摘する研究結果もある。そのため、より迅速な対応を実現するソリューションとして高度映像分析システム(enhanced video surveillance、EVS)が台頭しつつある。AI搭載カメラが、事前にプログラムされたデジタル分析ルールに基づいて脅威の兆候を検出し、差し迫った状況を遠隔接続されたライブモニターに警告することで、警備員は事件発生前に脅威への対策を行える。たとえば、Walmart(USA)は2019年、盗難を検知するため、米国1,000店舗以上でレジカウンターにAI搭載カメラを設置すると発表した。「Missed Scan Detection」と呼ばれるこのカメラは、スキャンされずにレジを通過した商品を検知する。

さらに近年では、組織的なテロ攻撃や組織に属さないローン・ウルフ(一匹おおかみ)型テロ攻撃も増加している。各国政府はソフトウェア企業と提携し、テロ攻撃を事前に検知する予測モデルの開発に取り組んでいる。たとえば、英国内務省は2023年、最新のテロ対策戦略の一環として、AIを用いたテロ対策計画を発表した。過去のテロ事件をより詳細に分析するため試験や演習でAIやVRを活用する意向である。日本では、警察庁が2020年、防犯カメラの映像から危険性のある行動を特定し、その情報を警察に送信するシステムの利用も開始した。

カメラやデータ処理能力などの進歩により予測型セキュリティ監視技術の導入が進む

映像監視システムとデータ処理技術の進歩により、監視技術の幅広い導入が可能となった。主要な技術的進歩を以下の表にまとめた。

予測型セキュリティ監視技術の普及を支える主な技術

出所:Security Magazine、Network Webcams、NVIDIA、International Security Journal、Eagle Eye Networksを基にUzabase作成

顔認識ソフトウェアの導入が加速するも、プライバシーへの懸念が普及を妨げる可能性

監視カメラについては、多くの国で概ね導入に前向きな姿勢が見受けられる。たとえば、米国では2023年時点で15の州が監視カメラの利用に関する独自の法を定めている。中国でもまた、国家安全法やテロ対策法など、国が定める規制に基づき、民間企業は国家の治安維持のため政府に協力することが求められる。一方EUでは、一般データ保護規則(GDPR)により映像監視が制限されている。企業がその敷地内に監視カメラを設置する場合、正当な理由に基づき監視を行っている旨を開示することが義務付けられている。

顔認識技術は年々改善されているものの、人種プロファイリングや虚偽の告発などにつながり、人権侵害にまで発展するケースが見受けられる。たとえばAmazon(USA)は、警察による同社の顔認識技術「Rekognition」の利用を2020年より無期限に停止した。黒人や肌の浅黒い人に対する偏見につながる恐れがあるとの懸念を受けての措置である。 また、個人のプライバシー侵害に関する懸念に対処すべく、法律を採択している国や地域もある。一例として、EU議会では2023年3月、新たなAI規制法案が承認され、公共の場での顔認識プログラムを用いた大規模な監視活動が禁止された。また、個人データを使って将来的に犯罪を引き起こしうる人物を特定しようとする予測型のアルゴリズムの使用も禁じられた。

米国政府は顔認識を規制する動きを強めている。全米25の州と都市で顔認識技術に関する法案が提出されている。ワシントン州では、人の監視を含めて一定の安全策を講じた上で、州機関が顔認証技術の利用を認める法律を可決した。一方、サンフランシスコやマサチューセッツ州ケンブリッジなどの都市では、警察などによる顔認証技術の利用を完全に禁止している。

しかし、世界各地でテロ事件などが増加していることを受け、米国、日本、中国など各国政府は、一部の公共の場で顔認識ソフトウェアの使用を義務付ける規制を適用し始めている。米国では、2017年の大統領令によって空港での導入が義務付けられた。2024年1月現在、米国税関・国境警備局(CBP)は、238の国際空港で入国管理に顔認識技術を利用している。日本では、2021年7月から成田空港と羽田空港で、パスポートや搭乗券を提示することなく顔認証で搭乗手続き・保安検査を受けることができる「Face Express」サービスの提供を開始している。

マネタイズ

セキュリティテック市場は公共安全への懸念の高まりを背景に成長見通し

The Business Research Company(TBRC)によると、映像監視、顔認識をはじめとする生体認証、ドローンなどを含む世界のセキュリティテック市場は、2022年に1,300億ドル規模となり、その後年平均成長率(CAGR)約13%で成長し、2027年には約2,350億ドル規模にのぼると予測されている。

映像監視市場は監視技術の主要分野で、アジア太平洋地域がけん引する(2023年時点)。国別では、中国、インド、日本などが市場をリードしており、インフラの拡大やスマートシティへの投資に加え、AI分析やIoTといった先進技術を搭載した監視システムへの旺盛な需要が市場の成長を後押ししている。また、サイバー犯罪の増加も顔認証システムなどの需要を押し上げている。たとえば、中国は世界最大の監視ネットワークを有しており、2021年時点で、世界で使用されている監視カメラの約54%が同国に設置されている(入手可能な最新データ)。

AI映像分析のメリットはビジネスリスクの削減とモニタリング人件費の削減

高度な映像分析技術の採用を検討している企業にとって、セキュリティ上の脅威がどれだけの収益損失につながりうるかは重要な考慮事項である。たとえば、カジノ・ゲーム、銀行、物流、高級品小売など、巨額の損失が発生しうる事業を展開している企業にとって導入は妥当と考えられる。対照的に、コンビニエンスストアのように、盗難による損失が導入に要する投資額に対して小さいと考えられる業態にとっては費用対効果が相対的に小さくなる。セキュリティ上のリスクが高い業界に属す企業にとっては、収益損失の低減に加えて監視効率と精度の向上というメリットもあり、映像の監視に必要な人件費の削減にもつながる。

加えて投資対効果の観点では、既存の監視インフラやソフトウェアがどれだけの性能や互換性を持っているか、ソフトウェアのライセンスモデルなどによっても、いつどれだけの投資金額が必要となるかが変わる。

導入にあたっての考慮事項

出所:Joint Research Centre『Video Analytics Adoption; Key considerations for the end user』およびBriefCamを基にUzabase作成

高度な映像分析システムの導入が万引き被害の低減や抑止につながる

以下では、小売業で高度なセキュリティシステムを採用した場合のコスト比較を示す。

米国の食品スーパーWalmartの店舗を基に、年間売上高1.42億ドル(注1)、17万8,000平方フィートの小売店を想定し(注2)、従来型のCCTVシステムを採用し、120台(注3)のカメラが設置されているとする。これを高度なシステムに転換するためには、映像分析ソフトとデータストレージ設備のために約16万2,000ドルの初期費用が必要となる。なお、同試算では既存のCCTVカメラネットワークを映像分析システムに変換することを前提としているため、すべてのシナリオにおいて、初期のカメラ設定費用を考慮していない。

企業は監視員の人件費を削減できるという点でもメリットがあるが、最大の経済的利益はビジネスリスクの削減にある。また、映像分析のスタートアップStopLift(USA)からの情報を基に、同社の顧客は映像分析ソフトの活用により在庫損失の40%削減を実現したと仮定した。これを基に、同試算では在庫損失の削減率を40%としている。なお、新システムを導入した場合、初年度の在庫損失をわずか4%程度削減できれば、損益分岐点を超える計算である。

注1:本例の食品スーパーの売上高は、Walmartの米国における2022年度の売上高(2023年1月期)を基に面積(平方フィート)あたりの売上高を算出し、それに食品スーパーの面積を乗じて算出(1平方フィート=約0.093平方メートル)

注2:Walmartの食品スーパーの平均面積を算出して採用

注3:必要なカメラの平均数の算出に、魚眼カメラがカバーする範囲を基準として用いた(Vivotek(TWN)発行の白書を基に、魚眼カメラのカバー範囲は最大1,500平方フィート)

映像分析ソフト導入のメリット

単位:ドル

出所:Uzabaseにより算出および作成

法執行機関は効率と精度の向上によりコスト削減の恩恵を受ける

警察などの法執行機関は、顔認識技術を使用することにより、冤罪による補償金支払いのコストを最小限に抑えることができる。米国で1989年から2019年にかけて起こった誤認逮捕の主因の一つは人違いとされている(入手可能な最新データ)。CNNによると、連邦政府の基準では、冤罪となった人への補償額は投獄1年につき最低5万ドル、死刑囚監房に収監された場合は1年ごとにさらに追加額が支払われることになっている。犯人特定の精度を高めるため、顔認識ソフトウェアへの依存度がますます高まっているものの、適切な監視や強靭なガバナンスシステムがなければ顔認識技術の利用が人権侵害につながる可能性もあるため、適切なバランスをとることが非常に重要となっている。

さらに、法執行機関は、映像管理システム(VMS)を活用して特定の個人の特徴を検出することにより、しらみつぶしに監視映像を調べるコストを最小限に抑えることができる。基本的に、VMSに人物の特徴を入力することにより、捜査官は大量の映像をフィルタリングし、迅速に関連する画像を抽出できる。たとえば、AI映像分析ソフトウェアのVintra(USA)は、証拠特定に必要な映像確認時間を最大80%削減できるとしている。

未来

映像監視システムは、他社のアドオン機能とも連携可能

映像監視システムのバリューチェーンは1)ハードウェアメーカー(カメラやネットワークビデオレコーダーなど)、2)VMSプロバイダー、3)顔認識、ナンバープレート認識などの予測映像分析ソリューションに特化したソフトウェアプロバイダー、の大きく3つで構成される。

Bosch(DEU)、Huawei(华为技术、CHN)、Honeywell(USA)など高解像度カメラのトップメーカーは、自社で開発した予測分析ソリューションを備えたVMSを販売している。これらのサービスは、世界中に広がる代理店ネットワークを通じて顧客に提供される。さらに、キヤノン、Bosch、Honeywellなどのシステムは、他の映像監視ソフトウェアベンダーの製品との統合機能も備えている。たとえば、BoschのカメラはGenetec(CAN)およびQognify(USA)の映像管理ソフトウェアシステムに統合でき、また同社のVMSは500を超える他社製カメラなどと連携できる。

高度なハードウェア・ソフトウェアを自社で開発するための技術力やリソースを持たない企業も、他社と提携して、顧客にエンドツーエンド型ソリューションを提供する企業が増えている。たとえば、HikVision(杭州海康威视科技、CHN)は2021年にTranspeye(GBR)と提携した。この提携は、HikVisionのスマートデバイスをTranspeyeの次世代小売ロス防止ソリューションと組み合わせることで、小売業者のリスク管理を支援する総合的なツールキットを提供することを目的としている。同様に、日本のセキュリティ監視ソリューションプロバイダーi-PROは2022年、有線・無線のハードウェア・ソフトウェアなどのネットワーク製品を手掛けるExtreme Networks(USA)と提携した。この提携により、両社のソリューションを統合し、i-PROの大規模物理セキュリティシステムの展開、拡張性、信頼性を強化することを目指している。

映像監視ハードウェアおよびソフトウェアプロバイダーのバリューチェーン

出所:Uzabase作成

カジノではすでに導入が進み、今後は小売業界などでのさらなる拡大が期待される

カジノ・ゲーム業界は、顔認識技術をはじめとするセキュリティテックを早期に導入した業界の1つである。特に、既知のカードカウンター(カードを予測するプレイヤー)を見つけるためのSIFT(スケール不変特徴変換)ソフトウェアは、カジノ事業者の間では一般的に広く採用されていた。今日では、より高度な顔認識ソフトウェアへのアップグレードにより、カジノはブラックリストに登録された個人を検出できるようになり、ギャンブル規制当局と協力してギャンブル依存症への対策にも取り組んでいる。たとえば、日本政府は2019年3月に、ギャンブル施設運営者に対し、ギャンブル依存症者が施設内に入場するのを制限するため、生体認証技術の採用を求める計画を検討していると伝えられた。

世界で急速に映像分析ソリューションを採用しているとみられるのは小売業界の企業である。市場調査会社のGrand View Researchによると、映像分析のエンドユーザーで最も高い成長率が期待されるのは小売業界であり、2017-25年にかけてCAGR約26%で拡大する見通しである。なお、2020年時点では小売・EC業界が顔認識市場売上高の21%超と最大割合を占める。ただ、顔認識技術は監視目的だけではなく、販促活動など、小売業界における他の目的にも使用されている。

カジノ業界、小売業界、法執行機関において高度な映像分析を採用する利点

出所:NEC、FaceFirst、Vintraを基にUzabase作成

AI映像分析システムは医療分野でも有用とされる

AI映像分析システムは医療分野においても有用なツールである。AI搭載のCCTV映像分析を活用した監視システムは、患者転倒の検知、幼児誘拐の防止、無人の車椅子の特定、病棟の監視、火災の検知、ブラックリストに載った人物の特定、顔認識による従業員の勤怠管理、盗難の防止、過密状態の検知、衛生管理、患者のバイタモニタリング、安全対策の強化などさまざまなメリットがあり、効率的な医療業務を支えている。

小売業界では、コロナ禍では、感染症対策として入店時にAIを搭載した非接触型スキャナで顧客の体温を測りスクリーニングを行うなど、安心して買い物ができる環境づくりが行われた。AI映像分析技術の導入により、顔認識や熱センサと組み合わせて複数の人の体温を同時に測定し異常検出を行うほか、マスクを着用していない人の検出、また従業員が店舗内除菌を適切な頻度行っているかなどを監視することができる。さらに、店舗内で基準値を超える密集状態を検出すると管理者に通知するなど、入店人数の管理に活用できる技術もある。

たとえば、Intellivision(USA)は、2020年7月にマスク着用の有無を検知するAI映像分析を発表した。これにより、従業員や顧客が安全ガイドラインに従っているかを容易に確認でき、マスクが確認できない場合にはアラームが鳴る。BriefCam(ISR)は、人と人との距離を検知する映像分析を基に、感染拡大防止のため感染者・濃厚接触者の追跡を行うソフトウェアを提供している。

青山 武史

青山 武史

グロービス経営大学院大学でMBAを取得し、キャリアを一貫してクリエイティブ、テクノロジー、ビジネスを高度に融合させた新規事業開発やイノベーションの創出を主導して来た。スタートアップ(最高事業責任者)や事業会社(マーケティング最高責任者)等でマーケティングからサービス開発までの新規事業開発の経験を積み、多くの事業で収益規模を拡大し、大手企業とのアライアンスに携わった。現在はYKK APにて新規事業開発部担当部長として、再生エネルギー事業の推進と新規領域の探索を担当。Point0を通して大手企業と共創活動を推進。渋谷未来デザインとSWiTCHとのカーボンニュートラルプロジェクト「CNUD」に参画。個人としても大手エネルギー企業のヘルスケ領域の新規事業開発支援コンサルティング実績多数。

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