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スマート農業

文章最終更新日:2024年01月22日

トレンド概要

スマート農業技術は、リアルタイムの意思決定を支援して収穫量の向上を後押しする

スマート農業とは、農作業の効率化や生産性の向上、農作物の品質向上を目的に、データ分析技術などを用いてより正確な意思決定を行い、運営を最適化する農場経営のコンセプトである。衛星、ドローン、ロボット、センサなどの機器を使って、圃場からリアルタイムにデータを収集する。収集されたデータはクラウド型の意思決定支援システムに送信され、整理された付加価値のある情報として、農家にリアルタイムで提供する。これにより、それぞれの農場や圃場に合わせて、情報に基づいた意思決定をスムーズに行うことができ、収穫量の向上につながる。

なお、屋内の管理された環境で、垂直に積み重ねた棚や栽培トレイを用いて作物を栽培する方法については垂直農法を参照。

スマート農業システムの構成要素と概要イメージ

出所:Uzabase作成

スマート農業のコンセプトは、精密農業から得た知識がベースとなっている。センサとGPSシステムが開発されたことで、カバーされるグリッドを基に施肥が必要な圃場を導き出せるようになった。その後、ドローンや衛星、高度な内蔵型センサなどの技術が進化し、圃場のデータを正確に収集し、作物をリアルタイムでモニタリング・管理できるようになった。精密農業はスマート農業の一分野に位置づけられる。両者の技術は類似するものの、大きな違いは、精密農業が個別の圃場や作物の状況を観察して事実を記録し、きめ細かな栽培管理を目指すのに対し、スマート農業は圃場ごとに情報に基づく意思決定を促す。

IoTとビッグデータの進歩も、スマート農業の発展を下支えしている。これにより、農業プロセスが相互に接続され、農地に設置されたスマート農業用機器をソフトウェアソリューションに統合することで、作物の成長、灌漑管理などを継続的にモニタリングし、先を見越した意思決定を円滑に行えるようになっている。

農業技術の発展

出所:Uzabase作成

スマート農業技術は農業の様々な工程で活用できる

スマート農業技術は、作物栽培、家畜管理、漁業など、多様な一次産業(農業)分野で活用できるが、本レポートは作物栽培におけるスマート農業技術の活用に焦点をあてる。同技術は、作物栽培の様々な作業工程で利用でき、食用作物(小麦、米など)、商品作物(サトウキビ、タバコ、綿など)、プランテーション作物(ココナッツ、茶など)など幅広い作物に応用できる。

作物栽培におけるスマート農業技術の応用

出所:Uzabase作成

農地が減少する中、食料需要の拡大に対応するため収穫量の向上が急務

スマート農業が成長している要因として、世界的な農地の減少や食料需要の増加が挙げられる。米国の人口は2010-22年にかけて約8%増加した(米国国勢調査局)一方、米国内の農地は同期間にエーカー換算で2%縮小した(米国農務省)。このため、国民1人あたり農地面積は2010年の3.0エーカーから2022年には2.7エーカーまで減少し、農作物の収穫量を向上する必要性が高まっている。

2016年の Deloitte のレポートによると、トウモロコシ生産にスマート農業技術が導入された場合、世界のトウモロコシ収穫量は約30%増加すると見込まれる(入手可能な最新データ)。米国の穀物用トウモロコシのエーカーあたり平均収穫量は、2023年に約175ブッシェルとなり、2010年の153ブッシェルから増加している(米国農務省)。スマート農業技術の普及が収穫量の向上に寄与したと考えられる。

労働力不足と人件費の上昇が自動化ニーズを後押し

米国農務省によると、米国の農業従事者数は2000-22年にかけて約18%減少した。非管理職の農業従事者の1時間あたり平均実質賃金は同期間にかけて29%上昇し約17ドルとなり、また同賃金が非農業従事者の平均賃金に占める割合は約7ポイント増の約60%となった。こうした農業における労働力の減少と人件費の上昇を受けて、農業の自動化によるコスト削減を推進する動きがみられる。たとえば、ワイン専門誌「Wine Enthusiast」は2023年、手摘みによるブドウ収穫は、機械収穫に比べて収穫量1トンあたり最大3倍のコストがかかると指摘している。中国農業農村部によると、中国湖北省秭帰県のオレンジ果樹園では施肥・給水作業を統合したスマート灌漑システムが導入されたことで、水の使用量が70%以上、肥料の使用量が40%削減され、さらには労働力の9割軽減につながっているとしている(2022年のChina Daily記事を引用)。

政府もスマート農業技術の利用を後押し

EUでは、農業政策の枠組みを通じ、地域全体でスマート農業を強力に推進している。具体的には欧州全域を対象とした研究・イノベーション促進の枠組みである「Horizon 2020」プログラムを通じ、スマート農業技術を広めるため農家に財政的支援を行っている。

米国では、2018 年の新農業法(Agriculture Improvement Act of 2018)の成立をきっかけとして、連邦通信委員会(FCC)と農務省に農地におけるブロードバンドサービス整備案に関わる助言・提言を行うタスクフォースが立ち上げられた。また、2022年には、ミネソタ大学が2.2億ドル規模の農業研究開発施設「Future of Advanced Agricultural Research Minnesota」(FAARM)を建設する計画を発表した。この施設では、AIやロボティクスなどの技術を活用した農業ソリューションの研究が行われる予定である。

中国政府は、2018年に江蘇省で7年にわたる農業自動化の試験事業を開始し、植付、施肥、収穫を自動化する農業用機械の普及推進に取り組んでいる。2021年には、「国民経済・社会発展に向けた第14次5カ年計画網要(2021-25年)」を発表し、革新的な農業技術やスマート農業への投資を重点分野に位置づけた。さらに 農業農村部は2022年、ビッグデータを活用した「デジタル化実証区」を3~5年で本格展開するよう求めるガイドラインを発表した。

日本では、農林水産省が今後10年の農業政策の基本方針を示した「食料・農業・農村基本計画」を策定している。2020年に公表された内容には、国内の農業労働者数が2015年の210万人弱から2030年には130万人にまで減少する見通しを踏まえ、AIやIoT、ロボットといった技術の導入を通じて農業分野の生産性向上を促進する指針が盛り込まれている。これに関連する政府主導の取り組みとしては、農業関係者間の連携推進を目的とした農業データプラットフォーム「WAGRI」の開発などがあり、2019年に運用を開始した。

マネタイズ

政策支援により、北米がスマート農業市場を先導

Grand View Researchによると、2022年の世界のスマート農業市場は約200億ドル規模であり、2023-30年にかけて年平均成長率(CAGR)13%で成長すると予測されている。地域別にみると、2022年では北米が売上高ベースでみた市場シェア45%でリードしている。北米の優位性は、水の保全に対する関心の高まりとともに、政府や規制当局が農業支援策を実施していることに支えられている。さらに、北米の大手農業機械メーカー各社もスマート農業分野へ積極的に投資している。たとえば、John Deere(USA)は、2017-21年の間に米国のスマート農業スタートアップ2社Bear Flag Robotics(USA)とBlue River Technology(USA)を買収し、2022年に完全自動運転トラクターをテクノロジー見本市「CES」で発表した。

またGrand View Researchによると、アジア太平洋市場は2022-30年にかけて最も高い成長率を示すとみられる。この成長は、政府の投資により農業機械化が進みスマート技術の導入が拡大している中国がけん引する見込みである(詳細については農業機械業界レポートを参照)。Mordor Intelligence(中国農業農村部に基づく)によると、中国における作物栽培と収穫の機械化率は、2003年の33%から2019年には約70%に上昇している(入手可能な最新データ)。このことから、同国の農業におけるセンサと関連機器の利用が拡大していることがわかる。

中~大規模農家の技術導入から投資回収までにかかる期間は小規模農家よりも短い

米国の農家の大半は、利益の低さと負債の増大に直面している。生産コストを差し引いた農業による純利益はプラスであるものの、負債の増加を補うには不十分であり、農務省によると、2023年の農業部門における負債総額は純利益の約3倍となったと推算される。

こうした中、今後多くの農家がコスト削減と利益拡大を求めてスマート農業技術を活用する可能性がある。たとえば、スマート農業技術企業であるKray Technologies(USA)は、同社の作物保護剤散布用ドローンを導入したことで、散布コストを10分の1に低減し、燃料やメンテナンス、スタッフにかかる費用も削減することに成功した。種子、肥料、化学薬品などのより効果的な利用により従来の手法でかかっていた変動費も削減できる。

下表の試算では、自動運転トラクター、センサ、VRT、ドローンなどを含む作物農場向けのベーシックなスマート農業パッケージの料金は、小規模農家では平均で約6万7,000ドル、大規模農家では約23万9,000ドルにのぼる。これらの農家の平均的な収益を基準にして、初期投資回収にかかる期間は、小規模農家は約8年、中~大規模農家は約4年と試算される。なお、中~大規模農家の投資回収期間が小規模農家よりも短いのは、大規模投資が可能であることによる。さらに、スマート農業の導入に伴う生産性向上や人件費削減の効果により、利益拡大が期待できる。

スマート農業導入の経済効果

出所:Sigma Consulting

注:2024年1月時点のデータ

スマート農業技術導入から投資回収までにかかる期間(農場規模別)

出所:Uzabase作成

注1:大規模農場の平均収益は仮定

注2:スマート農業の設備投資額には、ドローン、自動運転トラクター、VRT機器、センサの費用が含まれ、農場規模に沿った仮定を基に算出

スマート農業が農家にもたらす経済的利益は作物価格に大きく依存

スマート農業の導入により、収穫量の増加が期待される一方、導入した場合の最終的な収益や利益への効果は、作物価格に左右される。たとえば、スマート農業技術の導入が進んでいる米国のトウモロコシ栽培市場をみると、平均収穫量は(エーカーあたりブッシェル)は多少変動しつつも概ね増加傾向にあり、2008年と比較して2022年には約25%増加している。一方、トウモロコシの価格(収穫時ブッシェルあたりドル)は、2022年に2008年比で同49%上昇している。特に、2020-22年ではCAGR34%近くで急激な上昇がみられた。この高騰の背景には、供給上の懸念に加え、エネルギー価格の上昇を抑制するために米国政府がエタノール混合ガソリン(主にトウモロコシ由来)の販売を一時的に許可したことにより生じた追加需要が挙げられる。

したがって、2020-22年にかけて米国のトウモロコシ生産における費用総額(営業費用と配賦間接費の合計)はCAGR17%で増加したものの、総生産額(エーカーあたりドル)がCAGR約35%で伸びたことから、純利益は2021年・2022年ともにプラスとなった。

ただし、これに先立つ2014-20年にかけては、価格の下落(2008-13年の1ブッシェルあたり3.6~6.8ドルに対し、2014-20年は3.3~3.8ドル)により総生産額が伸び悩み、純利益はマイナスであった。さらに、変動はあったものの、2014-20年の平均費用総額はエーカーあたり681ドルであり、2008-13年の平均(同574ドル)を上回った。

米国のトウモロコシ市場を例にみると、スマート農業技術の導入は収穫量を大幅に向上させるものの、作物需給のミスマッチが起こると、結果として農家の利益には大きなマイナス影響が及ぶことがわかる。

米国のトウモロコシ平均価格および収穫量推移

出所:米国農務省

米国のトウモロコシ生産における生産額および純利益推移

出所:米国農務省

未来

従来型の農機メーカーはスマート農業分野に進出

スマート農業では、リアルタイムにデータを収集して意思決定支援システムに送信するため、接続された(コネクテッド)農機が必要になる。実現のためには、既存の農機を、コネクテッド機械に変換または刷新する必要がある。この流れにより、John Deereなどの農機メーカーは、完全自動運転トラクターなどのコネクテッド機械システム(リアルタイムデータを意思決定支援システムに送信し、システムが提案する最適な解決策を実行する)を開発している。同社は、クラウドベースのデータなどのスマート農業技術を採用した数少ない従来型の農業企業の一つであり、農家が圃場のパフォーマンスを評価し、情報に基づく意思決定が行える「John Deere Operation Center」を立ち上げた。さらに、2021年にBear Flag Robotics(USA)、2022年にLight(USA)、2023年にSpark AI(USA)を買収し、自動化とAI技術のさらなる強化に取り組んでいる。

AGCO(USA)も、スマート農業のスタートアップや関連するソフトウェアソリューションプロバイダに出資して、自動運転トラクターの分野に参入している。2022年、自動化システム製品の拡充のためJCA Industries(CAN)を買収した。2023年には、自律型機械の開発を促進する目的でナビゲーション製品メーカーTrimble(USA)の農業関連事業の株式85%を取得した。

進化するスマート農業分野は、物理的および非物理的なインフラを提供することで、テック企業の参入も可能となった。NVIDIA(USA)、Amazon Web Services(USA)、Microsoft(USA)、IBM(USA)など、AIやビッグデータに関する技術を強みとするソフトウェア系企業も、そのノウハウを活かしてスマート農業市場に参入している。

スマート農業を取り入れた農業エコシステム

出所:Uzabase作成

スマート農業技術の発展により、農業経営全体がオンライン接続され効率性向上が可能に

スマート農業技術の導入により、コスト削減と収穫量の拡大だけではなく、農業経営をオンラインで結び効率性向上を図ることができる。Farmers Business Network(USA)は米国の多くの農家が利用しているECプラットフォームで、農家に対して、種子選定、融資、カスタム市場データ分析、農家間のコミュニケーションなど様々なサービスを提供している。

Carbon Robotics(USA)が2021年に発売した自律走行型除草ロボット「Autonomous Laser Weeder」は、GPS、レーザー技術、AIを搭載し、リアルタイムで圃場、作物、雑草をナビゲート・スキャンし、除去すべき雑草を特定することができる。1時間あたり10万本以上の雑草を除去し、また1日あたり15~20エーカーの範囲を除草できるとしている(労働者がタマネギ畑で作業する場合、1日に除草可能な面積は1エーカー程度)。

さらに、 Small Robot Company(GBR、略称SRC)が提供する小型ロボットは農作物ごとの栽培を支援する。同社のロボット製品「Tom」は、英国の農家向けに雑草の分布をマッピングする。英国の小麦農場の1ヘクタールあたり平均収穫量は8.4トンとされるが、Tomを導入した実験では、1ヘクタールあたり20トンの収穫量を実現した(2021年時点のデータ)。

青山 武史

青山 武史

グロービス経営大学院大学でMBAを取得し、キャリアを一貫してクリエイティブ、テクノロジー、ビジネスを高度に融合させた新規事業開発やイノベーションの創出を主導して来た。スタートアップ(最高事業責任者)や事業会社(マーケティング最高責任者)等でマーケティングからサービス開発までの新規事業開発の経験を積み、多くの事業で収益規模を拡大し、大手企業とのアライアンスに携わった。現在はYKK APにて新規事業開発部担当部長として、再生エネルギー事業の推進と新規領域の探索を担当。Point0を通して大手企業と共創活動を推進。渋谷未来デザインとSWiTCHとのカーボンニュートラルプロジェクト「CNUD」に参画。個人としても大手エネルギー企業のヘルスケ領域の新規事業開発支援コンサルティング実績多数。

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