プロジェクトが終わった後、「反省会」と称して犯人探しをしていませんか? 「なぜミスをしたんだ」「気をつけると言ったじゃないか」 個人の不注意を責め、精神論で解決しようとする組織において、失敗は単なる「損失」でしかありません。そして、社員は防衛的になり、悪い報告を隠蔽するようになります。
イノベーションを生み出す強い組織とは、失敗しない組織ではありません。 失敗を構造的に許容し、それを即座に「組織の知恵(資産)」へと転換できる組織です。 連載の最終回は、指示待ちチームを「自律駆動型(Self-Organizing)」へと変貌させるためのフレームワークについて解説します。
1. 「反省会」ではなく「ふりかえり」をせよ
私が支援する現場では、スプリント(1〜2週間のサイクル)の終わりに、必ずチーム全員で**「ふりかえり(Retrospective)」**の時間を設けます。
これは、従来の「反省会」とは全く異なるものです。 反省会は「過去の失敗」と「個人の責任」に焦点を当てますが、ふりかえりは**「未来の改善」と「プロセスの修正」**に焦点を当てます。
「Aさんがバグを出した」ではなく、「なぜAさんがバグを見落としてしまうようなチェック体制だったのか?」を問うのです。 人を責めず、仕組み(Process)を責める。この基本原則(Prime Directive)をリーダーが宣言することで、チーム内に「心理的安全性」が生まれ、本質的な問題解決の議論が可能になります。
2. 進化を生み出す『KPTフレームワーク』
このふりかえりを効果的に行うためのツールとして、KPT法を推奨しています。 ホワイトボードを3つに区切り、以下の要素を付箋で出し合います。
- Keep(良かったこと・続けること)
- 「朝会で早めにアラートが出せた」「新ツールが便利だった」
- 成功体験を共有し、チームの標準スキルとして定着させます。
- Problem(悪かったこと・困ったこと)
- 「仕様が曖昧だった」「検証環境が重くて作業が進まない」
- ここでは不満や愚痴も歓迎します。言語化されなかったストレスこそが、生産性を下げる真犯人だからです。
- Try(次に挑戦すること)
- ここが最も重要です。Problemを解決するための「具体的なアクション」を決めます。
- 「気をつける」は禁止。「チェックリストを作る」「毎朝10分ペアプログラミングをする」など、行動ベースに落とし込みます。
このサイクルを2週間ごとに回せば、年間で26回もの「業務改善アップデート」が行われることになります。1年後、そのチームは当初とは比較にならないほど効率的な組織へと進化しているはずです。
3. 「管理」を手放し、「自律」を設計する
これまでの連載で、優先順位、見積もり、進捗管理の手法を述べてきましたが、これら全ての究極の目的は、リーダーがマイクロマネジメントをしなくても回る組織を作ることです。
- 何を作るか(What) は、ビジネスリーダー(あなた)が優先順位リストで示す。
- どう作るか(How) は、開発チームが自分たちで考え、見積もり、改善する。
権限と責任を明確に分離し、チームに裁量を与えることで、メンバーは「やらされている作業員」から「自ら課題を解決する専門家」へと変わります。 指示待ち人間を作るのは、メンバーの資質ではなく、リーダーが細部まで指示しすぎる構造そのものなのです。
連載のまとめ:「同期」こそが最強の戦略である
全5回にわたり、**「同期型マネジメント(Synchronous Management)」**について解説してきました。
- マインドの同期: 受発注関係を捨て、ワンチームになる。
- 価値の同期: 「やらないこと」を決め、優先順位を常にアップデートする。
- 規模の同期: 相対見積もりで、不確実性を客観的な数値にする。
- リズムの同期: 1週間のタイムボックスで、進捗の真実を可視化する。
- 成長の同期: ふりかえりを通じて、組織OSを自律的に進化させる。
DXやイノベーションの現場において、魔法の杖(銀の弾丸)は存在しません。 あるのは、ビジネスとテクノロジーという異なる言語を話す二者が、互いに歩み寄り、高頻度で認識を合わせ続けるという、地道で泥臭い**「対話」**だけです。
しかし、この対話のプロトコルを確立した組織だけが、変化の激しい現代において、迷うことなく最短距離で「社会実装」というゴールにたどり着くことができるのです。
さあ、仕様書を閉じて、現場へ行きましょう。 今日から、新しい「同期」が始まります。
(全5回連載 完)
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