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スマートグリッド

文章最終更新日:2024年01月24日

トレンド概要

高度な情報システムを使用したスマートグリッドにより、通信・モニタリング機能が向上

スマートグリッド(次世代電力網)は、電力会社と需要家の間で電力と情報の双方向的な流れを実現する通信・ネットワーク技術を利用した送電系統である。デジタル技術、センサ、ソフトウェアを活用することで、コストを抑えて電力網の安定性を維持しながら、リアルタイムで電力の需給を一致させる。発電所から需要家、個々の電気機器まで、電力網につながるすべての領域をモニタリングすることができる。

スマートグリッドには、需要家の電力使用量の最適化、分散型エネルギー資源(Distributed Energy Resources、DER)の統合、リアルタイムでの負荷管理、ダイナミックレーティング、自動電圧制御などの機能がある。さらに、再生可能エネルギー発電の断続性を柔軟に管理し、DERを電力網に統合することで、クリーンエネルギーの普及を促進する。

完全機能型スマートグリッドの構造

出所:Uzabase作成

電力ロスを削減したい供給者と電力料金を最適化したい需要家の双方のニーズが需要をけん引

電力供給事業者にとっては、スマートグリッドの導入により電力ロスを削減することで、収益性向上が期待される。また、動的送線路定格(Dynamic Line Rating、DLR)や故障電流制限装置、リアルタイムデータ分析など、スマートグリッドには既存の電力網にはない技術が実装されている。このため、故障電流や装置の故障、電力ロスなどを素早く検出し、影響を最小限に留めることができる。

一方、需要家にとっては、電力消費量が多い電気機器にスマートメーターを設置し、電気料金が高くなるピーク時には電源をオフにしたりするなどして、電気代を下げることができる。日本では、スマートメーターに対応した時間帯別料金プランを導入することで、2018年にピーク時の電力消費量を平均8%程度削減した(入手可能な最新データ)。

スマートグリッドの導入促進要因1:送電技術に関わるコスト低下

蓄電やDER、通信システムなど、スマートグリッドに採用されている技術はこれまでも利用が可能であったが、ここ10年で電力網の最新化が進んでいる。この動きをけん引しているのは、これら技術に関わるコストの低下である。

電力網の最新化において重要な要素の一つは、「蓄電技術」である。この技術は、慣性力(需要・負荷の急増に対応できる供給能力)が低い再生可能エネルギーの電力網管理を補助することが主な目的である。再生可能エネルギーの供給は、風力や太陽光など資源の利用可能性によって左右されるため、需給の急激な変動に対応できない。蓄電(特にバッテリー)の世界平均コストは年々低下し続けている。米国エネルギー情報局(EIA)によると、米国の発電所規模のバッテリーコストは2015-20年にかけて年平均成長率(CAGR)-22%で減少している(入手可能な最新データ)。電気自動車(EV)向けのバッテリー生産が急拡大したことに加え、電力部門での蓄電システムの導入などが、蓄電コスト削減の流れを生み出している。

電力網の最新化を促進するもう一つの要因は、再生可能エネルギー設備のコスト低下である。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、再生可能エネルギー設備の設置コストは減少が続いており、2010-22年にかけて陸上風力タービンの設置コストは約42%、発電所規模の太陽光発電施設の設置コストも83%減少している。

また、IoTセンサの価格低下もスマートグリッドの大規模展開を後押しする。Microsoft(USA)によると、IoTセンサの価格は2004-20年にかけてCAGR約-7%で低下した(入手可能な最新データ)。センサの価格が下がれば、ハードウェア設備コストもさらに引き下げられる可能性がある。

スマートグリッドの導入促進要因2:政府支援策

各国政府は、老朽化が進む電力網を刷新し、クリーンエネルギー目標の達成に取り組んでいる。スマートグリッド導入など電力資産の抜本的な見直しに向けて、民間プロジェクトに補助金を出すなど積極的に政府支援を行っている。

米国・中国のスマートグリッド導入支援策

出所:プレスリリースを基にUzabase作成

一方、日本ではスマートグリッド導入を直接的に支援する法はないものの、「スマートコミュニティ」の推進を中核としたエネルギー戦略の主要分野として位置づけている。スマートグリッドの概念は、福島第一原発事故発生を機に最重要事項として採り入れられるようになり、2015年に閣議決定がなされた「国土形成計画」や2018年に承認された「第5次エネルギー基本計画」において重要な要素となっている。日本では、これまでスマートメーターの展開や分散型エネルギーの構築、エネルギー貯蔵の導入、また仮想発電所(VPP)技術やブロックチェーン技術、車両から電力網に送電を行うV2G(Vehicle to Grid)技術などを活用した試験的事業の実施を中心に、スマートグリッド導入の取り組みを展開してきた。

マネタイズ

スマートグリッド投資で米国が中国を追い抜く展開に、市場は今後成長見通し

Global Market Insightsによると、世界のスマートグリッド市場は2022年に約570億ドル規模となり、2022-32年にかけてCAGR約11%で成長すると見込まれている。この成長は、老朽化した電力網インフラの最新化に後押しされている。

また、国際エネルギー機関(IEA)によると、世界のスマートグリッド向け投資は、2016-20年にかけてCAGR-3%で減少した後、2020-22年にはCAGR6%で増加した。この増加は主に米国にけん引された。中国の電力網最大手が2016-21年にかけて設備投資を控えたため、2020年以降は米国が中国を追い抜いてスマートグリッド投資をリードしている。

ただ、中国国家電網(SGCC)は2021-25年にかけて電力網の建設に2.2兆元(約3,500億ドル)を投じる計画である。なかでも、超高電圧電力網、スマートメーター、スマート変電所、関連の中核部品への投資が中心となる。2021年には、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)とSGCCが基本合意を締結し、中国および世界の電力網強化を支援するとしている。また、2023年には、揚水発電、超高電圧電力網、デジタル送電網を中心に、総額5,200億元(770億ドル)以上の投資を行うと発表した。

既存の電力網をスマートグリッドに転換するには多額の投資が必要

スマートグリッドの導入コストは、電力網をどの程度最新化するか、現地の地理的条件、導入する技術の成熟度などの要素が影響し、その事業ごとに異なる。米国電力研究所(Electric Power Research Institute、EPRI)によると、米国の電力網を完全機能型のスマートグリッドに転換するには20年間で3,380~4,760億ドル(エネルギー省の年間支出額の9~13倍)かかり、うち約7割は配電網への支出となる見通しである(2011年時点、入手可能な最新データ)。

スマートグリッド導入コストの構成比

出所:Electric Power Research Institute

収益事業としてのスマートグリッド

様々な機能を持つスマートグリッドの導入により、需要家に質が高く安定性の高い電力をデジタルに提供できるようになるだけではなく、電力の広範な供給、持続可能なエネルギー供給にもつながる。また、スマートグリッドの開発なしには、EV、蓄電、デマンドレスポンス、分散型電源、再生可能エネルギー利用などの技術を十分に活かすことはできない。加えて、スマートグリッドは電力業界のバリューチェーン上の様々な分野でコスト削減を実現し、需要家にかかる電気料金の負担を軽減することもできる。

未来

分散型発電と情報配信分野に新たなビジネスチャンス

分散型電源の急成長により、発電所規模の「発電」の役割が軽減され、この代わりに「プロシューマー(Prosumer)」と呼ばれる分散型発電業者兼需要家が誕生した。これにより、市場では新しいモデルでのビジネスチャンスが生まれている。これと同様に、太陽光発電を始めとする電力網に接続されていないインフラソリューションにおいても、新たな事業参入の機会が見受けられる。これらは、政府のDER向け支援制度によって下支えされている。インフラソリューション事業者は、機器を設置しレンタルしたり、市場価格を下回る標準価格で電力を購入し、市場価格で電力網に再販したりするなど、様々な収益モデルを採用している。また、電化率の低い地域で大規模電力網に接続されていないマイクログリッドやミニグリッドソリューションを提供するなどのビジネスチャンスもある。

また、市場においてはサードパーティサービス事業者にとっても新たなビジネスチャンスが生まれている。分散型資源がオンライン上で取引され、プラグイン電気自動車の使用が増加するにつれて、P2P(ピアツーピア)取引や、動的時間帯別料金設定、デマンドレスポンスサービスなどの新しいサービスに対する需要が生まれた。これらのサービスでは、複数のDERからの電力を統合し電力網間で相互供給を行うため、第三者による小規模介入が必要となる。現在、Piclo(GBR)やOhmConnect(USA)などの企業が同部門に参入している。

スマートグリッドのバリューチェーン

出所:Uzabase作成

さまざまな新製品による消費電力の最適化

市場では、スマートグリッド技術による電力消費の最適化と負荷制御に対応する新しい製品が登場している。現在、スマートグリッド技術を利用したデマンドレスポンス型製品として、「時間帯別料金プログラム」と「直接負荷制御(DLC)プログラム」の2つの開発が主に進められている。

スマートグリッドに対応する新製品

出所:米国エネルギー省(DOE)

時間帯別料金は、主にピーク期間中の電力消費量削減を目指した仕組みである。これには時間帯、曜日、月別など多くの形態がある。ただ、一般的には夏の暑い日など、電力供給コストと需要が比較的高い時には割高の料金、コストと需要が比較的低い時には割安な料金が適用される。パシフィックノースウェスト国立研究所の2022年の調査によると、リアルタイム料金設定を採用することで、需要家が負担する電気料金を10~17%下げることができたという。

また、需要家側の目標達成のため、代替としてインセンティブに基づくプログラムを提供する場合もある(時間帯別料金にインセンティブを追加、あるいは時間帯別料金の代替として)。

電気料金制度

出所:米国エネルギー省(DOE)

「直接負荷制御」とは、ピーク需要時や突然の電力供給の不均衡が発生した場合に、需要家の同意を得たうえで、家庭や施設内にある機器を直接制御することにより、電力消費量を自動管理する技術である。需要家に機器へのアクセス・制御を許可してもらうには、電気料金の割引や請求額への払い戻しという形でインセンティブを提供する必要がある。

事業コストの計画が不十分であれば料金負担が増大するおそれも

米国の公共電力会社は、高度計測インフラ(AMI)、顧客システム、配電自動化、送電系統の刷新など、すべての分野においてスマートグリッド事業を実施している。ただ、これらの事業は現在も進行中であることから、予定されている経済的効果を実現するには至っていない。

また、多くの事業の計画が不十分であったり、予期せぬコストが生じたりするなどし、開発段階で大きな課題を抱えている。たとえば、電力会社のSeattle City Light(USA)は2017年、AMI事業遅延に伴うコスト超過のため、予定していた期間内に事業計画の30%は実行不可能と公表している。

英国の全世帯スマートメーター導入計画でも同様の状況がみられた。2016年に開始された同事業は、スマートメーターを2020年までに5,300万台設置することを目標に掲げていたが、事業の完了に遅れが生じ、事業コストが当初の予算から約23%も超過する結果となった(The Week誌)。このように、スマートグリッドの導入を成功させるためには、それぞれの事業の費用対効果につき正確かつ詳細に分析する必要がある。

青山 武史

青山 武史

グロービス経営大学院大学でMBAを取得し、キャリアを一貫してクリエイティブ、テクノロジー、ビジネスを高度に融合させた新規事業開発やイノベーションの創出を主導して来た。スタートアップ(最高事業責任者)や事業会社(マーケティング最高責任者)等でマーケティングからサービス開発までの新規事業開発の経験を積み、多くの事業で収益規模を拡大し、大手企業とのアライアンスに携わった。現在はYKK APにて新規事業開発部担当部長として、再生エネルギー事業の推進と新規領域の探索を担当。Point0を通して大手企業と共創活動を推進。渋谷未来デザインとSWiTCHとのカーボンニュートラルプロジェクト「CNUD」に参画。個人としても大手エネルギー企業のヘルスケ領域の新規事業開発支援コンサルティング実績多数。

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