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チーム心理編 第3回(最終回):”短距離走”を繰り返して死ぬな。「持続可能なペース」だけがイノベーションに届く

「来週が山場だ。今週末だけ頑張ってくれ」 「リリースまであと少しだ。徹夜で乗り切ろう」

この言葉を、あなたは年に何回言っていますか? もし「毎月」言っているなら、あなたのプロジェクトはすでに破綻しています。

多くのリーダーは、長時間労働(残業)を「やる気の証」あるいは「最後の切り札」だと考えています。 しかし、知的生産活動において、長時間労働は**「麻薬」**です。一瞬だけパフォーマンスが上がったような幻覚を見せますが、その後、確実に組織の身体(メンタルと品質)を破壊します。

連載の最後は、DXという終わりのないマラソンを走り抜くための**『持続可能なペース(Sustainable Pace)』**という戦略について解説します。


1. 「残業」が予測を破壊する

なぜ、アジャイル開発(スクラム)では残業を原則禁止にするのでしょうか。 「ホワイト企業だと思われたいから」ではありません。**「予測不能になるから」**です。

連載のメソッド編で、チームの消化能力(ベロシティ)を計測し、未来を予測すると述べました。 「このチームは週に20ポイント消化できる。だから100ポイントの仕事は5週間で終わる」

この計算が成り立つのは、**「常に一定のペースで働いている」**という前提があるからです。 もし今週、無理をして残業で30ポイント消化してしまったらどうなるか? 来週は疲れが出て10ポイントしか消化できないかもしれません。あるいは、集中力低下でバグを埋め込み、その修正でマイナスになるかもしれません。

ペースの乱高下は、経営計画の精度を著しく下げます。 「毎日定時で帰り、明日も同じパフォーマンスを出す」 これこそが、プロフェッショナルとして最も信頼できる状態なのです。

2. イノベーションは「ひらめき」のリソースを食う

既存の定型業務なら、疲れていても気合でこなせるかもしれません。 しかし、私たちが挑んでいるのは「イノベーション」です。誰も解いたことのない課題を解決する仕事です。

脳科学的に、創造性(クリエイティビティ)は、脳のリソースに余裕(スラック)がある時にしか発揮されません。 疲弊した脳は、リスクを避け、前例踏襲を選びます。つまり、チームを疲れさせることは、イノベーションの可能性を自ら摘み取る行為なのです。

「良いアイデアが出ない」と嘆く前に、チームを休ませてください。 革新的な解決策は、深夜のオフィスではなく、十分な睡眠をとった翌朝のシャワーの中で生まれるものです。

3. バーンアウト(燃え尽き)という「倒産」

最も避けるべきリスクは、優秀な人材の**「バーンアウト(燃え尽き症候群)」**です。

DXを推進するようなハイパフォーマーほど、責任感が強く、自らを限界まで追い込みがちです。 彼らが突然、「辞めさせてください」と言ってくる。あるいは、メンタル不調で長期離脱する。 これは、プロジェクトにとって「倒産」に等しい損失です。

リーダー(スクラムマスター)の重要な任務は、ブレーキを踏むことです。 メンバーが「まだやれます、やらせてください」と言っても、「ダメだ、帰りなさい。これは命令だ」と言えるかどうか。

「君の代わりはいない。だからこそ、君を使い潰すわけにはいかない」 そのメッセージが、メンバーの自己肯定感を高め、長期的なロイヤリティ(忠誠心)を生みます。


全連載のグランドフィナーレ:それでも、明日へ進むあなたへ

全13回にわたり、**「同期型マネジメント」「サーバント・リーダーシップ」「チームの心理学」**について書き綴ってきました。

なぜ、これほど多くの言葉を重ねてきたのか。 それは、DXやイノベーションという言葉の裏で、あまりにも多くの現場が「分断」に苦しみ、疲弊している現状を変えたかったからです。

私が提唱する「同期型マネジメント」の本質は、単なる開発手法の枠に留まりません。 それは、**「ビジネスと技術が、互いを尊重し、人間らしく働くための希望」**そのものです。

  • 完璧な計画なんてない。だから対話をしよう。
  • 管理なんてできない。だから信頼しよう。
  • 1人では戦えない。だからチームになろう。

この連載が、孤独な戦いを続けるリーダーであるあなたの、小さな「灯火」になれば幸いです。

さあ、PCを閉じて、今日はもう帰りましょう。 最高のイノベーションを起こすための、最高の明日を迎えるために。

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