前回、イノベーションは「T=技術」「B=ビジネス」「D=デザイン」という3つの力が交差する場所で生まれると解説した。今回はそのうち、未来の「可能性」を広げるTと、未来の「勝ち方」を変えるBについて、GREATSの独自レポートから具体例を交えて深掘りする。
はじめに:3つの力をおさらい
GREATSは、世の中のメガトレンド(巨大な変化のうねり)を、3つの力に分類しています。
- T (Technology): 技術進展。何が可能になるか。
- B (Business): 新しい仕組み。どう儲けるか、どう届けるか。
- D (Design): 政策・社会的価値観。なぜやるのか、どうあるべきか。
今回は、このうちTとBの力について解説します。
T (Technology):未来の「可能性」を広げる力
T=Technology(技術)は、3つの力の中で最もイメージしやすいかもしれません。 これは、AI、遺伝子技術、次世代素材、量子コンピューターといった、純粋な技術革新が起点となるメガトレンド群です。
GREATSの分析レポートでは、以下のようなトレンドがTに分類されます。
- 先進医療: ゲノム編集(CRISPR-Cas9)、AI画像診断、再生医療
- 次世代情報インフラ: 量子コンピューター、エッジコンピューティング
- 次世代素材: カーボンニュートラル素材、バイオプラスチック
- 生成AI: テキスト生成AI、画像生成AI
Tの特徴は、「何が可能になるか」という未来の選択肢を劇的に広げることです。 今まで不可能だったことが可能になる。これがTの力です。
しかし、重要なのは、Tはあくまで**「可能性」**でしかないということです。 どんなに優れた技術も、それ単体では価値を生みません。社会に実装され、誰かの課題を解決して初めて「イノベーション」となるのです。 そこで必要になるのが、もう一つの力「B」です。
B (Business):未来の「勝ち方」を変える力
B=Business(ビジネス)は、レポート分類の「新しい仕組み」に当たります。 これは、技術そのものではなく、「どう儲けるか」「どう顧客に価値を届けるか」というゲームのルール自体を変えるメガトレンド群です。
GREATSの分析レポートでは、以下のようなトレンドがBに分類されます。
- モノ・資産のシェア・活用: シェアオフィス、クラウドキッチン
- 新たな販売形態: サブスクリプション、D2C(Direct to Consumer)
- 次世代マーケティング: ポストクッキーマーケティング、ソーシャルコマース
Bの力は、既存の資源や技術を使いながらも、その「提供の仕方」や「収益化の方法」を変革します。 例えば、D2Cは、従来の卸売や小売という仕組みを飛ばし、メーカーが直接顧客とつながる新しいビジネスモデル=Bです。
イノベーションの基本形=「T×B」
GREATSが最も重要視するのは、このTとBの**「掛け算」**です。 歴史的なイノベーションの多くは、この「T×B」の組み合わせから生まれています。
非常に分かりやすい事例を見てみましょう。
事例1:Netflix
- T (技術): 高速インターネット回線の普及と、動画ストリーミング技術
- B (仕組み): レンタルDVD(都度課金)ではなく、定額見放題の「サブスクリプション」
事例2:Uber
- T (技術): スマートフォン、GPS、決済システム
- B (仕組み): 個人が空き時間と自家用車でサービスを提供する「ギグエコノミー(人的資源のシェア)」
どちらの例も、TかBのどちらかが欠けていれば成立しなかったことは明らかです。 Netflixは、ストリーミング技術(T)がなければただのDVDレンタル会社でしたし、サブスクリプション(B)がなければこれほどの顧客体験は生み出せませんでした。
あなたの会社への問い
ここで、ご自身のビジネスに置き換えて考えてみてください。
あなたの会社が持つ、独自の「T(技術・ノウハウ)」は何ですか? それを、全く新しい「B(ビジネスモデル)」と掛け合わせることはできないでしょうか?
例えば、優れた製造技術(T)を持つ会社が、製品を「販売」するのではなく、製品の「機能」をサブスクリプション(B)で提供する。 あるいは、特定の顧客データ(T)を持つ会社が、D2C(B)で直接その顧客に最適な商品を届ける。
この「T×B」の掛け算を考えることこそ、新規事業構想の第一歩です。
しかし、現代の事業構想は、TとBの掛け算だけでは不十分になりつつあります。 なぜなら、社会や顧客が、その事業に「あるべき姿」を求めるようになってきたからです。
次回は、このT×Bを動かす、今最も重要で巨大な力「D(Design)=社会設計・価値観」について解説します。
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