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チーム心理編 第2回:ベテランの「背中」を見て育つな。「ペアプログラミング」という超高速学習システム

「新人教育に時間がかかって、開発スピードが落ちています」 「エースのAさんが休むと、誰もその箇所のコードを触れません」

これは、多くの開発現場が抱える慢性病です。 原因は明らかです。スキルや知識が特定の個人に張り付く「属人化」が起きているからです。

昭和の職人のように「俺の背中を見て覚えろ」というOJT(実地訓練)は、変化の速いIT業界では通用しません。背中を見ている間に、技術のトレンドが変わってしまうからです。 今回は、新人を最短で戦力化し、エース依存の組織構造を解体するための特効薬、**『ペアプログラミング(Pair Programming)』**について解説します。


1. 「生産性が半分になる」という誤解

ペアプログラミングとは、1台のパソコンを2人のエンジニアで使い、1人がコードを書き(ドライバー)、もう1人がそれを横で見てナビゲートする(ナビゲーター)手法です。

経営者の多くはこう言います。 「2人で1つの作業をする? それじゃあ生産性は0.5倍じゃないか。人件費の無駄だ」

これは大きな間違いです。 1人で書いたコードは、後でバグが見つかり、修正の手戻りが発生し、さらに別の誰かが時間をかけてレビュー(チェック)する必要があります。 ペアプロなら、書いているその瞬間に横から「あ、そこ間違ってるよ」「こう書いた方が効率的だよ」と指摘が入ります。

**「リアルタイム・コードレビュー」**が行われるため、バグ混入率は激減し、トータルの開発スピード(品質込み)は、1人でやるよりも速くなるというデータさえあります。

2. 「思考プロセス」をインストールする

ペアプロの最大の価値は、品質向上以上に**「教育効果」**にあります。

新人がベテランの書いた「完成したコード」を読んでも、そこに至る「試行錯誤」は見えません。 しかし、ペアプロで横に座っていれば、ベテランの頭の中が丸見えになります。

「あ、ここはエラーになりそうだから先にガードしておこう」 「この変数名はわかりにくいから変えよう」 「どのショートカットキーを使って操作しているか」

これら**言語化されにくい「暗黙知(コツ・勘所)」が、空気感染するように新人へと伝染していきます。 半年かかる教育が、ペアプロなら1ヶ月で終わります。ペアプロとは、「最強のナレッジ・トランスファー(知識移転)システム」**なのです。

3. 「バス係数」を上げるリスク管理

経営視点で最も重要なメリットは、**「バス係数(Bus Factor)」**の向上です。 バス係数とは、「チームのメンバー何人がバスに轢かれて入院したら、プロジェクトが破綻するか」を示す指標です。

特定の機能のエキスパートが1人しかいない場合、バス係数は「1」です。彼が風邪で寝込んだ瞬間、開発はストップします。これは極めて脆弱な状態です。

ペアプロを日常的に行い、パートナーをローテーションさせていれば、誰が欠けても「ああ、それなら先週一緒にやったBさんがわかります」という状態を作れます。 エースが辞めてもビクともしない組織。これこそが、ペアプロがもたらす究極のBCP(事業継続計画)です。

4. 孤独をなくし、チームを強くする

プログラミングは、孤独で精神的負荷の高い作業です。 ハマってしまって何時間もエラーが解決しない時、1人だと絶望感に襲われ、モチベーションが低下します(バーンアウトの原因)。

隣に相談できる相手がいるだけで、ストレスは劇的に下がります。 「疲れてきたね、休憩しようか」「お、うまく動いたね!」 この共感が、チームの心理的安全性を高めます。

「1 + 1」を「0.5」にするのではなく、「3」にも「4」にもする。 それがペアプログラミングのマジックです。


まとめ:キーボードを奪い合え

私の支援する強いチームでは、1つのキーボードを2人が奪い合うようにして開発しています。 「貸して、俺ならこう書く」「いや待て、それだとここが動かなくなるぞ」

そこには、上下関係を超えた「技術の交流」があります。 若手はベテランの経験を吸収し、ベテランは若手の新しい発想に刺激を受ける。

「人手が足りない」と嘆く前に、今いるメンバーを組み合わせてみてください。 その化学反応(ケミストリー)が、組織の学習能力を爆発的に高めるはずです。

さて、いよいよ全連載の最後となります。 最終回は、DXの現場で最も深刻な問題、**『燃え尽き(バーンアウト)を防ぐ。サステナブルな開発ペースの維持』**について解説し、締めくくります。

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