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シェアオフィス

文章最終更新日:2023年11月21日

トレンド概要

シェアオフィスは従来のオフィスに代わり得る、コスト効率と柔軟性に優れたソリューション

「シェアオフィス」とは、企業や個人が必要に応じて利用する共用オフィスであり、プリンタ、コピー機、家具など、従来のオフィス設備が備えられている。また、シェアオフィスは利用者の間で一体感や協業を生み出すようなインテリアデザインを重視することが多い。

従来型のオフィス空間は、建設、内装、定期的な維持管理、また賃貸という長期的なコミットメントが生じるため多額の投資が必要であった。一方シェアオフィスは広くて開放的、かつ内装が既に整えられているためすぐに利用できる空間を提供している。最近でははじめからシェアオフィスとしての利用を目的に整備された空間だけではなく、営業時間外のレストランや空き店舗、企業内のレンタルスペースなど、様々な場所がシェアオフィスに利用される。シェアオフィスは利用者自身による設備投資は少なく、手ごろな料金で利用することができる。

シェアオフィスとオフィス賃貸の比較

出所:Uzabase作成

シェアオフィスには、コワーキングスペース、インキュベーター、コミュニティ・ハブなどの形態がある。コワーキングスペース事業者は貸主と長期の賃貸契約、利用者とは短期の利用契約を結び、月会費を徴収する。大手事業者はスパやジム設備、またヨガのレッスンなど提供するサービスを統合し、顧客が終日施設内で時間を過ごせるような環境を整えている。これにより、顧客の利用時間の最大化による利益率の押し上げを狙う。インキュベーター型は、スタートアップに対してオフィスを提供するだけではなく、事業を発展させるための経営アドバイスを提供する。コミュニティ・ハブ型は、事業活動を行うコミュニティに対し直接サービスを提供する。

世界的にシェアオフィスではコワーキング型の利用が一般的であるため、本レポートではコワーキングがもたらす効果に焦点を当てる。

シェアオフィスの4つの主要モデル

出所:JLLを基にUzabase作成

コスト削減効果と柔軟性、ミレニアル世代からの需要がシェアオフィス導入を後押し

シェアオフィスの需要は、コスト削減効果、利用の柔軟性、ミレニアル世代の利用増加にけん引されている。

企業のコスト削減ニーズと労働者の柔軟な働き方に対するニーズが相まって、「臨時」という雇用・労働形態が生まれた。大手企業は季節的変化に対応するため、臨時雇用者を採用するようになり、シェアオフィスの需要を促進した。シェアオフィスには、資源の共有が前提であることや、先行投資が少なくて済むこと、利用料金が従量制であること、賃貸期間に柔軟性があること、従業員1人あたりのコスト削減に寄与することなどの特徴がある。

また、ミレニアル世代の存在もシェアオフィスの普及に大きな役割を果たしている。Gensler Research Instituteが6,000人以上のフルタイムワーカーを対象に実施した「US Workplace Survey 2019」によると、労働力の最大割合を占めるのはミレニアル世代で、そのうち62%がシェアオフィスを利用している(入手可能な最新データ)。ミレニアル世代を採用したい企業にとってシェアオフィスの導入は重要となりつつある。

企業におけるシェアオフィスの利点

出所:Uzabase作成

データ分析や機械学習といったテクノロジーによって豊かな顧客体験を提供

シェアオフィス事業者は、データ分析や機械学習といったテクノロジーを活用し、顧客体験の向上を図っている。たとえば、IWG(CHE)のアプリには検索・マッチング機能があり、顧客は簡単にシェアオフィスの利用を予約することができる。これらのアプリはまた、顧客がシェアオフィスの利用を予約・評価し、コミュニティ内での投稿に何らかの反応をすると、これに基づき顧客の好みを学習する機械学習機能を備えている。

これにより顧客満足度が上昇し、コミュニティ内での活動が活発化する。さらに、データ分析に基づき、企業に勤める会員に最適な空間活用、コスト最適化、ならびにチームの座席表やメンテナンス依頼を含む業務プロセスを自動・迅速化するアルゴリズムなどを備えたソリューションを提供している。

シェアオフィス事業者は先進国市場でデータ保護規制に直面

先進市場でシェアオフィス事業者に適用される主なデータ保護・プライバシー規制の概要を下表にまとめる。

先進地域における主なデータ保護・プライバシー規制

出所:Uzabase作成

マネタイズ

供給量が多いことから、アジア太平洋地域が世界のシェアオフィス市場をリード

WealthManagement.comによると、シェアオフィス(コワーキングスペース)市場はコロナ禍の影響から回復している。2022年の主要事業者における稼働率はコロナ前の水準まで戻ったと報告されている。Research and Marketsによれば、世界のシェアオフィス市場は2022年に約160億ドル規模となり、アジア太平洋と北米地域にけん引され、2022-27年にかけて年平均成長率(CAGR)17%で成長すると見込まれている。

また、TeamStageによると、世界のシェアオフィスのロケーション数は2019年時点で約2万2,400か所に達している(入手可能な最新データ)。このうち、アジア太平洋が約52%と最大シェアを占め、米国は28%となっている。一方、CoworkIntel(2021年)によると、シェアオフィスの月額デスク利用料は北米(平均440ドル)が最も高く、これに欧州(同406ドル)、オセアニア(同381ドル)、アジア(同252ドル)が続く。このことから、Research and Marketsのデータに基づく世界のシェアオフィス市場におけるアジア太平洋の優位性は、料金よりも供給されているロケーション数の多さに起因することがわかる。

さらに、TeamStageによると、シェアオフィス施設の大半は開設後2年以内に黒字化するが、開設当初の期間は所有者の他の収入源によって運営・維持されている。同出所の「Coworking Statistics」(2019年)によれば、シェアオフィス事業者の売上高構成比ではデスク利用料が全体の61%を占め、これに会議室のレンタル料(10%)、イベントルームのレンタル料(10%)、飲食品販売(5%)、セミナーなどのイベント開催(5%)が続く。24時間営業を行い、会費の一括払いオプションや受付・バーチャルオフィスサービスなど、追加サービスを提供する店舗もある。このほか、シェアオフィス事業者の10社中7社は、顧客に提供するシェアオフィスを所有権者から賃貸またはリースしており、売上高の38%を賃料の支払い、17%を人件費などの運営費に充てている。

企業はシェアオフィスの活用で、短期プロジェクトを低コストで扱える

シェアオフィスの活用は、プロジェクト管理においてもコスト削減というメリットを提供する。臨時労働者には柔軟に利用できるオフィスを活用してもらうことで、従業員すべてを新たなオフィスに移動させる手間とコストを回避することができる。たとえば、従業員20人の企業が、追加で30人の臨時従業員を要する一時的なプロジェクトを計画しているとする。オフィスを恒久的に移転する場合、より広いオフィスが必要となるだけでなく、高額な賃料がかかる賃貸契約を新たに結ばなければならない。

一方で、追加で雇用された30人が利用できるシェアオフィスを契約することもできる。以下のコスト分析によると、臨時従業員に12か月契約でシェアオフィスを提供した場合、新たに賃貸契約を結ぶ場合よりも、従業員1人あたりの年間賃料を約12%削減することができる。

シェアオフィス利用における従業員1人あたりの賃料削減効果

出所:Uzabase作成

注1:従業員1人あたりに必要なスペースを150平方フィートとして算出した

注2:1平方フィートあたりの年間賃料は、従来の賃貸契約で80ドル、シェアオフィスで64ドルと仮定

ディナー限定型の新規レストランは、営業時間外にシェアオフィスとして場所を提供することで収益拡大が見込める

レストラン経営者は、営業時間外にコワーキングモデルを導入することで、経費を抑えて収益の拡大が見込める。たとえば、典型的なディナー限定のレストランは午後6時から12時までの営業となり、日中の時間帯は利用されていないスペースを利活用できる。以下に、レストランが検討できる3つのコワーキングモデルを紹介する。

・アラカルト型:レストランがスペースを無料で提供し、メニュー注文から利益を上げる。発生するコストは、Wi-Fi、追加の清掃スタッフ、サーバー、プリンタ、スキャナ、およびわずかな改装費(コンセント・充電ステーションの追加)と少ない。入会金を徴収しないため、多くの新規顧客を呼び込むことができる一方で、長時間の滞在であまり注文をしない顧客も含まれる可能性がある。

・サブスクリプション型:レストランがスペースや各種設備(Wi-Fi、サーバー等)、無料のコーヒーなどを提供する。顧客は、コーヒー飲み放題や軽食ビュッフェが含まれるデイパスや月額プランを購入することで、ワークスペースを利用することができる。特に、ディナータイムのみ営業を行うレストランにとっては、閉店中の朝~午後の早い時間帯にシェアオフィスとして営業することで、店舗の営業効率を上げることができる。

・ハイブリッド型:レストランはコーヒーや食事代に加え、手ごろな価格帯で席の予約とネット接続を提供する。顧客はこれらを利用できる会費/デイパスの料金を支払うが、追加料金を支払うことでお替り自由のコーヒー・軽食サービスを利用することができる。

ニューヨークのディナー限定の新規レストランに45万ドルを投資したとすると、その構成比は敷金(20%)、厨房設営費(78%)、ダイニングエリアの改装費(2%)となる試算である。次の表の「基本シナリオ」では、独立系の新規レストランを想定している。

また、シェアオフィスの稼働率が60~100%で変動すると想定し各シナリオを分析した。最も可能性が高いと考えられる第4シナリオ(シェアオフィスの稼働率が80%)では、年間の売上高が9%増加し、営業利益率が5ポイント上昇する試算となる。

アラカルト型を採用した場合のレストランの営業利益率シナリオ

出所:Uzabase作成

注1:レストランの売上高は、3,000平方フィートのスペース(ダイニングエリアが6割・キッチンが4割)を持つ店舗、営業時間中の稼働率は70%、客席回転率は1.6、ディナーの平均請求額50ドルを基に算出

注2:シェアオフィスの売上高は、ランチの平均請求額10ドルを基に算出

注3:シェアオフィスの追加投資には、プリンタ、スキャナ、コーヒーメーカー、および追加的な改装費を含む

注4:固定費は、賃料、一部間接費および減価償却費からなる

注5:変動費は、食料、人件費、一部間接費、追加のサーバーや清掃スタッフの費用を含む

同じ考え方で、月会費を130ドル、会費は10.0%上昇すると想定してサブスクリプション型のシナリオを分析した結果、アラカルト型よりも収益性が低いことが分かった。

年間営業利益率を比較して、最も楽観的な第6シナリオ(シェアオフィスの稼働率が100%)でも、アラカルト型で最も可能性の高い第4シナリオ(シェアオフィスの稼働率が80%)を下回る。

サブスクリプション型を採用した場合のレストランの営業利益率シナリオ

出所:Uzabase作成

さらに、レストランはサブスクリプション型よりも、アラカルト型を採用した方が投資回収期間を大きく短縮できる。

アラカルト型とサブスクリプション型の投資回収期間の短縮シナリオ比較

出所:Uzabase作成

未来

シェアオフィス大手IWGの優位性は、水平型M&Aとフランチャイズ活動に支えられている

「Coworking Statistics: Shared Workspace in 2023」によると、現在IWG(旧称Regus、LUX)が世界最大のシェアオフィス事業者となっている。同社の優位性は水平型M&Aやフランチャイズ活動によって支えられていると考えられる。たとえば、IWGは2021年、女性に特化したシェアオフィスタートアップであるThe Wing(USA)の過半数株式を取得した。同年には、不動産賃貸・シェアオフィス企業Conjoinix(IND)とフランチャイズ契約を結び、デリー首都圏をはじめ、ハリヤナ州、ウッタル・プラデーシュ州、ジャンムー・カシミール州、グジャラート州で18か所の施設を展開し、インド市場での事業を拡大している。

また、スタートアップや臨時雇用者の急増に伴い、柔軟性の高いワークスペースへの需要が高まり、不動産会社がシェアオフィス事業に乗り出している。日本では、東京建物や三井不動産といった大手不動産会社がシェアオフィス施設を設立している。さらに、企業不動産(CRE)業界では、貸主によるサービスを重視したテナント向け戦略から、シェアオフィス事業者による自社物件の購入へと移行しつつある。たとえば、コワーキングおよびイベントスペース事業者のOakstop(USA)は2023年4月にオークランドのダウンタウンにビルを購入した。

シェアオフィス分野全体では、特定地域で事業を展開する企業が中心といえる。シェアオフィスのポータルサイトCoworking Resourcesが実施した調査「Global Coworking Growth Study 2020」によると、シェアオフィス市場では1つのロケーションを営業している企業が全体の約52%と大部分を占め、これに数か所のロケーションを営業する企業(29%)、8か所以上のロケーションを営業する企業(13%)が続く(入手可能な最新データ)。

企業不動産(CRE)業界のバリューチェーン

出所:Uzabase作成

シェアオフィスの入った建物は還元利回りが高くなる傾向に、建物の価値は入居者の信用度に影響される

Cushman and Wakefieldの2018年の調査によると、建物内のシェアオフィスの比率が40%以上の場合、類似物件と比較して50~100ベーシスポイント高い還元利回り(収益還元率、値が高いほど収益とリスクが高い)で取引されたことが明らかとなった(入手可能な最新データ)。投資家は「シェアオフィスは景気の影響を受けやすく高いリスクを抱えるスタートアップが広く利用している」と認識していることから、同プレミアムはシェアオフィスの入居者の信用度に影響される。

こうした傾向もあって、2023年6月時点で39か国に777か所のロケーションを持つWeWork(USA)などの事業者は運営上の困難に直面している。ゼロ金利環境において、ベンチャーキャピタルの投資を受けたスタートアップが目覚ましく売上を伸ばすなか、WeWorkは急拡大を遂げた。しかし2023年8月時点では、事業の将来性が懸念されていた。そして、顧客の解約により資金の流出が止まらず、同年11月にニュージャージー州で連邦破産法第11条の適用を申請した。Maryland Daily Record紙は、破産申請により、WeWorkが入居するビルは大きな打撃を受ける可能性があると指摘している。

青山 武史

青山 武史

グロービス経営大学院大学でMBAを取得し、キャリアを一貫してクリエイティブ、テクノロジー、ビジネスを高度に融合させた新規事業開発やイノベーションの創出を主導して来た。スタートアップ(最高事業責任者)や事業会社(マーケティング最高責任者)等でマーケティングからサービス開発までの新規事業開発の経験を積み、多くの事業で収益規模を拡大し、大手企業とのアライアンスに携わった。現在はYKK APにて新規事業開発部担当部長として、再生エネルギー事業の推進と新規領域の探索を担当。Point0を通して大手企業と共創活動を推進。渋谷未来デザインとSWiTCHとのカーボンニュートラルプロジェクト「CNUD」に参画。個人としても大手エネルギー企業のヘルスケ領域の新規事業開発支援コンサルティング実績多数。

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