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サブスクリプション

文章最終更新日:2023年10月26日

トレンド概要

サブスクリプションは顧客から利用期間に応じた定額料金を回収し、自社サービスの利用権を提供するビジネスモデル

サブスクリプションは、仕事や日常生活などのあらゆる場面で馴染み深いものとなりつつある。代表的な事例には、Adobe(USA)やSalesforce(USA)などのSaaS(Software as a Service)、Netflix(USA)やSpotify(SWE)のような映像や音楽のコンテンツストリーミングサービスなどが挙げられる。

サブスクリプションとは、利用期間に応じた定額料金を回収し、顧客にコンテンツやサービスの継続的な利用権を提供するビジネスモデルである。単発の購入・利用で終わらず、顧客の継続的な利用に重きが置かれた設計になっていること、それに伴い顧客の決済が企業との関係性のスタートとなることが特徴である。

サブスクリプションの急速な普及の背景には、ITインフラの進展によりweb上でのサービス提供や利用・決済などが容易になったことに加え、顧客との継続的な関係性を構築したい企業のニーズと、低コストで様々なサービスを試しながら価値を見極めたい顧客側のニーズが合致したことなどが挙げられる。近年はサブスクリプションへの社会的受容性が高まったことで、前述のようなデジタルサービスだけでなく、服や飲食料品、家具など非デジタル領域の商品でも浸透し始めている。

本トレンドでは、特にデジタル領域のサービスにフォーカスし、サブスクリプションの特徴や、企業と顧客双方への影響、導入によるビジネスモデルの変化などを概観する。なお、物理的な商品を対象とするサブスクリプションについてはモノのシェアリングエコノミーを参照。

サブスクリプションの特徴

出所:Uzabase作成

toBでは売上のバラつきや予測の立てづらさという企業の課題を解決

サブスクリプションの対象領域は多岐に渡るが、企業にとって導入のインセンティブはtoBとtoCで異なる。

toBのサブスクリプションは、主にSaaSの領域で展開されている。従来は物理的なソフトウェアやパッケージ化された機能の一括購入・ダウンロードが一般的なモデルであった。しかし、事業の継続性を考える上では、月・年ごとの購入有無により売上のバラつきが生じやすい、売上予測が立てづらい、などの課題があった。そのため、事業運営にかかる予算確保や将来成長に向けた投資計画を立てづらい状況となっていた。

サブスクリプションでは、利用期間に対して継続的に支払いがあるため、売上が平準化されており、ある程度の利用継続を前提とした将来計画を立てやすい。さらに、顧客の利用中に適切なサポートやサービスのアップデートを行い、利用期間を長期化することができれば、最終的な売上が従来モデルの場合を上回ることもありうる。

toCでは少額での利用開始や習慣化などが顧客の獲得・維持コストを軽減

toCのサブスクリプションは、動画配信サービス(「Netflix」、「Disney+」など)、音楽配信サービス(「Apple Music」、「Spotify」など)、ゲーム(「PlayStation Network」、「Nintendo Switch Online」など)などのコンテンツ関連サービスが代表的な事例である。

toCにおいても、toBと同様、単発の購入・所有にとどまるという課題はあったが、それ以上にスイッチングコストの低さが課題として大きかった。前述のようなデジタルサービスは生活上必須ではない。また、同等のコンテンツを利用できる場合、顧客にとってどこで購入・利用できるかは大きな問題とならないため、同一サービスを利用し続ける強い動機が発生しない。そのため、継続利用する顧客を獲得することが難しく、広告・マーケティング投資が膨張しやすい状況になっていた。

サブスクリプションでは、単発購入に比べると少額で始められるため初期の顧客負担が小さく、継続的な利用・決済という習慣化により顧客の離脱を防ぎやすい。また、顧客にとっても、少額かつ定額で多くのコンテンツを利用できることに加え、利用しながらほかのサービスと比較し価値判断ができること、不要になったタイミングですぐ解約できることなど、従来モデルにはなかった利点がある。

企業と顧客で相互利益の関係性を構築できるモデルとして普及が加速

サブスクリプションの急速な普及の背景には、冒頭で述べたITインフラの段階的な発達に加え、企業と顧客が相互利益の関係性を構築できることが挙げられる。

サブスクリプションは初期の売上が少額となるため、企業が確実に利益を出すには中長期的に売上を積み上げていくことが前提となる。顧客が利用中の体験がほかのサービスに比べて劣っているととらえれば、即座に解約されるリスクもある。企業にとっては、販売時点でのサービスの完成度を高めるだけでなく、契約獲得後も顧客ニーズの深堀を続け、新しいサービスの追加やサービスの改善を図ることが欠かせられない。

実際、近年はtoB/toCを問わず「カスタマーサクセス」を立ち上げ、顧客の成功体験の追求に注力する企業が増えている(詳細は未来にて後述)。顧客との良好な関係性の構築・維持やサービス体験価値の向上が必須との認識が強まっているといえる。

サブスクリプションで企業と顧客の相互利益が生まれる

出所:Uzabase作成

中長期的な収益性を図るためのKPI設定が必須

サブスクリプションにおいては、下表のようなKPIを用いることが事業成長のために重要である。特にMRR/ARRは売上に直接関わるため、最も重視されている。また、いくらMRR/ARRを積み上げても、解約が多ければ収益は安定しないため、Churn Rateの観測も欠かせない。どの程度のChurn Rateが適正かは分野や対象顧客の性質などにより異なるが、一般的には3~10%、SaaS企業では1~3%が目標とされている。MRR/ARRの積み上げとChurnの抑制は、LTVの最大化につながる。

なお、代表的なSaaS企業の具体的なKPIの実績については、SPEEDA上のKPI比較機能のSaaS(米国)、SaaS(日本)などに掲載している。

サブスクリプションにおける重要KPI

出所:Uzabase作成

マネタイズ

以下では、前述のKPIを踏まえ、代表的な企業の業績からサブスクリプション化の利点や収益化における課題を確認する。

利点:事業運営コストの改善や従来モデルにはない顧客メリットの創出にもつながる

Adobeは、2010年代初期にサブスクリプションへの全面移行を開始したSaaS企業である。2013-14年は、まだ従来のソフトウェア販売の方がサブスクリプション売上よりも大きく、サブスクリプション売上自体も少額であったことから、売上高全体の伸びは停滞した。しかし、サブスクリプション比率が過半を超えるあたりから売上成長が加速し、営業利益率も移行前を上回る水準となった。

特に費用面では2015年以降、売上高全体に占める営業・マーケティング費の比率が低下傾向にある。同社は2011年に発売した「Adobe Creative Suite 5.5」で初めて月額料金制を導入し、同製品月額ユーザーの38%が新規顧客であったこと、既存顧客の76%がサブスクリプションでなければアップグレードしなかったと回答したことなどの結果を得た。このことから、サブスクリプションの導入は新規顧客獲得コスト(CAC)、および既存顧客を含む営業・マーケティング費用の双方を圧縮する効果があり、比率の上昇とともにその効果も増していったと考えられる。

また、新機能を開発しても、従来のライセンス型製品は、アップデートサイクルがソフトを販売するサイクルである18~24か月と長かった。一方、サブスクリプションでは短いサイクルでバージョンのアップデートが可能であり、かつ都度のライセンス承認が不要など、利用中の新たなメリットを創出できたこともサブスクリプション化成功の一因と考えられる。

Adobe:主な業績指標

出所:Adobe 10-Kを基にUzabase作成

Adobe:売上高営業費用比率の推移

出所:Adobe 10-Kを基にUzabase作成

課題:業界トップ企業でも競争のなかでCACが増大し、収益化が困難になることも

Spotifyは音楽配信サービスを運営しており、有料プランと広告付きの無料プランを展開している。売上高や有料会員数、MAUなどは増加傾向で推移しているものの、営業利益ベースでは2021年度に一時黒字化を果たしたほかは赤字が続いている。また、ARPUも低下傾向にある。これは近年、ファミリープランやDuoプランなど複数名利用で割安となるプランを展開しており、全体のプランミックスが変わってきたことが要因と考えられる。

費用面に注目すると、有料会員数(Premium Subscribers)の前年差とその年のSales and Marketing費用から算出したCACは年々上昇している。すでに音楽配信サービスとしては世界シェアトップであり、通常はCACが徐々に低下していく段階と考えられるが、実際は事業開始初期以上に負担が増している。MIDiA Research(GBR)によると、2017年時点では音楽配信サービスの世界シェアではSpotifyが40%であったが、2022年半ばにはシェアは31%まで低下している。また、競合となるApple(USA)やAmazon.com(USA)はデバイスやECなど周辺サービスを組み合わせて訴求できるのに対し、Spotifyは音楽配信サービス単体であることも、マーケティングコストがかさむ一因と考えられる。

今後の成長に向けては、会員数の増加とあわせてCAC低下の施策も重要となる。たとえば、Spotifyと同様に音楽配信事業を手がけるSirius XM Holdings(USA)は、主な配信先の1つにカーオーディオがあり、自動車メーカーや小売店などと連携して販売効率化を図っている。

Spotify:売上高合計とARPUの推移

出所:Spotify 20-Fを基にUzabase作成

Spotify:有料会員数とCACの推移

出所:Spotify 20-Fを基にUzabase作成

未来

サブスクリプションの普及は加速、導入・運営を支援するサービスも増加

サブスクリプションは、デジタルサービスにおいて一般的なビジネスモデルとなりつつあり、今後も業種や事業規模の大小に関わらず、さらに普及が加速するだろう。サブスクリプションの導入・運営を支援するサービスも増加傾向にあり、特にカスタマーサクセスと契約・請求管理に関わるものは本トレンドのなかでも特徴的である。

Gainsight(USA)やTotango(USA)は、顧客のヘルススコア(顧客が自社サービスを継続利用してくれるかを数値化したもの)を管理し、解約の兆候をつかんだり、アップセル・クロスセルにつながりそうな見込み客を特定したりする。これにより、適切なタイミングで顧客とのコミュニケーションや営業・マーケティング部署との連携を行い、Churn防止やMRR/ARR向上につなげている。

Zendesk(USA)やIntercom(USA)などは、問い合わせなどの各種サポート業務を自動化・効率化することで、顧客とサポートデスクとの接点の快適性を高めている。

また、コミューンは同じ製品を使う顧客同士のオンラインコミュニティを企画・構築する一連の機能を提供している。これにより、他社のナレッジの共有などを通じて製品を使いこなす顧客が増加し、企業にはChurn Rataの低下やLTVの向上といったメリットがある。

なお、カスタマーサクセスで得られた情報はSFA(営業支援システム)・MA(マーケティング・オートメーション)・CRM(顧客管理)系のシステムとも連携され、営業・マーケティングのプロセス全体の改善にも生かされている。

契約・請求管理では、Zuora(USA)やStripe(USA)などが、サブスクリプション・非サブスクリプションをあわせた契約情報の一元管理や様々な決済手段への対応などを実現する機能を提供している。

サブスクリプションの導入・運営を支援する主な企業

出所:Uzabase作成

カスタマーサクセスはサブスクリプション化において不可欠、各社とも組織新設を加速

カスタマーサクセスは、顧客対応を行う点で従来のカスタマーサポートと類似するが、目的やアプローチの仕方は異なる。

カスタマーサポートは、顧客側で顕在化した課題解決を効率的に行うことを目的としており、顧客接点は問い合わせベースの短期的なものとなる。

カスタマーサクセスは、顧客に能動的にアプローチし、潜在的な課題の発見から行う。その解決を通じて顧客満足度を高め、LTVの最大化につなげることを目的としており、顧客との関係性も中長期に渡る。具体的な手段としては、自社サービスの利用前も含めた顧客体験の分析、顧客向けの研修、ユーザーコミュニティの運営などが挙げられる。

このような役割の違いがあるため、新たにカスタマーサクセスに取り組む場合、既存組織の拡張だけでは十分な対応が難しい。組織の新設を前提とし、各種施策を企画・実行できる人材確保・育成などへの投資も必須となるだろう。一方、カスタマーサクセスがLTV最大化を目指す性質上、KPIもChurn RateやMRR/ARRなど企業全体で目指すものと共通しており、サブスクリプションによる事業成長を目指すにあたってカスタマーサクセスに投資するインセンティブは十分に高いと考えられる。

実際、HiCustomer「カスタマーサクセス白書2022」(2022年6月調査、n=199)によると、全体の51.8%がカスタマーサクセス歴2年以内となっており、新設が加速していることが窺える。また、具体的な成果事例も増えており、たとえば不動産業界向けのシステム開発を手がけるイタンジは、2017年頃からカスタマーサクセスの本格的な立ち上げに着手し、ツール導入による改善も含め、月次解約率を1.18%から0.38%まで削減することに成功した。

カスタマーサポートとカスタマーサクセスの比較

出所:Uzabase作成

toCでは価格競争に陥りやすく、十分な差別化ができなければ急速に撤退に至ることもある

toCではtoBに比べ価格競争が進みやすい。顧客にサービス内容と価格設定が見合わないと判断された場合は、即座に解約されるリスクがあり、最終的に事業撤退に至ることもある。

ソニー・ミュージックエンタテインメントは、2019年から音楽配信サービス「mora qualitas」を提供していたが、2022年3月末にサービスを終了した。同サービスは、月額1,980円と音楽配信サービスのなかでは料金設定が高めだったが、高品質なハイレゾ/ロスレス音源を中心とすることで差別化を図っていた。しかし、2021年にはAppleが月額980円(当時)の料金内でハイレゾ/ロスレス音源の配信を開始した。また同年、Amazon.comもハイレゾ/ロスレス音源を扱うプラン「Amazon Music HD」について、それまで通常プランに追加料金1,000円で提供していたものを、「Amazon Music Unlimited」の加入者であれば月額980円(Prime会員は780円)(当時)で利用可能とした。「mora qualitas」は、音源自体や価格面での競争優位性が低下したことにより、必要十分なユーザー数を確保することが困難になったと考えられる。

体験価値での差別化が十分でなかったために撤退した事例もある。

Quibi Holdings(USA)は、2020年に動画配信サービス「Quibi」を開始したが、十分な顧客獲得に至らず、同年中に終了となった。同サービスは10分以内のショートコンテンツを中心とし、月額4.99ドルの広告付きプランと同7.99ドルの広告なしプランで展開されていた。報道によると、「YouTube」(Alphabet、USA)や「TikTok」(Beijing Bytedance Technology、CHN)などの利用動向にかんがみ、ミレニアル世代を中心とするモバイルでのショートコンテンツ視聴需要があることを想定していたようだ。しかし、Quibiのコンテンツは、YouTubeやTikTokとは異なり、Amazon Prime VideoやNetflixで配信されるようなプロが制作したドラマやリアリティ番組が売りであった。また、視聴はスマートフォンのみに限定されていた。消費者は、高度・高画質のコンテンツであれば、ある程度長い時間のものを自宅のテレビなどで没頭して視聴することを潜在的に欲していると推測され、顧客ニーズとのミスマッチが起こった可能性がある。さらに、ショート動画が主に投稿されるSNSのように、Quibiのアプリを開くことが習慣化されなかったことも利用者数が伸びなかった要因であろう。利用シーンやデバイスなどを絞り込むことで独自性の確立につながる可能性もあるが、同時に大幅な体験価値の変化も生み出せなければ、既存サービスからの乗り換えや、お金を払って利用するといったインセンティブの創出につなげることは難しい。

青山 武史

青山 武史

グロービス経営大学院大学でMBAを取得し、キャリアを一貫してクリエイティブ、テクノロジー、ビジネスを高度に融合させた新規事業開発やイノベーションの創出を主導して来た。スタートアップ(最高事業責任者)や事業会社(マーケティング最高責任者)等でマーケティングからサービス開発までの新規事業開発の経験を積み、多くの事業で収益規模を拡大し、大手企業とのアライアンスに携わった。現在はYKK APにて新規事業開発部担当部長として、再生エネルギー事業の推進と新規領域の探索を担当。Point0を通して大手企業と共創活動を推進。渋谷未来デザインとSWiTCHとのカーボンニュートラルプロジェクト「CNUD」に参画。個人としても大手エネルギー企業のヘルスケ領域の新規事業開発支援コンサルティング実績多数。

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