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リーダー編 第3回:リーダーの仕事は「雑用」である。チームを加速させる『障害物除去』のプロフェッショナリズム

「リーダーの仕事とは何か?」 こう問われたとき、多くの人が「ビジョンを語ること」「戦略を描くこと」「メンバーを評価すること」と答えます。もちろん、それらも重要です。

しかし、DXやアジャイル開発の最前線において、リーダー(スクラムマスター)が最も時間を使うべき業務は、もっと泥臭く、地味なものです。 それは、**「メンバーが本来の仕事に集中できない要因を、片っ端から取り除くこと」**です。

極論を言えば、チームがコーディングに集中できるなら、コーヒーを淹れることだって立派なリーダーの仕事です。今回は、チームの生産性を劇的に向上させるための**『障害物(Impediments)除去』**というスキルについて解説します。


1. 優秀なエンジニアを「待機」させていないか?

想像してください。年俸1,000万円のプロフェッショナルなエンジニアを雇ったとします。 しかし、彼のパソコンが古くて起動に毎日10分かかり、開発環境の申請承認に3日待ち、会議室の予約が取れずに廊下で打ち合わせをしているとしたら。

これは、F1レーサーを雇って、整備不良の軽トラックで走らせているようなものです。 ここで必要なのは、レーサーに「もっと速く走れ」と檄を飛ばすこと(管理)ではありません。**コース上の石ころをどけ、最高のマシンを用意すること(支援)**です。

スクラムでは、チームの進捗を阻害するあらゆる要素を「Impediments(障害物)」と呼びます。 これを見つけ出し、爆破するのがリーダーの最優先任務です。

2. 見えないコスト「コンテキスト・スイッチ」を防げ

障害物の中で、最も厄介で、かつリーダーが作り出しがちなのが**「割り込みタスク」**です。

「ちょっといい? この資料、急ぎで直してほしいんだけど」 「別の部署から問い合わせが来ているから対応して」

良かれと思って振ったその「5分の雑用」が、エンジニアの生産性を破壊します。 専門的な知的作業において、深い集中状態(ゾーン)に入るには時間がかかります。一度中断されると、元の集中状態に戻るのに平均で20分以上かかると言われています(コンテキスト・スイッチのコスト)。

サーバント・リーダーの役割は、チームを守る「傘(ファイアウォール)」になることです。 外部からの突発的な依頼は、全てリーダーが一度引き受ける。「チームはいまスプリントに集中しているから、私がやるか、来週以降の対応になります」と断る。 この「守られている感覚」が、チームのパフォーマンスを最大化します。

3. 「雑用」のROI(投資対効果)を計算せよ

私はよく、新任のリーダーにこうアドバイスします。 「あなたが会議の議事録を書き、弁当の手配をし、備品の補充をしなさい」

「そんな雑用をするために管理職になったんじゃない」と反論されることもあります。しかし、これは精神論ではなく、経済合理性の話です。

もし、開発チームの全員が「誰が議事録を書くか」で10分揉めたり、備品不足で作業が止まったりしたら、その損失コストは計り知れません。 リーダーが泥臭い仕事を一手に引き受け、その分、チームが「顧客価値を生み出す作業(開発)」に1分でも多く時間を使えるなら、プロジェクト全体のROI(投資対効果)は跳ね上がります。

「チームがクリエイティブであるために、リーダーは汗をかく」 これがDX時代の役割分担です。

4. 組織の「不条理」と戦う

リーダーが取り除くべき障害物は、物理的なものだけではありません。**「組織の不条理」**こそが最大の敵です。

  • 意味のない定例会議
  • 複雑怪奇な承認フロー
  • 時代遅れのセキュリティ規定

現場のメンバーは、これらに文句は言えても、変える権限を持っていません。 だからこそ、権限を持つあなたの出番なのです。

「決まりだから」と思考停止せず、「このルールはチームの足かせになっているので変えましょう」と経営層や他部署に掛け合う。 時には嫌われる役割(チェンジ・エージェント)を担ってでも、現場の「働きやすさ」を勝ち取ってくる。 その背中を見たとき、チームは初めて「このリーダーのために頑張ろう」と心から思うのです。


まとめ:あなたは「カーリング」の選手である

サーバント・リーダーシップをスポーツに例えるなら、**「カーリング」**が最も近いでしょう。 ストーン(チーム)が滑り出したら、リーダーはそれに触れることはできません(指示出し・介入の禁止)。 リーダーにできるのは、ストーンが少しでも遠くへ、正確に進むように、**前方の氷を必死にブラシで磨くこと(環境整備)**だけです。

あなたが磨けば磨くほど、チームは驚くほどのスピードでゴールへと進んでいきます。 机にふんぞり返っている暇はありません。ブラシを持って、現場へ走りましょう。

次回は、チーム内で意見が対立した時、それを「敵対」ではなく「創造」に変えるための**『対立(コンフリクト)を歓迎せよ。雨降って地固まるファシリテーション術』**について解説します。

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