「この案で異論はありませんね?」 「……(シーン)」 「では、これで決定します」
あなたのチームの会議は、このようにシャンシャンと終わっていませんか? もしそうなら、その決定の質は最低レベルかもしれません。
多くのリーダーは「意見が対立すること」を恐れます。空気が悪くなり、時間がかかるからです。 しかし、イノベーションの世界において、「全会一致」は思考停止の証拠でしかありません。誰も本気でリスクを検討しておらず、誰も責任を負おうとしていないからです。
今回は、チームの知性を最大化するために、意図的にコンフリクト(衝突)を設計し、合意形成へと導く**『創造的ファシリテーション』**について解説します。
1. 「仲良しクラブ」は危機に弱い
心理学に**「集団浅慮(グループシンク)」**という言葉があります。 凝集性の高い集団において、波風を立てないことが優先され、非合理的な決定が下されてしまう現象です。多くの企業不祥事やプロジェクトの炎上は、この「空気の支配」から始まります。
スクラムマスター(リーダー)の役割は、この空気をあえて壊すことです。
- 誰かが楽観的な意見を言ったら、「最悪のケースは何だろう?」と問いかける。
- 全員が賛成したら、「あえて反対の立場から意見を言える人はいないか?」と募る。
**「健全な対立(Healthy Conflict)」**がないところに、新しいアイデアは生まれません。 リーダーは、摩擦を避ける潤滑油ではなく、火花を散らす「火打石」になる必要があります。
2. ファシリテーターは「司会者」ではない
会議の進行役(ファシリテーター)を、「司会者」と勘違いしている人がいます。 「Aさんどうですか? Bさんどうですか? はい、時間なので終わります」 これは単なるタイムキーパーです。
真のファシリテーターは、「議論の構造」を設計する建築家です。
私が推奨するのは、議論を以下の3つのフェーズで管理することです。
- 発散(Diverge): 判断を保留し、量を出す時間。「それは無理だ」という否定を禁止し、バカげたアイデアも歓迎する。
- あつれき(Groan): 意見が対立し、モヤモヤする苦しい時間。ここをショートカットしてはいけない。多様な視点を出し尽くす。
- 収束(Converge): 基準を設けて絞り込む時間。
ダメな会議は、この「発散」と「収束」を同時にやろうとします。アイデア出しの最中に「予算的に無理だね」と評価を挟むから、思考が縮こまるのです。 今どのフェーズにいるのかを宣言し、交通整理をするのがリーダーの仕事です。
3. 「意見」と「人格」を切り離す技術
対立が怖いのは、意見の否定を「人格の否定」と受け取ってしまうからです。 これを防ぐために、リーダーはホワイトボード(またはオンラインツール)を徹底的に活用してください。
参加者の発言を、そのまま書き出す。 そして、「Aさんの意見」として扱うのではなく、**「ボードに書かれたこの意見」**として指差し、客体化して議論します。
「Aさんは間違っている」と言うと角が立ちますが、 「ボードにあるこの意見は、今のプロジェクトの前提と矛盾していないか?」と言えば、それは論理の検証になります。
「VS(人対人)」の構図を、「US(私たち)対 Problem(課題)」の構図に変える。 物理的に横に並び、一緒にホワイトボードという「課題」を覗き込む姿勢を作るだけで、対立は協力へと変わります。
4. 「Disagree and Commit(賛成してコミットせよ)」
どれだけ議論しても、全員が心から納得する結論が出ないこともあります。 その時、リーダーが目指すべきゴールは「全会一致」ではなく、**「Disagree and Commit(反対だが、コミットする)」**という状態です。
「議論は尽くした。君の懸念も理解した。しかし、時間は有限だ。今回はこのA案で行く決定をしたい。君は個人的には反対かもしれないが、チームの決定として、成功のために全力を尽くしてくれるか?」
メンバーが自分の意見を聞いてもらえた(傾聴された)という実感さえあれば、最終決定が自分の案と違っても、協力することはできます。 最悪なのは、議論を尽くさずに強引に決定し、腹落ちしていないメンバーが「失敗すればいいのに」と思いながら作業することです。
徹底的に対立させ、最後はノーサイドで団結する。 このプロセスを経たチームだけが、困難なプロジェクトを突破する「強靭さ」を手にします。
まとめ:会議室の「温度」を上げろ
静まり返った会議室で、予定調和の資料が読み上げられる。これは「仕事」ではありません。「儀式」です。 リーダーであるあなたは、会議室の温度を上げなければなりません。
情熱を持って意見をぶつけ合い、汗をかき、脳味噌に汗をかいた後に、「よし、これでいこう!」と決まる。 そんな熱量の高い場を作ることこそが、最高のファシリテーションです。
さて、これまで4回にわたり、チーム内(内側)の変革について述べてきました。 最終回は、視点を外に向けます。チームを守り、会社全体を変えていくための**『組織への「介入」。現場リーダーが経営を変える技術』**について解説し、本連載を締めくくります。
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