「プロジェクトの進捗はどうなっている?」 「順調です。予定通りです」
この報告を受けた数週間後、納期直前になって「実は間に合いません」と告白される。 これは、経営者やプロジェクト責任者が最も恐れる悪夢です。なぜ「順調」が突然「炎上」に変わるのか。それは、私たちが進捗を「消化率(%)」という、極めて曖昧な指標で管理しているからです。
今回は、この「進捗90%の嘘」を見抜き、未来を正確に予知するための管理手法**『タイムボックス戦略』と『バーンダウンチャート』**について解説します。
1. ガントチャートという「絵に描いた餅」
多くのプロジェクトでは、最初に数ヶ月にわたる壮大な工程表(ガントチャート)を引きます。 しかし、この美しい矢印の通りに仕事が進むことは、まずありません。
- 学生症候群: 「期限までまだ余裕がある」と思うと、人は無意識に着手を遅らせます。
- パーキンソンの法則: 仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張します。
半年後のゴールだけを見ていると、緊張感は持続しません。結果として、期限間際になって必死に帳尻を合わせる「デスマーチ」が発生します。これを防ぐ唯一の方法は、締め切りを劇的に短くすることです。
2. 「タイムボックス」で強制的にリズムを作る
私が提唱する「同期型マネジメント」では、**1週間〜2週間という固定された期間(タイムボックス)**を繰り返します。(※スクラムにおける「スプリント」です)
「いつ終わるか?」と問うのではありません。 **「来週の金曜日までに、どこまで出来るか?」**と問うのです。
期間(Time)を固定し、その箱に入る分だけ、優先順位の高いタスクを詰め込む。入り切らないタスクは、翌週以降に回す。 この制約(Constraint)こそが、チームに「選択と集中」を強要し、創造性を生み出します。そして、「毎週金曜日には必ず成果物が出る」というリズムが、組織の心拍数(ハートビート)となり、プロジェクトに健全な規律をもたらします。
3. 「バーンダウンチャート」は嘘をつかない
では、その1週間の進捗をどう管理するか。 ここで使うのが、**「バーンダウンチャート(Burn-down Chart)」**です。
従来の管理手法(積み上げ式)では、「これだけ進んだ」を見ますが、バーンダウンチャートでは**「あとどれだけ残っているか(残作業)」**を見ます。 縦軸に残りのポイント(第3回で解説した見積もり規模)、横軸に日程を取ります。
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理想的には、グラフの線は右肩下がりに落ちていき、週末にゼロになります。 しかし、もし火曜日・水曜日になっても線が横ばいであれば、その時点で「何かおかしい(タスクが想定より重い、ブロッカーがある)」ことが視覚的に判明します。
週末になって「ダメでした」と報告を受けるのと、火曜日の時点で「このままだと終わらない」と気づくのとでは、打てる対策の数が違います。バーンダウンチャートは、プロジェクトの危機を早期警戒するレーダーなのです。
4. 15分の「朝会」で微調整を繰り返す
このレーダーを機能させるためには、情報の鮮度が命です。 そのために行うのが、毎朝の15分間の同期ミーティング(デイリースクラム)です。
これは上司への「報告会」ではありません。チームメンバー同士の**「作戦会議」**です。
- 「昨日ここまで進んだ」
- 「今日これを終わらせる」
- 「今、このエラーで詰まっている(障害物)」
特に重要なのは3つ目の「障害物」の共有です。 一人で悩んでいる時間を極限まで減らし、チーム全員の知恵で即座に解決する。この高頻度な微調整(ファインチューニング)の積み重ねだけが、不確実なプロジェクトをゴールへと導きます。
まとめ:進捗管理とは「異常検知」である
「進捗管理」の目的は、部下を監視することではありません。 「計画と現実のズレ(異常)」を、傷が浅いうちに検知することです。
1週間のリズム(タイムボックス)と、残作業の可視化(バーンダウンチャート)。 この2つを導入すれば、貴方のプロジェクトからは「突然の遅延報告」というサプライズは消え失せるでしょう。残るのは、予測可能な成果の積み上げだけです。
さて、プロセスは整いました。最後は、それを実行する「人」と「チーム」の問題です。 最終回となる次回は、**『失敗を「資産」に変える仕組み。自律駆動型チームを作る「KPT法」の進化形』**について解説します。
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